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個人事業主から法人成りした際の在庫はどうする?引き継ぐ方法や注意点を解説

読了目安時間:約 7分
個人事業主として事業をはじめ、売上が順調に上がってきたら法人化を検討する方も多いでしょう。
法人成りする際に、注意しなければならないのが個人事業主として保有していた資産の引き継ぎです。
個人事業主の資産を新しく設立した法人でそのまま使えるようにするためには、どのような手続きや仕分けが必要になるのでしょうか。
本記事では、個人事業主から法人へ資産を引き継ぐ方法や資産の種類、注意すべきポイントを詳しく解説します。
スムーズに法人成りできるよう、ぜひ最後までご覧いただき、自社に適した引き継ぎ方法を選択し、手続きに備えていただければ幸いです。
目次
法人成りするベストなタイミングとは

節税目的で法人化を考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、法人化による節税効果は所得の状況や事業形態により異なるため、必ずしも法人化が節税につながるとは限らず、慎重な検討が必要です。
個人事業主が法人化を検討すべきタイミングとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 事業所得が800万円〜900万円前後になった
- 課税売上高が1,000万円を超えたとき
- 事業を拡大したいとき
それぞれ解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
事業所得が800万〜900万円前後になった
利益の観点からいうと、個人事業主としての事業所得額が800万〜900万円前後になった場合は、法人化を検討する一つの目安になります。
個人事業主の所得税は、その年の所得金額によって税率が決まっており、約900万円を超えると所得税率が33%になります。
そのため、800万円~900万円程度で法人化を検討すると、節税効果が期待できるでしょう。
参考:所得税の税率|国税庁/事業所得の課税のしくみ(事業所得)|国税庁
課税売上高が1,000万円を超えたとき
消費税の観点からいうと、課税売上高が1000万円を超えるタイミングは法人化するメリットが大きいです。
個人も法人も、課税売上高が1,000万円を超えると、その翌々年から消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
法人設立後、一定の条件を満たせば、消費税の納税義務が免除されるケースもあります。
ただし、資本金が1,000万円を超えている場合や、設立初年度の課税売上高が1,000万円を超える場合などは例外となるため、事前に詳細なシミュレーションが必要です。
事業を拡大したいとき
事業をさらに拡大したい方は、売上や所得に関わらず、法人成りを検討してみても良いでしょう。
個人事業主の場合、企業と大きな規模の取引が行えなかったり、そもそも契約ができなかったりするケースがあります。
一般的に、法人化すると社会的信用度が高まるため、企業と取引する際や、金融機関からの融資を受ける際のハードルが下がり、事業拡大や資金調達に有利に働くことがあります。
また、法人化すると、個人事業主では対象外となる補助金・助成金に応募できるケースもあります。
ただし、すべての法人が対象となるわけではなく、事業内容や規模、申請のタイミングなどによって条件が異なるため、活用を検討する際は、制度の内容を事前に確認することが重要です。
法人成りで在庫を引き継ぐ4つの方法

個人事業主から法人成りする際に、個人事業主が保有していた在庫をどのように扱えば良いのでしょうか。
結論として、個人として所有していた資産を新しく設立した会社でそのまま使いたい場合、資産の引き継ぎが必要です。
法人成りで資産を引き継ぐ方法としては、以下の4つがあります。
- 売買契約
- 現物出資
- 賃貸借契約
- 贈与契約
それぞれ詳しく説明します。
売買契約|法人へ資産を譲渡
売買契約は、個人事業主から設立する法人に対して資産を売却(譲渡)する方法です。
売買契約により資産を引継ぐ場合は、資産の所有権は法人側に移ります。
個人と法人との間で売買契約を交わすだけの比較的簡単な手続きで済む点がメリットです。
ただし、法人側は資産を買い取るため、まとまった資金が必要になる点や、売却により譲渡所得が発生した場合に個人に対して譲渡所得税が課される点には注意しましょう。
参考:所得税法 | e-Gov 法令検索/譲渡所得の対象となる資産と課税方法|国税庁
現物出資|法人設立時の資本金に充てる
現物出資は、個人事業主として保有している金銭以外の財産を法人に出資し、会社設立時の資本金に充てる方法です。
現物出資の対象となる資産は以下が挙げられます。
- 車両
- パソコン
- 不動産
- 有価証券 など
なお、総額が500万円を超える資産を現物出資する場合、弁護士や公認会計士など、裁判所が選任した検査役による調査が必要です。
現物出資は法人設立時の資本金に充てられ、法人の信用度向上や資金調達に有利になる場合がありますが、資産評価の適正な把握が必要です。
賃貸借契約|法人へ資産を貸し出す
賃貸借契約は、個人事業主として保有していた資産を法人に貸し出す方法です。
売買契約と同様、比較的簡単な引き継ぎ方法で、個人事業主と法人の間で賃貸借契約を交わします。
この形式をとる場合、資産の所有権は個人事業主にあるため、法人は個人に対して賃借料を支払い、個人は受け取った賃借料を所得として確定申告・納税を行う必要があります。
贈与契約|法人へ資産を贈与
贈与契約は、個人事業主として保有している資産を無償で譲渡する方法です。
法人側は資産の引き継ぎにまとまった購入資金を用意する必要がないため、さまざまな費用が発生する創業時においては、資金の引き継ぎで金銭的な負担を抑えられる点がメリットとなります。
しかし、個人から法人への無償または著しく低額な資産譲渡は、税法上「みなし譲渡」と判断され、実際の金銭授受がなくても時価相当の譲渡として課税が行われるため、個人・法人双方で課税される場合があります。
法人へ引き継ぐ在庫の種類

個人事業主から法人へ引き継ぐケースが多い資産は主に以下の4つです。
- 棚卸資産
- 減価償却資産
- 不動産
- 負債
それぞれの内容や会計処理の方法などを説明します。
棚卸資産
棚卸資産は、商品や原材料、消耗品など、販売や製造、業務上で消費する目的で一定期間保管している資産を指します。
個人事業主として営んでいた際に保有していたこれらの資産を法人に移す場合、通常の取引価格で法人に譲渡する形です。
ただし、破損した商品や型落ち品など、価値が低下している場合はその時の価値をもとに処理されるケースが多いです。
棚卸資産の会計処理では一般的に、個人事業主側は、譲渡した資産を「収入」として計上し、法人側は「仕入」として計上します。
減価償却資産
減価償却資産は、車両やソフトウェア、業務機器、パソコンなど、使用するうちに価値が減少する資産で、一台あたり10万円以上の高額な事務用品などを指します。
これらは法人化の際に基本的には時価で法人に譲渡されますが、市場価値が明確でない場合には簿価(会計帳簿に記入された資産や負債の評価額)での処理も可能です。
減価償却資産の会計処理は、個人事業主側では「譲渡所得」として計上し、法人側では「固定資産」として計上します。
不動産
土地や建物などの不動産の資産を引継ぎする場合は、売却(譲渡)、もしくは賃貸の2つが一般的です。
売却(譲渡)の場合は個人事業主の保有する不動産を法人に売却し、所有権が法人に移る形式となり、会計上は個人事業主側は「譲渡所得」として計上し、法人側は「固定資産」として計上します。
一方、賃貸の場合は個人事業主が法人に不動産を貸し出すため、所有権は個人にあり、双方の間で賃貸借契約を締結します。
賃貸は法人が個人に対して賃料が発生する点や、個人は確定申告を行う手間がありますが、不動産取得税や登記費用などの費用を抑えられるメリットもあるため、どちらを選択するかよく考えましょう。
負債
負債は借入金や買掛金、未払金などの返済の必要がある義務のことで、個人事業主から法人へ、負債も引き継ぐことが可能です。
ただし、資産と同じ方法では引き継ぎが行えず、債権者の同意を得たり、取引先への名義変更通知などを行ったりと手間が多いため、法人化する前に個人事業主として返済を済ませておくケースが多いです。
例えば、棚卸資産や減価償却資産を譲渡した際に手元に残る資金があれば、それを使って返済できる可能性があります。
ただし、これらの会計処理は一例であり、実際には事業の内容や資産の性質、譲渡条件などにより異なる場合があります。詳細な処理については、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
【法人成り】資産引き継ぎの注意点

法人成りで個人事業主が保有していた資産を法人に引き継ぐ際、注意しなければならないポイントがあります。
事前に把握しておけば、引き継ぎ前に対策が取れますので、詳しく見ていきましょう。
法人成りで引き継ぎができない資産もある
これまで個人事業主から法人成りした際に資産を引き継ぐ方法をご紹介してきましたが、在庫すべてを引き継ぐことができるわけではありません。
具体的には、以下のケースでそのまま引き継ぐことはできません。
- 賃貸借契約中の物件
- リース機器
- 個人事業主として取得した許可 など
例えば、個人事業主として借りていた物件は、法人と個人で条件や賃料などの契約内容が変わるため、法人として契約し直す必要があります。
ですから、スムーズに法人成りを行うためにも、事前にそのまま引き継ぎ不可能な資産を確認し、手続きを行うようにしましょう。
資産譲渡には消費税がかかる場合がある
個人事業主が法人へ資産を譲渡する場合、消費税がかかる場合があります。
具体的には、以下のケースに当てはまる個人事業主は課税事業者となり、消費税を納める義務が発生するので注意が必要です。
- インボイス登録をしている
- 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている
- 前年の1月1日から6月30日の間における課税売上高または給与支払額が1,000万円を超えている
譲渡額が大きければ、支払う消費税額も増加する可能性があるため、消費税の有無も考慮に入れて計画しましょう。
時価と異なる金額で譲渡すると課税対象になる場合がある
個人事業主のときの在庫は、法人へ引き継ぐ際、販売価格で取引するのが基本的なルールとなっています。
そのため、時価と異なる金額で資産を譲渡すると、課税対象になるケースもある点に注意が必要です。
例えば、通常の市場価格(時価)より著しく低い価格で資産を譲渡した場合、税務上の「低額譲渡」と判断され、時価での譲渡があったとみなされて課税される可能性があります。
税負担が増える可能性があるため、引き継ぐ際の販売価額は高すぎたり低すぎたりしないようにし、適正な範囲で設定することが重要です。適正価格の設定については、専門家に相談することをおすすめします。
資産と負債のバランスに注意する
個人から法人へ資産を引き継ぐ際、資産と負債のバランスにも注意しなければなりません。
特に、資産より負債が多い場合は、個人が新たに設立する法人からお金を借りる形となり、負債の超過分を法人に肩代わりされたとみなされる恐れがあるのです。
そうすると、法人としての信頼性が損なわれ、金融機関から融資を受ける際に不利に働く可能性があります。
そのため、資産を引き継ぐ際は資産と負債のバランスを考え、どの資産・負債を引き継ぐか十分検討しましょう。
個人・法人それぞれで仕分けが必要
個人事業主から法人成りした場合、個人事業主と法人でそれぞれ異なる処理が必要です。
基本的には個人で処理していた勘定科目をそのまま法人で使っても問題はありませんが、資産や負債などを引き継ぐ場合には別の会計処理が発生します。
例えば、棚卸資産を法人へ引き継ぐ際、その資産をそのまま法人へ時価で販売したとして処理すると、個人事業主側は「売上」として計上し、法人側は「仕入」として計上しなければなりません。
仕分けや税務処理に不安がある方は税理士に依頼するのが有効です。
資産引き継ぎに適した方法を選ぼう

個人事業主として保有していた資産を新たに設立する法人でも使う場合、資産の引き継ぎを行わなければなりません。
資産を引き継ぐのに、売買契約、現物出資、賃貸借契約、贈与の4種類の方法があるため、それぞれの特長をおさえ、資産をどのように扱うか事前に考えておきましょう。
法人化によって節税効果が見込まれるケースもありますが、事業の状況や将来の計画によっては逆に税負担が増えることもあります。一律に「法人化=節税」と考えず、長期的な視点でシミュレーションを行いましょう。
また、法人成りする際は、資産の引き継ぎだけでなく、税務申告などさまざまな手続きが必要であり、資金調達を行わなければならない場合もあります。
これらを全て一人で行うのが難しいという方や、税法上の問題が発生するのを未然に防ぎたい方は、税理士のサポートを受けるかどうか検討してみてください。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。