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税制適格ストックオプションとは?最新要件と上限額を解説
読了目安時間:約 9分
目次
導入文
税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法上の一定要件を満たすことで、権利行使時の経済的利益に対する課税を株式売却時まで繰り延べられる制度です。税制上のメリットを受けるには、付与対象者や権利行使価額、行使期間などを付与前に適切に設計する必要があります。
人材採用や役員・従業員へのインセンティブとして有効な選択肢になり得る一方、要件が多く、制度改正も踏まえた確認が欠かせません。2023年度・2024年度税制改正では、権利行使期間、年間権利行使価額の限度額、取得株式の管理方法などが見直されました。
本記事では、税制適格となる要件や会社の設立年数などに応じた上限額、税金の計算方法、付与から株式売却までの実務上の注意点を整理します。制度導入後では修正が難しい事項もあるため、契約や発行条件を決める前の確認が重要です。
内容は2026年9月7日時点で確認できる公的情報を基準としています。法改正や会社・付与対象者の個別事情によって取扱いが異なる可能性があるため、最終的な制度設計と税務・法務判断は税理士や弁護士などの専門家へご確認ください。
税制適格ストックオプションとは?税金が発生するタイミング
税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法第29条の2の要件を満たし、権利行使時の課税を株式売却時まで繰り延べる制度です。付与時と権利行使時には原則として課税されず、売却時に譲渡所得として課税されます。
| タイミング | 税制適格の場合 | 課税内容 |
|---|---|---|
| 付与時 | 原則課税なし | 課税関係は生じない |
| 権利行使時 | 課税なし | 売却時まで繰延べ |
| 株式売却時 | 課税あり | 差額を譲渡所得として課税 |
売却時の譲渡所得は、原則として「売却価格-権利行使価額」で計算します。例えば、権利行使価額が200、売却価格が1,000なら譲渡益は800となり、取得した株式の取得価額は権利行使時の時価ではなく、実際の払込価額です。
一方、税制非適格ストックオプションでは、原則として権利行使時の「行使時の株価-権利行使価額」が給与所得などとして課税されます。税制適格の場合は、この経済的利益を権利行使時に課税せず、株式売却時に株式譲渡所得としてまとめて課税する点が大きな違いです。
国税庁の資料によると、株式譲渡所得の税率は原則20.315%です。これに対して給与所得には累進税率が適用され、所得税と住民税を合わせた税率が最高約55%になる場合があります。
税制適格ストックオプションは非課税制度ではなく、課税時期を繰り延べ、所得区分の違いを生じさせる制度です。採用や役員・従業員へのインセンティブとして導入する際は、想定する課税関係が成立するか、付与前に税理士などへ確認することが重要です。

税制適格ストックオプションの対象者と基本要件
税制適格ストックオプションの主な対象者は、発行会社や一定の子会社等の役員・従業員です。一定のスタートアップでは社外高度人材も対象となり得ますが、大口株主など対象外となる人もいるため、付与前の確認が欠かせません。
誰に付与できる?
対象者に該当し得るのは、発行会社の取締役・執行役・使用人、一定の資本関係にある子会社等の取締役・執行役・使用人です。認定制度の要件を満たす社外高度人材も含まれます。
- 発行会社の取締役・執行役・使用人である
- 一定の資本関係にある子会社等の取締役・執行役・使用人である
- 認定制度の要件を満たす社外高度人材である
- 発行会社の大口株主またはその特別関係者に該当しない
発行会社の大口株主とその特別関係者は対象外です。大口株主の判定は資本関係や上場・非上場などによって異なるため、株主名簿や関係者の持株状況を整理し、税理士などへ個別に確認することが適切です。
社外の専門人材も対象になる?
設立10年未満などの要件を満たす一定の株式会社では、社外の高度な専門人材も対象となる可能性があります。その場合は「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」を策定し、主務大臣の認定を受ける必要があります。
計画の認定だけで税制適格になるわけではなく、税制適格ストックオプションの各要件を別途満たさなければなりません。対象会社や人材の要件は、経済産業省のストックオプション税制ガイダンスなどで確認してください。
付与時に確認すべき基本要件は?
対象者への無償付与と譲渡禁止が基本です。さらに、権利行使による株式交付が会社法上の募集事項に反せず、法定要件が付与契約へ適切に盛り込まれている必要があります。
- 対象者へ無償で付与する
- ストックオプションの譲渡を禁止する
- 株式交付が会社法上の募集事項に反しない
- 必要な法定要件を付与契約に盛り込む
なお、有償で取得する新株予約権は、通常の税制適格ストックオプションとは異なる税務上の検討が必要です。募集事項や付与契約を確定する前に、税理士や弁護士などの専門家へ確認することをおすすめします。
権利行使期間と権利行使価額の要件は?
税制適格ストックオプションでは、権利行使の時期と1株当たりの権利行使価額の双方に要件があります。原則として付与決議日後2年から10年までに行使し、権利行使価額は付与契約締結時の株価相当額以上に設定します。
権利行使できる期間はいつからいつまでですか?
原則的な始期は付与決議日後2年を経過した日、終期は付与決議日後10年を経過する日です。ただし、付与決議日時点で設立後5年未満の一定の非上場会社は、終期が15年まで延長されます。
| 発行会社 | 権利行使期間 |
|---|---|
| 原則 | 決議日後2年から10年 |
| 一定の非上場会社 | 決議日後2年から15年 |
M&A、上場、退職などが発生した場合に限り、法定期間内のさらに短い期間だけ行使できる条件を設けても、直ちに要件違反になるとは限りません。ただし、契約上の行使条件と税法上の期間要件が整合するよう、付与前に設計する必要があります。
権利行使価額はどのように決めますか?
1株当たりの権利行使価額は、原則として付与契約締結時の1株当たりの価額相当額以上に設定します。付与契約の締結日が付与決議日または募集事項決定日から6か月以内なら、一定の条件のもと、その決議日時点の株価を基準にできます。
上場会社では、原則として市場の取引相場価額を用います。非上場会社では株価算定が税制適格ストックオプションの重要な実務になるため、次の資料を順に確認します。
- おおむね6か月以内の適正な売買実例
- 株式公開途上の場合の公募価格など
- 類似会社の株価
- 純資産価額などを参酌した価額
一定の条件を満たす非上場株式では、財産評価基本通達の例による特例方式も選択できます。増資は売買実例になり得ますが、新株予約権の発行や行使は売買実例には該当しない点に注意が必要です。
株価算定の誤りは適格要件の判定に影響し得るため、算定根拠となる契約書や増資資料を保存し、付与前に税理士などの専門家へ確認するとよいでしょう。詳しい評価方法は、国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」も参照してください。

年間権利行使価額の上限はいくら?会社別の早見表と計算例
税制適格ストックオプションの年間権利行使価額は、会社の設立年数や上場後の期間により、実質1,200万円・2,400万円・3,600万円のいずれかです。会社の状況は、原則として権利行使日ではなく付与決議日を基準に判定します。
| 付与決議日時点の会社状況 | 年間上限 | 計算方法 |
|---|---|---|
| 設立後5年未満 | 2,400万円 | 各回の行使額÷2 |
| 設立後5年以上20年未満・非上場 | 3,600万円 | 各回の行使額÷3 |
| 設立後5年以上20年未満・上場後5年未満 | 3,600万円 | 各回の行使額÷3 |
| 設立後20年以上 | 1,200万円 | 行使額を合計 |
| 設立後5年以上20年未満・上場後5年以上 | 1,200万円 | 行使額を合計 |
| その他、拡充要件を満たさない会社 | 1,200万円 | 行使額を合計 |
上限判定の基礎は株式の時価や含み益ではなく、「1株当たりの権利行使価額×行使株式数」です。制度の詳細は、経済産業省「ストックオプション税制」でも確認できます。
2,400万円枠と3,600万円枠はどう計算する?
2,400万円枠では各回の権利行使価額を2で割り、3,600万円枠では3で割った判定額を暦年で合計します。その合計が1,200万円以下であれば、限度額要件を満たします。
計算例:2,400万円枠
年間の権利行使価額が2,000万円の場合、判定額は「2,000万円÷2=1,000万円」です。1,200万円以下のため、限度額要件を満たします。
計算例:3,600万円枠
1株100円で1万株を1回行使すると、権利行使価額は100万円です。「100万円÷3=333,333.333…円」の1円未満を切り上げ、333,334円を年間合計に加えます。
2または3で割る計算と端数処理は、年間総額に一度だけ行うのではなく、1回の権利行使ごとに行います。同じ年に複数回行使する場合は各回の判定額を合計するため、年末付近では翌年へのスケジュール調整も検討してください。
- 会社側と付与対象者の双方で行使日を記録する
- 各回の行使株数と権利行使価額を記録する
- 各回の判定額と暦年の累計額を管理する
付与決議日や上場日の判定、複数回行使の端数計算を誤ると適格性に影響する可能性があります。実際の付与・行使前には、税理士などの専門家へ確認することが重要です。


付与から株式売却まで、実務はどのように進む?
税制適格ストックオプションの実務は、対象者の確認、株価算定、制度設計、社内決議・契約、権利行使、株式管理、売却後の申告という順に進めます。付与後の修正が難しい項目もあるため、決議や契約の前に税務・会社法の要件を一体で確認することが重要です。
- 対象者と付与目的を決める
採用、定着、業績向上などの目的を明確にし、対象者が役員・従業員または所定の要件を満たす社外高度人材に該当するか確認します。 - 株価と権利行使価額を検討する
直近の増資や株式売買の有無を調べ、株価を算定します。算定方法、基準日、参照資料を記録し、権利行使価額を決めた根拠を残します。 - 新株予約権の内容を設計する
行使期間、行使価額、譲渡禁止、退職時の取扱いなどを定めます。税制要件だけでなく、人材へのインセンティブとして機能する条件かも検討します。 - 決議・契約を行う
株主総会や取締役会で必要な決議を行い、会社法上の手続きを経て付与契約を締結します。必要な決議機関や手続きは会社の状況により異なるため、専門家への確認が必要です。 - 権利行使を管理する
行使の都度、行使日、株数、行使価額を記録し、年間権利行使価額の上限を確認します。2または3で割る判定が必要な場合は、各回の行使額ごとに計算し、1円未満を切り上げます。 - 取得株式を管理する
取得した株式は、証券会社等または発行会社による所定の方法で管理し、税制適格の管理要件を満たしているか確認します。 - 売却後に申告する
株式売却後は、売却価格から権利行使価額などを差し引いて譲渡所得を計算し、必要な申告を行います。
どの資料を保管しておくべきですか?
付与時の適格性や売却時の取得価額を説明できるよう、設計段階から資料を整理しておきます。特に、株価算定の根拠と権利行使の履歴は、後から確認できる状態にすることが大切です。
- 株主総会・取締役会の議事録、付与契約書
- 株価算定資料、直近の増資・株式売買に関する資料
- 権利行使日・株数・行使価額の記録
- 株式の保管・管理に関する取決め
- 売却価格や取得価額を確認できる資料
制度設計や会社法上の手続き、申告方法には個別判断が伴います。実行前に税理士や司法書士などの専門家へ相談し、税制適格ストックオプションの要件を工程ごとに確認してください。

要件を満たさないとどうなる?よくある注意点
税制適格ストックオプションの要件から外れると、権利行使時の経済的利益が給与所得などとして課税される可能性があります。適格扱いを前提に資金計画を立てている場合、株式売却前に想定外の納税資金が必要になるおそれがあります。
見落としやすい要件はどこですか?
付与条件だけでなく、会社年齢の基準日、年間上限の計算方法、株式の管理方法まで確認が必要です。特に、次の項目は契約書や行使記録と照合してください。
- 権利行使価額が、付与時の株価を下回っていないか
- 会社年齢を付与決議日基準で判定しているか
- 年間上限を株式時価や売却益ではなく、権利行使価額で判定しているか
- 複数回行使した際、2または3で割る計算と1円未満の切り上げを行使ごとに処理しているか
- 契約上の行使期間が法定の期間から外れていないか
- 取得株式の保管・管理に関する取決めが整っているか
- 社外高度人材の計画認定だけで適格になると誤解していないか
年間上限や端数処理を誤ると、行使額の管理結果が変わり得ます。また、社外高度人材も認定に加え、租税特別措置法上の要件を満たす必要があります。制度の詳細は経済産業省「ストックオプション税制」などで確認できます。
設計時に適格性を確認していても、権利行使時には最新の法令・契約内容・行使実績を再点検することが重要です。課税関係は個別事情で異なるため、行使前に税理士や弁護士などの専門家へ相談してください。
まとめ|税制適格ストックオプションは付与前の要件確認が重要
税制適格ストックオプションは、要件を満たすことで、権利行使時の経済的利益に対する課税を株式売却時まで繰り延べられる制度です。採用や役員・従業員へのインセンティブに活用する場合は、付与前に制度設計を固めることが重要です。
適用を受けるには、対象者の範囲、無償付与、権利行使期間、権利行使価額、年間上限、譲渡制限、取得株式の管理など、複数の要件を継続して満たす必要があります。一つの条件だけで判断せず、契約書や新株予約権の発行内容、行使後の管理方法まで一体として確認しましょう。
- 付与対象者が税制上の要件を満たすか
- 権利行使期間と行使価額の設定が適切か
- 年間の権利行使価額が限度額を超えないか
- 譲渡制限と株式管理の方法が整っているか
年間上限は一律ではなく、付与決議日時点の設立年数や上場状況により、1,200万円、2,400万円、3,600万円に分かれます。将来の行使計画だけでなく、各付与分について、どの上限が適用されるかを決議時点の会社状況から判定する必要があります。
対象者や行使価額など、契約締結後には修正しにくい論点があるため、付与決議前から確認を始めましょう。経営者、人事、法務、経理で条件を共有したうえで、税制適格性の最終判断は税理士や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
記事末尾に掲載する主な参考資料
本記事は、2026年9月7日時点で確認できた以下の公的資料をもとに、税制適格ストックオプションの課税関係や適用要件、2024年度税制改正の内容を整理しています。制度の適用を検討する際は、必ず最新の法令・公表資料もご確認ください。
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」
- 国税庁「No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」
- 経済産業省「ストックオプション税制」
- 経済産業省「ストックオプション税制に関するガイダンス」
- 財務省「令和6年度税制改正」
なお、会社設立費用、社会保険、インボイス制度、法人設立届出は検索意図が異なるため、本記事の対象外としています。これらの情報を掲載する場合は、関連記事または「法人設立時の参考情報」への内部リンクとして分離します。
税制適格ストックオプションは、付与契約や株価評価、権利行使条件を設計する段階で要件を確認することが重要です。個別の判断に迷う場合は、付与前に税理士や司法書士などの専門家へ相談し、自社の資本政策や契約内容に即して確認してください。
よくある質問
Q. 税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの違いは何ですか?
税制適格の場合、付与時と権利行使時には原則として課税されず、株式売却時に譲渡所得として課税されます。税制非適格の場合は、原則として権利行使時の株価と権利行使価額の差額が給与所得などとして課税されます。
Q. 税制適格ストックオプションの権利行使期間はいつからいつまでですか?
原則として、付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日までです。ただし、付与決議日時点で設立後5年未満の一定の非上場会社は、終期が15年まで延長されます。
Q. 税制適格ストックオプションの年間権利行使価額の上限はいくらですか?
年間上限は、付与決議日時点の会社の設立年数や上場状況により、実質1,200万円・2,400万円・3,600万円のいずれかです。判定の基礎は株式の時価や含み益ではなく、「1株当たりの権利行使価額×行使株式数」となります。
Q. 権利行使で取得した株式は自由な証券口座へ移管できますか?
取得株式は、証券会社等への保管委託または一定の条件を満たす発行会社による管理が必要です。付与対象者の判断で別口座へ移管すると、あらかじめ定めた管理方法から外れるおそれがあるため、権利行使前に管理先と手続きを確認してください。
Q. 税制適格ストックオプションの要件を満たさないとどうなりますか?
要件から外れると、権利行使時の経済的利益が給与所得などとして課税される可能性があります。株式売却前に想定外の納税資金が必要になるおそれがあるため、行使前に最新の法令や契約内容を確認し、税理士などへ相談することが重要です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

