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個人事業主から法人化!小規模企業共済の引き継ぎ(共同経営契約の承継)手続き
読了目安時間:約 14分
目次
個人事業主から法人成りしたら小規模企業共済はどうなる?引き継ぎ(同一人通算)の概要
個人事業主として小規模企業共済に加入していた方が、法人化(法人成り)をして会社を設立した場合、これまでの契約はどうなるのでしょうか。結論から申し上げると、一定の要件を満たせば、個人事業主時代の契約を新法人の役員としてそのまま継続することが可能です。
この引き継ぎの手続きは「同一人通算」と呼ばれます。せっかく積み立ててきた掛金や納付月数を無駄にしないためにも、法人成りに伴う小規模企業共済の引き継ぎの全体像を正しく理解しておきましょう。
1. 同一人通算とは?(掛金納付月数の引き継ぎ)
小規模企業共済の「同一人通算」とは、個人事業主時代の加入期間(掛金納付月数)を、新しく設立した法人の役員としての契約にそのまま引き継げる仕組みのことです。
小規模企業共済は、掛金の納付月数が一定期間に満たない場合、解約時に受け取る金額が掛金合計額を下回る「元本割れ」を起こすリスクがあります。法人成りを機に一度解約してしまうと、これまでの加入期間がリセットされてしまうため注意が必要です。
同一人通算を利用して小規模企業共済を引き継ぐことで、過去の納付月数がそのまま新しい契約に合算されます。将来、退職金として共済金を受け取る際に、より有利な条件で受給額を計算できる大きなメリットがあります。
2. 同一人通算ができる条件
小規模企業共済の引き継ぎ(同一人通算)を行うためには、いくつかの条件を満たす必要があります。まず大前提として、個人事業を正式に廃止(廃業)し、その事業を引き継ぐ形で新たに法人を設立していることが求められます。
そして、その新設法人の役員(または共同経営者)に就任することが必須条件です。個人事業主のときに加入していた本人が、法人成り後も経営に携わる役員として継続的に事業へ関与している必要があります。
また、設立した法人が小規模企業共済の加入資格を満たしている必要もあります。業種によって異なりますが、一般的には常時使用する従業員数が20人(商業・サービス業は5人)以下の企業であることが条件となります。
3. 手続きの期限は「事由発生から1年以内」
同一人通算の手続きにおいて、最も注意しなければならないのが期限です。手続きは、個人事業の廃止(法人成り)から1年以内に完了させる必要があります。
この期限を1日でも過ぎてしまうと、同一人通算の制度を利用することができなくなります。その場合、やむを得ず一度解約して新規に加入し直すことになり、これまでの納付月数が無駄になってしまう恐れがあります。法人設立後は各種手続きで非常に忙しくなりますが、小規模企業共済の引き継ぎ手続きは後回しにせず、早めに着手することが重要です。
手続きの流れと必要書類については、以下のリストで確認しておきましょう。
- 中小機構の委託機関から「納付月数通算申出書兼契約申込書」を取り寄せる
- 税務署の受付印がある「個人事業の廃業届の写し」を準備する
- 役員就任が確認できる新法人の「履歴事項全部証明書」を取得する
- 事由発生から1年以内に委託機関の窓口へ書類を提出する
なお、手続きの完了までは中小機構での審査を含めて約40日程度かかります。詳細な要件や最新の様式については、運営元である独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)の公式サイトで必ず確認してください。
参考:引き継ぐ場合と一時金で受け取る場合の比較
法人成り時に小規模企業共済を引き継がずに一度「一時金」として受け取るか、引き継いで「継続」するかで、税務上の取り扱いが大きく異なります。
| 対応方法 | 税務上の区分(所得の種類) | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 引き継ぐ(同一人通算) | 課税なし(継続のため) | 納付月数が合算され、将来の受給で有利になる。 |
| 一時金受取(現物出資等) | 退職所得 | 退職金扱いだが、掛金納付月数により元本割れに注意。 |
| 一時金受取(通常の任意解約) | 一時所得 | 65歳未満の自己都合解約など。元本割れリスクが高い。 |
金銭以外の資産を出資して法人成りした場合など、要件を満たせば一時金が「退職所得」として扱われ、税負担が軽減されるケースもあります。しかし、納付月数によっては元本割れのリスクがあるため、最終的にどちらが有利になるかは、顧問税理士などの専門家にご相談のうえで判断することをお勧めします。
小規模企業共済を法人へ引き継ぐ(同一人通算)手続きの4ステップ
個人事業主として加入していた小規模企業共済は、法人成りを機に新設法人の役員として契約を引き継ぐことが可能です。この手続きを「同一人通算」と呼びます。
今までの掛金納付月数をそのまま引き継げるため、将来の退職金準備として非常に有利な制度ですが、手続きには明確な期限が設けられています。
同一人通算の手続きは、個人事業の廃止(法人成り)から1年以内に完了させる必要があります。
期限を過ぎると引き継ぎができなくなるため、法人設立後は速やかに手続きを進めることをおすすめします。
ここでは、小規模企業共済を法人成りで引き継ぎする際の具体的な手続きを、4つのステップに分けて時系列で解説します。
ステップ1:書類の取り寄せ
まずは、同一人通算の手続きに必要な専用の書類を入手します。
必要な書類は「納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)」(様式 小 141)です。この書類は、通常の新規加入用とは異なるため注意が必要です。
書類の取り寄せは、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)の共済相談室に電話で依頼するか、小規模企業共済の業務を取り扱っている委託機関(商工会、商工会議所、金融機関など)の窓口で受け取ることができます。
法人設立直後は何かと多忙になるため、法人成りのスケジュールに合わせて早めに書類を確保しておくとスムーズです。
ステップ2:必要書類の準備と記入
専用書類を取り寄せたら、必要事項を記入し、合わせて提出する添付書類を準備します。
申出書には、個人事業主時代の契約番号や、新設法人の情報、役員就任日などを正確に記入します。記入漏れや誤りがあると手続きが遅れる原因となるため、慎重に確認しながら進めましょう。
また、同一人通算を証明するために、以下の公的書類の添付が求められます。
- 納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)(様式 小 141)
- 個人事業の廃業届の写し(税務署の受付印があるもの)
- 新法人の履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)
履歴事項全部証明書は、設立した法人の役員に就任したことが客観的に確認できるもので、有効期限内の原本を用意してください。
また、廃業届の写しは税務署の受付印が必須となるため、e-Taxで提出した場合は受信通知(メール詳細)を印刷して添付します。
ステップ3:委託機関窓口への提出・確認
書類一式が揃ったら、中小機構の業務を取り扱っている委託機関の窓口へ提出します。
提出先となる委託機関には、地域の商工会、商工会議所、青色申告会、または都市銀行、地方銀行、信用金庫などの金融機関が含まれます。
個人事業主時代に加入手続きを行った窓口や、法人のメインバンクとして利用している金融機関に持ち込むのが一般的です。
窓口では担当者が書類の記載内容や添付書類の不備を確認し、問題がなければ確認印が押印されます。その後、委託機関から中小機構へと書類が送付される流れとなります。
ステップ4:中小機構での審査と完了通知の受領
委託機関から中小機構に書類が到着すると、正式な審査が行われます。
審査にかかる期間は、通常で約40日程度が目安とされています。書類に不備があった場合は差し戻しとなり、さらに時間がかかってしまうため、事前の確認が重要です。
無事に審査が通過し、手続きが完了すると、中小機構から登録された法人の住所宛に「手続き完了のお知らせ」と新しい「契約内容確認書」が郵送で届きます。
これらの書類は、将来共済金を受け取る際や、掛金の税務申告を行う際に必要となる重要な書類です。届き次第、内容に間違いがないかを確認し、大切に保管してください。
なお、法人成り後の掛金の経理処理や、個人の所得控除に関する詳細な取り扱いについては、個別の状況によって判断が分かれる場合があります。手続きを進める前に、顧問税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることを強く推奨します。

引き継ぎ(同一人通算)手続きに必要な書類一覧
個人事業主時代に加入していた小規模企業共済を法人成りを機に引き継ぎ(同一人通算)する場合、手続きをスムーズに進めるためには事前の書類準備が欠かせません。
提出書類に不備があると、審査に時間がかかったり、最悪の場合は手続きの期限(事由発生から1年以内)に間に合わなくなったりするリスクがあります。まずは全体の流れを把握し、以下の必要書類を漏れなく揃えておきましょう。
- 納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)(様式 小 141)
- 個人事業の廃業届の写し(税務署の受付印または電子申告の受信通知があるもの)
- 新法人の履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本・発行から3ヶ月以内のもの)
1. 納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)(様式 小 141)
引き継ぎ手続きのメインとなる専用の申込書です。この書類はインターネット上からご自身でダウンロードして印刷することはできません。
独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)の共済相談室に電話をして郵送で取り寄せるか、商工会や商工会議所、取引のある金融機関などの委託機関窓口で直接受け取る必要があります。
記入の際は、新法人の正確な情報(法人名、本店所在地など)に加えて、ご自身が新法人の役員に就任した日を間違いなく記載することが重要です。また、掛金の引き落とし口座を個人の口座から法人の口座へ変更する場合などは、金融機関での確認印も必要になるため、余裕を持って準備を進めてください。
2. 個人事業の廃業届の写し
個人事業主としての事業活動を終了し、法人成りした事実を公的に証明するために「個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)」の写しが求められます。
ここで最も注意すべきは、提出する控えに必ず「税務署の受付印」が押印されている必要があるという点です。手元にある控えに受付印がない場合、証明書類として受理されず、再提出を求められてしまいます。
もしe-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用して電子申告で廃業届を提出した場合は、紙の受付印がありません。その代わりとして、申告完了時にメッセージボックスへ届く「受信通知(メール詳細)」を印刷し、廃業届のデータと一緒に提出することで正式な証明書類として認められます。
3. 新法人の履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)
新しく設立した法人が確かに存在することと、ご自身がその法人の役員(取締役など)に就任しており、小規模企業共済の加入資格を継続して満たしていることを証明するための書類です。
この書類は、管轄の法務局の窓口や郵送、あるいはオンライン請求で取得することができます。提出する履歴事項全部証明書は、一般的に発行から3ヶ月以内の有効期限内のものと指定されています。
法人の設立登記が完了していないとこの証明書は取得できないため、まずは法人成りによる会社設立手続きと登記をすべて終わらせてから、取得手続きを行ってください。
これらの書類がすべて揃ったら、中小機構の業務を取り扱っている委託機関(商工会や金融機関など)の窓口へ提出し、確認印をもらいます。その後、中小機構での審査を経て引き継ぎが完了します。
手続きには「個人事業の廃止から1年以内」という厳格な期限があるため、法人設立後は速やかに動くことをおすすめします。ご自身の状況で必要な書類や記入方法に不安がある場合は、事前に中小機構のコールセンターや顧問税理士などの専門家へ相談して確実に進めましょう。
法人成り時に「引き継ぐ(継続)」か「一時金として受け取る(解約)」かの比較
個人事業主から法人化する際、これまで積み立ててきた共済契約をどう扱うかは重要な検討事項です。「小規模企業共済 法人成り 引き継ぎ」の手続き(同一人通算)を行って新法人でも継続する方法が一般的ですが、法人設立のタイミングで一度「一時金」として受け取り、解約する選択肢もあります。
どちらを選ぶかによって、税務上の取り扱いや将来受け取れる金額が大きく変わってきます。それぞれの特徴を比較し、ご自身の資金計画や事業状況に合った最適な方法を検討しましょう。
1. 引き継いで継続(同一人通算)する場合の特徴
同一人通算の手続きをして引き継ぐ最大の特徴は、課税のタイミングを先送りしつつ、現役時代の節税効果をそのまま維持できる点です。個人事業主時代に納付した掛金の月数が新法人での役員期間と通算されるため、将来的に共済金を受け取る際の「退職所得控除額」を大きく育てることができます。
また、引き継いだ後も掛金は引き続き全額所得控除の対象となります。新法人から受け取る役員報酬の中から掛金を拠出することで、個人の所得税および住民税の負担を継続して軽減することが可能です。
手元資金に一定の余裕があり、目先の現金よりも長期的な資産形成と節税メリットを重視したい経営者にとっては、引き継ぎをして契約を継続することが最も合理的な選択肢となります。
2. 一時金(解約手当金)として受け取る場合の特徴
法人成りのタイミングで解約し、これまでの掛金を一時金(解約手当金)として受け取ることも可能です。この方法のメリットは、設立直後の新法人や個人の手元にまとまった現金を確保できることです。創業期の資金繰りに不安がある場合や、設備投資などで初期費用がかさむ場合には大きな助けとなります。
ただし、税務上の取り扱いと元本割れのリスクには十分な注意が必要です。個人事業を廃止し、同一事業を営む法人を設立するために金銭以外の資産を出資して法人成りした場合など、一定の要件を満たせば、受け取る一時金は税負担の軽い「退職所得」として扱われます。
一方で、要件を満たさず通常の自己都合による任意解約(65歳未満)として扱われると「一時所得」となり、想定以上の税金が発生する可能性があります。さらに、掛金の納付月数が240ヶ月(20年)未満で任意解約となった場合、受け取る解約手当金がこれまで払い込んだ掛金合計額を下回る「元本割れ」のリスクがある点も留意してください。
3. どちらを選ぶべき?判断基準のポイント
引き継ぐか解約するかの判断は、「現在の掛金納付月数」と「新法人の資金繰り状況」が大きなポイントになります。それぞれの選択肢がどのような状況に適しているか、以下の表に判断の目安をまとめました。
| 選択肢 | 税務上の扱い | 資金繰りへの影響 | こんな方におすすめ |
|---|---|---|---|
| 引き継ぎ(継続) | 課税を先送り(将来の退職所得) | 手元の現金は増えないが、継続して節税が可能 | 資金に余裕があり、長期的な節税・退職金準備を優先したい方 |
| 一時金受け取り(解約) | 退職所得または一時所得(条件による) | まとまった現金が手元に入り、創業期の資金に充てられる | 納付月数が240ヶ月以上あり、かつ直近の現金確保を優先したい方 |
現在の納付月数が240ヶ月未満の場合、解約の事由によっては元本割れしてしまうため、基本的には「同一人通算」による引き継ぎをおすすめします。どうしても事業資金が必要な場合は、解約せずに共済の範囲内で利用できる契約者貸付制度(中小機構)の活用も検討してみましょう。
また、法人成り時の解約手当金が「退職所得」として認められるかどうかの判定は、出資の形態や事業の実態などにより複雑な場合があります。最終的な手続きや税務上の判断については自己判断を避け、必ず顧問税理士や管轄の税務署にご相談されることを推奨します。

【パターン①】一時金(解約手当金)として受け取る場合の税務と注意点
法人成りのタイミングで、小規模企業共済を継続せずに解約し、一時金(解約手当金)として受け取る選択肢もあります。
しかし、解約の事由や加入期間によって税務上の取り扱いや受け取れる金額が大きく変わるため、慎重な判断が求められます。
ここでは、小規模企業共済の法人成り時の引き継ぎを行わず、一時金を受け取る場合の税制上の違いと、元本割れのリスクについて詳しく解説します。
1. 税務上の区分:「退職所得」と「一時所得」の違い
小規模企業共済を解約して一時金を受け取る場合、その解約理由によって所得区分が「退職所得」になるか「一時所得」になるかが決まります。この区分の違いは、納めるべき税金の額に直結するため非常に重要です。
まず、個人事業を廃止し、同一の事業を営む法人を設立するために「金銭以外の資産を出資して法人成りした」場合、受け取る一時金は「退職所得」として扱われます。
退職所得は税制上非常に優遇されており、「(収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2」という計算式で算出されます。長年の掛金納付期間に応じた大きな控除枠が使えるうえ、さらに2分の1課税となるため、税負担を大幅に抑えることが可能です。
一方で、資産の出資を伴わない法人成りや、単なる自己都合による任意解約(65歳未満)の場合は、「一時所得」として扱われます。
一時所得の場合、特別控除額は最大50万円にとどまり、それを超えた金額の2分の1が他の所得(給与所得など)と合算されて総合課税の対象となります。累進課税が適用されるため、結果として税負担が重くなる可能性が高くなります。
| 解約の事由 | 所得区分 | 税務上の特徴 |
|---|---|---|
| 資産を出資して法人成りした場合 | 退職所得 | 退職所得控除+2分の1課税で税負担が軽い |
| 自己都合による任意解約(65歳未満) | 一時所得 | 最大50万円の控除。他所得と合算され累進課税 |
このように、法人成りに伴う解約であっても、手続きの進め方や出資の形態によって税区分が変わります。税務上の不利益を避けるためにも、実行前に税理士などの専門家へ相談し、正確なシミュレーションを行うことをおすすめします。
2. 加入期間が20年(240ヶ月)未満の場合の「元本割れリスク」
一時金として受け取る場合にもう一つ注意しなければならないのが、加入期間(掛金納付月数)による元本割れのリスクです。
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主が将来の生活資金を準備するための、長期的な資産形成を目的とした制度です。
そのため、自己都合による任意解約(一時所得となる解約)をした場合、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満だと、受け取る解約手当金がこれまで払い込んだ掛金合計額を下回ってしまいます。
法人成りのタイミングで設立費用や当面の運転資金が必要だからといって安易に解約してしまうと、長年積み立ててきた大切な資産を減らしてしまうことになりかねません。
もし加入期間が20年未満であれば、解約して一時金を受け取るのではなく、新設した法人で役員に就任し、「小規模企業共済 法人成り 引き継ぎ」の手続き(同一人通算)を行って契約を継続する方が、資産保全の観点からは賢明な選択と言えます。
任意解約の場合、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満の場合は、受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ります。(出典:中小機構 共済金(解約手当金)について)
法人化の際は、目先の資金繰りだけでなく、将来の退職金準備や税負担を含めた総合的な判断が必要です。現在の納付月数や法人成り後の役員報酬の設定なども踏まえ、専門家と相談しながら最適な方法を選択してください。
【パターン②】引き継いで継続(同一人通算)する場合の税務とメリット
個人事業主時代に加入していた小規模企業共済は、法人成りを機に契約を引き継ぎ、新設した法人の役員として継続することが可能です。この手続きを「同一人通算」と呼びます。
小規模企業共済を法人成りの際に引き継ぎ、同一人通算を選択して継続する場合、税制面でどのようなメリットや注意点があるのかを詳しく解説します。
1. 引き継ぎ時点では課税関係が発生しない
個人事業を廃止して新たな法人を設立し、その法人の役員に就任する際、これまでの掛金納付月数をそのまま引き継ぐことができます。この「同一人通算」の手続きを選択した場合、手続きの時点では共済金を受け取らないため、税負担は一切生じません。
もし引き継がずに一度「一時金(解約手当金)」として受け取る選択をした場合、その一時金は退職所得や一時所得として課税の対象となります。しかし、契約を継続することで課税のタイミングを将来へ先送りし、これまで積み立てた資産をそのまま運用し続けることができるのは大きな利点です。
なお、同一人通算の手続きには期限と所定の書類提出が必要です。以下の要件を満たしているか、事前に確認しておきましょう。
- 個人事業の廃止(法人成り)から1年以内に手続きを完了させる
- 「納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)」を用意する
- 個人事業の廃業届の写し(税務署の受付印があるもの)を添付する
- 新法人の履歴事項全部証明書(役員就任が確認できるもの)を添付する
詳しい手続きの流れや様式の取得については、中小機構の公式サイト(同一人通算の手続き)をご参照ください。
2. 現役時代の節税効果:毎月の掛金全額が所得控除
法人成りをして会社の役員となった後も、小規模企業共済の掛金は引き続き全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。
法人から受け取る役員報酬には所得税や住民税がかかりますが、個人の所得から掛金分を全額差し引くことができるため、現役時代の税負担を継続して軽減することが可能です。
たとえば、毎月の上限額である7万円(年間84万円)を掛け続けた場合、その全額が課税所得から控除されます。役員報酬の金額設定によっては所得税率が上がるケースもありますが、共済の掛金控除を活用することで、効率的な節税効果をもたらします。
3. 将来の受取時(役員退職時)の税制メリット
引き継いだ共済金は、将来的に法人の役員を退職した際や事業を譲渡した際などに受け取ることになります。その際の受け取り方法によって、手厚い税制優遇が用意されています。
受け取り方法は大きく分けて「一括受取」と「分割受取(年金形式)」の2種類があり、それぞれ適用される控除が異なります。ご自身の老後の資金計画や、他の退職金との兼ね合いに合わせて、最も有利な受け取り方を選択できる点も共済を継続する大きな魅力です。
| 受け取り方法 | 税務上の扱い | 適用される控除・メリット |
|---|---|---|
| 一括で受け取る場合 | 退職所得 | 勤続年数(掛金納付月数)に応じた「退職所得控除」が適用され、税負担が大幅に軽減される。 |
| 分割(年金)で受け取る場合 | 雑所得 | 「公的年金等控除」の対象となり、他の公的年金と合算して控除枠を活用できる。 |
4. 注意点:掛金は法人の経費(損金)にはできない
法人成り後に小規模企業共済を継続する際、経営者が勘違いしやすい重要な注意点があります。それは、掛金はあくまで「役員個人の所得控除」であり、法人の経費(損金)として計上することはできないという点です。
法人の銀行口座から共済の掛金を引き落とす設定にしたり、法人の経費として処理したりすることは税務上認められません。必ず役員個人の銀行口座から引き落としを行い、個人の年末調整や確定申告において控除の申告を行う必要があります。
もし、法人としての利益を圧縮しつつ退職金準備の経費(損金)を計上したい場合は、小規模企業共済ではなく「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」や、法人向けの保険などを別途検討する必要があります。個人の節税と法人の節税のバランスについては、税理士などの専門家に相談して最適な組み合わせを見つけることをおすすめします。
法人成り後の小規模企業共済に関するよくある質問(FAQ)
個人事業主時代に加入していた小規模企業共済を、法人成りを機に引き継ぎたいと考える経営者は多くいらっしゃいます。しかし、いざ手続きを進めるとなると、掛金の扱いや共同経営者のケース、期限切れのリスクなど、疑問が生じやすいものです。
ここでは、小規模企業共済 法人成り 引き継ぎの手続きやその後の運用において、事業主が迷いやすいポイントをQ&A形式で詳しく解説します。疑問を解消し、スムーズな契約継続にお役立てください。
Q1. 法人化後、掛金の増額や減額は自由にできる?
はい、法人化して契約を引き継いだ後でも、掛金の増額や減額は可能です。小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から70,000円の範囲内(500円単位)で設定でき、事業の状況に合わせて柔軟に変更することができます。
法人成り直後は、役員報酬の最適な設定額が定まるまでや、会社の資金繰りが安定するまで、一時的に掛金を減額したいと考えるケースも少なくありません。逆に、事業が軌道に乗り利益が安定してきたタイミングで、将来の退職金準備として掛金を上限まで増額することも可能です。
ただし、掛金の減額手続きを行う場合は、「事業経営の著しい悪化」や「疾病または負傷」など、中小機構が定める一定の減額要件を満たす必要がある点には注意が必要です。掛金変更の詳しい要件や手続きについては、中小機構の公式サイトで最新情報をご確認ください。
Q2. 共同経営者として加入していた場合も引き継げる?(共同経営契約の承継)
個人事業の共同経営者として小規模企業共済に加入していた場合でも、新法人の役員に就任すれば、同様に同一人通算(契約の引き継ぎ)の手続きが可能です。
例えば、夫婦で個人事業を営んでおり、配偶者が共同経営者として加入していたケースなどが該当します。法人成りによって配偶者が新会社の取締役などに就任し、加入資格を満たすのであれば、これまでの納付月数を無駄にすることなく継続できます。
手続きの流れや必要書類は、基本的には個人事業主本人が引き継ぐ場合と同じです。「納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)」に加え、新法人の履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)を提出し、役員に就任した事実を客観的に証明する必要があります。
Q3. 手続き期限の「1年」を過ぎてしまったらどうなる?
法人成りに伴う小規模企業共済の引き継ぎ(同一人通算)は、個人事業の廃止(法人成り)から1年以内に手続きを完了させる必要があります。この期限を過ぎてしまうと、同一人通算の手続きができなくなるため厳重な注意が必要です。
期限を過ぎてしまった場合、契約は一度解約(または失効)扱いとなってしまい、これまでの納付月数がリセットされてしまいます。納付月数が短い状態(240ヶ月未満など)で任意解約の扱いとなると、受け取れる解約手当金がこれまで払い込んだ掛金合計額を下回る「元本割れ」のリスクが生じます。
法人設立後は、登記手続きや税務署への届出、社会保険の加入手続きなど、やるべき業務が山積みになりがちです。共済の引き継ぎ手続きが後回しになり、気づけば1年が経過していたという事態を防ぐためにも、法人設立とセットで計画的に手続きを進めることをおすすめします。
- 個人事業の廃業日から「1年以内」に同一人通算の手続きを完了させる
- 必要書類(通算申出書、廃業届の控、法人の履歴事項全部証明書)を漏れなく準備する
- 手続きに不安がある場合は、税理士や委託機関(金融機関・商工会など)の窓口へ早めに相談する
法人成り時の税務上の取り扱いや、一時金として受け取るか引き継ぐかの判断は、個別の状況によって最適解が異なります。最終的な判断や自社に合った詳細な手続きについては、顧問税理士などの専門家へご相談されることを推奨します。
まとめ:法人成り後も小規模企業共済を賢く活用しよう
個人事業主時代から加入している小規模企業共済は、法人成りを機に解約しなければならないわけではありません。条件を満たして所定の手続きを行えば、これまでの掛金納付月数を引き継ぐ「同一人通算」が可能です。
小規模企業共済の法人成りによる引き継ぎを正しく行うことで、これまでの加入期間を無駄にせず、将来の退職金準備を継続できます。ここでは、引き継ぎ手続きのポイントと、一時金として受け取る場合との違いを整理します。
引き継ぎ(同一人通算)の手続き期限と必要書類
法人成り後に小規模企業共済を継続するためには、個人事業の廃業(法人成り)から1年以内に「同一人通算」の手続きを完了させる必要があります。
手続きは、中小機構の業務を取り扱う委託機関(商工会や金融機関など)の窓口で行います。中小機構での審査には約40日程度かかるため、法人設立後は速やかに必要書類を準備して窓口へ相談しましょう。
- 納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用:様式 小 141)を取り寄せる
- 個人事業の廃業届の写し(税務署の受付印があるもの)を用意する
- 新法人の履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)を取得する
- 事由発生から1年以内に委託機関の窓口へ提出し確認印をもらう
一時金として受け取る場合と引き継ぐ場合の比較
法人成りのタイミングで共済を引き継がずに解約し、一時金として受け取る選択肢もあります。しかし、受け取り方によって税務上の扱いが大きく異なるため注意が必要です。
個人事業を廃止し、金銭以外の資産を出資して法人成りした場合などに支給される一時金は、税務上「退職所得」として扱われます。一方で、通常の自己都合による任意解約(65歳未満)となった場合は「一時所得」となり、税負担が重くなる可能性があります。
| 選択肢 | 税務上の扱い・特徴 | 注意点・リスク |
|---|---|---|
| 引き継ぎ(継続) | 掛金全額が引き続き所得控除の対象 | 手続き期限(1年以内)を過ぎると引き継げない |
| 法人成りによる解約 | 退職所得(退職所得控除が適用される) | 現物出資など一定の要件を満たす必要がある |
| 自己都合による任意解約 | 一時所得(65歳未満の場合など) | 掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満だと元本割れする |
特に注意したいのは、掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満で任意解約となった場合、受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回る「元本割れ」のリスクがある点です。
小規模企業共済制度では、任意解約の場合、掛金納付月数が240ヶ月未満だと解約手当金が掛金残高を下回ります。法人成り後も役員として加入資格を満たすのであれば、同一人通算制度を活用して継続することが推奨されます。詳細は中小機構の小規模企業共済公式サイトをご確認ください。
役員報酬の節税効果を維持するために
小規模企業共済を法人成り後も継続する最大のメリットは、役員報酬に対する所得税・住民税の節税効果を維持できることです。法人の役員として受け取る報酬から掛金を拠出することで、引き続き全額を小規模企業共済等掛金控除として個人の所得から差し引くことができます。
法人化の初期は、社会保険料の負担増や資金繰りの変化など、個人の手取り額に影響を与える要素が多くなります。その中で、確実な個人の税負担軽減と将来の退職金準備を両立できる小規模企業共済は、経営者にとって心強い制度です。
ご自身の状況において、一時金として受け取るべきか、引き継ぎ(同一人通算)を選択すべきか迷った場合は、税務上の専門的な判断を伴うため、法人設立をサポートする税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

