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会社設立
スタートアップの会社設立!VC調達を見据えた株式・資本金設計
読了目安時間:約 15分
将来的なIPO(新規上場)やM&Aによる急成長を見据え、スタートアップ 会社設立を検討されている起業家の皆様へ。設立の手続き自体は、一般的な法人設立と大きく変わらないように思えるかもしれません。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの外部資金調達を前提とするスタートアップの場合、設立時の「株式・資本金設計」が将来の成長を大きく左右する極めて重要なプロセスとなります。
一般的な中小企業(スモールビジネス)の設立では、当面の運転資金の確保や節税対策が主眼に置かれることが多くなります。一方、スタートアップの設立においては、将来の複数回にわたる増資を見据えた特有の資本政策が不可欠です。
最初の株式設計を誤ると、経営の意思決定が滞るデッドロックに陥ったり、創業者の持分が過度に減少(希薄化)したりするなど、取り返しのつかない事態を招くリスクがあります。会社設立時の定款や登記内容は後から修正することが難しいため、最初からVC調達に耐えうる設計にしておくことが成功の鍵です。
ここで、一般的な中小企業の設立とスタートアップの設立における、基本的な考え方の違いを整理してみましょう。
| 比較項目 | 一般的な中小企業(スモールビジネス) | スタートアップ |
|---|---|---|
| 資金調達の前提 | 自己資金や金融機関からの融資が中心 | VCやエンジェル投資家からの出資が前提 |
| 株式の持ち方 | 複数人で均等に持ち合うことも多い | 代表取締役(リード創業者)への集中が鉄則 |
| 発行済株式数 | 1株あたりの金額を高く設定しがち | 将来の分割を防ぐため「1万株以上」に設定 |
| 成長モデル | 安定した継続的な利益成長を目指す | 短期間での急激な企業価値向上を目指す |
本記事では、スタートアップ特有の株主構成(創業者比率の考え方)や、将来の増資に備えた発行可能株式総数の適切な設定方法について詳しく解説します。
さらに、近年シード期(創業初期)の資金調達において主流となっている「J-KISS(コンバーティブル・エクイティ)」などの最新トレンドを踏まえた、設立準備のポイントもお伝えします。
これから法人化を進めるにあたり、資本政策は非常に専門性の高い領域となります。本記事で基本的な実務知識を身につけつつ、最終的な意思決定にあたっては、スタートアップ支援の実績が豊富な税理士や専門家に相談されることをお勧めします。
目次
スタートアップの会社設立における「資本政策」の重要性
将来的にベンチャーキャピタル(VC)などから外部資金を調達し、短期間での急成長やIPO(新規株式公開)、M&Aによるイグジットを目指す場合、スタートアップの会社設立において最も重要となるのが「資本政策」です。
資本政策とは、事業計画を達成するために「いつ・誰から・いくらの資金を・どのような条件(株価や持分比率)で調達するか」を計画し、実行していくプロセスを指します。設立初期の段階から中長期的な視点を持って設計しなければ、その後の成長軌道に大きな支障をきたす可能性があります。
2-1. スモールビジネスとスタートアップの決定的な違い
起業の形態は、大きく「スモールビジネス」と「スタートアップ」の2つに分類されます。これらは単なる事業規模の違いではなく、ビジネスモデルと資金調達のアプローチにおいて決定的な違いを持っています。
飲食店や美容室、個人のコンサルティング業などに代表されるスモールビジネスは、初期段階から着実に売上と利益を積み上げ、自己資金や金融機関からの「融資(デット・ファイナンス)」を中心に事業を拡大していくのが一般的です。融資は将来的に元本と利息を返済する義務を伴いますが、経営者の持分(株式)が外部に流出することはありません。
一方、スタートアップは、創業初期に大きな赤字を掘りながらプロダクト開発や市場開拓を行い、将来的に爆発的なスケール(Jカーブを描く成長)を目指すモデルです。このような急成長を実現するためには、融資だけではまかないきれない多額の成長資金が必要となります。
そこでスタートアップは、自社の「株式を切り売りしながら成長資金を獲得する」というアプローチをとります。VCやエンジェル投資家に対して株式(エクイティ)を対価として発行し、返済義務のない資金を調達して事業投資を加速させるのが、スタートアップ特有の戦い方です。
| 比較項目 | スモールビジネス | スタートアップ |
|---|---|---|
| 成長モデル | 初期から着実に利益を出す直線的な成長 | 初期は赤字を許容し、後から急成長(Jカーブ) |
| 主な資金調達手段 | 自己資金、金融機関からの融資(デット) | VCや投資家からの出資(エクイティ) |
| 資金の返済義務 | あり(元本+利息) | なし(代わりに株式を交付) |
| 経営権(持分) | 創業者が100%維持しやすい | 資金調達のたびに創業者の持分が低下(希薄化) |
2-2. 資本政策が「後戻りできないゲーム」と言われる理由
スタートアップの会社設立において、資本政策はよく「後戻りできないゲーム」と表現されます。その最大の理由は、一度外部に渡してしまった株式や、確定してしまった株主構成を、後から経営者の都合で簡単に買い戻したり、無効にしたりすることが実務上極めて困難だからです。
たとえば、設立時に深く考えず、友人や知人に安価で多量の株式を渡してしまったとします。その後、事業が軌道に乗り、シリーズAなどの本格的な資金調達フェーズを迎えた際、この分散した株主構成が致命傷になることがあります。VCは、事業の推進力となる経営陣が十分なインセンティブ(持分)を持っていない企業や、意思決定権が不明確な企業への投資を非常に嫌い、結果として投資を見送る原因になり得ます。
こうした事態を防ぐため、設立時の株主構成は代表取締役(リード創業者)に株式を集中させるのが鉄則です。株主総会の特別決議(定款変更や組織再編など重要な意思決定)を単独で可決できるよう、代表者が少なくとも3分の2(約66.7%)以上の議決権を維持することが強く推奨されます。また、外部投資を受けると必ず持分比率は低下(希薄化)するため、設立時は創業メンバーのみで100%(またはそれに近い比率)を保有してスタートするのが基本です。
【注意喚起】安易な共同創業での株式折半は避ける
複数人で共同創業する場合、「平等に50%ずつ」といった株式の持ち合いは、将来意見が対立した際に意思決定が完全にストップ(デッドロック)する危険性があります。必ず最終的な意思決定者である代表者に過半数以上の株式を集中させましょう。
さらに、設立時の発行済株式数や発行可能株式総数の設定も重要です。将来の資金調達やストックオプション(SO)付与の際、株式分割の手間やコストを省くため、設立時の発行済株式数は「1万株以上」に設定し、1株あたりの単価を低く抑えるのがベストプラクティスとされています。
発行可能株式総数(会社が発行できる株式の上限)についても、将来の複数回にわたる増資を見据え、1000万株〜1億株程度と十分に余裕を持たせることが推奨されます。スタートアップは通常、すべての株式に譲渡制限を設ける「非公開会社」として設立するため、公開会社に適用される「発行可能株式総数は発行済株式数の4倍まで」という制限(会社法第113条第3項)の適用を受けず、自由に大きな数値を設定できます。
近年では、シード期(創業初期)のスタートアップにおいて、迅速かつ低コストで資金調達を行うため、「有償新株予約権」を用いた投資契約(J-KISSなど)が主流となっています。これは、創業直後の企業価値(バリュエーション)評価を次回の大型調達時まで先送りできるメリットがあります。こうした最新のトレンドを踏まえたうえで、設立時から緻密な資本設計を行うことが求められます。
- 代表取締役(リード創業者)が3分の2(約66.7%)以上の株式を保有しているか
- 共同創業者間で安易に株式を折半(50%ずつなど)していないか
- 設立時の発行済株式数は、1株あたりの単価を抑えて「1万株以上」に設定しているか
- 発行可能株式総数は、将来の増資を見据えて十分に余裕のある数(1000万株〜1億株等)に設定しているか
- すべての株式に譲渡制限を設ける「非公開会社」として定款を作成しているか
資本政策は一度失敗すると取り返しがつかないため、自己判断だけで進めるのは非常に危険です。設立登記を行う前に、スタートアップ支援の実績が豊富な税理士や弁護士、司法書士などの専門家に必ず相談し、将来の調達計画から逆算した最適な設計を行うことを強くお勧めします。

設立時の株主構成と創業メンバーの比率設計
スタートアップ 会社設立において、後戻りが極めて困難であり、将来の成長を大きく左右するのが「資本政策」です。その第一歩となる設立時の株主構成は、慎重に設計する必要があります。
将来的にベンチャーキャピタル(VC)等から資金調達を行い、急成長を目指すのであれば、創業メンバー間での株式の持ち合い方には明確なセオリーが存在します。ここでは、設立時に押さえておくべき持分比率の考え方について解説します。
3-1. なぜ代表者(リード創業者)に株式を集中させるべきなのか?
複数人で共同創業する場合、友人や元同僚という関係性から、出資比率を「50%対50%」や「33%ずつ」といった均等割にしてしまうケースが散見されます。しかし、これはスタートアップの実務において非常にリスクが高いとされています。
共同創業であっても、代表取締役(リード創業者)に株式を集中させることが基本のセオリーです。なぜなら、事業の方向性や重要な経営判断において意見の対立が発生した際、均等割では意思決定のデッドロック(膠着状態)に陥る危険性があるためです。
スタートアップの最大の武器は、スピーディな経営判断と実行力です。株主総会での決議が滞れば、資金調達や事業提携のチャンスを逃すことになりかねません。最終的な決定権を誰が持つのかを明確にするためにも、代表者に株式を偏らせる設計が推奨されます。
3-2. 意思決定を担保する「3分の2(約66.7%)以上」のルール
代表者に株式を集中させる際、具体的な目安となるのが「3分の2(約66.7%)以上」という数字です。これは、会社法第309条に定められている株主総会の「特別決議」を単独で可決できる権限ラインです。
特別決議では、定款の変更、事業譲渡、組織再編(合併や会社分割など)、あるいは役員の解任といった、会社の根幹に関わる非常に重要な事項を決定します。代表者がこの権限を単独で維持できていないと、機動的な経営が著しく制限されてしまいます。
| 決議の種類 | 必要な議決権割合 | 主な決議事項の例 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 過半数(50%超) | 役員の選任、役員報酬の決定など |
| 特別決議 | 3分の2(約66.7%)以上 | 定款変更、事業譲渡、合併・解散など |
| 特殊決議 | 4分の3(75%)以上など | 一部の特殊な定款変更など |
将来的に資金調達を重ねていくと、新株発行によって代表者の持分比率は必ず低下(希薄化)していきます。将来の希薄化を見据え、設立の初期段階では代表者が「3分の2以上(できれば80〜90%以上)」の議決権を確実に握っておくことが、安定した経営基盤の構築に直結します。
3-3. 外部投資家が入る前の希薄化(薄まり)対策
エンジェル投資家やVCから出資を受けると、新たな株式が発行されるため、創業メンバーの持分比率は段階的に低下していきます。これを「株式の希薄化(ダイリューション)」と呼びます。
そのため、設立時は外部の資本を一切入れず、創業メンバーのみで「100%(またはそれに極めて近い比率)」を保有してスタートするのが鉄則です。設立直後に安易に外部の顧問やアドバイザーに数パーセントの株式を渡してしまうと、後々の資金調達ラウンドで創業者の持分が想定以上に減少し、VCからの出資が受けにくくなる原因となります。
創業初期における不用意な株式の分散は、後のラウンドでの資金調達において「資本政策の失敗」とみなされ、投資家から敬遠される大きな要因となります。
設立時の株主構成を決める際は、目先の資金繰りだけでなく、将来のエグジット(IPOやM&A)までを見据えた長期的な視点が求められます。以下のポイントを事前に確認しておきましょう。
- 代表者単独で議決権の3分の2以上を確保できているか
- 共同創業者間の株式比率に明確な差をつけているか
- 外部の第三者(顧問や知人など)に安易に株式を渡していないか
- 将来の資金調達による希薄化のシミュレーションを行っているか
資本政策は一度実行すると修正が非常に困難です。個別の状況に応じた最適な株主構成や比率設計については、会社設立やスタートアップ支援に詳しい税理士・司法書士などの専門家に相談し、慎重に検討することをおすすめします。

将来の増資・SO付与を楽にする「発行可能株式総数」の決め方
スタートアップ 会社設立において、資本金の額だけでなく「株式数をどのように設計するか」は、将来の成長スピードを左右する非常に重要なテーマです。
将来的にベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を行ったり、優秀な人材を採用・リテンションするためのストックオプション(SO)を付与したりすることを見据える場合、設立当初から適切な株式数を設定しておく必要があります。
株式の設計を誤ると、いざ資金調達に動こうとした際に余計な手続きやコストが発生し、重要なタイミングを逃してしまうリスクがあります。
ここでは、将来の資本政策をスムーズに進めるための「発行済株式数」と「発行可能株式総数」のベストプラクティスについて解説します。まずは以下のポイントを押さえておきましょう。
- 1株あたりの単価は10円〜100円など低く設定されているか
- 設立時の発行済株式数は「1万株以上」になっているか
- 発行可能株式総数は発行済株式数の「100倍〜1000倍」を確保しているか
- すべての株式に譲渡制限を設ける「非公開会社」として定款を作成しているか
4-1. 設立時の発行済株式数は「1万株以上」を推奨する理由
スタートアップのベストプラクティスとして、設立時の「発行済株式数」は1万株以上に設定することが強く推奨されています。
その最大の理由は、1株あたりの単価をあらかじめ低く抑えておくことで、将来の資金調達やストックオプション(SO)の発行を極めて柔軟に行えるようにするためです。
例えば、資本金が100万円の会社を設立する場合を考えてみましょう。もし1株の単価を1万円として、発行済株式数を100株で設立してしまったとします。
その後、事業が成長して企業価値(バリュエーション)が100倍になった場合、1株あたりの価値は100万円に跳ね上がります。こうなると、エンジェル投資家から数十万円単位の少額出資を受け入れたくても、1株の単価が高すぎて細かな出資額の調整ができなくなってしまいます。
また、初期の従業員に対して数万円〜数十万円相当のストックオプションを付与したくても、1株単位での付与が実質的に困難になるという問題も発生します。
このような事態を避けるために、後から「株式分割」を行うことも可能ですが、それには株主総会の特別決議や法務局での変更登記手続きが必要となります。数万円の登録免許税や司法書士への報酬といった金銭的コストに加え、手続きにかかる時間的なロスも生じてしまいます。
設立時から1株あたりの単価を10円〜100円程度に設定し、発行済株式数を1万株〜10万株程度にしておけば、こうした将来の株式分割の手間や余計な登記コストを未然に防ぐことができるのです。
4-2. 発行可能株式総数は「100倍〜1000倍」を目安にする
会社が定款で定めている、将来発行することができる株式数の上限枠のことを「発行可能株式総数」と呼びます。
スタートアップは、シード期からシリーズA、B、Cと複数回にわたって第三者割当増資を繰り返しながら、急激なスケールを目指すビジネスモデルです。そのため、この発行可能株式総数にはあらかじめ十分な余裕を持たせておく必要があります。
実務上の目安としては、設立時の発行済株式数に対して100倍〜1000倍に設定するのが一般的です。
例えば、設立時の発行済株式数を1万株とした場合、発行可能株式総数は1000万株から1億株程度に設定しておくと、将来の大型調達時にも上限を気にする必要がなくなります。
もし上限枠に余裕がない状態で増資やストックオプションの付与(一般的に発行済株式総数の10%〜15%程度の枠を確保します)を行おうとすると、定款変更および発行可能株式総数の変更登記を事前に行わなければなりません。
資金調達のタイミングはスピードが命となることが多く、投資家との合意後すぐに払い込みを受けたい場面で、登記手続きによるタイムロスが発生するのは致命的になりかねません。設立時に大きな枠を確保しておくことが、実務上のセオリーと言えます。
| 項目 | 目安となる設定例 | 設定の目的・理由 |
|---|---|---|
| 資本金 | 100万円〜300万円 | 初期の運転資金確保と創業者の持分100%維持 |
| 1株あたりの金額 | 10円〜100円 | 少額での細かな株式割り当てやSO付与を可能にするため |
| 設立時の発行済株式数 | 1万株〜10万株 | 将来の株式分割の手間とコストを省くため |
| 発行可能株式総数 | 1000万株〜1億株 | 複数回の増資(シリーズA, B等)に備えるため |
4-3. 非公開会社(譲渡制限会社)のメリットを活かす
スタートアップの会社設立では、通常すべての株式に対して譲渡制限を設ける「非公開会社(譲渡制限会社)」として登記を行います。
株式の譲渡制限とは、株主が保有する株式を第三者に売却・譲渡する際、会社の承認(主に取締役会や株主総会の決議)を必要とするルールのことです。これにより、創業者の知らない間に望まない第三者が株式を取得し、経営に介入してくるリスクを防ぐことができます。
そして、非公開会社として設立することには、会社法上のもう一つの大きなメリットがあります。それは、発行可能株式総数の設定において「4倍ルール」が適用されないという点です。
公開会社(株式の一部または全部に譲渡制限がない会社)の場合、既存株主の利益を保護する観点から、取締役会の決議だけで無制限に株式が発行されるのを防ぐためのルールが設けられています。
公開会社においては、設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下回ることができない(会社法第37条第3項)。
※参考:会社法(e-Gov法令検索)
スタートアップはすべての株式に譲渡制限をかける非公開会社であるため、この4倍ルールに縛られることなく、設立時から発行可能株式総数を自由に大きく設定することが可能です。
これにより、前述した「発行済株式数の100倍〜1000倍」という巨大な枠を最初から定款に定めることができ、将来の大型調達やオプションプールの確保が極めてスムーズになります。
株式の設計や資本政策は、一度決めて走り出すと後からの修正に多大な労力とコストがかかる不可逆的な領域です。特に近年主流となっているJ-KISS(コンバーティブル・エクイティ)を用いた資金調達なども、ベースとなる株式設計が適切に行われていることが前提となります。
将来的な事業計画や資金調達のロードマップに少しでも不安がある場合は、設立手続きを進める前に、スタートアップの資本政策に詳しい税理士や司法書士、弁護士などの専門家に相談し、最適な設計を行うことを強くお勧めします。

設立時の「資本金」と「1株あたりの価額」の具体的な設計方法
スタートアップ 会社設立において、資本金と株式の設計は、将来の資金調達や経営の自由度を左右する極めて重要な要素です。
特にベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの出資を見据える場合、設立時の設計を誤ると、後から株式分割などの余計な手続きやコストが発生するリスクがあります。
ここでは、創業期のスタートアップに最適な資本金の金額感と、1株あたりの価額(株価)の具体的な計算方法について詳しく解説します。
5-1. スタートアップ設立時の資本金はいくらに設定すべきか?
現在の会社法では、資本金1円からでも株式会社を設立することが可能です。しかし、将来的に急成長を目指すスタートアップにおいて、資本金1円での設立は推奨されません。
資本金は企業の体力を示す指標の一つであり、極端に少額だと取引先からの社会的信用を得にくくなります。また、日本政策金融公庫などからの創業融資を受ける際にも、自己資金(資本金)の額が審査の重要な要素となるため、不利に働く可能性があります。
そのため、実務上は「100万円〜500万円」程度を設立時の資本金として設定するのが一般的です。これには、初期の運転資金を確保しつつ、税制上の優遇措置を最大限に活用できるという理由があります。
資本金が1,000万円未満で設立された法人は、原則として設立第1期目および第2期目の消費税の納税義務が免除されます。
(参考:国税庁「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」)
さらに、設立時の登録免許税や、法人住民税の均等割(赤字でも毎年発生する税金)も低く抑えることができます。
| 設立時の資本金額 | 消費税の免税(設立1〜2期目) | 法人住民税(均等割)の目安 |
|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 免税事業者となる(※一定の要件あり) | 年間 約7万円 |
| 1,000万円以上 | 設立当初から課税事業者となる | 年間 約18万円(従業員数等で変動) |
創業直後は企業価値の客観的な評価が難しいため、近年ではバリュエーション(企業価値評価)の決定を先送りし、迅速かつ低コストで資金調達ができる有償新株予約権を用いた投資契約(J-KISSなど)も主流となっています。
こうした柔軟な資金調達手法を活用するためにも、設立時の資本金は無理のない範囲(1,000万円未満)にとどめ、事業の進捗に合わせて外部から資金を調達していくアプローチが効果的です。
5-2. 1株あたりの単価と株式数の計算シミュレーション
資本金が決定したら、次は「1株あたりの価額(単価)」と「発行済株式数」を決定します。会社設立時の資本金は、「1株あたりの価額 × 発行済株式数」で計算されます。
スタートアップの場合、将来的なVC調達やストックオプション(SO)の付与を見据えて、1株あたりの単価を低く抑え、発行済株式数を多めに設定するのが鉄則です。
例えば、資本金を100万円とする場合、1株100円に設定すれば発行済株式数は「1万株」となります。一方で、1株1万円に設定した場合は「100株」となります。
1株あたりの単価を「5万円」などの高額に設定してしまうと、将来の株式比率の微調整が非常に困難になるため注意が必要です。
仮に発行済株式数が100株しかない場合、優秀な人材を採用するために「1%分のストックオプションを付与したい」と考えても、最低単位である1株を渡した時点で1%に達してしまい、0.5%などの細かな付与ができなくなります。
これを後から解消するには「株式分割」という手続きが必要になり、株主総会の特別決議や登記費用などのコストと手間が発生してしまいます。そのため、設立時の発行済株式数は「1万株以上」になるよう、1株あたりの単価を1円〜100円程度に設定するのがベストプラクティスとされています。
- 資本金は1,000万円未満(100万〜500万円程度)に設定し、初期の税制メリットを活かす
- 1株あたりの単価は1円〜100円程度に低く設定する
- 設立時の発行済株式数は、将来の微調整に備えて1万株以上になるように計算する
- 発行可能株式総数は、将来の複数回の増資を見据えて発行済株式数の100倍〜1000倍に設定する
- 外部投資を入れる前は、代表取締役(リード創業者)が議決権の3分の2(約66.7%)以上を確保する
スタートアップは通常、すべての株式に譲渡制限を設ける「非公開会社」として設立します。非公開会社であれば、発行可能株式総数に上限の制限(公開会社に適用される4倍ルール)がないため、設立時から1,000万株〜1億株といった余裕を持った枠を設定できます。
資本政策は、一度実行すると後戻りするのが極めて難しい領域です。設立時の株式設計に少しでも不安がある場合は、スタートアップ支援に強い税理士や司法書士などの専門家に相談し、慎重に決定することをお勧めします。
将来的なベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達やバイアウト、IPOを見据えたスタートアップの会社設立において、資本政策(株式設計)は後からやり直しが非常に困難な要素です。
設立時の株式の割り当て方を間違えると、経営の意思決定が滞ったり、将来の資金調達が不可能になったりする致命的なリスクを抱えることになります。ここでは、スタートアップの会社設立時に陥りやすい代表的な失敗パターンとその回避策を解説します。
7-1. 失敗例①:共同創業者間で株式を「50%ずつ」に分ける
友人や同僚と複数人で起業する際、株式を「50%ずつ」あるいは「33%ずつ」と均等に分けてしまうケースが散見されます。しかし、この「仲良く半分ずつ」という設計は、スタートアップにおいて最大の罠と言えます。
株式会社の重要な意思決定は、株主総会における議決権(株式数)の割合によって決まります。もし経営方針で意見が対立した場合、50%ずつの持ち分では過半数を確保できず、役員の選任や解任といった普通決議すら成立しなくなります。
このように会社の意思決定が完全にストップしてしまう状態を「デッドロック」と呼びます。1%でも動かせなければ経営が膠着するため、VCなどの投資家はこうしたリスクを抱える企業への出資を見送るのが通常です。
この事態を防ぐためには、代表取締役(リード創業者)に株式を集中させることが推奨されます。具体的には、定款変更や組織再編などの特別決議を単独で可決できるよう、代表者が「3分の2(約66.7%)以上」の議決権を確保しておくことが基本となります。
| 保有割合 | 株主総会での権限(会社法第309条) |
|---|---|
| 過半数(50%超) | 普通決議の可決(役員選任、役員報酬の決定など) |
| 3分の2以上(約66.7%) | 特別決議の可決(定款変更、合併・解散、事業譲渡など) |
7-2. 失敗例②:シード期に外部の個人投資家に過剰な株式を渡す
もう一つの典型的な失敗が、会社設立の直後(シード期)に、外部のエンジェル投資家や知人から出資を受ける際、過剰なシェアを渡してしまうことです。
例えば、設立時の資本金が少ない段階で数百万円の出資を受け、その見返りとして10%〜30%といった大きな割合の株式を発行してしまうケースです。初期段階で安易に株式を放出しすぎると、将来VCが投資する余力が失われる「カプテーブル(資本政策表)の汚染」を引き起こします。
VCがスタートアップに投資する際、創業チームが高いモチベーションを維持して事業を牽引できるよう、創業者が十分な株式を保有していることを強く求めます。シリーズA、シリーズBと資金調達を重ねるごとに創業者の持分は低下(希薄化)していくため、初期段階ですでに外部株主の比率が高いと、その後の調達が実質的に不可能になってしまいます。
そのため、設立時は創業メンバーのみで100%(またはそれに極めて近い比率)の株式を保有してスタートするのが鉄則です。初期の資金調達が必要な場合は、創業直後の企業価値評価(バリュエーション)を先送りできる「J-KISS(コンバーティブル・エクイティ)」などの有償新株予約権を用いた手法を検討することが、近年のトレンドとなっています。
- 代表者(リード創業者)が株式の3分の2以上を保有しているか
- 設立時の株主は創業メンバーのみに限定しているか
- 初期の資金調達で10%以上の株式を安易に放出しようとしていないか
- 外部調達前にJ-KISS等の転換社債型の手法を検討したか
資本政策は一度実行すると、後から株式を無償で取り戻すことは法的に非常に困難です。スタートアップの会社設立における株式設計は、将来の事業計画と資金調達を見据え、必ずシード投資に詳しい税理士や弁護士などの専門家に相談の上で決定してください。
まとめ:調達を見据えた「事前の株式設計」が成功の鍵
スタートアップ 会社設立において、設立手続きは単なる法的な枠組み作りや事務作業ではありません。将来のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達や、IPO(新規株式公開)、M&Aを見据えた最初のファイナンス戦略そのものです。
一度登記した株式の持分比率や発行可能株式総数を後から修正するには、株主総会の特別決議や法務局での変更登記が必要となり、多大な時間とコストがかかります。最悪の場合、初期の資本政策のミスが原因で、有望なビジネスであっても投資家から敬遠され、資金調達が頓挫してしまうリスクすらあります。
スタートアップと一般的な中小企業の資本政策の違い
自己資本や銀行融資を中心にスモールビジネスを展開する一般的な中小企業と、外部からのエクイティ(株式)調達を繰り返して急成長を目指すスタートアップとでは、設立時に求められる設計思想が根本的に異なります。
| 項目 | 一般的な中小企業 | スタートアップ(VC調達前提) |
|---|---|---|
| 設立時の株主構成 | 家族や知人、取引先を含めることがある | 創業メンバーのみ(代表者に株式を集中) |
| 設立時の発行済株式数 | 数百〜数千株程度(1株1万〜5万円等) | 1万株以上(1株あたりの単価を低く抑える) |
| 発行可能株式総数 | 発行済株式数の数倍程度にとどめる | 1000万〜1億株(発行済株式数の100〜1000倍) |
| 初期の資金調達手法 | 自己資金、金融機関からの融資が中心 | J-KISS等の有償新株予約権を活用した投資契約 |
スタートアップの場合、将来的にストックオプション(SO)を従業員に付与したり、複数回の増資を行ったりすることが前提となります。そのため、すべての株式に譲渡制限を設けた非公開会社として設立し、会社法上の制約(公開会社に適用される「発行可能株式総数は発行済株式数の4倍まで」とするルールなど)を受けずに、自由で柔軟な株式設計を行うことがベストプラクティスとされています。
設立前の最終確認チェックリスト
本記事で解説した、将来の急成長を支えるための事前の株式設計に関する要点を振り返ります。以下の項目が設立時の定款や登記内容に反映されているか、登記申請の前に必ず最終確認を行ってください。
- 代表取締役(リード創業者)単独で、議決権の3分の2(約66.7%)以上を確保できているか
- 設立時の株主は創業メンバーのみに限定し、外部資本が入っていないか(将来の希薄化対策)
- 1株あたりの単価を低く抑え、設立時の発行済株式数を「1万株以上」に設定しているか
- 将来の複数回の増資に備え、発行可能株式総数を十分に余裕のある数値に設定しているか
これらの要件を満たすことで、将来の株主総会における特別決議(定款変更や組織再編など)を代表者が単独で可決できる権限を維持しつつ、スムーズな資金調達環境を整えることができます。
最新トレンドへの対応と専門家への相談
近年では、シード期(創業初期)の資金調達手法として、創業直後の客観的な企業価値評価(バリュエーション)を先送りできる「J-KISS(コンバーティブル・エクイティ)」などのスキームが標準化しつつあります。
このような新しい有償新株予約権を用いた調達を迅速かつ低コストで行うためにも、設立時から十分な発行可能株式総数の枠を確保しておくなどの「事前の備え」が不可欠です。資本政策に正解は一つではなく、ビジネスモデルや創業チームの状況によって最適な形は常に変化します。
会社設立時の資本政策は、将来の資金調達ラウンド(シード、シリーズA以降)の成否を分ける極めて重要な土台です。取り返しのつかない失敗を防ぐためにも、自己判断だけで進めず、スタートアップ支援に強い専門家へ早期に相談することが成功の鍵となります。
登記手続きを代行する司法書士だけでなく、ベンチャーファイナンスに精通した弁護士や、税務・会計面から事業計画のアドバイスをくれる税理士などとチームを組むことが推奨されます。必要に応じて、日本政策金融公庫のスタートアップ向け融資制度などのデットファイナンス(借入)も並行して検討し、万全の資金計画で起業の第一歩を踏み出してください。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

