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会社が福利厚生の一環として、従業員に提供する住居を社宅と言います。しかし、社宅は従業員に提供するケースだけでなく、役員に提供する場合もあります。役員に提供する社宅を役員社宅と言いますが、役員社宅も一定の条件を満たし、役員から家賃を受け取れば、会社の経費として計上することが可能です。役員社宅は経費に計上することで、会社の課税所得額を抑えられるというメリットがあり、節税目的で役員社宅制度を導入する企業も少なくありません。では、役員社宅を経費にする場合、どのくらいの家賃を役員から受け取ればよいのでしょうか。
今回は、役員社宅を経費にするメリットや経費にできる家賃の条件などについてご説明します。
目次
役員社宅制度を使う場合、役員が支払う家賃と実際の家賃の差額を会社側が負担します。この負担額を経費として計上することが可能です。しかしながら、役員社宅を無条件で経費にできるわけではなく、役員社宅の会社負担額を経費にするためには一定の条件を満たす必要があります。
役員社宅とは、従業員ではなく、役員が住む社宅のことです。従業員を対象とした社宅の場合、会社が保有している物件に従業員が住むイメージが強くなりますが、役員社宅の場合は、会社名義で物件の賃貸契約を結んだ住宅を、役員に貸し出すケースが多くなっています。
賃貸物件を役員社宅として使用する場合、役員社宅の会社負担分を経費として計上するためには、次の条件を満たす必要があります。
賃貸物件の契約を締結する際には、法人名義で契約を結ばなければなりません。役員が個人名義で契約した賃貸住宅を社宅として扱うことはできない点に注意が必要です。
役員社宅を経費と計上するためには、家賃の一部を役員自身が負担しなければなりません。
役員から家賃の一部を受け取っていることを証明できない場合、税務調査時に経費計上が認められない恐れもあります。そのため、役員負担分の家賃に関しては、役員報酬から天引きする形にしておくとよいでしょう。
役員住宅は、物件の床面積によって3つの種類に区分されており、どの種類の役員社宅に居住するかによって、役員が支払うべき家賃の額は変わってきます。
社宅を経費として扱うためには、賃貸借契約を締結している法人から物件のオーナーに家賃を支払わなければなりません。法人が法人負担分の家賃を役員に渡し、役員からオーナーに家賃を支払うという形は認められていない点に注意が必要です。
国税庁では、役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1ヶ月あたり一定額の家賃(賃貸料相当額)を受け取っていれば、給与として課税しないとしています。
そのうえで、役員から受け取る家賃の額は、貸与する床面によって小規模な住宅とそれ以外の住宅に分けて算出することが決められています。また、一般的な社宅とは考えにくい住宅の場合は、また異なる家賃算出法が用いられます。
小規模住宅に該当する社宅は、次のいずれかの条件を満たす住宅です。
・法定耐用年数が30年以下の建物の場合:床面積が132㎡以下である
・法定耐用年数が30年を超える建物の場合:床面積が99㎡以下である(区分所有の建物は、共有部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えて判定)
木造の戸建て住宅の法定耐用年数は22年です。したがって、木造の戸建て住宅を社宅として貸与する場合、床面積が132㎡以下であれば小規模住宅に該当します。
また、鉄筋コンクリート造のマンションの法定耐用年数は47年です。そのため、鉄筋コンクリート造のマンションの一区分を社宅として役員に貸与する場合、共用部分の面積を按分し、加えた面積が99㎡以下であれば、小規模住宅に該当します。
このように、小規模住宅と言っても、建物の種類によって法定耐用年数が異なり、小規模住宅に該当する面積が変わってきます。社宅を選ぶ際には、この点にも十分注意する必要があります。
豪華社宅であるかは、床面積が240㎡を超えている住宅のうち、取得価額や支払賃料の額、内外装の状況などを総合的に勘案して判定されるようになります。ただし、床面積が240㎡以下であっても、プールが設置されていたり、役員個人の好みを著しく反映した設備を持つ住宅は、豪華社宅に該当するとされています。
通常、従業員に社宅を貸与する際、プール付きの物件やカラオケルームなどの設備を持つ住宅を貸与するケースはありません。そのため、床面積が240㎡を超えるだけでなく、社会通念上想定される社宅の範疇を超える豪華な設備が付帯されている住宅は、豪華住宅として判定されます。
小規模住宅の範囲は超えるけれども、豪華社宅にも該当しない社宅という区分も出てきます。次のような条件を満たす建物が、小規模住宅以上、豪華社宅未満の社宅として扱われます。
・法定耐用年数が30年以下の建物で床面積が132㎡以上240㎡以下の建物
・法定耐用年数が30年を超える建物で床面積が99㎡以上240㎡以下の建物
役員社宅を貸与する際、会社負担分の家賃を経費として扱うためには、役員から一定以上の家賃を受け取らなければなりません。ここで問題になるのが、一定以上の家賃の額です。家賃を役員から受け取っていたとしても、受け取っている家賃の額が低すぎる場合、会社負担分の家賃を経費として扱うことはできません。
役員社宅の家賃を経費として扱いたい場合には、次の基準に従って家賃を算出し、役員から家賃の一部を受け取る必要があります。
小規模住宅に該当する住宅を社宅として貸与する場合は、次の①~③の合計額が役員から受け取る家賃の額となります。
小規模な住宅以外を役員社宅としている場合、その社宅が自社所有の社宅であるか、賃貸物件であるかによって家賃の算出方法が変わってきます。
自社所有の社宅の場合、次の①と②の合計額の1/12が家賃相当額になります。
会社がオーナーに支払う家賃の50%の金額と自社所有社宅の家賃算出法で計算した額のいずれか多い方が家賃相当額となります。
豪華社宅の場合、通常支払うべき家賃に相当する額が、役員が負担すべき賃料相当額に該当します。つまり、豪華社宅の場合は、役員本人が家賃全額を負担しなければならないのです。たとえ法人名義で契約し、家賃を法人が負担した場合であっても、経費に計上することはできません。
役員社宅制度を導入すると、役員個人と法人の双方にメリットがあります。
役員から社宅の家賃の一部を受け取り、会社側が残りの家賃を負担する場合、会社側の負担金については、地代家賃として経費計上が可能です。役員社宅の家賃を経費として計上できれば、その分、所得額を圧縮できるため、法人税の課税対象額も小さくなり、節税効果を得られます。
法人名義で賃貸物件の契約をする場合、次のような費用も経費に計上ができます。
・賃貸借契約を締結する際に発生する仲介手数料
・引っ越しにかかる費用
・敷金
・火災保険料
役員が役員社宅に住む場合、豪華社宅でない限り、個人名義で契約をする場合に比べ、家賃の負担額を抑えられます。家賃の負担額が抑えられれば、役員本人の所得が増えたことと同じ効果を得られるでしょう。
さらに、会社の家賃負担分を経費にするためには、役員報酬から役員負担分の家賃額を天引きしなければなりません。役員報酬から家賃が天引きされると、所得額が低くなるため、所得税の節税につながります。また、所得額が低くなると所得税だけでなく、社会保険料や住民税の低減につながる点もメリットになるといえるでしょう。
役員社宅では会社負担分の家賃を経費に計上できるため、企業の中には節税効果を得るために役員社宅の制度を導入しているケースが多くあります。しかしながら、一定のルールを守らない場合、役員社宅の家賃を経費計上することはできません。役員社宅で節税を図るためには、次の点に注意することが大切です。
従業員用の社宅について社内規定を定めている場合であっても、従業員用とは別に役員社宅についての詳細な運用ルールを定める必要があります。役員と会社の家賃負担割合や火災保険料、引っ越し料金などの負担者についても明確に示しておくと、社内でもトラブルになりにくいだけでなく、税務調査時にも役員社宅の扱いについて説明しやすくなるでしょう。
役員の家賃負担額を50%以上にすると、税務調査の際に指摘を受けないため、法人の中には役員の家賃負担額を50%以上にしているケースも少なくありません。しかし、小規模な住宅の場合、計算をすると家賃の50%以下に抑えられるケースがほとんどです。そのため、節税効果を高めたい場合には、手間がかかっても国税庁が示す計算方式で家賃を算出することをおすすめします。
役員が家賃の一部を負担していない場合、役員社宅の家賃を経費に計上することはできません。もし、国税庁が示す家賃の額よりも低い家賃しか受け取っていない場合は、税務調査時に会社負担分の家賃の経費計上が否認される恐れがあります。役員社宅の家賃の経費が否認されれば、その分、課税所得額が増加するため、法人税の納税額が不足し、追徴課税を受けることになるでしょう。
また、役員から一定以上の家賃を受け取っていない場合は、会社が支払っていた家賃は役員報酬に該当するとみなされます。そのため、税務調査によって役員社宅の家賃の経費計上が否認されると、役員個人の所得額に会社負担分の家賃が上乗せされ、役員個人の所得税の納税不足も指摘されることになるでしょう。
役員社宅制度を活用する場合に、会社が負担する家賃額を増やしてしまうと、会社にとっても役員にとってもリスクが生じます。節税効果を得るためにも、役員社宅を導入する際には、賃料相当額を正しく計算し、役員にも家賃の一部負担を求めることが重要です。
床面積が240㎡を超えるような住宅やプールなどの設備が付いた豪華社宅を役員社宅にすると、役員社宅の家賃を経費にすることはできません。家賃は、役員自身が全額を支払うことになります。役員社宅の制度を活用するためには、必要以上に豪奢な作りの建物や広い建物を選ぶのではなく、社会通念上、社宅とみなされるような住宅を選択することが求められます。
役員社宅の家賃については、一部を役員が負担すれば、残額を会社が負担し、経費として扱うことができます。しかし、経費として扱える費用は、仲介手数料や敷金、火災保険料など、社宅に関連する費用のみです。役員個人が使用する駐車場の代金や生活することで生じる水道光熱費などは、役員社宅の費用には含めることはできません。駐車場や水道光熱費などは、役員個人の名義で契約し、役員個人が全額を支払わなければならない点に注意しましょう。
役員社宅は、一定のルールを満たす場合、会社が負担する家賃額を経費として計上できるため、役員社宅の導入によって節税効果を得ることができます。役員社宅の家賃負担分を経費計上するためには、役員が家賃の一部を負担しなければなりません。役員の家賃負担額が50%以上であれば、税務調査時に経費を否認されにくいため、役員社宅制度を導入している企業でも、役員負担分の家賃を50%以上にしているケースがよくあります。しかし、国税庁が示す計算方式で算出すると、役員負担分の家賃は50%以下に抑えられるケースが少なくありません。適正な役員負担額を算出できれば、法人の納税額も役員個人の納税額も抑えられます。手間はかかりますが、役員社宅の家賃を適切な方法で計算するようにしましょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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