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事業譲渡で従業員を転籍させるには?個別の承諾と説明の進め方
事業譲渡では、従業員は自動的に譲受会社へ転籍するわけではありません。労働契約を引き継ぐには、従業員一人ひとりへの説明と個別の承諾が必要です。
事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を他の会社などに譲り渡すことです。物流部門を譲渡して従業員12人に移ってもらう予定でも、会社間の契約だけで労働契約を移すことはできません。
事業譲渡は、対象となる権利や義務を個別に引き継ぐ特定承継です。労働契約の承継には、民法第625条第1項に基づく本人の承諾が必要になります。
一方、合併は権利や義務をまとめて引き継ぐ包括承継であり、消滅会社の労働契約は原則として承継されます。事業譲渡とは扱いが異なるため、手続きを混同しないよう注意しましょう。
この記事では、転籍の進め方や従業員への説明、承諾を得られない場合の対応、転籍後の労働条件について解説します。個別の事情に応じた手続きは、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。
従業員の転籍はどの順番で進める?
事業譲渡に伴う従業員の転籍は、両社で対象者と条件を整理したうえで、本人への説明・協議、個別の承諾、受け入れ準備の順に進めます。例えば物流部門の12人に移ってもらう予定なら、12人それぞれの業務と条件を確認し、個別に協議する時間を設けましょう。
1. 譲渡会社と譲受会社で対象者・条件を整理する
まず両社で、転籍を予定する従業員と、譲受会社で担当する業務・労働条件を確認します。物流部門の12人についても、現在の条件と転籍後の予定を一人ずつ照らし合わせ、次の事項を整理しておくと、本人への説明に役立ちます。
- 担当業務、就業場所、就業形態、賃金
- 退職金の精算や勤続期間の扱い
- 有給休暇の残日数や基準日の扱い
退職金や有給休暇は、両社で考えている扱いを本人に示せるよう確認します。条件の扱いに迷う場合は、説明前に専門家へ相談しましょう。
2. 従業員に説明し、個別に協議する
対象者には、事業譲渡の全体状況、譲受会社の概要、転籍後の業務や労働条件を説明し、一人ひとりと協議します。厚生労働省の指針も、十分な説明と承諾に向けた協議が適当としています。
面談では会社側が説明するだけでなく、就業場所や賃金などへの質問や不安を聞き、確認が必要な事項を持ち帰って回答しましょう。従業員への公表の順番と説明内容も、準備の参考になります。
3. 承諾を得て、内容を確認できる形に残す
労働契約を譲受会社へ承継させるには、従業員本人の個別の承諾が必要です。労働条件を変更して承継する場合は、契約承継への承諾に加え、条件変更への同意も得なければなりません。
後から認識の違いが生じないよう、承諾した内容と転籍後の条件を書面で明確にしておきます。12人をまとめて扱うのではなく、それぞれの承諾内容と条件を確認しましょう。
4. 転籍後の受け入れ準備を進める
承諾を得た後は、両社で就業場所や担当業務の引き継ぎを確認し、譲受会社での受け入れを準備します。あわせて、必要な労務手続きと担当者を確認し、専門的な判断が必要な事項は専門家に相談しましょう。

従業員には何を説明し、どのように承諾を得る?
事業譲渡に伴い従業員が転籍するには、譲渡の状況や転籍後の労働条件を十分に説明し、一人ひとりから承諾を得る必要があります。労働条件を変更する場合は、転籍への承諾に加え、変更についても本人の同意が必要です。
物流部門の従業員12人に移ってもらう予定なら、まず両社で対象者と転籍後の条件を確認し、各従業員に次の事項を説明できるようにしましょう。
- 事業譲渡の背景と全体の状況
- 譲受会社の概要と、両社の債務履行の見込み
- 転籍後の業務内容と就業場所
- 就業形態や賃金などの労働条件
仕事内容や勤務先、賃金は、現在の条件と転籍後の条件を比べられる形で示します。たとえば就業場所や賃金に変更がある場合は、その内容を明らかにし、本人と十分に協議しましょう。
労働契約の承継への承諾と、労働条件の変更への同意は分けて確認します。転籍自体を承諾していても、変更後の賃金などについて本人が同意しているかを確認する必要があります。
説明した条件と本人が承諾・同意した内容は、後から確認できるよう書面で明確にしておくとよいでしょう。説明の進め方は、従業員への伝え方も参考にし、手続きに迷う場合は社会保険労務士や弁護士などの専門家へ相談してください。
参考:厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」

従業員が転籍を承諾しない場合はどうなる?
従業員が転籍を承諾しなければ、労働契約は譲受会社へ移らず、原則として譲渡会社との契約が残ります。自動的に退職となるわけではないため、譲渡会社は残る事業での業務や配置先を検討し、本人と協議しましょう。
例えば、物流部門の従業員12人のうち承諾しない人がいた場合、その人については、会社に残るもう一方の事業で担当できる業務があるかを確認します。会社側だけで配置先を決めず、本人の意向を聞きながら、今後の働き方を話し合うことが大切です。
協議に向けて、譲渡会社は次の事項を確認しておくとよいでしょう。
- 承諾しない従業員の意向や、転籍に関する懸念
- 譲渡後の会社に残る業務と、検討できる配置先
- 配置先での業務内容や就業場所などの条件
また、転籍を承諾しなかったことや、事業が譲渡されたことだけを理由とする解雇は認められません。承諾が得られない場合も、退職や解雇を前提にせず、残る事業での就業について本人と協議してください。
配置先を決めるのが難しい場合や、今後の対応に判断が必要な場合は、事情を整理したうえで、労務に詳しい専門家へ相談しましょう。従業員の承諾や解雇に関する考え方は、厚生労働省の資料でも確認できます。

転籍後の給与・退職金・有給休暇はどうなる?
転籍後の給与や退職金、有給休暇は、譲渡会社と譲受会社で扱いを確認し、従業員に条件を示す必要があります。給与などの労働条件を変更して承継する場合は、変更内容を明示し、本人の同意を得ます。
物流部門の従業員12人に移ってもらう場合は、両社で次の項目を一人ひとり確認しましょう。現在の条件と転籍後の条件を並べて示すと、本人が違いを確認しやすくなります。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 給与など | 給与や就業場所などの変更内容 |
| 退職金 | 精算の有無、金額、支払時期 |
| 退職金の引き継ぎ | 勤続期間、積立相当額の扱い |
| 有給休暇 | 残日数、基準日、勤続期間の扱い |
給与などの条件を変更する場合の同意は、転籍そのものへの承諾とは別に必要です。例えば給与を変更する場合は、変更前後の金額を示し、変更内容について本人の同意を得ます。詳しくは厚生労働省の指針も確認してください。
退職金は、譲渡時に精算するか、引き継ぐかを両社で確認します。精算する場合は金額と支払時期を、引き継ぐ場合はそれまでの勤続期間や積立相当額を転籍後にどう扱うかを整理し、本人に示しましょう。
有給休暇は、転籍するからといって残日数をゼロと決めず、労働契約の承継方法を踏まえて条件を確認します。残日数に加え、次の付与に関わる基準日や勤続期間の扱いも明示し、判断に迷う場合は社会保険労務士などの専門家に相談してください。

労働組合との協議や指針改正で注意すること
譲渡会社は、過半数労働組合、ない場合は過半数代表者との事前協議に努めます。組合などと協議しても、転籍する従業員本人の個別承諾は別に必要です。
物流部門の従業員12人に移ってもらう予定なら、会社はまず協議相手を確認し、譲渡の全体状況や譲受会社の概要、労働条件などを説明できるよう準備しましょう。協議で出た質問や懸念も確認し、本人への説明に生かすことが大切です。
厚生労働省の事業譲渡等指針は平成28年9月1日から適用され、令和8年1月20日に一部改正されました。改正は同年5月25日から適用され、企業価値担保権の創設を踏まえ、管財人などと労働者・労働組合とのコミュニケーションに関する事項が追加されています。
実際の手続きに着手する前に、最新の指針を確認し、協議の進め方に迷う場合は社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。
よくある質問
Q. パート・アルバイトの転籍にも本人の承諾は必要ですか?
はい、パート・アルバイトであっても、事業譲渡に伴い労働契約を譲受会社へ承継するには、本人の個別の承諾が必要です。雇用形態だけで一律に判断せず、転籍を予定する従業員それぞれに譲受会社の概要や労働条件などを十分に説明し、協議しましょう。
Q. 労働組合が同意すれば、従業員本人の承諾は不要ですか?
いいえ、労働組合などとの協議と、従業員本人の個別承諾は別です。厚生労働省の指針も踏まえ、物流部門の従業員に移ってもらう場合は、組合などと協議したうえで、一人ひとりの承諾を得る必要があります。
Q. 転籍すると有給休暇は必ずゼロになりますか?
転籍するからといって、有給休暇を一律にゼロと決めることは避けましょう。両社で労働契約の承継方法を踏まえ、残日数や基準日、勤続期間の扱いを確認し、承継条件を本人に明示することが大切です。判断に迷う場合は、労務の専門家に相談してください。
まとめ
事業譲渡で従業員を譲受会社へ転籍させるには、厚生労働省の指針に示されているとおり、従業員一人ひとりの承諾が必要です。労働条件を変更して引き継ぐ場合は、転籍への承諾に加え、変更についても同意を得なければなりません。
譲渡会社と譲受会社は、対象者や給与・就業場所などの条件を整理し、本人に譲渡の状況や譲受会社の概要を十分に説明したうえで協議を進めましょう。承諾を得られない場合は、原則として譲渡会社との労働契約が残るため、配置先などを検討します。
会社の状況によって取れる方法や必要な手続きは異なります。判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談し、事業承継・M&Aの支援内容も確認してください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
事業承継・M&A、融資や補助金による資金調達など、中小企業の経営サポートに特化して活動。
税理士法人松本は国の認定支援機関で、M&A支援機関登録制度の登録支援機関。元銀行員が在籍し、金融機関の目線を踏まえた資金調達を支援しており、融資の調達実績は累計50億円以上。

