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家族で法人化(法人成り)するケースとは?メリット・デメリットや注意点も解説

読了目安時間:約 8分
家族を中心に法人を設立することは、事業の運営方法を柔軟に選択できる一つの手段です。
ただし、家族を役員や従業員として関与させる場合には、一定のメリットがある一方で、注意すべきリスクやデメリットも存在します。
本記事では、家族で法人化(法人成り)するケースについて概要を解説するとともに、「家族を役員や従業員として迎える場合のメリット・デメリット」や「検討時に押さえておきたい注意点」についても紹介します。
ぜひ参考にしていただき、家族を巻き込んだ法人化の検討に役立ててください。
目次
家族で法人化(法人成り)するケース

家族で法人化(法人成り)するケースとして、以下の2つが挙げられます。
- 法人化して家族を従業員として雇う
- 法人化して家族を役員にする
法人化して家族を従業員として雇う
家族を従業員として雇用する場合、給与を支払うことで家族の収入源を確保でき、結果的に世帯全体の所得構成が変わることがあります。
ただし、税務上は「業務の実態に即した給与」であることが前提であり、単なる節税目的で不相当に高い給与を設定すると、経費として認められない可能性がある点に注意が必要です。
実際の税務調査では、家族従業員の勤務実態や給与の妥当性が確認される傾向があります。日頃から仕事内容・勤務時間・給与水準などを記録に残し、説明できる体制を整えておくことが大切です。
また、社会保険や労働保険の取り扱いについては注意する必要があります。
たとえば、雇用保険は同居の親族従業員について原則的に適用除外とされており、労災保険についても対象からも外れるケースがあります。そのため、予め確認しておくのが望ましいです。
参考:厚生労働省|雇用保険制度
法人化して家族を役員にする
中小企業では、家族を会社の役員に登用するケースも少なくありません。
家族を役員に加えることで、経営方針を共有しやすくなり、意思決定のスピードや一体感が高まるといったメリットが期待できます。
また、役員報酬を家族に支給する場合には、実際の業務内容や責任に応じた金額を設定することが必要です。適切に行うことで、役員報酬としての経費計上が可能になり、結果として会社と家計の資金管理を効率化できる場合もあります。
なお、家族を役員にした場合も、社会保険や所得税の取り扱いは他の役員と同じです。そのため、将来的な予算計画も立てやすくなり、結果として経営における透明性の向上にもつながります。
参考:国税庁|役員に対する給与
法人化して家族を雇うメリット

法人化して家族を雇うメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 給与を経費計上できる
- 信頼関係が高い状態で仕事ができる
- 経営理念が浸透しやすくなる
それぞれのメリットについて解説していきます。
給与を経費計上できる
法人化して家族を従業員として雇用し給与を支払う場合、家族の給与にも「給与所得控除」が適用されるため、結果として課税所得が抑えられるケースがあります。
一方で、給与として支給する額は「実際の業務内容に見合った妥当な水準」でなければ、経費として認められない点に注意が必要です。また、社会保険料の負担増などにより、必ずしも税負担が軽減されるとは限りません。
個人事業の場合でも「青色事業専従者給与」として親族に給与を支払うことは可能ですが、この場合は配偶者控除や扶養控除の対象外となります。
したがって、節税効果や人員配置の柔軟性という観点では法人化がメリットとなる場合もありますが、最適な形態は事業規模や家族の働き方によって異なります。具体的には税理士に相談し、シミュレーションを行ったうえで判断することをおすすめします。
参考:国税庁|給与所得控除
信頼関係が高い状態で仕事ができる
家族を雇うことには、信頼関係を基盤とした協力体制を築きやすいという特徴があります。
身近な家族と共に働くことで、安心感のある職場環境が生まれやすく、結果として業務効率や成果の向上につながるケースもあります。
また、創業初期の忙しい時期には、家族が業務をサポートすることで、一定の安心感を得られる場合があるでしょう。さらに、経営メンバーに親族が多い場合、意思疎通がスムーズに進むことがあり、変化への対応もしやすくなることがあります。
このように、家族と共に働くことには独自のメリットが期待できるのです。
経営理念が浸透しやすくなる
家族を従業員として雇用する場合、経営者の方針や価値観が社内に浸透しやすくなることが期待できます。日常的なコミュニケーションを通じて、業務方針や目指す方向性が共有されやすくなり、業務の統一感や効率的な運営につながるケースもあります。
また、家族を従業員として迎えることで、人材の定着性が高まる場合もあり、長期的な雇用確保の面で安心材料となることがあります。
このように、価値観の共有と人材の定着性がもたらす効果は、家族経営に特有の強みと言えます。ただし、家族従業員ならではのメリットを活かす際には、税務や労務の観点から適正な運用を行うことが重要です。
法人化して家族を雇うデメリット

法人化して家族を雇うデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- ワンマン経営になる場合がある
- 家族従業員以外のモチベーションが下がる可能性がある
- 事業拡大がしにくい場合がある
ワンマン経営になる場合がある
家族を中心とした経営体制では、法令遵守や経営統制の面で注意すべき点があります。
特定の人物に経営判断が偏ることで、社員の意見が届きにくくなる可能性があり、その結果、職場環境が閉鎖的になり、労働環境が厳しくなってしまう場合もあります。そのため、ワンマン経営とならないよう、意思決定の透明性や公正性を確保する仕組みが重要です。
また、企業の資産や経営資源が家族の都合で私的に使われるような事態が起こると、組織の健全性が揺らぐおそれがあります。そのため、企業の資産や経営資源の管理についても、私的利用を防ぐような体制を整えておくことが、組織の健全性を維持する上で役立ちます。
家族経営の企業でも、規則や内部統制を適切に設けることで、健全な経営環境を維持することが可能です。
参考:e-Gov法令検索|会社法
家族従業員以外のモチベーションが下がる可能性がある
法人化して家族を従業員として雇用する場合、親族従業員の存在が、社内の人間関係や組織運営に影響を与える可能性があります。
例えば、経営層が家族メンバーに要職を集中させたり、自分たちの方針にそぐわない社員を遠ざけたりすると、社内の信頼関係や協調性が損なわれる可能性があります。
そのため、経営層に家族が複数名いる場合には、役職や業務分担の決定に配慮が必要です。家族従業員とその他の従業員との間で、評価や処遇に不公平感が生じないよう、透明性の高い制度や基準を設けることが望ましいでしょう。また、キャリアアップや評価の仕組みを明確にすることで、非親族従業員のモチベーション維持や組織全体の活力の確保にもつながります。
このように、法人化して家族を雇う場合には、親族でない従業員への配慮や社内制度の整備が重要なポイントとなります。
事業拡大がしにくい場合がある
法人化して家族を従業員として雇う場合、企業運営のスタイルによっては事業拡大に工夫が必要になることがあります。
家族を中心とした経営は、外部から見ると一部の人には閉鎖的に映ることがあり、採用活動において注意が必要です。また、家族以外の従業員の処遇やキャリアパスについても、公平性や透明性を意識して運営することが重要です。
こうした配慮が不足すると、優秀な人材の定着や組織力の強化に影響が出る可能性があります。そのため、家族経営であっても、適切な人事制度や評価制度を整えることが推奨されます。
法人化して家族を役員にするメリット

法人化して家族を役員にするメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 所得税の節税につながる
- 社会保険への加入が可能になる
- 相続税対策になる
- 事業承継を円滑に進められる
所得税の節税につながる
法人化して家族を役員にする場合、所得税の負担を分散できる可能性があります。
日本の所得税は累進課税制度を採用しており、収入が増えるほど税率が高くなるため、適切な範囲で報酬を設定することで、全体の税負担を軽減できる場合があります。
ただし、家族を役員にする際には、実際に業務を行っていることや、報酬の額が業務内容に見合っていることが重要です。税務上の要件を満たさない場合には、税務署から否認される可能性があります。
また、役員報酬の増加に伴い社会保険料の企業負担も増えるため、節税効果だけでなく、総合的なコストや将来の年金額なども踏まえて判断する必要があります。
参考:国税庁|所得税の税率
社会保険への加入が可能になる
家族を会社の役員にする場合、条件を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することが可能です。特に厚生年金に加入できれば、将来的な年金額の増加につながる可能性があります。
ただし、非常勤役員は原則として社会保険の対象外であり、加入の可否は「勤務の実態」「報酬の有無」「業務上の指揮命令権」など複数の要素を総合的に判断して決まります。
家族役員の社会保険加入を検討する場合は、条件を正しく確認し、適切に運用することが重要です。
このように、家族役員の社会保険加入には一定の注意点があるものの、制度を正しく理解して運用することで、将来的な恩恵を受けることにもつながります。
参考:日本年金機構|厚生年金保険
相続税対策になる
家族を役員にすることは、場合によっては相続税や贈与税を考慮した資産承継の検討の一環として利用されることがあります。
例えば、会社から役員報酬という形で資産をあらかじめ分配しておくことで、相続の際に対象となる財産の総額を抑えられる可能性があります。
ただし、相続税や贈与税の負担は個々の財産状況や報酬の設定方法によって変わるため、必ずしも税負担が軽減されるわけではありません。具体的な対策を検討する際は、税理士など専門家に相談することが重要です。
参考:国税庁|相続税の税率
事業承継を円滑に進められる
家族を役員に加えることで、スムーズな事業の引き継ぎが実現できる場合があります。
親族間での承継は、社内外の関係者に理解を得やすいケースもあり、既存の信頼関係を維持したまま新体制へ移行できる可能性があります。ただし、手続きや調整が必要であり、必ずしも自動的にスムーズに進むわけではありません。
後継者を早期に育成しておくことで、経営理念や企業方針を十分に理解させ、継続性のある経営運営につなげることが期待できます。
また、資産の引き継ぎにあたっては、相続・贈与・株式譲渡など複数の方法があり、状況に応じた選択が可能です。さらに、一定の要件を満たす場合には、事業承継税制を活用して相続税・贈与税の納税が猶予される制度もあります。
参考:国税庁| 資産の譲渡の具体例
法人化して家族を役員にするデメリット

法人化して家族を役員にするデメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- 保守的な経営になりやすい
- 役員報酬は事業年度中に変更できない
- 企業の競争力が低下してしまう可能性がある
- 家族の仲が悪くなってしまうリスクがある
保守的な経営になりやすい
法人化して家族を役員に加える場合、経営の意思決定が特定のメンバーに集中しやすくなる傾向があります。その結果、意思決定が慎重になり、変化に対応するスピードが遅くなる可能性がある点には注意が必要です。
過去の成功体験や慣習に固執しすぎると、外部環境の変化に柔軟に対応しづらくなり、組織の活力や新しい人材の登用に影響を与えることもあります。
こうしたリスクを軽減するには、社外の意見や専門家の知見を取り入れたり、市場や技術の動向に注意を払いながら、経営判断の幅を広げる工夫が有効です。
役員報酬は事業年度中に変更できない
法人化して家族を役員にする際、役員報酬については「定期同額給与」の原則により、基本的には事業年度中に変更が難しい点に注意が必要です。
そのため、会社の業績や事業環境に応じて期中に報酬額を柔軟に変更することは原則として制限されます。ただし、税法上認められる一定の条件下では、業績悪化など特別な事情に応じて変更できる場合もあります。
このような仕組みを理解した上で、年度初めに報酬額を適切に設定することが、経営計画や節税対策を考える上で重要です。
参考:国税庁|役員に対する給与
企業の競争力が低下してしまう可能性がある
十分な知識やスキルを持たない人物が経営を担うと、企業の競争力が低下してしまう可能性があります。
現代のビジネス環境は常に変動しており、それに対応するためには、経営に関する専門的な知見や実務能力を継続的に高めていく必要があるでしょう。
万が一、役員にした家族が時代の変化に順応できずにいると、企業としての競争力が弱まる可能性があり、結果として、事業の継続自体が困難になることもあるので注意が必要です。
家族の仲が悪くなってしまうリスクがある
法人化して家族を役員にすることで、家族の仲が悪くなってしまうリスクもあります。
例えば、役員になった家族内の意見対立が深刻化すると、企業の信用や社会的評価を損ねる原因となる可能性があります。また、経営判断の遅れを招き、結果的に社員の士気や業務にも悪影響を及ぼすケースも考えられるので、細心の注意が必要です。
このような混乱を回避するには、日頃から家族間の意思疎通を丁寧におこない、それぞれの役割や決定の流れを明確に定めておくことが重要です。
家族で法人化する際の注意点

家族で法人化する際の注意点として、以下の2つが挙げられます。
- みなし役員に注意する
- 労務管理をしっかりとおこなう
みなし役員に注意する
家族を会社の役員や従業員として採用する際には、みなし役員に該当しないよう十分注意する必要があります。
税法では、役員報酬や給与に関する規定が定められており、特に家族を役員として迎える場合には、報酬の設定や手続きが適正であることが求められます。
従業員として雇用する場合も、給与は実際の業務内容や働きに見合った金額であることが基本です。市場の相場や業務量を踏まえずに高額な報酬を設定すると、税務署から確認を受ける場合があります。
こうした点を踏まえ、家族を役員や従業員として採用する際には、事前に税理士などの専門家に相談し、適切な手続きをおこなうと安心です。
参考:国税庁|役員給与等
労務管理をしっかりとおこなう
家族従業員が在籍する場合、他の従業員との待遇や勤務形態の違いについても注意が必要です。
万が一、家族従業員だけが特別扱いされていると感じてしまうと、他の従業員の不満や不信感を招く原因となり、職場の士気や信頼関係に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な労務管理を行うことで、家族従業員と一般従業員の間で公平感を保ち、職場全体の信頼関係を維持しやすくなります。
このように、一般の従業員と同様に家族従業員や役員であっても労務管理を徹底することが重要です。
家族で法人化する際にはメリット・デメリットを把握しよう!

今回は、家族で法人化(法人成り)する際のポイントについて紹介しました。
従業員として家族を採用する場合は、人件費の最適化や経営理念の浸透といったメリットが期待できます。一方で、適切な労務管理や公平性の確保が求められるため、コンプライアンスや人材の多様性に注意する必要があります。
また、家族を役員にする場合には、条件によっては税務上の節税効果や円滑な事業承継が見込めることがあります。ただし、意思決定が特定のメンバーに偏る可能性や、家族間の関係に影響が及ぶ場合もあるため、事前に十分な話し合いが重要です。
家族で法人化を検討する際は、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを理解し、最適な体制づくりに役立てることをおすすめします。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。