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会社設立
役員報酬の相場ってどのくらい?決め方のルールや適切な金額を解説

読了目安時間:約 6分
会社を設立すると、経営者は会社から役員報酬という形でお金を受け取ることになります。しかし、役員報酬を経費として扱うためには、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内に役員報酬の額を決定しなければなりません。会社設立時には事業の見通しを立てにくく、役員報酬をどのくらいに設定すべきなのか悩むケースは多いものです。参考のために、役員報酬の相場や役員報酬の決め方などを知りたいという方も多いのではないでしょうか。
今回は、会社設立予定の方のために、役員報酬の相場や役員報酬の決め方などについてご説明します。
目次
役員報酬とは
役員とは、会社の重要な意思決定に関わり、経営に携わる役割を担う人のことです。具体的には取締役や会計参与、監査役などが該当します。役員報酬は、役員に支払う報酬のことです。
役員報酬と給与の違い
役員に支払う報酬を役員報酬、従業員に支払う報酬を給与といいます。給与は、雇用契約を結んだ従業員に労働の対価として支払うものであり、役員報酬と給与には以下のような違いがあります。
・役員報酬には割増賃金はない
時間外労働や休日労働が発生した場合は、従業員に対して割増賃金を支払わなければなりません。しかし、役員報酬に割増賃金が適用されることはありません。
・役員報酬は一定のルールを守らなければ損金算入ができない
従業員に支払う給与は、全額、損金算入が可能であり、経費として計上することができます。しかし、役員報酬は一定のルールを守らなければ損金算入が認められません。損金に算入できない場合、経費として計上できないため、事業所得が高くなり、結果、納める法人税の額も高くなってしまいます。
・役員報酬の額は自由に変更することはできない
給与は昇給、昇格などの理由によって変更することが可能です。しかし、役員報酬は自由に変更することはできません。もし、役員報酬の額を自由に変動できた場合、業績の良いときに役員報酬の額を増やし、事業所得を低く装うなど、簡単に利益の操作ができてしまうからです。
役員報酬の支払い方法
損金算入ができる役員報酬の支払い方法には「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「業績連動給与」の3つの方法があります。
・定期同額給与
定期的に支給される役員報酬が定期同額給与であり、役員の給与に該当する報酬です。定期同額給与は、1ヶ月以下の一定期間ごとに、1年間、同じ額を支給しなければなりません。
・事前確定届出給与
事前確定届出給与は役員の賞与に該当する報酬であり、あらかじめ税務署に届出をすることで、損金算入が認められる役員報酬です。事前確定届出給与は、税務署に届け出た金額と同じ額を、届け出た支給日に支給しなければ、損金算入が認められません。
・業績連動給与
業績連動給与は、会社の業績に連動し、利益額に応じて支給する役員報酬です。業績連動給与は、有価証券報告書に給与の算定方法を記載・開示していること、同族会社以外であることなどの要件を満たさなければなりません。そのため上場企業でなければ、業績連動給与を損金算入することはできず、中小企業では業績連動給与を支給するケースはほとんどありません。
役員報酬を変更できる時期について
給与と役員報酬の大きな違いは、役員報酬の場合、金額を変更できる時期が限られている点です。役員報酬の3つの支払い方法のうち、定期的に支給する役員報酬は定期同額給与であり、定期同額給与は自由に金額を変更することはできません。
定期同額給与の額を変更できる時期は、事業年度開始の日から3ヶ月以内です。会社を設立した年の場合は、会社設立日から3ヶ月以内に役員報酬額を決めなければなりません。また、それ以後に定期同額給与の額を変更したい場合には、毎年、事業年度開始の日から3ヶ月以内に変更を決定する必要があります。事業年度開始の日から3ヶ月以内に役員報酬額を変更しない場合、損金算入が認められないため注意が必要です。
役員報酬の相場について
役員報酬の相場はどのくらいになるのでしょうか。人事院と国税庁が公表しているデータから、役員報酬の相場の額を見てみましょう。
人事院の「民間企業における役員報酬(給与)調査」による役員報酬の相場
人事院が公表している令和5年度「民間企業における役員報酬(給与)調査」によると、令和4年の企業規模別、役職名別の平均年間報酬は次のようになっています。

このデータによると、企業規模が大きいほど役員報酬の額は大きくなることが分かります。社長を例に見ると、従業員が3,000人以上の企業の役員報酬の平均額は8,602.6万円であるのに対し、企業規模が500人以上1,000人未満の企業では4,225.5万円となっており、2倍程度の差が生じているのです。
人事院のデータは、従業員500人以上の企業のみを対象としているため、全体的に役員報酬の相場は高めになっています。従業員がより少ない企業になると、役員報酬の相場はさらに低くなると推測できるでしょう。
国税庁が公表している役員報酬の相場
国税庁が令和6年9月に公表した令和5年分の「民間給与実態統計調査結果」によると、株式会社の役員報酬の相場は次のようになっています。

国税庁:民間給与実態統計調査結果
国税庁が公表しているデータでは、株式会社の役員報酬の相場が示されています。人事院の役員報酬の相場は、企業の従業員数別、役職別に示されたものですが、国税庁のデータを見ると、資本金別と男女別の役員報酬の相場が分かります。
男女の差が大きいものの、国税庁のデータでも、資本金の額が高くなるほど役員報酬の額も高くなる傾向が見て取れます。
役員報酬の相場の把握は難しいことも
人事院と国税庁が公表しているデータから役員報酬の相場をご紹介しました。しかしながら、人事院のデータでは、企業規模が500人以上1,000人未満の企業でも社長の役員報酬は4,225.5万円であったことと比べ、国税庁のデータでは、資本金10億円以上の企業の役員報酬でも平均は1,946.3万円です。役員報酬の額は、企業規模によっても、役職によっても変わってくるため、公に発表されているデータを見ても、差が大きく、役員報酬額の相場を把握することは難しい場合も少なくありません。
ただし、役員報酬の額が同業他社と比べ、明らかに高すぎる場合、損金算入が認められない可能性もあります。そのため、ある程度の役員報酬額の相場は把握しておきましょう。
役員報酬の決め方
役員報酬を決定する方法には一定のルールがあります。役員報酬の決め方のルールをご紹介します。
株主総会の決議または定款で決定する
役員報酬の額を決めるためには、株主総会の決議で決定するか、定款で定めるか、いずれかの方法で決定しなければなりません。株主総会の決議で役員報酬の額を決定する場合、役員ごとの個別の報酬額まで決定する必要はなく、株主総会では役員報酬の総額を決定し、その後、取締役会で個別の役員報酬額を決定することもできます。
役員報酬の決定内容は議事録で残す
会社法では、株主総会で役員報酬の額を決定した場合、議事録を作成し、保管しなければならないと定めています。議事録には次の内容を記載するようにします。
・株主総会の開催日時と場所、議長の名前
・株主総会の議事の内容と結果として役員報酬の額
・株主総会に出席した取締役の役職と氏名
・議事録作成者の名前
役員変更に関連した株主総会の議事録は税務署などに提出する必要はありません。しかし、税務調査の際、役員報酬について指摘がなされる場合もあるでしょう。調査官に議事録の照会を求められた際に適切に対応できるよう、議事録は大切に保管しておくことが大切です。
役員報酬は事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定する
毎月支給する定期同額給与を損金算入するためには、会社設立日から3ヶ月以内に支給額を決定しなければならないルールとなっています。定期同額給与の決定額について税務署に届出をする必要はありませんが、3ヶ月以内に決定しない場合、損金算入が認められません。税務調査時には、定款の内容や株主総会の議事録など、定期同額給与の額を3ヶ月以内に決定したことを示す書類の提示が必要になる点に注意が必要です。
役員報酬の額はどう決める?
役員報酬の相場を把握しても、企業の規模や状況によって役員報酬の適切な額は変わってきます。そのため、役員報酬の額は、次のようなポイントを中心に検討することが大切です。
経営状況と生活に必要な額を考慮して報酬を決定する
役員報酬は、会社の利益から支給するものです。そのため、会社の経営状況が思わしくない状況にあるにもかかわらず、役員報酬の額を不相応な額に決定してしまうと、資金繰りが悪化してしまう恐れがあります。しかしながら、役員個人の生活も考えなければならないため、個人の財産状況も踏まえ、会社の利益とバランスが取れる額に決定することが重要です。
役員報酬は1年に1回変更ができます。会社設立初年度は会社の利益も上がりにくいため、役員報酬は低めに抑え、事業が軌道に乗り出した翌年以降から、会社の利益に合わせて役員報酬もアップさせても良いでしょう。
いずれにしろ、会社設立時に役員報酬を決める際には、会社の利益と生活に必要な額のバランスを図ることが重要です。しかしながら、定期同額給与は、事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定しなければなりません。そのため、期首の段階で1年間の売上の見込みや経費計上できる額の見通しを立て、損益を予測することが非常に重要になります。
法人税と個人の税金、社会保険料とのバランスを考える
定期同額給与として要件を満たす役員報酬は、損金算入が可能です。そのため、役員報酬の額を増やすと、法人の課税所得額が低くなり、法人税の額を抑えられます。しかしながら、役員報酬の額が高額になると、役員個人が負担する所得税が高額になります。役員個人の所得額が増えると、所得税だけでなく、住民税や社会保険料の額も高くなるため、役員報酬額を決定する際には法人税と個人が負担する税金や社会保険料のバランスを考えることも大切です。
ただし、法人税や法人住民税、法人が負担する社会保険料、役員個人が負担する所得税、住民税、社会保険料の額を考慮し、税負担を最小限に抑えられる役員報酬額を決定することは簡単ではありません。複雑な計算が求められるため、会社設立によって節税効果を最大限に得たい場合は、税理士への相談をおすすめします。
不相応に高い額に設定しない
役員報酬の額が事業規模や経営状況に比べ、不相応に高額な場合、損金算入が認められない場合があります。特に、同業他社の役員報酬の相場に比べて、役員報酬の額が高すぎる場合は損金算入が認められないケースが多くなっています。
資本金が2,000万円未満の企業であれば、役員報酬の相場は約630万円です。役員報酬の相場も参考にしながら、役員報酬の額を決定しましょう。また、従業員に支払う給与と役員報酬の額の差が大きすぎる場合も、税務調査時に損金算入が否認される可能性があるため注意しましょう。
親族に高額な役員報酬を支給しない
親族に対し、高額な役員報酬を支払っている場合は税務調査時に指摘を受ける可能性が高くなります。実際の勤務状況や業務内容を考えた場合に適切な額が支払われていないと捉えられると、損金算入が認められません。
親族への役員報酬の支給は、家族内での所得の分散になります。一人当たりの役員報酬額を抑えられるため、役員が負担する所得税や住民税、社会保険料などを軽減することが可能です。しかし、業務の実態に見合わないほど高額な役員報酬を親族に支給すると、損金算入が認められない可能性が高くなるため、親族に役員報酬を支給する際には、業務内容に見合った適切な額に設定しましょう。
まとめ
役員報酬の相場は、企業の規模や業種などによって変わってきます。役員報酬の額を決定する際、会社の利益に見合わないほど高額に設定すると、資金繰りが悪化する恐れがあります。また、役員個人が負担する所得税や住民税、社会保険料の額も高額になるうえ、税務調査の際に損金算入が認められないリスクもあるため、役員報酬の額は相場を踏まえ、適切に設定することが大切です。
とはいえ、法人が負担する税金と個人が負担する税金を考え、双方にとってメリットをもたらす最適な役員報酬の額を算出することは簡単ではありません。役員報酬の額を決定する際には、最大の節税効果を得られるよう、税の専門家である税理士に相談することをおすすめします。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。