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起業・開業
訪問介護の開業は1人でできる?開業の基準や流れについても解説

読了目安時間:約 8分
訪問介護事業の開業は、原則として1人だけで行うことは難しいとされています。
これは、介護保険制度に基づき「管理者」「サービス提供責任者」「訪問介護員(ヘルパー)」など、一定の人員配置が求められるためです。一部の職種は兼務も可能ですが、実際には複数人のスタッフ体制を整える必要があります。
本記事では「訪問介護の開業は1人でできるのか」という疑問について整理し、あわせて「訪問介護を開業するために必要な基準」や「開業までの流れ」についても解説します。
ぜひこの記事を参考に、訪問介護事業の開業について理解を深めてみてください。
目次
訪問介護の開業は1人でできる?

訪問介護の事業を始めるにあたって、「居宅介護支援事業」を除いては1人で開業はできません。
その理由は、各サービスごとに国が定める「人員基準」があり、最低限配置すべき職種や人数が決まっているからです。
原則として複数人の職員を配置しなければならない仕組みになっています。
詳細な要件はサービスの種類ごとに異なるため、事業開始にあたっては厚生労働省や自治体の定める基準を確認することが重要です。
訪問介護を開業するために必要な基準

訪問介護を開業する場合、必要な基準として以下の3つを把握する必要があります。
- 人員
- 設備
- 運営
人員
訪問介護を開業するには、厚生労働省が定める人員基準を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。
項目 | 要件 |
---|---|
訪問介護職員 | 常勤換算で2.5名以上 |
サービス提供責任者 | 介護福祉士や実務者研修修了者など(管理職や訪問介護職員との兼務は可能) |
管理者 | 常勤で管理業務を専任で担当する者(訪問介護職員との兼務は不可) |
上記の条件から、開業に必要な人員を確保しなければなりません。少なくとも管理者とサービス提供責任者を配置し、さらに訪問介護職員を確保する必要があります。
ただし、実際の人数は「常勤換算」で計算されるため、パートや非常勤スタッフを組み合わせて基準を満たすことも可能です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
設備
訪問介護事業を始める際には、人員の確保だけでなく、一定の設備や備品を整えることも条件とされています。
厚生労働省が定める「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」では、第七条において設備と備品に関する規定が明記されています。そこでは、事業所には事業運営に必要な面積を備えた専用の区画を設けるとともに、訪問介護を提供するために不可欠な設備や備品を整えることが義務付けられています。
具体的には以下のような設備が必要とされています。
- 事務室
- 相談対応ができるスペース
- 手指消毒設備
- 鍵付き書庫(個人情報管理のため)
- 電話やパソコン等、事業運営に必要な事務機器
なお、事務室や相談室については「十分な広さを確保すること」といった定めはありますが、具体的な面積や机の数など数値基準は法令上明記されていません。自治体によって解釈や運用が異なる場合もあるため、開業予定地の担当窓口で確認することが重要です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
運営
介護事業を開業する際には、厚生労働省が定めた「運営基準」に従うことが求められます。
これは、介護保険制度のもとでサービスを提供する事業者が守らなければならないルールであり、サービスの種類ごとに基準が細かく規定されています。
開業にあたっては、これらの基準を満たした上で指定申請を行う必要があり、基準を満たしていない場合は指定が認められません。運営基準は更新や改正が行われる場合もあるため、最新情報を確認することが不可欠です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
訪問介護を開業するために必要な資格

訪問介護員として働くためには、「介護職員初任者研修」「実務者研修」「生活援助従事者研修」といった研修を修了することが求められます。
さらにステップアップを目指す場合は「介護福祉士実務者研修」を受講することで、訪問介護事業所で重要な役割を担う「サービス提供責任者」として勤務できるようになります。
また、実務者研修を修了したうえで3年間の実務経験を積めば、国家資格である「介護福祉士」の受験資格を得ることも可能です。
このように、資格を取得しておくことで、将来的により幅広い業務やキャリア形成に有利になります。
訪問介護を開業する流れ

訪問介護を開業する具体的な流れについては、以下のとおりです。
- 法人格取得
- 事務所等の準備
- 人員確保
- 指定申請の実施
法人格取得
訪問介護事業を介護保険制度に基づき運営する場合、法人格の取得が必須です。個人事業主としての開業は認められていません。
法人といっても複数の形態があり、代表的なものは以下の3つです。
法人格 | 特徴 |
---|---|
株式会社 | 利益を目的とした会社で、社会的な信用度は高い一方、設立や維持にかかる費用が比較的高額になる。 |
合同会社 | 同じく営利法人で、設立コストが低く始めやすい反面、株式会社ほどの社会的信頼は得にくい。 |
NPO法人 | 営利を目的としない法人形態で、設立に必要な費用は抑えられるが、役員の人数や運営要件が多く、体制づくりが必要。 |
開業形態を選ぶ際には、将来の事業規模や運営方針に合わせることが大切です。
事務所等の準備
先述したように、訪問介護を開業する際には、事務所として利用できるスペースを確保するなど、一定の設備基準を満たす必要があります。
そのため、開業を計画する段階から、物件の選定や必要な備品の準備を進めておくと良いでしょう。
訪問介護事業所を運営するにあたり、整えておくべき主な設備には以下が挙げられます。
- 事務室
- 相談対応ができるスペース
- 手指消毒設備
- 鍵付き書庫(個人情報管理のため)
- 電話やパソコン等、事業運営に必要な事務機器
また、訪問介護は利用者宅へ移動することが前提となるので、移動手段の確保も重要です。
自転車やバイク、自動車といった交通手段を、事業開始前から整えておくことで、開業後にスムーズにサービスを提供することができるでしょう。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
人員確保
訪問介護事業所を運営する際には、ホームヘルパー(訪問介護職員)に加えて「サービス提供責任者」と「管理者」を置く必要があります。
サービス提供責任者、管理者、訪問介護員役職のうち、1人の職員が兼任できるのは一役職までで、3つすべての兼務は認められていません。
さらに、人員配置基準として「常勤換算で2.5人以上の訪問介護職員」が必要です。フルタイム換算で考えると、概ね3人以上の確保が目安となります。
利用者の身体に直接触れて行う介助(身体介護)については、介護資格を持つ者だけでなく、看護師や准看護師といった医療系の有資格者も対応することが可能です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
指定申請の実施
訪問介護事業を始める際には、行政への「指定申請」をおこない、所轄機関から承認を得ることが必要です。
指定の窓口は都道府県または市区町村に分かれており、どちらが担当するかは地域によって異なります。そのため、開業を予定している自治体の公式サイトを確認するか、担当部署へ直接問い合わせておくのがおすすめです。
また、事業を立ち上げるためには定められた基準を満たす必要があり、申請期限までに書類を揃えて提出する必要があります。必要な書類や締切に関する詳細は、行政のホームページで事前に確認しておくと手続きをスムーズに進められます。
申請が受理されると、最長6年間の指定を受けて事業を運営できます。ただし、6年ごとに更新申請が必要となる点に注意が必要です。
訪問介護を開業する際に必要な費用

訪問介護を開業する際に必要な主な費用については、以下の4つが挙げられます。
- 費用①:法人設立費
- 費用②:人件費
- 費用③:物件取得費
- 費用④:設備・備品費
それぞれの費用について解説していきます。
費用①:法人設立費
訪問介護事業を始める場合、法人格を持つことが一般的です。設立にあたっては以下のような費用がかかります。
- 定款認証手数料
- 収入印紙代金
- 登録免許税
また、どの法人スタイルを選ぶかによって、設立コストは変動します。たとえば、株式会社ではおおよそ20〜30万円程度、合同会社や一般社団法人では10万円前後といわれています。
NPO法人の場合は登録免許税が不要なため設立費用自体は比較的抑えられますが、認可申請の準備に時間がかかり、認可まで数か月要するケースが多い点に注意が必要です。開業したい時期から逆算して申請をすると良いでしょう。
費用②:人件費
訪問介護事業を運営するには、法令で定められた人員配置基準を満たす必要があります。そのため、管理者や介護職員などの人件費を事前に見積もっておくことが重要です。
介護職員の給与水準は、地域や資格・経験によって異なりますが、常勤職員で月18〜25万円程度とされることが多いです。そのため、必要な人員を確保すると、毎月数十万円規模の人件費が発生する点を考慮する必要があります。
また、介護報酬は実際にサービス提供後、精算から入金まで通常2~3ヶ月のタイムラグがあります。そのため、開業時には、最低でも2〜3か月分の人件費を事前に準備しておくと安心です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
費用③:物件取得費
訪問介護を開業するには、事務処理を行うスペースのほか、利用者の個人情報を守るための相談スペースや、衛生管理のための手洗い場の設置などの物件取得費が必要になります。
また、賃貸物件を利用する場合には、家賃に加えて、敷金や礼金といった初期費用も予算に入れておきましょう。
自治体の基準を満たす場合には自宅を事務所として活用できるケースもありますが、その際も必要な設備を整えるためにリフォーム費用など追加費用が発生する可能性があります。
費用④:設備・備品費
訪問介護を開業する際には、以下のような設備・備品費が必要になります。
- 車両(訪問用)
- 事務用デスク・チェア・テーブル
- パソコン、プリンター、FAX
- 文具類
- 衛生用品(石鹸、消毒用アルコール、ペーパータオル など)
上記以外にも自動車保険料や税金、燃料費などのランニングコストを見込んでおく必要があります。
必要な備品は事業規模やサービス形態によって異なるため、開業前にリストアップして計画的に準備することが大切です。
参考:厚生労働省|指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
訪問介護開業の資金調達方法

訪問介護事業を開業する際、自己資金だけでは不足する場合もあります。その場合には、融資制度や金融機関からの借入を検討するのが一般的です。
代表的な資金調達先としては、以下のような方法があります。
- 日本政策金融公庫
- 金融機関
日本政策金融公庫
開業資金の調達手段として広く利用されているのが、日本政策金融公庫の融資制度です。
日本政策金融公庫は、原則として保証人や担保が不要で、自己資金が十分でない場合でも、必要な資金を確保しやすい仕組みになっており、利用できればスムーズな開業を目指しやすくなります。
特に「新規開業・スタートアップ支援資金」は、これから事業を始める方や創業後間もない方が対象の融資で、設備投資や運転資金に利用することができます。
融資の上限は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、返済期間は比較的余裕をもって設定されており、運転資金で10年以内、設備資金に関しては20年以内が一般的です。
金融機関
都市銀行、地方銀行、信用金庫といった金融機関からの借入も選択肢の一つです。
融資審査では、資金の使途や返済計画の明確さが重視されます。
例えば、業務用車両の購入やオフィスの賃貸、必要な設備の導入といった具体的な用途を明記することが求められます。
収益性や返済の安定性をしっかりとアピールするためにも、事業計画書や収支予測を準備しておくことが重要です。
【参考】介護職員処遇改善加算制度
開業資金の調達方法としては使用できませんが、ご参考までにご紹介いたします。
介護職員処遇改善加算制度とは、介護職員の給与改善を目的とした国の制度です。訪問介護をおこなう事業所が特定の基準を満たした際に、国からの支援として補助金を受け取れる仕組みです。
申請にはキャリアパス要件や職場環境整備などの基準を満たし、計画書を提出する必要があります。
支給される加算額は加算区分により異なり、介護職員1人あたり月におよそ15,000円から最大で37,000円程度の支援がおこなわれます。なお、支給された金額はすべて「介護職員の賃金向上に使用すること」が義務付けられています。
訪問介護の開業を成功させるポイント

訪問介護の開業を成功させるためには、以下3つのポイントに注目しましょう。
- 開業前に十分な資金計画を立てる
- 働きやすい職場づくりをする
- 積極的に営業をおこなう
それぞれ詳しく解説していきます。
開業前に十分な資金計画を立てる
訪問介護事業を開業する際には、事務所や人材採用、研修費用など初期投資が発生するため、開業前には十分に必要資金を確認するようにしましょう。
必要となる資金は、事業規模や地域、開業形態によって大きく異なりますが、一般的には500万〜1000万円程度の資金が必要とされています。
また、人材確保のための費用や予想外の支出が発生することもあり、資金繰りに課題が生じる場合もあります。開業直後に資金不足に陥り、経営が厳しくなるという事態も十分に考えられるため、資金計画を立て、余裕を持った準備を心がけることが大切です。
働きやすい職場づくりをする
訪問介護事業を安定的に運営するためには、従業員が安心して長く働ける環境づくりが欠かせません。
例えば、開業時に人材の採用に成功したとしても、働きやすい職場で無ければすぐに離職してしまう可能性があります。
また、介護業界は離職率が高い傾向にあるため、安定した体制を維持することが難しいのが現実です。
給与水準の見直しや福利厚生の充実、シフトの柔軟性など、働きやすさを意識した仕組みを整えることで、人材の定着やサービス品質の向上につながります。
積極的に営業をおこなう
訪問介護事業は地域密着型のサービスであるため、地域の方々や関係機関に存在を知ってもらうことが重要です。
実際に、訪問介護事業の開業においては、営業面での力不足が原因で失敗する例が少なくありません。
近年では、訪問介護業界には多くの参入希望者が集まっており、市場はますます競争が激化しています。効果的な営業活動ができなければ、サービスを必要とする利用者が集まらず、事業として継続することが難しくなってしまうでしょう。
そのため、開業したことを地域の人々に広く認知してもらうためにも、積極的な営業戦略を取ることが大切です。例えば、ケアマネジャーとの連携や地域イベントへの参加、紹介制度の整備など、地域社会との接点を積極的に持つことで利用者とのつながりが広がります。
効果的な営業活動を通じて、安定した運営基盤を築くことが可能になります。
入念な計画を立てた上で訪問介護を開業しよう!

今回の記事を参考にして、入念な計画を立てた上で訪問介護を開業するようにしましょう。
今回は、訪問介護事業を一人で開業できるのかについて解説しました。
訪問介護を始めるには、人員配置や管理者の要件など、法律で定められた基準を満たす必要があります。そのため、形式的には「1人開業」が難しいケースが多いのが実情です。
また、事業の種類によって必要となる設備や運営体制、管理者資格などが異なり、加えて資金面の準備も欠かせません。
開業を検討する際には、事前に十分な計画を立て、制度の要件を正しく把握することが重要です。不明点があれば、行政窓口や専門家に確認すると安心です。
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- さらに会社設立してからも一気通貫で支援
この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。