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事業承継税制の納税猶予とは?適用条件と取消リスクを解説
事業承継税制の納税猶予とは、後継者が贈与・相続等で取得した非上場株式等に係る贈与税・相続税の支払いを、一定の条件の下で先送りする制度です。株式を引き継ぐ際の納税資金の負担を抑えられる一方、利用すればすぐに税金が免除されるわけではありません。
親から自社株式を引き継ぐ予定でも、贈与税・相続税を支払う資金に不安を感じる後継者もいるでしょう。本記事で扱うのは法人版の制度であり、猶予の対象は取得した対象株式等に係る税額です。会社の法人税や、後継者が負担するすべての相続税が猶予されるわけではありません。
適用後も、条件の維持と継続手続きが必要です。後継者の死亡等の免除事由に該当し、所定の手続きを行うと納付が免除されますが、条件を外れると猶予税額の全部または一部と利子税の納付が必要になる場合があります。制度の概要は国税庁の法人版事業承継税制の案内でも確認できます。
この記事では、適用条件や申請期限・手続き、取消時の負担を確認し、自社で利用するかを判断するための情報を整理します。承継後の条件を守り続けられるかも含め、最終的な判断は税理士などの専門家に相談してください。
目次
一般措置と特例措置は何が違う?対象株式・猶予割合・期限を比較
事業承継税制の納税猶予は、一般措置と特例措置で対象株式数や猶予割合が異なります。特例措置は対象範囲が広い一方、計画提出と株式承継に期限があります。
一般措置と特例措置の比較表
特例措置は対象株式数の上限がなく、贈与税・相続税ともに対象税額の100%が猶予されます。2026年10月7日時点の違いを、国税庁の制度説明に基づき比較します。
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 特例承継計画 | 不要 | 提出・確認が必要 |
| 対象株式数 | 総株式数の最大3分の2 | 上限撤廃 |
| 猶予割合 | 贈与税100%・相続税80% | 贈与税・相続税とも100% |
| 後継者数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用維持要件 | 承継後5年間、平均8割を維持 | 8割未達でも報告・確認等で継続可能 |
| 適用期限 | なし | 原則2027年12月31日 |
「100%猶予」は対象株式に係る税額の割合であり、相続財産全体の税額を指しません。また、特例措置でも雇用維持が不要になるわけではなく、未達の理由が経営悪化等の場合は認定支援機関の指導・助言が必要です。
特例措置は計画提出と株式承継の期限が異なる
2026年10月7日時点で、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。対象となる贈与・相続等の期限は原則2027年12月31日で、別々に管理する必要があります。
計画を提出しただけでは納税猶予は始まらず、承継後の認定・税務申告が必要です。親から株式を引き継ぐ予定の方は、両期限に間に合う承継日程を税理士と確認してください。
納税猶予を受けられる会社・先代経営者・後継者の条件
2026年10月時点、事業承継税制による納税猶予には、会社・先代経営者・後継者それぞれの要件があります。親から株式を引き継ぐ場合も、贈与と相続を分けて確認する必要があります。
会社の条件|非上場の中小企業が対象
対象は、制度上の中小企業の範囲に該当する非上場会社です。自社の規模が対象範囲に入るか、上場していないかを確認します。
一定の資産管理会社等は原則として対象外です。例外の適用もあるため、該当する可能性があれば、国税庁の対象要件に照らした確認が必要です。
先代経営者と後継者の条件|代表権・議決権・取得株数を確認
後継者には、代表者への就任や、特別関係者を含めた議決権の過半数保有などが求められます。先代経営者にも代表権・株式保有の条件があり、贈与する株式数や後継者の取得株数も確認対象です。
贈与と相続では、代表者であるかなどを判定する時点・要件が異なります。承継方法に応じて、次の事項を確認してください。
- 会社:中小企業・非上場の要件と資産管理会社等への該当性を確認する
- 先代:代表権の状況、保有株式数、贈与予定株数を確認する
- 後継者:代表者就任の時期、関係者を含む議決権割合、取得予定株数を確認する
贈与の場合の年齢・役員就任要件
贈与では後継者が18歳以上であり、一般措置では原則として贈与まで継続3年以上の役員歴が必要です。特例措置は2025年度改正で要件が緩和され、贈与直前に役員であれば適用可能となりました。
役員歴が短い場合は、利用する措置によって判断が変わります。株式を移す前に、就任時期と贈与予定日を税理士に伝え、適用可否を確認しましょう。
納税猶予の申請はどう進める?承継前から申告後までの手続き
事業承継税制の納税猶予は、承継前の準備、承継後の認定・申告、申告後の報告・届出の順に進めます。以下は2026年10月7日時点の特例措置の手続きで、会社と後継者が税理士等と期限を管理する必要があります。
承継前|適用判定と株価評価を行い、特例承継計画を提出する
まず、税理士等と会社・先代経営者・後継者の要件、株価、贈与か相続かの承継方法を確認します。そのうえで、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受け、会社が特例承継計画を都道府県へ提出します。
計画の提出期限は2027年9月30日です。提出後は都道府県の確認を受ける手続きが必要で、特例対象となる株式の贈与・相続等の期限は原則2027年12月31日です。
承継後|都道府県の認定を受け、税務申告・担保提供を行う
株式を承継した後は、会社が都道府県へ認定を申請し、後継者が認定書等を添付して税務申告と担保提供を行います。計画の確認と承継後の認定は別手続きであり、計画提出だけでは納税猶予は始まりません。
認定申請は税務申告より先に期限を迎えるため、下表の順に準備してください。担保提供には、対象株式の全部を提供する方法もあります。
| 手続き | 提出先 | 期限 | 準備する資料 |
|---|---|---|---|
| 計画提出 | 都道府県 | 2027年9月30日 | 指導・助言を受けた特例承継計画 |
| 贈与後の認定申請 | 都道府県 | 原則、贈与翌年1月15日 | 認定申請書・添付資料 |
| 相続後の認定申請 | 都道府県 | 原則、相続開始後8か月以内 | 認定申請書・添付資料 |
| 贈与税申告・担保提供 | 税務署 | 原則、贈与翌年3月15日 | 申告書・認定書等・担保関係資料 |
| 相続税申告・担保提供 | 税務署 | 原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内 | 申告書・認定書等・担保関係資料 |
| 当初5年間の年次報告 | 都道府県 | 原則毎年、基準日の翌日から3か月以内 | 年次報告書・添付資料 |
| 当初5年間の継続届出 | 税務署 | 原則毎年、基準日の翌日から5か月以内 | 継続届出書・添付資料 |
| 5年経過後の継続届出 | 税務署 | 原則3年ごと | 継続届出書・添付資料 |
申告後|年次報告と継続届出を管理する
当初5年間は、都道府県への年次報告と税務署への継続届出が原則毎年必要です。5年経過後も継続届出は原則3年ごとに続きます。
会社の報告担当者と後継者、税理士で提出日を共有し、提出済みの書類も保管してください。必要な添付資料や個別の期限は、承継方法に応じて税理士等に確認しましょう。

納税猶予が取り消されるとどうなる?主な取消事由と税負担
事業承継税制の納税猶予が打ち切られると、猶予されていた税額の全部または一部の納付が必要です。2026年10月7日時点の制度では、行為の内容や時期によって納付範囲が異なります。
株式の売却・代表者退任・届出漏れに注意
対象株式の譲渡、代表者要件を満たさなくなること、継続届出書の未提出は、猶予終了につながります。一部譲渡でも常に全額が打ち切られるわけではなく、次のように時期などを確認する必要があります。
| 行為・出来事 | 考えられる影響 | 事前確認事項 |
|---|---|---|
| 対象株式の一部譲渡 | 原則5年間は全額、経過後は譲渡分の納付 | 経営承継期間内か、譲渡株数 |
| 代表者退任 | 経営承継期間内は猶予終了の可能性 | 退任時期・代表者要件 |
| 継続届出書の未提出 | 猶予税額全額と利子税の納付 | 提出期限・提出状況 |
売却や退任を決める前に、税理士へ納付範囲を確認してください。届出漏れについても、国税庁の継続手続きの案内で期限を確認しておきましょう。
猶予税額に加えて利子税が発生する場合がある
猶予打切り時には、税額に加えて利子税の納付が必要になる場合があります。期間や状況によって扱いが異なるため、固定税率で試算せず、国税庁の案内を基に税理士と納税額・納税資金を確認してください。
特例措置でも雇用維持の報告は必要
特例措置では、雇用8割を維持できなくても、理由の報告・確認等で猶予を継続できる場合があります。ただし、雇用に関する手続きがなくなったわけではありません。経営悪化等が理由の場合は、認定支援機関の指導・助言も必要です。
猶予された税金はいつ免除される?死亡・再承継・経営悪化時の扱い
事業承継税制で猶予された税金は、後継者の死亡などの免除事由に該当し、必要な手続きを行うと免除されます。2026年10月7日時点の国税庁の制度案内では、事由によって扱いが異なるため、免除の範囲と手続きの確認が必要です。
後継者の死亡など、免除につながる主な事由
後継者が死亡した場合や、一定の要件を満たして次の後継者へ株式を承継した場合などは、免除につながります。ただし、該当しても自動的に免除されるわけではなく、所定の届出・申請が必要です。
贈与した先代経営者が亡くなった場合の扱い
株式を贈与した先代経営者が亡くなると、猶予されていた贈与税は免除の対象となり、株式は相続税の課税対象になります。贈与税の免除と相続税の負担は別であり、税負担がなくなるとは限りません。一定の手続きにより、相続税の納税猶予を利用できる場合があります。
経営悪化や廃業で必ず免除されるわけではない
経営悪化だけで税金が免除されるわけではありません。特例措置には一定の場合に税額を再計算する仕組みがありますが、売却・廃業・破産等を一律の免除事由とは扱わず、次の事項を税理士に確認してください。
- 予定する売却・廃業等が再計算や免除の要件に該当するか
- 必要な届出・申請と、最終的に納付する税額
自社は納税猶予を利用すべき?承継予定から考える判断ポイント
事業承継税制の納税猶予は、承継後の経営・株式保有の予定を踏まえて検討します。親から株式を引き継ぐ際の納税資金だけでなく、将来の売却予定や手続きの負担も判断材料にしてください。
長期保有を予定する場合と、売却・再編を考えている場合
長期的に経営を続け、株式を保有する予定なら、承継時の納税資金の負担軽減が期待できます。売却・M&A・組織再編を考えている場合は、実行前に猶予継続への影響と、打切り時に必要となる納税資金を税理士に確認しましょう。
税額だけでなく、管理負担と将来の資金繰りも比較する
株価評価を基に、猶予される税額、専門家費用、継続手続きの負担、将来の納税資金を比較してください。制度を利用する場合と利用しない場合の資金負担を税理士に試算してもらうため、次の資料・情報を用意すると相談を進めやすくなります。
- 株主名簿
- 決算書
- 役員構成が分かる資料
- 承継予定時期
よくある質問
Q. 特例承継計画を提出すれば、必ず納税猶予を受けられますか?
計画の提出だけでは適用されません。2026年時点では、計画の確認に加え、承継時の要件充足、都道府県の認定、期限内の税務申告・担保提供が必要です(国税庁)。
Q. 赤字の会社でも事業承継税制を利用できますか?
赤字だけで適用可否は決まりません。会社・先代経営者・後継者それぞれの適用要件を満たすか、税理士に確認してください。
Q. 納税猶予中に株式を売却できますか?
売却によって猶予が打ち切られ、税金の納付が必要になる場合があります。売却を実行する前に、売却時期や株数による扱いを税理士に確認してください。
まとめ
事業承継税制の納税猶予は即時免税ではなく、条件の維持と継続手続きが必要です。2026年10月時点では、特例措置の計画提出期限は2027年9月30日、承継期限は同年12月31日で、別々に管理します。
会社の状況によって、取れる方法や必要な手続きは変わります。適用可否だけでなく、取消時の納税資金と将来の承継方針も含め、税理士など専門家に相談しましょう。事業承継・M&Aの支援内容も参考にしてください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
事業承継・M&A、融資や補助金による資金調達など、中小企業の経営サポートに特化して活動。
税理士法人松本は国の認定支援機関で、M&A支援機関登録制度の登録支援機関。元銀行員が在籍し、金融機関の目線を踏まえた資金調達を支援しており、融資の調達実績は累計50億円以上。

