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法人化
個人事業で使っていた車やPCを法人へ移転!売買契約と減価償却の税務処理
読了目安時間:約 13分
目次
個人事業から法人への「資産移転」が必要な理由と全体像
個人事業主から法人成りする際、これまで使っていた車やパソコンなどの事業用資産を、設立した会社でもそのまま使い続けたいと考える方は多いでしょう。
しかし、個人事業から法人への資産移転は、単に使い続けるだけでなく、税務や法務の観点から適切な手続きを踏む必要があります。ここでは、なぜ資産移転の手続きが必要なのか、その理由と全体像について解説します。
個人と法人は「別の人格(他人)」として扱われる
法人成りをしたからといって、個人の資産が自動的に法人のものに切り替わるわけではありません。法律上や税務上、個人と法人はまったく「別の人格(他人)」として厳格に区別されます。
そのため、公私の区別を明確にし、引き継いだ資産を法人の経費(減価償却費など)として正しく計上するためには、正式な「移転手続き」が必須となります。
もし、適切な手続きを怠ったまま個人の資産を法人の事業で使用し続けると、税務調査の際に法人の経費として認められず、否認されるリスクがあります。
法人と個人の取引は、第三者間の取引と同様に扱われます。そのため、適正な時価による取引を行い、客観的な証拠(契約書など)を残すことが税務上非常に重要です。
資産を移転する主な方法(売買・現物出資・賃貸)
個人事業から法人へ資産移転を行う場合、実務上は主に「売買(譲渡)」「現物出資」「賃貸」の3つの方法が考えられます。それぞれの特徴は以下の通りです。
| 移転方法 | 特徴 | メリット・デメリット |
|---|---|---|
| 売買(譲渡) | 個人が法人に資産を売却する | 手続きがシンプル。法人の買い取り資金が必要。 |
| 現物出資 | 金銭の代わりに資産を出資する | 資本金を増やせる。手続きが煩雑で費用がかかる。 |
| 賃貸 | 個人が法人に資産を貸し付ける | 所有権は個人のまま。賃貸借契約の管理が必要。 |
この中で、最も手続きがシンプルであり、実務において一般的に選ばれるのが「売買(譲渡)」による資産移転です。
現物出資は法人の資本金を増やすことができるメリットがありますが、手続きの過程で定款への記載が必要になったり、場合によっては専門家による評価が必要になるなど、時間とコストがかかる傾向があります。会社設立時の手続きについては、法務省の商業・法人登記に関する案内なども参考にしてください。
そのため、本記事では手続きが比較的容易であり、多くの経営者が選択する「売買(譲渡)」による引き継ぎを中心に解説を進めていきます。
資産移転をスムーズに進めるための事前確認事項をまとめました。手続きを本格的に始める前に、以下のポイントを整理しておきましょう。
- 移転したい資産(車、PC、備品など)のリストアップ
- 個人事業主時代の帳簿価額(未償却残高)の確認
- 移転方法(売買・現物出資・賃貸)の決定
- 法人の買い取り資金の有無(売買を選択する場合)
実際の資産移転にあたっては、消費税や譲渡所得税など、税務上の複雑な取り扱いが絡んできます。手続きの不備によるペナルティを防ぐためにも、最終的な判断や具体的な手続きについては、税理士などの専門家に相談しながら進めることを強くお勧めします。
資産の価格はどう決める?適正な「時価」の算定方法とペナルティ
個人事業主から法人化する際、これまで使っていた事業用資産をそのまま会社に引き継ぎたいと考える方は多いでしょう。この個人事業、法人間の資産移転において、最も注意しなければならないのが「いくらで売買するか」という価格の決め方です。
原則は「適正な時価」での取引
個人事業主と設立した法人は、法律上まったく別の「人格」として扱われます。そのため、たとえ自分一人が役員を務める会社であっても、取引価格は第三者と売買する時と同じ「適正な時価」で行うのが大原則です。
「自分の会社だから」と適当な価格を設定したり、無償で譲渡したりすることは税務上認められません。税務調査が入った際に、取引価格の根拠を客観的に説明できるよう、しっかりとした基準で時価を算定しておく必要があります。
【資産別】具体的な時価算定の基準
では、具体的に「時価」はどのように算定すればよいのでしょうか。代表的な事業用資産である車(車両運搬具)とパソコン(器具備品)を例に、実務上の基準を解説します。
車を法人へ移転する場合、中古車販売店や一括査定サイトで算出された「中古車査定額」を時価の参考にするのが一般的です。複数の業者から査定を取り、その平均値を採用するとより客観性が高まります。取得した査定書は、価格の妥当性を示す重要な証拠となるため、必ず書面やデータで保管しておきましょう。
一方、パソコンやオフィス家具などの場合、同等スペックの中古品がオークションサイトやフリマアプリでいくらで取引されているか(中古品市場価格)を参考にします。または、個人事業主時代の確定申告書に記載されている「帳簿価額(未償却残高)」をそのまま時価とみなして引き継ぐ方法も、実務上よく用いられます。
| 資産の種類 | 時価算定の基準・参考価格 | 証拠としての残し方 |
|---|---|---|
| 車(車両運搬具) | 中古車販売店や一括査定サイトの査定額 | 査定書や見積書を保管する |
| パソコン(器具備品) | 同等スペックの中古市場価格(オークション等) | 取引相場がわかる画面のスクリーンショット |
| その他の事業用資産 | 個人事業主時代の帳簿価額(未償却残高) | 個人の固定資産台帳や減価償却費の計算書 |
安すぎ・無償はNG!「低額譲渡・無償譲渡」の税務ペナルティ
法人化の際、「設立直後で会社にお金がないから」という理由で、個人の資産を無償で会社に譲渡したり、極端に安い価格で売却したりするケースが見受けられます。しかし、こうした取引には重い税務ペナルティが課されるリスクがあります。
個人が法人に対して、時価の2分の1未満という著しく低い価格で資産を譲渡した場合、税務上は「時価で売却したもの」とみなされます。これをみなし譲渡と呼びます。この場合、実際には安い金額しか受け取っていなくても、個人側には時価ベースでの「みなし譲渡所得」が発生し、所得税が課税されてしまいます。
さらに、ペナルティを受けるのは個人側だけではありません。法人側でも、時価と実際の買取価格との差額を「タダでもらった(受贈益)」とみなされ、その差額分が法人税の課税対象となってしまいます。
著しく低い価額の対価として政令で定める額は、その譲渡の時における資産の価額の二分の一に満たない金額とされています。(参考:国税庁|No.3153 譲渡所得の対象となる資産と課税方法)
このように、安易な低額譲渡や無償譲渡は、個人と法人の双方に思わぬ税負担を強いる結果を招きます。適正な価格での取引を心がけ、判断に迷う場合は事前に税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
- 移転する資産のリストアップと未償却残高の確認
- 車などの高額資産は、複数の業者から査定書を取得・保管
- 客観的で適正な「時価」に基づいた売買金額の決定
- 個人と法人との間で「売買契約書(資産譲渡契約書)」を作成・締結
取引の客観的な証拠を残す「売買契約書」の作成と名義変更
個人事業主から法人成りする際、これまで個人で使用していた車やパソコンなどの事業用資産を新会社に引き継ぐケースは少なくありません。このような個人事業から法人への資産移転は、実務上「個人から法人への売却(譲渡)」という形をとります。
取引をスムーズに行い、後々の税務トラブルを防ぐためには、適切な手続きと書類作成が不可欠です。
なぜ個人と法人の間でも「売買契約書」が必要なのか
自分自身が代表を務める会社であっても、個人と法人は法律上「まったく別の人格」として扱われます。そのため、自分の持ち物を自分の会社に引き継ぐ場合でも、客観的な取引の証拠を残すために「売買契約書(資産譲渡契約書)」を作成・締結する必要があります。
もし契約書を作成せずに資産を移動させてしまうと、後日税務調査が入った際に「いつ、誰が、何を、いくらで売買したか」を客観的に証明することができません。その結果、適正な時価での取引ではなく無償での譲渡(贈与)とみなされ、思わぬ課税リスクを抱える可能性があります。
特に、時価より著しく低い価格(時価の2分の1未満)や無償で譲渡した場合は「みなし譲渡」として扱われ、個人・法人の双方にペナルティ的な税金がかかる恐れがあります。
適正な時価(車なら中古車販売店の査定額、パソコンなら中古市場価格や未償却残高など)で取引を行い、その事実を契約書に明記することが非常に重要です。
売買契約書(資産譲渡契約書)に記載すべき必須項目
売買契約書には、法的に有効な取引であることを示すために、いくつかの必須項目を記載する必要があります。特定のフォーマットが義務付けられているわけではありませんが、以下の項目は漏れなく記載するようにしましょう。
| 記載項目 | 具体的な内容・注意点 |
|---|---|
| 契約日と当事者の署名捺印 | 売主(個人)と買主(法人)の氏名・名称、住所を記載し、それぞれ実印や代表者印を捺印します。 |
| 売買対象物の特定 | 車の場合は「車台番号」、パソコンや機械設備の場合は「メーカー、型番、スペック」など、対象を明確に特定します。 |
| 売買金額(時価) | 適正な時価に基づいて算定した金額を明記します。消費税の課税事業者の場合は、税込・税抜の表記も確認します。 |
| 引き渡し日と支払方法 | いつ資産を引き渡すか、代金を「いつ・どのように」支払うかを定めます。 |
創業直後で法人の手元資金が乏しい場合は、代金の支払いを「分割払い」にしたり、法人の未払金として計上し、資金繰りに余裕ができてから支払う形にすることも可能です。ただし、その場合も契約書に支払条件を明確に記載しておく必要があります。
【車の場合】運輸支局での名義変更(移転登録)手続き
事業用として使っていた車両を法人へ移転する場合、売買契約書の作成とあわせて、管轄の運輸支局(軽自動車の場合は軽自動車検査協会)で名義変更(移転登録)の手続きを行う必要があります。
名義変更の手続きを行わずに法人名義で経費計上していると、税務上トラブルになる可能性があります。速やかに以下の書類を準備し、手続きを完了させましょう。
- 自動車検査証(車検証)
- 譲渡証明書(旧所有者である個人の実印を押印)
- 旧所有者(個人)の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 新所有者(法人)の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 委任状(代理人や行政書士が申請する場合)
- 新所有者(法人)の車庫証明書(自動車保管場所証明書)
自動車の売買等により譲渡、譲受する場合には、移転登録の申請が必要です。移転登録等の手続きは、原則として新所有者の使用の本拠の位置を管轄する運輸支局等で行います。
参考:国土交通省「自動車登録手続き」
また、名義変更に伴い、自動車保険(任意保険)の契約者変更および車両入替手続きも忘れずに行う必要があります。個人から法人へ保険の等級を引き継ぐことができる場合もありますが、保険会社や契約条件によって取り扱いが異なるため、事前に加入している保険の代理店に確認してください。
最後に、資産を移転した際の税務申告についても注意が必要です。事業用資産であっても、個人の売却益は「譲渡所得」として確定申告が必要になる場合があり、最高50万円の特別控除が適用されます。
また、個人事業主が消費税の課税事業者である場合、法人への売却代金は課税売上となります。税務上の評価や申告手続きには専門的な判断が伴うため、最終的な手続きは税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

【個人事業主側】売却にともなう「消費税」の取り扱い
個人事業主が法人成りをして会社を設立する際、これまで使っていた車両やパソコンなどを新会社に引き継ぐケースは少なくありません。このような個人事業 法人 資産移転を行う場合、税務上は「個人から法人への売却(譲渡)」という扱いになります。
資産を売却して得た代金は、所得税(譲渡所得)の対象になるだけでなく、消費税の取り扱いにも注意が必要です。売却する個人事業主自身が、消費税の「課税事業者」であるか「免税事業者」であるかによって、納税義務の有無が大きく変わります。
ここでは、個人側の消費税の取り扱いと、実務上の注意点について詳しく解説します。
個人事業主が「課税事業者」の場合
個人事業主として消費税の申告・納付を行っている「課税事業者」の場合、法人への資産売却は原則として消費税の課税対象となります。つまり、法人への売却代金は課税売上として計上され、消費税の納税義務が生じることになります。
たとえば、事業で使用していた営業車や高額な機械設備などを適正な時価で新会社に売却した場合、その売却額に含まれる消費税額を、個人事業主の確定申告(消費税申告)の際に納付しなければなりません。売却金額が大きくなるほど消費税の負担も増えるため、法人成り初年度の資金繰りには十分な注意が必要です。
また、個人事業主特有の問題として、自動車やパソコンなど「プライベートと事業の両方で兼用している資産」の取り扱いがあります。このような兼用資産を売却した場合、売却金額の全額が課税売上になるわけではありません。
兼用資産の売却では、事業用として使っていた割合(事業専用割合)に応じた金額のみが消費税の課税対象となります。たとえば、時価100万円の車を法人に売却し、個人事業主時代の事業専用割合が60%だった場合、課税売上となるのは60万円(100万円×60%)のみです。残りの40万円は生活用資産の売却とみなされ、消費税はかかりません。
この事業専用割合は、日々の帳簿づけや減価償却費の計算で用いていた割合を引き継ぐのが一般的です。計算を誤ると消費税の納付額が変わってしまうため、正確な按分計算が求められます。詳しくは国税庁の「消費税の課税対象」に関する解説なども参考にしてください。
- 売却する資産ごとに「適正な時価」を算定する
- プライベート兼用資産は「事業専用割合」を確認する
- 売却代金のうち事業用部分のみを「課税売上」として集計する
個人事業主が「免税事業者」の場合
一方、個人事業主の期間中、消費税の納付義務が免除されている「免税事業者」であった場合、法人への資産売却にともなう消費税の納税義務は生じません。
免税事業者が事業用資産を売却したとしても、その売却代金について消費税を国に納める必要はないため、課税事業者に比べて税務上の負担は軽くなります。法人成り直前の年度が免税事業者であれば、車などの高額な資産を移転しても、個人の消費税申告を心配する必要はありません。
ただし、買い手である「新設法人」の立場から見ると注意点もあります。法人がインボイス制度の適格請求書発行事業者(課税事業者)から資産を購入した場合は仕入税額控除が受けられますが、免税事業者である個人から購入した場合は、原則として仕入税額控除を全額受けることはできません(※経過措置の適用を除く)。
| 個人事業主の区分 | 消費税の納税義務 | 兼用資産の取り扱い(売却時) |
|---|---|---|
| 課税事業者 | あり(売却代金は課税売上となる) | 事業専用割合に応じた金額のみ課税売上 |
| 免税事業者 | なし(納付の必要なし) | 消費税の按分・計算は不要 |
消費税の計算や申告は、インボイス制度の導入などもあり、年々複雑化しています。とくに法人成りにおける資産の引き継ぎは、金額が大きくなりやすく、税務調査で指摘を受けるリスクも伴います。
最終的な税額の計算や、個人・法人双方にとって最適な引き継ぎ方法の判断については、自己判断だけで進めず、必ず税理士などの専門家に相談して実務を進めることをお勧めします。

【個人事業主側】「譲渡所得税」の計算方法と一括償却資産の特例
個人事業から法人へ資産移転を行う際、個人事業主側でどのような税務処理が必要になるかを正しく理解しておくことは非常に重要です。
とくに、これまで事業で使用していた車両や備品を会社に引き継ぐ場合、売却によって生じた利益に対する税金の計算方法を知っておく必要があります。
事業用資産であっても売却益は「譲渡所得(総合課税)」
個人事業主が事業で使用していたパソコンや車両などを法人に売却した際、その売却によって得た利益は「事業所得」にはなりません。
税務上は、個人の資産を譲渡したとみなされ、「譲渡所得(総合課税)」として扱われます。
そのため、法人成りをした年の個人の確定申告では、事業所得の決算書に売却益を計上するのではなく、譲渡所得として別途計算し、申告書に記載する必要があります。
事業用の口座に法人の口座から売却代金が振り込まれた場合でも、売上や雑収入として処理しないよう注意が必要です。誤って事業所得に含めてしまうと、正しい税額計算ができなくなる恐れがあります。
譲渡所得の具体的な計算式と「50万円の特別控除」
譲渡所得の金額は、売却した金額から、その資産の取得費(帳簿上の未償却残高)と売却にかかった費用を差し引き、さらに「特別控除額」を引いて計算します。
具体的な計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価額 -(取得費(未償却残高)+ 譲渡費用)- 特別控除額(最高50万円)
ここで重要なポイントとなるのが、最高50万円の特別控除額です。この控除があるため、売却益が50万円以下であれば譲渡所得はゼロとなり、税金は発生しません。
譲渡所得がゼロの場合、この売却に関する確定申告自体が不要となります。
多くの中古PCや一般的な中古車を適正な時価で法人に売却した場合、売却益が50万円を超えるケースは少なく、実務上は非課税で引き継げるケースがよく見られます。
なお、譲渡所得についての詳しい計算方法や特別控除の要件については、国税庁の「譲渡所得(総合課税)の計算」もあわせてご確認ください。
所有期間(5年以内・5年超)による税額の違い
もし売却益が50万円を超えて譲渡所得が発生した場合、その資産を個人として所有していた期間によって、税金の計算方法が異なります。
所有期間が5年以内か、5年を超えるかによって「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に区分され、長期譲渡所得の方が税負担が軽くなる仕組みになっています。
| 区分 | 所有期間 | 課税される金額の計算 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以内 | 譲渡所得の全額が総合課税の対象 |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 譲渡所得の1/2が総合課税の対象 |
このように、5年を超えて所有していた資産を売却した場合は、課税対象となる金額が半分になるため、税負担が大幅に軽減されます。
個人事業主時代から長く大切に使ってきた車両などを法人に高値で引き継ぐ場合は、所有期間が5年を超えているかどうかが重要な確認ポイントとなります。
【PC等に多い】「一括償却資産」は法人に引き継げない?
パソコンや応接セットなど、取得価額が10万円以上20万円未満の資産を購入した際、「一括償却資産」として3年間で均等に経費化(減価償却)する特例を利用している方も多いでしょう。
法人成りをする際、この一括償却資産の未償却残高をどう処理するかが問題となります。実は、一括償却資産は通常の固定資産とは異なり、個別の資産として法人に売却(譲渡)して引き継ぐという処理は行いません。
一括償却資産の特例を適用している場合、個人事業を廃止した年(法人成りをした年)の必要経費として、未償却残高の全額を一括して算入することが認められています。
- 10万円以上20万円未満で一括償却資産として処理しているか確認する
- 法人への売買契約の対象リストから一括償却資産を除外する
- 個人事業の廃業年の確定申告で、未償却残高を全額「必要経費」に算入する
この処理を行うことで、個人事業主としての最後の確定申告において経費を増やし、個人の所得税を抑える効果が期待できます。
ただし、減価償却の処理方法や廃業時の経費算入については、個別の状況によって判断が分かれることもあります。実際の申告にあたっては、管轄の税務署や顧問税理士などの専門家に相談の上、正確な処理を行うことをお勧めします。

【法人側】引き継いだ資産の「減価償却」と耐用年数の決め方
個人事業主時代に使用していた車やパソコンなどの事業用資産を会社に引き継いだ場合、法人側でどのように経費(減価償却費)として計上していくかが重要なポイントになります。
個人から法人への資産の引き継ぎは、税務上は「個人から法人への売却(譲渡)」として扱われます。そのため、減価償却のルールも個人事業主時代とは異なる点に注意が必要です。
法人は「中古資産」として取得した扱いになる
個人事業主から法人成りする際、これまで使っていた事業用資産を会社に引き継ぎたいと考える方は多いでしょう。この個人事業、法人、資産移転の一連の手続きにおいて、法人は個人から「中古の資産を買い取った」という扱いになります。
ここでよくある誤解が、「個人事業主時代の未償却残高や、残りの耐用年数をそのまま法人が引き継ぐ」というものです。しかし、法人と個人は税務上まったく別の人格として扱われるため、個人の帳簿上の数字をそのまま引き継ぐことはできません。
法人は、個人から買い取った「適正な時価」を取得価額として、新たに減価償却をスタートさせることになります。すでに使用されていた資産であるため、新品の法定耐用年数ではなく、「中古資産」としての耐用年数を適用して経費化していきます。
中古資産の耐用年数の再設定(簡便法)
中古資産の正確な耐用年数を見積もることは難しいため、実務では国税庁が定める「簡便法」を用いて計算するのが一般的です。簡便法では、その資産が法定耐用年数をどれくらい経過しているかによって、以下の計算式を用います。
- 法定耐用年数の一部を経過している場合:
(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20% - 法定耐用年数をすべて経過している場合:
法定耐用年数 × 20%
※計算結果の1年未満の端数は切り捨てます。また、計算結果が2年未満になった場合は一律で「2年」とします。
具体例を挙げてみましょう。たとえば、新車で購入して4年(48ヶ月)使用した普通乗用車(法定耐用年数6年)を法人に引き継いだとします。この場合は一部経過に該当するため、「(6年 - 4年) + 4年 × 20% = 2.8年」となり、端数を切り捨てて「2年」で償却できます。
また、法定耐用年数4年をすでに過ぎている古いパソコンを引き継いだ場合は、すべて経過に該当します。「4年 × 20% = 0.8年」となりますが、2年未満は切り上げて「2年」となるため、2年かけて経費化することになります。
詳細な計算方法や端数処理のルールについては、国税庁のNo.5404 中古資産の耐用年数の解説ページもあわせてご確認ください。
初期に多く費用化して節税!「定率法」の選択
減価償却の計算方法には、毎年一定額を費用化する「定額法」と、初期に大きく費用化して年々減っていく「定率法」の2種類が主に使われます。
個人事業主の原則は定額法でしたが、法人の場合は原則として「定率法」が適用されます(建物やソフトウェアなどを除く)。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 原則の償却方法 | 定額法 | 定率法(※一部資産を除く) |
| 初期の経費計上額 | 毎年一定 | 初年度が最も大きい |
| 方法変更の手続き | 税務署への届出が必要 | 税務署への届出が必要 |
法人が定率法を採用することには、実務上大きなメリットがあります。法人化の初期は資金繰りが厳しくなりがちですが、定率法なら取得初年度に多額の減価償却費を計上できるため、利益を圧縮して法人税の負担を軽減しやすくなります。
ただし、減価償却の方法について注意すべき点もあります。法人の原則は定率法ですが、資産の種類によっては定額法が法定償却方法となっているものもあります。法人が減価償却方法を選択・変更する際は、以下の手続きが必要です。
- 設立第1期の確定申告期限までに「減価償却資産の償却方法の届出書」を税務署へ提出する
- 届出をしない場合は、税法で定められた法定償却方法(機械装置などは定率法)が自動的に適用される
- 法定償却方法以外の方法(あえて定額法を選択したい場合など)を採用する時のみ届出が必須となる
引き継いだ資産の金額が大きい場合、どの償却方法を選ぶかで初年度の納税額が大きく変わる可能性があります。最適な償却方法の選択や届出の要否については、事前に税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

まとめ:適切な手続きで個人事業から法人へスムーズに資産を移転しよう
個人事業主から法人成りする際、これまで事業で使用していた車やパソコンなどの資産を新会社に引き継ぐケースは非常に多く見られます。しかし、個人と法人は法律上「別の人格」となるため、単にそのまま使い続けることはできません。
適切な手続きを踏んで、個人事業から法人へ資産移転を行うことが、税務上のトラブルを防ぐための第一歩です。これまでの事業基盤を法人にしっかりと引き継ぐために、最終的な確認を行いましょう。
資産移転時に確認すべき「5つのチェックリスト」
法人成り時の資産引き継ぎにおいて、手続きの漏れがないかを最終確認しましょう。以下の5つのポイントは、税務調査でも確認されやすい重要な項目です。
- 譲渡価格は「適正な時価」になっているか
- 個人と法人の間で「売買契約書」を作成・締結したか
- 車両などの「名義変更手続き」は完了しているか
- 個人側の確定申告(譲渡所得・消費税)の準備はできているか
- 法人側で必要な「減価償却資産の償却方法の届出」は済んでいるか
適正な時価の確認と契約書の作成
個人と法人の取引は、原則として「適正な時価」で行う必要があります。中古車査定額や中古市場の取引価格を参考に、根拠のある価格設定を心がけましょう。また、取引の実態を客観的に証明するため、対象となる資産の特定(車台番号や型番)、売買金額、引き渡し日などを明記した売買契約書を必ず作成します。
名義変更と各種手続きの完了
車両を法人へ移転する場合は、契約書の作成と併せて運輸支局での名義変更(移転登録)手続きが必要です。名義が個人のままでは、法人の経費として認められにくくなるだけでなく、自動車税や保険の手続きにも支障をきたします。
確定申告と減価償却の準備
資産を売却した個人側では、売却益が出た場合に「譲渡所得」として確定申告が必要です。事業用資産の売却は事業所得ではなく、総合課税の譲渡所得となります。最高50万円の特別控除があるため、売却益が50万円以下の場合は課税されません。ただし、個人事業主時代に消費税の課税事業者であった場合は、売却代金が課税売上となる点に注意が必要です。
一方、資産を受け入れた法人側では、減価償却を通じて経費化していきます。法人の減価償却は原則として定率法(建物などを除く)となりますが、異なる償却方法を選択したい場合は、設立第1期の確定申告期限までに税務署へ減価償却資産の償却方法の届出を行う必要があります。
複雑な税務判断は税理士への相談がおすすめ
個人事業から法人への資産移転は、一見シンプルに見えても、税務上は複雑な判断が求められる場面が多々あります。
たとえば、著しく低い価格や無償で法人へ譲渡した場合、税務上は時価で取引されたとみなされる「みなし譲渡」のペナルティを受ける可能性があります。また、プライベートと兼用していた車両を譲渡する場合、消費税の課税対象となるのは「事業専用割合」に応じた部分のみとなります。
このような按分計算や、適正な時価の算定、みなし譲渡のリスク判定などを自己判断で行うのは容易ではありません。誤った価格設定や手続きの漏れがあると、後日の税務調査で指摘を受け、思わぬ追徴課税が発生するリスクがあります。
そのため、法人成りに伴う資産引き継ぎや、それに伴う個人の確定申告・法人の会計処理については、設立準備の段階から税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。専門家のサポートを得ることで、適法かつスムーズな資産移転を実現し、安心して新しい会社での事業をスタートさせましょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

