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資本金を増やさない理由とは?メリット・デメリットや決める際のポイントも解説
読了目安時間:約 7分
事業拡大や信頼性の向上を目的に、資本金を増やすことを検討する企業は少なくありません。
一方で、資本金の増額が必ずしもすべての企業にとって有利に働くとは限りません。
特に税制面では、資本金の額によって適用される制度や税負担が変わるため、状況に応じた慎重な判断が必要です。
本記事では、「資本金をあえて増やさない」という選択肢について、税務上・経営上の観点からわかりやすく解説します。
また、資本金の多い会社のメリット・デメリットや、資本金額を決める際に押さえておくべきポイントについても紹介します。
企業の成長段階や業種に応じて最適な資本金を検討するための参考にしてみてください。
資本金を増やさない理由とは?

以下の5つが挙げられます。資本金を増やすことには事業拡大や信用力向上などのメリットがありますが、同時に注意すべき点もあります。
企業があえて資本金を増やさない主な理由として、次の5点が挙げられます。
- 手続きにコストが発生する
- 資本金額によっては均等割の負担区分が上がる可能性がある
- 手続きが複雑化する場合がある
- 持ち株比率が変動することがある
- 優遇税制が適用されなくなることがある
それぞれの理由について解説していきます。
手続きにコストが発生する
資本金を増やさない理由の一つとして、手続きに一定のコストがかかることが挙げられます。
実際に資本金を増やす場合には、発行済株式数や資本金額の変更に伴い、法務局での登記手続きが必要となります。
登記手続きは自社で行うことも可能ですが、内容によっては専門的な知識が求められるため、司法書士などの専門家に依頼する企業も少なくありません。
専門家へ依頼する際には報酬が発生し、数万円程度の費用がかかることもあります。
このように、資本金の増額には企業の信用力向上などのメリットがある一方で、一定の費用負担が生じる点にも留意が必要です。
特に、設立から間もない企業や資金繰りに余裕がない場合には、増資のタイミングや必要性を慎重に検討することをおすすめします。
参考:法務局|株式会社変更登記申請書 – 法務局
資本金額によっては均等割の負担区分が上がる可能性がある
会社が増資をおこない、資本金が1,000万円を超えると、法人住民税の「均等割」の区分が変更され、納付額が上がる場合があります。
例えば、従業員が50名以下の企業では、資本金1,000万円以下の場合と比べて、1,000万円を超えると均等割の金額が高く設定される自治体が多く見られます。
また、資本金等が1億円を超えると、さらに上位の区分が適用され、均等割の負担も段階的に増加します。
均等割は、利益の有無にかかわらず毎年課税されるため、赤字の場合でも納税が必要です。
このため、特に中小企業では、資本金を増やす際にこうした固定的な税負担の増加を考慮して判断するケースもあります。
参考:総務省|地方税制度|法人住民税
手続きが複雑化する場合がある
増資を行う場合には、定款変更や株主総会の開催など、複数の法的手続きを経る必要があり、一定の時間と労力を要します。
一方、金融機関からの融資による資金調達では、審査や契約、担保設定などのプロセスを伴いますが、増資のような登記手続きは不要です。
そのため、状況によっては、融資の方が比較的早期に資金を確保できるケースもあります。
短期間で資金を調達したい場合や、増資にかかる事務的負担を避けたい企業にとっては、融資を検討することも一つの選択肢となります。
持ち株比率が変動することがある
増資を行うと、既存株主の持ち株比率が変動する可能性があります。
特に新たな出資者を迎える場合には、新株を発行することにより従来株主の持ち分が相対的に減少することがあります。その結果、経営の主導権や意思決定の割合に影響が出る場合もあり、経営方針の調整が必要になることがあります。
創業者や既存株主が自らの経営権を維持したい場合には、増資のタイミングや規模について慎重に検討することが重要です。
具体的には、会社設立時の資本金設定や、将来の株式構成を見据えた資本政策を計画しておくことで、株主間の持分変動による影響を事前に把握しやすくなります。
優遇税制が適用されなくなることがある
資本金の額が一定の基準を超えると、中小企業向けの優遇措置を受けられなくなる場合があります。
たとえば、交際費については原則として損金算入が認められていませんが、資本金が1億円以下の企業では、年間800万円までの交際費を経費として計上できる特例があります。
このような優遇措置は、中小企業の経営を支援するための制度であり、資本金の引き上げによって適用対象から外れる可能性があることに注意が必要です。
そのため、資本金の設定や増額を検討する際は、税務面への影響も十分に考慮し、慎重に判断することが重要です。
税制面を考慮すると資本金はいくらがいい?

資本金の金額は、企業が負担する税額に影響を与える要素の一つです。例えば、法人住民税の「均等割」は資本金の区分によって金額が変わるため、資本金の設定によって税負担の水準が変わることがあります。
以下では、資本金の区分ごとに税負担の特徴についてわかりやすく解説します。
資本金1,000万円未満
資本金が1,000万円未満の中小企業は、消費税や法人住民税において一定の軽減措置を受けられる場合があります。
消費税については、原則として設立から最初の2事業年度は免税事業者として扱われることが多く、課税の負担を抑えることが可能です。
また、法人住民税については、資本金1,000万円以下かつ従業員50人以下の企業では、均等割の税額が軽減される制度があります。
このように、中小企業向けの税制上の優遇措置を受けられる場合もありますが、資本金の設定は事業規模や将来の資金調達なども考慮して検討する必要があります。
参考:国税庁|No.6501 納税義務の免除
資本金3,000万円以下
資本金3,000万円以下の法人は、一定の条件を満たすことで、税制上の優遇措置を受けられる場合があります。
代表的なものとして、機械設備などの取得に利用できる「特別控除制度」があります。
この制度では、要件を満たした機械や装置を取得した場合に、法人税から一定割合の控除が受けられる場合があります。
また、特別控除は「特別償却」と選択適用が可能であり、どちらが有利かは企業の状況や対象設備によって異なるため、適用にあたっては税理士など専門家に相談することが推奨されます。
参考:国税庁|No.5450 法人税の額から控除される特別控除額の特例
資本金1億円以下
資本金1億円以下の法人は、中小法人等として一定の税制上の優遇措置を受けることができます。主な例としては、以下が挙げられます。
- 所得800万円までの部分に対する法人税率の軽減措置
- 欠損金の繰越控除や繰戻還付制度に関する特例
- 年間800万円までの交際費の全額損金算入の認可
- 30万円未満の減価償却資産に対する一括損金算入の特例
これらの優遇措置は、法人税法における「中小法人等」や租税特別措置法の「中小企業者等」としての扱いに基づき、資本金1億円以下であることが主な条件となっています。
なお、資本金の額によっては外形標準課税の対象となり、付加価値額や資本割に応じた課税が加わることがあります。資本金の増減に関する判断は会社の財務状況や事業戦略にも関わるため、実際に検討する際には税理士など専門家に相談することが大切です。
参考:国税庁|No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者
資本金が多い会社のメリット

資本金が多い会社には、一般的に以下のような傾向がみられます。
- 社会的信用の向上
- 人材獲得の参考要素となる
- 財務上の余裕につながることがある
それぞれのメリットについて解説していきます。
社会的信用の向上
資本金が比較的多い会社は、対外的な信用力の向上につながる場合があります。
資本金の額は、出資者からの資金調達実績や財務基盤の一つの指標として評価されることがあり、金融機関による融資審査でも参考情報の一つとして扱われることがあります。そのため、資本金が多い企業は、スムーズな資金調達を実現できる場合があります。
ただし、融資の可否や信用力は資本金だけで判断されるものではなく、事業計画や収益状況、保証体制なども総合的に評価されます。
事業拡大や資金調達を視野に入れる場合には、資本金の額を含めた会社の財務戦略を総合的に検討することが重要です。
参考:日本政策金融公庫|融資制度を探す
人材確保につながる
資本金の規模は、外部から企業の信用力や経営の安定性を判断する一つの目安の一つとされています。
特に、資本金が比較的潤沢な企業は、求職者から「経営基盤がしっかりしている会社」という印象を持たれることがあります。
そのため、新卒採用や中途採用で求職者に安心感を与えたい場合、資本金の設定も参考情報の一つとして考慮されることがあります。
ただし、採用においては事業内容や社風、福利厚生など、資本金以外の要素も重要ですので、総合的な観点から検討することが大切です。
財務上の余裕につながることがある
資本金が十分にある企業は、財務面での安定性を確保しやすく、債務超過に陥るリスクをある程度抑えられる可能性があります。
債務超過とは、会社の保有する資産よりも負債が上回った状態を指し、この状態が長期化すると事業運営に支障をきたす場合があるのです。資本金は返済義務のない純資産として扱われるため、企業の財務基盤の一部として安心感を持つことができます。一方で、金融機関からの借入金は負債に分類され、返済義務があります。
特に創業初期の企業は売上が安定せず、借入金の返済が負担となるケースもあります。その点で、資本金が十分にあると、短期的な利益の変動に対応しやすく、財務安定性の確保に寄与する可能性があります。
ただし、資本金が多いことだけで債務超過のリスクが完全に回避できるわけではないため、日々の資金繰りや経営状況の把握も重要です。
資本金が多い会社のデメリット

資本金を増やす場合には、いくつかの注意点があります。
- 税負担が増える可能性がある
- 手続き費用がかかる
それぞれ詳しく解説していきます。
税負担が増える可能性がある
資本金の額は法人税務や税負担の取り扱いに影響を与える場合があります。
例えば、資本金が1,000万円未満の会社では、設立初年度から2年間にかけて消費税の納税義務が免除されるケースがあります。一方、資本金が1,000万円以上の場合は、設立初年度から消費税の課税対象となる場合があります。
また、法人住民税の「均等割」についても、資本金や従業員数によって税額が変わるため、初期の資金計画や税負担を見据えて慎重に設定することが重要です。
資本金の額は会社の信用力や将来の資金繰りにも関わるため、税務面だけでなく総合的に判断することをおすすめします。
手続き費用がかかる
増資を行う際には、資本金の変更に伴い、法務局での登記手続きが必要になります。この際、「登録免許税」の納付が求められます。
登録免許税は、増資額や条件によって異なりますが、一般的には「増資金額の0.7%」または「3万円」のいずれか高い金額が目安となります。
また、登記手続きを専門家である司法書士に依頼する場合は、別途報酬が発生します。報酬額は事務所や増資の内容によって異なりますが、事前に見積もりや費用体系を確認しておくことが望ましいでしょう。
参考:国税庁|No.7191 登録免許税の税額表
資本金を決める際のポイント

資本金を決める際には、いくつかのポイントを踏まえて検討することが大切です。主なポイントは以下の通りです。
- 許認可に必要な資本金の確認
- 事業運営に必要な資金の確保
- 資金調達や信用力のバランス
それぞれのポイントについて解説していきます。
許認可に必要な資本金の確認
新たに事業を立ち上げる際、業種によっては法令により特定の許可や認可が求められる場合があります。
こうした業種では、許認可の取得条件として、最低資本金額が定められていることがあります。
規定の資本金に達していない場合、許認可の取得に時間がかかり、事業開始のスケジュールに影響が出る可能性があります。
そのため、自社が進出を検討している業界でどの程度の資本金要件が設けられているかを事前に調査し、必要に応じて資本金を確保しておくことが、円滑な事業開始につながると考えられます。
事業運営に必要な資金の確保
会社設立時に資本金の額を決定する際には、創業後の一定期間に必要となる運転資金を把握することが重要です。
一般的には、創業後3カ月程度の運転資金を目安として設定するケースが多いとされていますが、必要な金額は業種や事業規模によって異なります。
例えば飲食業の場合、家賃・人件費・光熱費などの固定費に加え、食材仕入れや設備購入などの変動費も考慮する必要があります。一方、製造業やサービス業では、必要な費用構成や期間が異なるため、それぞれの事業特性に応じて見積もることが求められます。
このように、業種ごとの費用構成を踏まえて運転資金を算出することで、現実的かつ無理のない資本金の目安を把握できるでしょう。
資金調達や信用力のバランス
金融機関から融資を受ける際、自己資金の額は判断材料の一つとなります。
創業時の融資では、自己資金の額に応じて借入可能額が変動するケースもあり、自己資金が十分であることは、経営者の事業に対する真剣さやリスク負担の姿勢を示す指標のひとつとして見られることがあります。
今後の事業拡大を視野に入れる場合、設立時の資本金や自己資金の設定について、こうした観点から検討することも一つの考え方として参考になります。詳細な内容は、税理士や金融機関に相談すると安心です。
法人化に必要な資本金はいくら必要?決め方や重要性についても徹底解説
自社の事業形態に合った資本金額を設定しよう!

今回は、資本金を増やさない場合の考え方について紹介しました。
資本金の増減は、税制や融資条件などに影響する場合があります。企業によっては、資本金を抑えることで一定の税制上の優遇を受けられるケースもあるため、慎重な判断が求められます。
資本金額を決める際は、まず開業後に必要となる運転資金の目安を見積もることが大切です。一般的には、目安として2~3か月分程度の運転資金を確保できる額を考慮すると、資金繰りに追われず事業に集中しやすくなります。
また、資本金を設定する際には、税制上の優遇措置や金融機関からの融資条件なども踏まえ、自社の事業内容や成長計画に合った金額を選ぶことが重要です。
最終的な判断に迷った場合は、税理士など専門家に相談し、自社に最適な資本金額を検討することをおすすめします。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

