2026.06.30

会社設立

役員借入金は放置すると危険?会社設立初期の資金繰りと相続税リスク

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読了目安時間:約 14分

目次

役員借入金とは?仕組みと発生する主な原因

会社を設立したばかりの一人社長や、創業間もないスタートアップにおいて、個人の資金と会社の資金の境界線が曖昧になってしまうことは珍しくありません。その結果として、決算書に多額の計上がなされやすいのが「役員借入金」です。

このセクションでは、役員借入金がどのような性質を持つ勘定科目なのか、その基本的な仕組みと実務上で発生しやすい主な原因について詳しく解説します。

役員借入金の基本的な仕組み

役員借入金とは、会社の役員(主に創業者や代表取締役)が、個人のポケットマネーを会社に貸し付けた際に、会社側の帳簿へ計上される勘定科目のことです。税務上の役員の定義については、国税庁の公式サイト(役員の範囲)でも詳しく定められています。

会社側から見れば、社長個人の資金を入れてもらった状態であるため「社長に返す義務がある負債(借入金)」として貸借対照表(B/S)の負債の部に計上されます。一方で、お金を出した社長個人の視点から見れば、「会社から将来返してもらう権利(貸付金・債権)」となります。

つまり、役員借入金は会社にとっては負債であり、役員個人にとっては資産(債権)であるという、表裏一体の性質を持っていることが大きな特徴です。金融機関からの借入とは異なり、返済期限や利息の設定が自由であるため、手軽な資金補填の方法として利用されやすい傾向にあります。

役員借入金が発生する3つの主な原因

では、なぜ会社の帳簿に役員借入金が発生するのでしょうか。日々の経営活動において、主に以下の3つのパターンで計上されることが多く見られます。

発生原因 具体的な状況・ケース
1. 資金繰り悪化時の補填 設立初期で銀行融資が受けにくい時期に、社長が自己資金を運転資金として投入する
2. 会社経費の立替え 会社の消耗品や交通費を社長個人のクレジットカード等で支払い、未精算のまま累積する
3. 未払いの役員報酬 業績悪化により役員報酬を実際には支給せず、帳簿上のみ計上して未払い金として溜まる

1つ目の原因は、設立初期や一時的な資金繰り悪化時の補填です。創業間もない時期は、事業の実績がないため金融機関からの融資審査を通過するのが難しく、当面の運転資金や設備投資の支払いを社長個人の貯蓄から捻出することが多々あります。このとき、会社名義の口座へ振り込まれた個人の資金が役員借入金として処理されます。

2つ目は、役員による会社経費の立替えによるものです。例えば、会社のパソコンや事務用品、出張時の旅費交通費などを社長個人のクレジットカードや現金で支払ったとします。本来であれば速やかに会社から社長個人へ経費精算を行うべきですが、日々の業務に追われて精算手続きが後回しになり、未処理のまま累積していくことで役員借入金が少しずつ増加していきます。

3つ目は、未払いの役員報酬の累積です。会社の業績が一時的に芳しくなく、手元の現金が不足している場合、役員報酬を帳簿上は経費として発生させつつも、実際には社長の個人口座へ振り込まない措置をとることがあります。この未払い分は、最終的に会社が社長からお金を借りているのと同じ状態とみなされ、役員借入金へと振り替えられて溜まっていくケースがあります。

現状を把握し適切な経理処理を行うために

このように、日々の経営活動の中で役員借入金はごく自然に発生します。厳しい審査を経ずに迅速な資金調達ができる点は、創業期の会社にとって大きな助けとなるでしょう。

しかし、安易に個人の資金をつぎ込み続けることには注意が必要です。役員借入金をそのまま放置してしまうと、将来的に思わぬ税務上のリスクや相続時のトラブルを抱えることになります。

そのため、経営者としては役員借入金 メリット デメリットの双方を正しく理解し、適切な経理処理と資金管理を行うことが不可欠です。まずは自社の状況を以下のポイントで確認してみましょう。

  • 個人のクレジットカードで支払った会社経費は、定期的に精算処理をしているか
  • 会社への資金投入時、資本金(増資)とするか借入金とするか検討したか
  • 未払いの役員報酬が帳簿上に溜まり続けていないか
  • 直近の決算書(貸借対照表)に計上されている役員借入金の残高を正確に把握しているか

役員借入金の金額が膨らみすぎると、後述する相続税のリスクや、金融機関からの財務評価にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。自社の決算書を確認し、現状の金額を正確に把握することから始めましょう。判断に迷う点や不安なことがあれば、決算期を迎える前に税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

役員借入金の3つのメリット

会社設立直後や資金繰りが厳しい時期に、社長個人のポケットマネーを会社に入れることは珍しくありません。この一時的に補填した資金は、会社の帳簿上「役員借入金」として処理されます。

役員借入金には、経営の機動力を高める強力な利点がある一方で、放置すると将来的にリスクを伴う側面もあります。役員借入金 メリット デメリットを正しく理解し、自社の状況に合わせて適切に活用することが重要です。

ここでは、一人社長や創業期の経営者にとって特に恩恵が大きい「役員借入金の3つのメリット」について詳しく解説します。

メリット1:迅速かつ手軽な資金調達が可能

最大のメリットは、金融機関を通さずに必要なタイミングで即座に資金を用意できる点です。銀行や日本政策金融公庫から融資を受ける場合、事業計画書の作成や厳しい審査、担保の設定など、多くの手間と時間がかかります。

しかし、役員借入金であれば、煩雑な書類提出や審査の待ち時間は一切不要です。社長自身の判断ひとつで、個人の口座から会社の口座へ資金を移動させるだけで、即座に会社へ資金を導入できます。

特に創業直後でまだ会社の信用力が低い時期や、「急な支払いで明日までに現金が必要」といった緊急事態において、この機動性の高さは会社を守る大きな武器となります。

メリット2:金利や返済期限を自由に設定できる

役員借入金は、会社と役員個人との間の貸し借りであるため、契約条件を非常に柔軟に設定できます。金融機関からの借り入れとは異なり、毎月の決まった返済額や厳しい金利に縛られることはありません。

役員借入金は、無利息(金利ゼロ)としたり、返済期限を定めない(出世払いとする)設定にしても、税務上まったく問題がない点は経営者にとって大きな安心材料です。

会社の資金繰りに余裕がないうちは返済を猶予し、事業が軌道に乗って十分な利益が出るようになってから少しずつ個人へ返済していく、といった柔軟な対応ができるため、会社のキャッシュフローを圧迫せずに済みます。

メリット3:資本金を増やさずに「中小企業の優遇税制」を維持できる

会社に資金を入れる別の方法として「増資(資本金を増やす)」という選択肢もありますが、これには税務上のリスクが伴う場合があります。税法上、資本金が1億円を超えると「大企業」とみなされ、中小企業向けの様々な優遇税制が受けられなくなってしまうからです。

役員借入金であれば、資本金の額は据え置きのまま資金を補填できるため、中小企業としての税制メリットを損なう心配がありません。具体的には、以下のような優遇措置を維持できます。

  • 法人税の軽減税率の適用(年800万円以下の所得に対する税率軽減)
  • 交際費等の損金算入の特例(年間800万円まで全額を損金として計上可能)
  • 少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一度に経費計上可能)
  • 欠損金の繰戻しによる法人税の還付(赤字が出た際に前年の黒字と相殺して還付を受ける)

これらの特例に関する詳しい要件は、国税庁:交際費等の損金算入の特例などの公式サイトで確認することができます。

このように、役員借入金は増資に伴う登録免許税などの法務コストもかからず、節税メリットを享受し続けられる賢い資金調達方法と言えます。

役員借入金は手軽で柔軟な資金調達手段ですが、金額が膨らみすぎると決算書の見栄えが悪くなり、将来的な相続税リスクの火種にもなります。メリットだけでなくデメリットも把握した上で、定期的に税理士などの専門家に財務状況を相談し、適切な管理を心がけましょう。

役員借入金の2つのデメリットと放置するリスク

会社設立直後や資金繰りが厳しい時期において、社長個人の資金を会社に投入することは珍しくありません。この時、金融機関の審査を通さず迅速かつ柔軟に資金調達ができる点は、経営者にとって大きな利点です。

しかし、「役員借入金 メリット デメリット」を総合的に比較した際、特に経営者が警戒すべきなのは、長期的に返済せず放置した場合のリスクです。

個人のポケットマネーを会社に入れたままにしておくと、将来的に思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。ここでは、役員借入金を放置することで生じる2つの重大なデメリットについて詳しく解説します。

項目 役員借入金の特徴と影響
メリット 無審査・無担保で迅速な資金調達が可能。利息や返済期限も柔軟に設定できる。
デメリット1 役員死亡時に「貸付金債権」として相続税の課税対象となり、遺族の負担増に繋がる。
デメリット2 負債が膨らみ「債務超過」に陥りやすく、金融機関や取引先からの信用低下を招く。

デメリット1:将来の相続発生時に多額の相続税リスクを抱える

役員借入金を放置する最大の危険性は、将来の相続税への影響です。会社側から見れば「負債(役員借入金)」ですが、貸し付けた役員個人から見れば会社に対する「債権(貸付金)」という個人の財産になります。

もし、貸し手である役員(社長など)が亡くなった場合、この会社への貸付金は個人の「プラスの相続財産」として扱われます。つまり、国税庁が定める相続税の課税対象にそのまま含まれてしまうのです。

会社設立から年月が経ち、未払いの役員報酬や立て替え経費が積み重なって、役員借入金が数千万円規模に膨らんでいるケースは一人社長の会社などでよく見受けられます。この状態を漫然と放置しておくと、遺族に莫大な相続税が課される引き金になります。

さらに恐ろしいのは、会社に返済能力がなく実際には回収できないお金であっても、原則として帳簿上の額面通りに評価され課税される点です。

手元に現金が入ってこないにもかかわらず、多額の相続税だけを納めなければならないという、遺族にとって極めて過酷な状況に陥るリスクがあります。この相続税リスクの詳細や回避策については、次のセクションでさらに深掘りして解説します。

デメリット2:会社の財務状況が悪化し「債務超過」に陥るリスク

もう一つのデメリットは、会社の財務状況を示す貸借対照表(B/S)への悪影響です。役員借入金は返済期限や利息を自由に設定できるため、資金繰りに余裕がないうちは、つい返済を後回しにしてしまいがちです。

しかし、返済を行わずに放置し続けると、貸借対照表上の「負債の部」がどんどん膨らんでいきます。その結果、帳簿上で負債の総額が資産の総額を上回る「債務超過」の状態を作り出してしまう危険性があります。

債務超過は、会社の財務が不健全であることを示す明確なマイナスシグナルです。金融機関の融資審査において、役員からの借入金は「実質的な自己資本」として柔軟に評価されるケースもありますが、金額があまりにも多すぎると話は別です。

「経理がルーズな会社ではないか」「経営状態が慢性的に苦しいのではないか」と判断されやすくなります。また、新規の取引先が開示された決算書を見た場合、与信管理の観点から取引を見送られるなど、対外的な信用低下を招く恐れがあります。

役員借入金のリスクをチェックするポイント

現在、個人マネーを会社に貸し付けている一人社長や経営者の方は、決算書を確認し、役員借入金が適正な水準に保たれているか定期的に見直すことが重要です。

  • 直近の貸借対照表(B/S)に計上されている役員借入金の総額を確認する
  • 会社に役員借入金を返済するだけの現預金や利益の蓄積があるか把握する
  • 役員個人の財産状況と照らし合わせ、万が一の際の相続税額をシミュレーションする
  • 役員借入金が原因で債務超過に陥っていないか、または近づいていないかチェックする

役員借入金の計画的な返済や、貸付金を資本金に振り替える「DES(デット・エクイティ・スワップ)」など、具体的な対策には高度な税務・法務の専門知識が求められます。問題が深刻化する前に、信頼できる税理士などの専門家に相談し、適切な財務戦略を立てることを強くお勧めします。

役員借入金のメリット・デメリット比較と債務超過リスク

銀行融資と相続税への具体的な影響

会社設立直後で、個人のポケットマネーを会社に貸し付けている(または検討中の)一人社長にとって、役員借入金を活用するメリットと、放置することによるデメリットを正しく理解することは非常に重要です。

役員借入金は、金融機関のような厳しい審査や担保が不要であり、必要な時にすぐ資金調達ができるという大きな利点があります。しかし、その残高が膨らんだまま放置されると、将来的に銀行融資や相続税に思わぬ悪影響を及ぼす可能性があります。

ここでは、役員借入金がもたらす影響を、金融機関の視点と税務上のリスクから詳しく解説します。まずは全体像として、メリットとデメリットを以下の表で整理しておきましょう。

項目 メリット デメリット
資金繰り・融資審査 審査不要で迅速に調達可能。実質的な自己資本と評価されることが多い。 巨額すぎると「経理がルーズ」「本業が不振」とみなされ融資に悪影響。
税務・相続リスク 中小企業向けの優遇税制(資本金1億円以下)を維持したまま資金補填できる。 社長の死亡時、回収不能でも額面通りに相続税が課税されるリスクがある。

銀行融資への影響:実質的な自己資本とみなされるが例外も

金融機関が融資審査を行う際、貸借対照表(B/S)に計上されている「役員借入金」は、他の中長期的な借入金などの通常の負債とは異なる見方をされるのが一般的です。

社長個人から会社への貸付金は、外部への返済義務とは異なり「返済を急ぐ必要のないお金」として扱われます。そのため、金融機関の審査においては実質的に「自己資本(資本金と同等)」とみなされ、財務評価においてプラスに働くケースが多くあります。

しかし、この評価には例外もあります。役員借入金の金額があまりにも不自然に巨額であったり、毎年残高が増え続けていたりする場合は、金融機関からの見方が厳しくなります。

具体的には、「公私の境界が曖昧になっている」「経理処理がルーズである」、あるいは「本業の収益力が極めて低く、常に社長のポケットマネーで補填しなければならない状態」と判断される原因になります。

こうなると、実質的な自己資本と評価されるどころか、逆に融資審査でマイナス評価になるリスクが高まります。役員借入金は適正な金額に抑え、会社の収益から計画的に返済していく姿勢を金融機関に示すことが求められます。

相続税への影響:回収不能でも「額面通り」に課税される最大の罠

役員借入金を放置することの最大のデメリットは、社長(役員)に万が一のことがあった際に発生する相続税リスクです。

会社にとっては「負債」である役員借入金ですが、社長個人から見れば会社に対する「債権(貸付金)」という財産になります。したがって、社長が死亡した場合、この貸付金は「プラスの相続財産」として相続税の課税対象に含まれます。

ここで、多くの中小企業経営者が陥りやすい非常に恐ろしい罠が潜んでいます。

会社に返済能力がなく、実際には1円も遺族の手元に戻ってこない(回収不能な)お金であっても、税務上は原則として「額面通りの価値」があるものとして評価されてしまうのです。

例えば、設立初期から社長がコツコツと会社に運転資金を入れており、役員借入金の帳簿残高が5,000万円に膨らんでいたとします。会社は赤字続きで、この5,000万円を返済するための現預金は全くありません。

しかし、社長に相続が発生すると、この「回収不能な5,000万円」がそのまま相続財産に上乗せされます。結果として、手元に現金が入ってこないにもかかわらず、遺族には数百万〜数千万円規模の相続税が課される可能性があります。

これは、いわば黒字倒産ならぬ“相続破産”とも呼べる極めて危険な状態です。役員借入金は手軽な資金調達手段である反面、放置すれば遺族に重い負担を強いるリスクを孕んでいます。

貸付金債権等の評価については、原則としてその元本価額(額面)によって評価されます。会社が破産手続き中であるなど回収が不可能であると認められる特段の事情がない限り、手元に戻らない資金であっても課税対象となる点に十分ご留意ください。
参考:国税庁|貸付金債権等の評価

このような事態を防ぐためには、役員借入金が膨らむ前に、会社の状況を正確に把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。以下のポイントを定期的に確認することをおすすめします。

  • 決算書を確認し、役員借入金の残高が必要以上に膨らんでいないかチェックする
  • 未払いの役員報酬が役員借入金として累積していないか、適正な報酬額を見直す
  • 会社に現預金の余裕があるうちに、計画的に社長個人への返済を進める
  • 多額の残高がある場合、資本金への振り替え(DES)や債権放棄の可能性を検討する

役員借入金の解消には、税務上の複雑なルールが絡むため、自己判断での処理は危険です。最終的な判断や具体的な手続き(債権放棄や資本金への振り替えなど)については、法人税務や相続対策に詳しい税理士などの専門家に必ずご相談ください。

回収不能な役員借入金に課される相続税のイメージ図

混同しやすい「役員貸付金」との決定的な違い

「役員借入金」と名前が似ているため、経理処理の現場でしばしば混同されがちな勘定科目に「役員貸付金」があります。言葉の響きは似ていますが、この2つはお金の流れる方向が全く逆です。

一人社長が役員借入金 メリット デメリットを正しく理解し、安全な資金繰りを行う上で、この「役員貸付金」との決定的な違いは絶対に押さえておくべきポイントです。税務や銀行融資に与える影響には、天と地ほどの差があります。

お金の流れと性質の根本的な違い

役員借入金が「役員が個人のポケットマネーを会社に貸す」状態であるのに対し、役員貸付金は「会社が役員にお金を貸す(役員から見れば会社からの借金)」状態を指します。

会社設立直後の創業期は、個人の財布と会社の財布の境界が曖昧になりがちです。例えば、会社の口座から個人の生活費を引き出したり、個人的な買い物を会社の経費として処理しようとして否認されたりした場合、それらはすべて会社から社長への「役員貸付金」として処理されてしまいます。

比較項目 役員借入金 役員貸付金
お金の流れ 役員 → 会社に貸す 会社 → 役員に貸す
会社の帳簿上の扱い 負債(借入金) 資産(貸付金)
利息の設定 無利息でも問題なし 適正利息の徴収が必須
銀行融資への影響 実質的な自己資本とみなされる 極めて厳しくマイナス評価

銀行融資の審査における致命的な悪影響

役員貸付金は、会社の帳簿(貸借対照表)上では「資産」として計上されます。しかし、金融機関からの評価は全く異なり、融資審査において極めて厳しい目で見られます。

銀行の担当者は、役員貸付金が存在する決算書を見ると「会社の事業資金を社長が私的に流用している」「融資をしても事業に使われず、個人のポケットに入ってしまうのではないか」と疑念を抱きます。さらに、役員個人からの返済が見込めるケースは少なく、実質的な不良債権として扱われるのが一般的です。

そのため、多額の役員貸付金が残っている状態での融資申請は、ほぼ一発アウトに近い致命的なマイナス評価を受けることになります。これから事業を拡大するために金融機関からの資金調達を検討している場合、絶対に避けるべき危険な状態と言えます。

「適正利息」の徴収義務と無駄な法人税の発生

税務上の取り扱いも、役員借入金とは大きく異なります。役員借入金の場合は、会社が役員に利息を払わなくても(無利息でも)税務上問題になることはありません。これは会社設立初期の資金繰りを助ける大きなメリットです。

一方で、役員貸付金の場合は、無利息での貸付が原則として認められません。会社は役員に対して、税務上定められた「適正な利息」を徴収する法的な義務があります。国税庁のルールに基づき、銀行からの借入金利などをもとに適正な利率を設定しなければなりません。

さらに厄介なのは、この徴収すべき「受取利息」は会社の収益(利益)として計上しなければならない点です。つまり、実際には社長から利息の現金を受け取っていなかったとしても、帳簿上は利益が出ているとみなされ、その架空の利益に対して法人税が課税されてしまうのです。

役員に対する金銭の貸付けについては、原則として、会社が他から借り入れて貸し付けた場合におけるその借入金の利率や、貸付けを行った日の属する年の特例基準割合による利率など、適正な利率による利息を徴収する必要があります。

参考:国税庁「No.5275 役員に対する金銭の貸付け」

このように、役員貸付金は銀行融資の道を閉ざすだけでなく、会社に無駄な税負担まで生み出すリスクを孕んでいます。もし既に決算書に役員貸付金が発生してしまっている場合は、役員報酬を増額してその手取りから返済に充てる、あるいは個人の資産を売却して清算するなど、早急に解消に向けた対策を顧問税理士などの専門家に相談することを強くお勧めします。

役員借入金と役員貸付金の比較表

溜まった役員借入金を解消する4つの方法

会社設立の初期段階や資金繰りが厳しい時期において、社長個人のポケットマネーを会社に入れることは珍しくありません。金融機関の審査を通さず迅速に資金調達ができ、利息や返済期限を柔軟に設定できるなど、役員借入金 メリットは確かに多く存在します。

しかし、金額が膨らんだまま長期的に帳簿に残り続けると、さまざまな問題を引き起こします。特に、貸し付けた役員が亡くなった際、会社に返済能力がなくても帳簿上の額面通りに個人の相続財産とみなされ、多額の相続税が課税されてしまう点は、絶対に見過ごせない役員借入金 デメリットです。

手元に現金がないのに税金だけが発生するという最悪の事態を防ぐためにも、早い段階で計画的に解消していく必要があります。ここでは、溜まってしまった役員借入金を安全かつ効果的に解消するための4つの実務的な方法を解説します。

方法1:役員報酬を減額して「借入金の返済」に充てる

最も確実で、個人のキャッシュフローにも優しいのが、役員報酬(給料)の額面を下げ、その下がった分を「役員借入金の返済」として会社から受け取るスキームです。会社の資金繰り負担を変えずに、帳簿上の負債を少しずつ減らしていくことができます。

役員報酬として受け取るお金には、個人の所得税や住民税、そして社会保険料が重くのしかかります。しかし、会社から「借入金の返済」として受け取るお金は給与ではないため、税金や社会保険料は一切かかりません。

結果として、役員個人の手元に残る現金を維持、あるいは社会保険料等の負担が減る分だけ増やしながら、会社の負債を安全に減らしていくことが可能です。以下の表は、月額の支給総額を変えずに内訳を見直した際のイメージです。

項目 現状(役員報酬のみ) 見直し後(報酬減額+返済)
会社からの支払総額 月額80万円 月額80万円
内訳:役員報酬の額面 月額80万円 月額50万円
内訳:役員借入金の返済 0円 月額30万円
税金・社会保険料の対象 80万円全額が対象(負担大) 50万円のみ対象(負担軽減)
会社の負債(役員借入金) 減らない(そのまま残る) 毎月30万円ずつ減少する

ただし、役員報酬の金額を変更する場合は、法人税法上の「定期同額給与」のルールに従う必要があります。原則として、事業年度開始の日から3ヶ月以内でなければ報酬額の改定は認められません。タイミングを誤ると会社の経費(損金)として認められなくなるため、実行時期には十分注意してください。

参考:国税庁「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

方法2:債務免除(債権放棄)を行う

役員が会社に対して「貸したお金はもう返さなくていい」と意思表示し、債権を放棄する方法です。会社側から見れば借金が消滅するため、貸借対照表(B/S)上の負債が減り、財務体質が一気に改善するメリットがあります。

しかし、税務上は消滅した借金と同額の「債務免除益」という利益(雑収入)が会社に発生したとみなされます。過去の赤字(繰越欠損金)と相殺できる範囲内で行わなければ、会社に対して多額の法人税が課税される点に極めて高い注意が必要です。

また、同族会社の場合、借金がなくなることで会社の純資産が増加し、株式の評価額(株価)が上昇します。これにより、借入金を放棄した役員以外の株主(親族など)に対して、経済的利益が移転したとみなされ「みなし贈与税」が課されるリスクも潜んでいます。

実行にあたっては、取締役会や株主総会での決議議事録の作成、および役員から会社宛ての「債権放棄通知書」を内容証明郵便で送付するなど、税務調査に耐えうる客観的な証拠を残す法的手続きが不可欠です。

方法3:DES(デット・エクイティ・スワップ:債務の株式化)を実行する

DES(Debt Equity Swap)とは、役員が会社に対して持っている「貸付金(債権)」を現物出資という形で会社に提供し、その代わりに会社の「株式」を新たに発行して取得する手法です。

会社から現金を流出させることなく、借入金という「負債」を「資本金(純資産)」に振り替えることができます。これにより、会社の自己資本比率が劇的に改善し、貸借対照表(B/S)が健全化するため、銀行融資の審査において非常に有利な評価を得やすくなります。

一方で、資本金が増加することによる税務上のデメリットには警戒が必要です。資本金が1,000万円以上になると消費税の免税事業者期間の要件から外れる可能性があるほか、資本金が1億円を超えると法人税の軽減税率など「中小企業向けの税制優遇」が受けられなくなります。

また、DESの実行には会社法に基づく募集株式の発行手続きや、現物出資に関する調査、法務局への変更登記など、複雑な手続きが求められます。自社の状況に適しているかどうか、事前に税理士や司法書士と綿密にシミュレーションを行うことが重要です。

方法4:生前贈与を活用して少しずつ相続人に引き継ぐ

役員借入金は、役員個人の財産(債権)であるため、現金や不動産と同じように他者へ贈与することができます。この性質を利用し、贈与税の基礎控除(年間110万円以下は非課税)の枠を活用して、子どもや孫などの将来の経営後継者へ毎年少しずつ債権を移転していく方法です。

この手法の最大のメリットは、役員本人の相続財産を確実かつ無税で減らすことができ、将来的な相続税リスクの軽減に直結する点です。何もしなければ額面通りに相続税が課される危険な財産を、安全に次世代へ移すことができます。

そして、将来的に会社の資金繰りが安定したタイミングで、会社から債権を引き継いだ子どもに対して返済を行えば、結果として次世代へ現金を無税で移転したことと同じ効果を得ることが可能になります。

参考:国税庁「贈与税がかかる場合」

ただし、税務署から「名義預金」や「定期贈与(最初から多額の贈与をする意図があった)」とみなされないよう、毎年適切な時期に贈与契約書を作成し、会社側でも債権者の名義変更手続きを正しく帳簿に反映させる必要があります。

  • 現在の役員借入金の正確な残高を帳簿(決算書)で確認する
  • 自社の繰越欠損金(過去の赤字)の残高と期限を把握する
  • 次期の役員報酬改定のタイミング(期首から3ヶ月以内)を確認する
  • 現在の会社の資本金額と、増資した場合の税務上の影響をシミュレーションする
  • 解消手続きを進める前に、必ず顧問税理士などの専門家に相談し方針を決定する

役員借入金の解消は、会社の財務状況、役員個人の所得税・社会保険料、そして将来の相続税・贈与税が複雑に絡み合う高度な経営課題です。自社にとってどの方法が最適かはケースバイケースであるため、自己判断で進めず、必ず税理士などの専門家のアドバイスを受けながら慎重に実行してください。

役員借入金を解消する4つの方法の比較マトリクス

まとめ:役員借入金は早期に対策を立てて健全な財務へ

会社設立初期の資金繰りにおいて、役員借入金は非常に便利なツールです。社長個人のポケットマネーを会社に貸し付けるだけで、金融機関のような厳しい審査や担保設定を待つことなく、迅速に運転資金を確保できます。利息や返済期限も柔軟に設定でき、無利息とすることも税務上問題ありません。

しかし、この役員借入金 メリット デメリットを正しく理解せず、長期間にわたって帳簿上に放置してしまうと、後々大きなトラブルを引き起こす可能性があります。特に注意すべきなのが、「相続税」と「債務超過」という2つの時限爆弾です。

会社に返済能力がなく、実際には社長の手元に戻ってこないお金であっても、役員借入金は額面通りに相続税の課税対象となってしまいます。手元に現金がないにもかかわらず多額の相続税だけが発生するという事態は、残されたご家族にとって極めて深刻な問題です。

また、負債が膨らむことで貸借対照表(B/S)上は債務超過となり、将来的な銀行融資の審査において不利に働くリスクも否めません。役員借入金が相続税の対象となる根拠については、国税庁「相続税がかかる財産」のページでも確認できます。

こうした事態を防ぐためには、早期に対策を立て、会社の財務体質を健全化していくことが不可欠です。まずは直近の決算書(貸借対照表)を見直し、自社にいくらの役員借入金が計上されているかを正確に把握することから始めましょう。

  • 直近の貸借対照表を確認し、役員借入金の総額を把握する
  • 毎月の役員報酬の額を見直し、少しずつ会社から返済できる余力があるか検討する
  • 役員借入金を資本金に振り替える(DES:デット・エクイティ・スワップ)などの対策を検討する
  • 債務免除(社長が会社への返済請求権を放棄する)を行う場合の税務上の影響を確認する

役員借入金の解消方法にはいくつかの選択肢がありますが、それぞれに税務上の罠が潜んでいます。たとえば、社長が会社に対する債権を放棄して借入金を帳消しにする「債務免除」を行った場合、会社側には「債務免除益」という利益が発生し、法人税の課税対象となる恐れがあります。

また、他の株主がいる場合には「みなし贈与」として贈与税の問題が生じるケースもあります。そのため、役員借入金の解消手続きを自己判断で進めるのは非常に危険です。会社の財務状況や将来の事業計画、そして社長個人のライフプランを総合的に考慮した上で、最適な解消方法を選択する必要があります。

これから会社を設立して個人資金を投入しようとお考えの方や、すでに帳簿に多額の役員借入金が計上されている一人社長の方は、決してそのまま放置しないでください。役員借入金の解消には専門的な知識が不可欠ですので、必ず税理士などの専門家に相談しながら、計画的かつ安全に財務の健全化を進めていきましょう。

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

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