2026.06.15

法人化

マイクロ法人と個人事業主の二刀流とは?社会保険料を抑える仕組みと税務リスク

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読了目安時間:約 13分

1. マイクロ法人と個人事業主の「二刀流」とは?基本概要と注目の背景

マイクロ法人 二刀流」とは、従業員を雇わず社長1人(または家族のみ)で運営する小規模な会社(マイクロ法人)を設立し、既存の個人事業と並行して維持・運営するスキームのことです。

個人事業主としての事業活動はそのまま継続しつつ、一部の事業を切り出して法人を別立てで運営します。これにより、個人と法人のそれぞれに用意された制度の「いいとこ取り」をすることが可能になります。

近年、フリーランスや個人事業主の増加に伴い、この働き方は合法的な節税・社会保険料の節約術として、SNSやビジネス書などで大きな話題となっています。

個人事業主は事業の売上・所得が増えるほど、所得税だけでなく国民健康保険料の負担も重くのしかかります。この税金と社会保険料の負担を適法にコントロールし、手元に残る資金を最大化する手段として、多くの経営者に注目されているのです。

個人と法人の「いいとこ取り」ができる理由

二刀流スキームの最大の魅力は、税制と社会保険制度の両面からメリットを享受できる点にあります。具体的には、以下の2つの理由が挙げられます。

1つ目は、税制上のメリットを個人と法人の両方から受けられる点です。法人から社長自身へ支払う役員報酬には「給与所得控除」が適用されるため、個人の所得税・住民税の負担を抑えられます。一方で、個人事業主としては青色申告特別控除などの恩恵を引き続き受けることができます。

2つ目は、社会保険制度の合法的な仕組みを活用できる点です。個人事業主が加入する国民健康保険は世帯の所得に連動して保険料が上がりますが、法人の社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は「役員報酬の額」を基準に算出されます。

マイクロ法人の役員報酬を社会保険に加入できる最低ライン(月額45,000円以下など)に設定することで、社会保険料を最安水準に固定できるのがこのスキームの核心です。

法人の社会保険に加入していれば、個人事業側の所得がどれだけ増えても、追加で国民健康保険や国民年金を支払う必要はありません。これにより、世帯全体の社会保険料を大幅に抑えることができます。
参考:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

比較項目 個人事業主のみの場合 マイクロ法人との二刀流
社会保険の種類 国民健康保険・国民年金 健康保険・厚生年金(法人で加入)
保険料の決まり方 個人の所得に応じて増加 役員報酬の額に応じて決定
所得増加時の影響 保険料も青天井で高くなる 役員報酬が一定なら保険料も一定
家族の扶養 国民健康保険に扶養の概念なし 条件を満たせば扶養に入れる

さらに、経費計上の選択肢が広がることも大きなメリットです。社宅家賃の計上、出張旅費規程による非課税の日当、経営セーフティ共済への加入など、個人事業主では認められにくい経費を法人側で活用できるようになります。

また、個人と法人で事業や売上を適切に分散させることで、消費税の免税期間を有効に活用できるケースもあります。ただし、これらは事業の実態が伴っていることが大前提となります。

  • 個人事業と法人の事業内容が明確に異なり、実態が伴っているか
  • 法人設立費用や維持費(均等割など)を考慮しても金銭的メリットがあるか
  • 役員報酬を最低限に設定した場合でも、生活費が適切に回る資金計画か

【注意】最終的な判断は専門家へご相談を
「マイクロ法人と個人事業主の二刀流」は非常に効果的なスキームですが、税務調査において「単なる租税回避行為」とみなされ、否認されるリスクもゼロではありません。事業の切り分け方や役員報酬の設定については、必ず税理士などの専門家に相談し、適法かつ実態に即した運営を行うようにしてください。

なぜ安くなる?二刀流で社会保険料を極限まで抑える仕組み

個人事業主として事業が軌道に乗り所得が増えると、直面するのが「社会保険料の壁」です。個人事業主が加入する国民健康保険と国民年金は、所得に連動して負担が重くなる仕組みになっています。

特に国民健康保険料は、事業所得が上がるにつれて高額になり、年間で最大100万円を超える上限額(頭打ち)に達するまで上がり続けます。税金とは異なり、社会保険料には青色申告特別控除のような強力な控除が少なく、手取りを大きく圧迫する要因となります。

ここで活用したいのが、マイクロ法人 二刀流と呼ばれる手法です。個人事業と法人を使い分けることで、合法的に社会保険料の負担を最小化するロジックを解説します。

社会保険料を「最安」にする3つのステップとロジック

法人を設立して社会保険料を最適化するには、以下の3つのステップを踏むのが基本です。それぞれの仕組みを理解することで、なぜ負担が劇的に下がるのかが見えてきます。

【ステップ1】法人を設立し、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する
法人を設立して自らが代表役員に就任すると、その法人の社会保険(被用者保険)に強制加入することになります。これにより、これまで負担していた個人の国民健康保険と国民年金からは脱退する手続きを行います。

法人の社会保険料は、個人の事業所得ではなく、法人から受け取る「役員報酬の額」をベースに計算されるのが大きな特徴です。これが負担をコントロールするための第一歩となります。

【ステップ2】役員報酬を「最低限」に設定する
社会保険料を極限まで抑えるための鍵は、法人から受け取る役員報酬の設定額にあります。法人からの役員報酬を、社会保険に加入できる最低ライン(例えば月額45,000円、年間約54万円など)に設定します。

社会保険料は標準報酬月額という等級表に基づいて算出されるため、役員報酬を低く抑えることで最も低い等級が適用され、保険料が最安になります。正確な等級や保険料額については、日本年金機構の保険料額表をご参照ください。

【ステップ3】個人事業の所得を社会保険料の対象外にする
法人の社会保険に加入している状態では、個人事業主側の所得(事業所得)がいくら増えても、追加で国民健康保険や国民年金を支払う必要がなくなります。ここが最大のポイントです。

生活費やメインの利益は個人事業主として稼ぎつつ、社会保険料の計算対象からは完全に切り離すことができるのです。これにより、世帯全体の社会保険料を大幅に抑えられます。

比較項目 個人事業主のみの場合 二刀流(法人+個人)
加入する制度 国民健康保険・国民年金 法人の健康保険・厚生年金
保険料の計算ベース 個人の事業所得(全額) 法人からの役員報酬のみ
所得が増えた場合 保険料も連動して高くなる 役員報酬を変えなければ一定
扶養の概念 なし(家族全員分が必要) あり(条件を満たせば扶養可能)

ただし、このスキームは単に会社を作るだけでは成立しません。税務署や年金事務所から「社会保険料逃れのための実態のない会社」と見なされないよう、適切な運営が求められます。以下のポイントに注意して実務を進めましょう。

  • 法人と個人で事業内容(業種)を明確に分ける
  • 役員報酬や法人の経費は、法人口座から正しく支払う
  • 法人としての売上をしっかり立て、事業実態を作る
  • 最終的なスキーム構築は、必ず税理士などの専門家に相談する

個人の状況によって最適な役員報酬の額や、法人に移すべき事業の内容は異なります。実行に移す際は、税務・労務の専門家を交えて慎重にシミュレーションを行うことをお勧めします。

役員報酬ベースの社会保険料と個人事業所得ベースの国民健康保険料の算出ロジック比較図

3. 社会保険料削減だけじゃない!二刀流を導入する4つの大きなメリット

個人事業主が法人を設立する「マイクロ法人 二刀流」の最大の目的は、社会保険料の最適化にあります。役員報酬を低く設定し、法人の社会保険に加入することで、個人の事業所得がいくら増えても社会保険料が上がらない仕組みを作ることができます。

これにより、年間数十万円から、所得層によっては百万円以上の社会保険料削減効果が期待できます。しかし、このスキームの魅力は社会保険料の削減だけにとどまりません。

ここでは、社会保険料の削減効果に加えて得られる、4つの強力な実務的メリットについて詳しく解説します。

① 所得税・住民税の節税(給与所得控除の活用)

個人事業主の事業所得は、売上から必要経費を差し引いた金額に対して直接課税されます。一方、法人から役員報酬(給与)を受け取る場合、給与所得控除という制度を利用することができます。

給与所得控除とは、会社員や役員に認められている「みなし経費」のようなものです。国税庁の規定によれば、給与収入が162.5万円以下の場合、最低でも55万円の控除が受けられます。

つまり、マイクロ法人から年間54万円(月額4万5千円程度)の役員報酬を受け取った場合、給与所得控除の55万円の枠内に収まるため、この役員報酬に対する個人の所得税や住民税は実質的にかからないことになります。

法人側では支払った役員報酬を損金(経費)として計上でき、個人側では税負担を抑えて資金を受け取ることができるため、世帯全体での手残り資金を効率的に増やすことが可能です。

② 経費計上の選択肢が大幅に広がる

個人事業主の場合、事業とプライベートの線引きが曖昧になりやすいため、経費として認められる範囲に一定の制限があります。しかし、法人を設立することで、個人事業主では認められにくい経費を適法に計上できる選択肢が広がります。

特に、以下の3つの項目は、法人化することで得られる代表的な節税メリットです。

経費の項目 個人事業主の場合 法人の場合(二刀流のメリット)
社宅家賃 事業使用割合のみ経費化(家事按分) 法人が契約し役員社宅とすることで、一定割合を経費化可能
出張旅費日当 原則として経費計上できない 規定を設けることで、法人経費としつつ個人は無税で受取可能
経営セーフティ共済 事業所得から控除可能 法人の損金として全額計上可能(最大800万円まで)

例えば、役員社宅の制度を活用すれば、法人が賃貸物件を契約し、役員から一定の「賃貸料相当額」を徴収することで、家賃の大部分を法人の地代家賃として経費計上できます。この制度を利用するには、国税庁の「役員に社宅などを貸したとき」の基準を厳格に満たす必要があります。

また、中小機構が運営する経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金を全額損金に算入できるため、法人の利益調整と将来への備えを両立できる強力な制度です。

③ 消費税の免税期間を最大化できる可能性

消費税は、基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えると、課税事業者として納税義務が発生します。個人事業主の売上が順調に伸び、1,000万円を超えそうなタイミングでマイクロ法人を設立すると、このルールを有効活用できる可能性があります。

個人事業と法人で全く別の事業を行い、売上を適切に分散させることで、それぞれの課税売上高を1,000万円以下に抑え、消費税の免税事業者制度を長く維持できるスキームが構築できます。(※インボイス制度の導入により、取引先によっては免税事業者のままでは不都合が生じるケースもあるため、事業内容に応じた判断が必要です)

【注意】事業の明確な切り分けが必須です
単に消費税を逃れる目的で、実態のない法人を作ったり、同じ事業の売上を恣意的に個人と法人で分けたりする行為は、税務署から「実質的に一つの事業」とみなされ否認されるリスクがあります。必ず「Web制作は個人、不動産管理は法人」のように、事業内容や契約主体を明確に分ける必要があります。

④ 家族(配偶者など)を社会保険の扶養に入れることができる

個人事業主が加入する国民健康保険には「扶養」という概念がありません。そのため、配偶者や子供がいれば、その人数分の保険料が世帯の負担として重くのしかかります。

しかし、マイクロ法人を設立して「協会けんぽ」などの法人の健康保険に加入すれば、条件を満たすことで配偶者や子供を社会保険の扶養に入れることができます。

扶養に入った家族の分の健康保険料は追加で発生しないため、家族が多い個人事業主にとっては非常に大きなコスト削減効果をもたらします。

家族を扶養に入れるための主な確認事項は以下の通りです。

  • 被扶養者の年間収入が130万円未満(60歳以上等の場合は180万円未満)であること
  • 被扶養者の収入が、被保険者(役員本人)の年間収入の半分未満であること
  • 原則として同居していること(一部の親族は別居でも可だが仕送り額の要件あり)
  • 個人事業主の配偶者を扶養に入れる場合、その事業の実態や収入が要件を満たすか確認する

詳しい認定要件については、日本年金機構の「家族を被扶養者にするとき」の案内を必ず確認して手続きを進めてください。

このように「マイクロ法人 二刀流」には数多くのメリットがありますが、法人の設立費用や均等割(赤字でもかかる住民税)、税理士報酬などの維持コストも発生します。また、税務や法務のルールを厳格に守る必要があるため、導入を検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況に合ったシミュレーションを行うことをお勧めします。

4. 知っておくべき二刀流のデメリットと設立・維持コスト

マイクロ法人 二刀流」という言葉の響きや、社会保険料を大幅に削減できるというメリットに惹かれる方は少なくありません。しかし、法人を設立して維持していくためには、当然ながら相応のコストと手間が発生します。

メリットばかりに目を奪われず、発生する費用の現実や日々の事務負担を正確に把握することが重要です。削減できる社会保険料や税金の額が、法人の設立・維持コストを上回らなければ、かえって手取り額が減ってしまうリスクがあります。

ご自身の事業規模や利益の状況と照らし合わせながら、本当に二刀流のスキームを導入すべきかどうかを慎重に検討していきましょう。

① 設立費用と毎年の維持コスト(損益分岐点)

法人を設立するには、まず初期費用がかかります。株式会社を設立する場合、公証役場での定款認証手数料や法務局へ納める登録免許税などを含め、最低でも約20万円の法定費用が必要です。一方、合同会社を選択すれば定款認証が不要となり、約6万円から設立することが可能です。

これらの設立費用は、ご自身で手続きを行った場合でも必ず発生する実費です。手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途数万円から10万円程度の報酬が加算されることを想定しておきましょう。

さらに注意すべきは、毎年継続して発生するランニングコストです。法人は、利益がゼロや赤字であっても、本社を置く自治体に対して「法人住民税の均等割」を納める義務があります。この均等割は、資本金や従業員数によって異なりますが、最小規模のマイクロ法人であっても年間約7万円が必ず発生します。

また、法人の決算申告は個人の確定申告に比べて非常に複雑であり、専門的な知識が求められます。そのため、多くの中小企業やマイクロ法人は決算申告を税理士に依頼しています。税理士報酬は依頼内容によって変動しますが、年間15万円から30万円程度のコストを見込んでおくのが現実的です。

費用の種類 株式会社の目安 合同会社の目安 備考
設立初期費用(法定費用) 約20万円〜 約6万円〜 登録免許税や定款認証手数料など
法人住民税(均等割) 約7万円 / 年 約7万円 / 年 赤字でも毎年必ず発生する地方税
税理士報酬(決算申告等) 約15万〜30万円 / 年 約15万〜30万円 / 年 顧問契約の有無や依頼範囲により変動

これらの「年間維持コスト(約22万〜37万円)」と「設立にかかった初期費用の償却分」を合算した金額が、二刀流を検討する上での損益分岐点となります。個人の社会保険料や税金の削減見込み額がこのコストを明確に上回るか、事前に税理士などの専門家にシミュレーションを依頼することを強くお勧めします。

② 事務負担と管理の手間が2倍になる

金銭的なコストだけでなく、事務負担が大幅に増加することも「マイクロ法人 二刀流」の大きなデメリットです。個人事業主としての業務に加えて、法人としての経理や行政手続きがのしかかってくるため、本業に集中できる時間が削られる懸念があります。

まず、日々の経理業務において、個人事業と法人で完全に別々の帳簿を作成しなければなりません。法人の帳簿は、原則として複式簿記による正確な記帳が求められます。資金の混同(どんぶり勘定)は税務調査で厳しく指摘されるため、銀行口座やクレジットカードも明確に分ける必要があり、管理の手間は単純に2倍になります。

また、年に1回の申告業務も重い負担となります。毎年2月から3月にかけて行う個人の所得税の確定申告に加え、法人の決算期から2ヶ月以内に法人税などの申告・納税を行わなければなりません。スケジュール管理を徹底し、期限遅れによるペナルティ(延滞税や無申告加算税)を防ぐ必要があります。

さらに、法人の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することで、年金事務所とのやり取りも発生します。毎月の保険料の納付手続きはもちろんのこと、毎年7月の「算定基礎届」の提出や、役員報酬を変更した際の「随時改定」など、個人事業主のときにはなかった行政手続きの手間が増える点も覚悟しておくべきでしょう。

  • 個人と法人で事業内容を明確に分け、契約書や請求書を別々に発行・管理できるか
  • 個人用と法人用で銀行口座やクレジットカードを完全に分離し、資金の混同を防げるか
  • 法人の複式簿記による記帳や、個人の確定申告と法人の決算申告のスケジュールに対応できるか
  • 社会保険の加入手続き、毎月の納付、算定基礎届などの年金事務所への事務手続きをこなせるか

これらの事務負担を軽減するためには、クラウド会計ソフトの導入や、バックオフィス業務の一部を専門家にアウトソーシングするなどの工夫が必要です。コストと手間の両面から、ご自身にとって最適な事業形態を選択するためにも、実行に移す前に税理士や社会保険労務士へ相談し、客観的なアドバイスを受けるようにしてください。

二刀流の削減メリットと維持コスト・手間の損益分岐点ビジュアル

6. 二刀流スタートまでの4ステップと具体的な事業の分け方

「マイクロ法人 二刀流」を成功させるためには、事前の綿密な計画と正しい手順での設立・運用が不可欠です。社会保険料や税金を最適化しつつ、税務署から否認されないための適切な運営体制を構築しなければなりません。

ここでは、実際に二刀流をスタートするまでの具体的な4つのステップと、実務上で重要となる事業の分け方について詳しく解説します。

ステップ1:個人と法人の事業ポートフォリオ(役割分担)を決める

マイクロ法人と個人事業主の二刀流において、最も慎重に検討すべきなのが「事業の分け方」です。個人と法人で全く同じ事業を行い、売上だけを恣意的に分散させるような行為は、税務署から「実態のない租税回避行為」として否認されるリスクがあります。

そのため、個人事業に残す事業と、法人で新たに立ち上げる(または移行する)事業を明確に区分する必要があります。たとえば、本業のフリーランス業務は個人事業として継続し、資産運用や不動産賃貸、Webメディア運営などの別事業を法人で行うといった棲み分けが効果的です。

また、法人側で安定した利益が出せるかどうかのシミュレーションも欠かせません。法人の社会保険に加入するためには、役員報酬(月額4.5万円程度)と社会保険料の会社負担分、さらに法人住民税の均等割などを継続的に支払えるだけの売上が必要です。

事業区分のポイント 個人事業主(メイン事業) マイクロ法人(サブ事業)
事業内容の例 ライター、エンジニア、コンサルタント等の本業 資産運用、不動産賃貸、アフィリエイト、物販等
売上規模の目安 生活費を賄える十分な事業所得 年間80万〜100万円程度の安定した売上
経費の性質 本業に直結する経費(PC、通信費、外注費など) 社宅家賃、経営セーフティ共済、法人維持費など

ステップ2:マイクロ法人の設立(合同会社がおすすめな理由)

事業のポートフォリオが決まったら、実際に法人を設立します。「マイクロ法人 二刀流」を実践する場合、設立する法人形態は株式会社よりも「合同会社(LLC)」がおすすめです。

最大の理由は設立費用の安さです。株式会社の設立には定款認証手数料や登録免許税などで最低でも約20万円かかりますが、合同会社であれば登録免許税の6万円のみ(電子定款の場合)で設立でき、初期費用を約14万円も抑えることができます。

また、合同会社は公証役場での定款認証が不要なため、設立手続きが非常に簡素です。従業員を雇わず、外部からの資金調達も想定しない「社長1人のプライベートカンパニー」であれば、株式会社という社会的信用の差が事業に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。

  • 資本金の準備(1円から可能ですが、初期費用を考慮し数十万円程度を推奨)
  • 法人名(商号)と事業目的の決定
  • 本店所在地の決定(バーチャルオフィスや自宅など)
  • 個人の実印の準備および印鑑証明書の取得
  • 法人用実印(代表者印)の作成

ステップ3:社会保険の新規適用手続き

法人の設立登記が完了したら、管轄の年金事務所で社会保険(健康保険・厚生年金)の加入手続きを行います。法人は、たとえ社長1人であっても社会保険の強制適用事業所となるため、速やかな手続きが必要です。

具体的には、設立から5日以内に「新規適用届」を提出し、役員報酬の額が決定した段階で「被保険者資格取得届」を提出します。この際、役員報酬を月額4.5万円以下(年間54万円以下)に設定することで、社会保険料を最安の等級に抑えることが可能です。
参考:日本年金機構「新規適用の手続き」

法人の社会保険に加入することで、個人事業主側の所得がいくら増えても、追加で国民健康保険や国民年金を支払う必要がなくなります。これが「マイクロ法人 二刀流」における最大のメリットであり、世帯全体の社会保険料を大幅に削減する仕組みの核心です。

ステップ4:日々の経理と年1回の決算体制の構築

二刀流をスタートした後は、個人事業と法人の経理を厳格に分けて運用する体制を構築しなければなりません。両者の資金や経費が混同される「どんぶり勘定」は、税務調査で厳しく指摘される原因となります。

銀行口座やクレジットカードは個人用と法人用で完全に分離し、クラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)を活用して、それぞれの帳簿を独立して管理するルールを徹底しましょう。日々の記帳を自動化することで、事務負担を最小限に抑えることができます。

個人事業主の確定申告とは異なり、法人の決算申告は非常に複雑で専門的な知識が求められます。会計ソフトで日々の記帳は自力で行えたとしても、決算書の作成や法人税の申告については、税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。

最終的な税務上の判断や、役員報酬の適切な設定額については個別の状況によって異なるため、設立前の段階から税理士にシミュレーションを依頼し、安全かつ適法な運用を目指してください。

7. まとめ:二刀流が向いている人と導入前の最終チェックリスト

これまでの解説の通り、マイクロ法人 二刀流は、個人事業主と法人のそれぞれのメリットを最大限に活かす手法です。正しく運用すれば、社会保険料と税金の両方を劇的に削減できる非常に強力なスキームとなります。

個人事業主として高い所得を得ながら、法人側で社会保険に加入し、役員報酬を最低限に設定することで、世帯全体の社会保険料を最安クラスに抑えることが可能です。しかし、メリットが大きい反面、税務署や年金事務所から「実態がない」と否認されないための厳格なルール管理も求められます。

最後に、このスキームが本当にご自身の状況に適しているかを確認するため、向いている人の特徴と、設立前に必ず確認すべきチェックポイントをまとめました。

二刀流が向いている人の特徴

マイクロ法人と個人事業主の二刀流は、すべての人に無条件でおすすめできるわけではありません。以下の3つの条件を満たしている場合、導入によるメリットがコストや手間を大きく上回る可能性が高くなります。

1. 個人事業の所得(青色申告特別控除前)が500万円以上ある人
社会保険料の削減効果を実感しやすくなるのは、個人事業の所得が500万円を超えたあたりからです。国民健康保険料は所得に応じて上がっていくため、所得が高い人ほど法人の社会保険へ切り替える恩恵が大きくなります。

逆に、所得がまだ少ない段階で法人を設立してしまうと、後述する法人の維持コストのほうが上回ってしまい、かえって手元に残るお金が減ってしまうリスクがあります。まずはご自身の直近の確定申告書を確認し、所得水準を把握してみてください。

2. 明確に異なる2つ以上の事業(業種)を行っている、または行う予定がある人
個人と法人で全く同じ事業を行うことは、税務上「売上の分散(租税回避)」とみなされる危険性が高いためNGとされています。そのため、二刀流を成立させるには、個人事業とは明確に異なる事業を法人側で立ち上げる必要があります。

たとえば、個人ではフリーランスのエンジニアとして活動し、法人では不動産賃貸業や資産運用、あるいは全く異なるジャンルの物販業を行うといった具合です。このように、事業内容や取引先を完全に切り分けられる人が二刀流に向いています。

3. 法人の設立・維持コストや、日々の記帳の手間を許容できる人
法人を設立すると、たとえ赤字であっても毎年「法人住民税の均等割」として原則7万円の支払いが発生します(参考:東京都主税局「法人都民税」)。また、設立時の登記費用や、法人側の決算申告を依頼する税理士報酬などのランニングコストもかかります。

さらに、個人と法人で別々の銀行口座を持ち、それぞれで帳簿をつける手間も増えます。これらの金銭的・時間的コストを許容し、それでもなお手元に残る金額が増えるという見通しが立つことが重要です。

導入前の最終チェックリスト

実際にマイクロ法人を設立する前に、以下の項目がすべてクリアできているかを確認してください。一つでも不安な点がある場合は、設立を急がず、事業計画を見直すことをおすすめします。

  • 個人事業と法人の事業内容は完全に別物(業種・取引先が異なる)になっているか?
  • 法人側で年間約54万円の役員報酬と、維持費(約7万円+税理士報酬など)を継続的に賄う売上が立つ見込みはあるか?
  • 個人と法人の財布(銀行口座・クレジットカード)を厳密に分け、どんぶり勘定にならない管理体制を作れるか?
  • 税理士などの専門家へ事前に相談し、具体的な社会保険料・税金の削減シミュレーションを行ったか?

マイクロ法人の設立はゴールではなく、あくまで経営を最適化するためのスタート地点です。事業の実態を伴わない形ばかりの法人設立は、税務調査等で否認された際のペナルティが大きいため絶対に避けてください。

ご自身の状況でどれくらいの節税・社会保険料削減効果があるのか、また事業の切り分け方に問題がないかについては、自己判断せず、必ず会社設立や税務に詳しい税理士に相談して最終判断を下すようにしてください。

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

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