2026.10.28
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事業譲渡で取引先の契約は引き継げる?買い手が進める承諾取得

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事業譲渡契約を締結しても、取引先との契約は原則として自動的には引き継がれません。既存契約を移すには、売り手・買い手の合意に加え、契約相手方の承諾が必要です。承諾を得て移転する方法のほか、買い手が取引先と新たに契約する方法もあります。

契約上の地位の移転とは、既存契約の当事者を売り手から買い手へ変更することです。民法539条の2は、当事者間の移転合意と相手方の承諾を定めています。事業譲渡契約に承継対象を記載するだけでは、取引先との契約関係まで移せません。

買い手は、契約書や利用規約の譲渡禁止条項・事前承諾条項・名義変更手続きを確認しましょう。事前の承諾や所定の申請条件がある場合は、その条件に従う必要があります。事業譲渡は、契約関係が包括的に承継される合併などとは異なります。

本記事では、契約別の注意点と、誰がいつまでに承諾を得るか、引渡し条件に何を定めるかを確認します。個別契約の解釈や条件の判断は、弁護士などの専門家に相談してください。

契約の引き継ぎは「契約上の地位の移転」と「再契約」で進める

事業譲渡で契約を引き継ぐ方法には、契約上の地位の移転と再契約があります。既存契約を維持するか、買い手が新たに条件を合意するかによって使い分けます。

既存契約を維持するなら契約上の地位の移転

契約上の地位の移転は、既存契約の当事者を売り手から買い手へ変更する方法です。原則として、売り手・買い手の移転合意に加え、契約相手方の承諾が必要です。

合意書では対象契約と移転日を特定し、従前の債務・責任を誰が負担するかを明確にします。例えば、移転前の未払代金や保証対応の負担、売り手が責任を免れる範囲を文書に残します。

買い手が新たに契約するなら再契約

再契約は、買い手と取引先が新たに契約を結ぶ方法です。価格、保証金、契約期間、保証人などの条件を改めて合意します。

売り手の旧契約終了日と買い手の新契約開始日を合わせ、契約の空白期間を避けます。保証金などの資金負担も確認し、契約方式や責任の範囲は弁護士などの専門家に相談して判断してください。

比較項目 契約上の地位の移転 再契約
契約の継続性 既存契約を維持 旧契約を終了し新契約へ
相手方との手続き 原則、移転の承諾を取得 買い手と新契約を締結
条件の再交渉 変更する条件があれば合意 各条件を改めて合意
買い手の費用負担 保証金等の引継ぎ方法を確認 保証金の新規差入れ等を確認

売買・賃貸借・リース・SaaSの契約はどう引き継ぐ?

事業譲渡で契約を引き継ぐ際は、契約の種類ごとに相手方の承諾や規約に沿った切替手続きを進めます。買い手は、契約の移転・新規契約の可否に加え、未処理取引や保証金、設備・データの扱いも確認してください。

契約 相手方 手続き 費用・責任の確認事項
仕入れ・販売 仕入先・販売先 移転承諾の取得・再契約 未払代金、返品・保証対応
賃貸借 貸主 移転承諾の取得・新規賃貸借 敷金・保証金、原状回復
リース リース会社 移転承諾の取得・新規契約 返却、中途解約費用
SaaS・ソフトウェア 提供会社 規約に沿った移転・名義変更等 利用料、データ移行

仕入れ・販売契約は個別注文と未処理取引まで確認する

仕入れ・販売契約を移す場合は、基本契約だけでなく個別注文・特約も移転対象として特定し、取引先の承諾を得ます。未納品、未払代金、返品、保証対応についても、売り手・買い手のどちらが負担するか明記してください。

引渡し日前後の取引は、契約の一覧と未処理取引の一覧を照合して確認します。債権・債務の処理には契約上の地位の移転とは別の検討が必要な場合があるため、税理士や弁護士などに確認しましょう。

店舗・事務所の賃貸借は貸主の承諾と敷金の扱いが重要

賃貸借の引継ぎには、民法612条により、原則として貸主の承諾が必要です。既存契約の移転か新規賃貸借かを貸主と決め、原状回復義務や保証人の扱いも文書に残します。

敷金・保証金は当然には承継されません。売り手への返還と買い手による新規差入れ、または売り手・買い手・貸主の三者合意による処理を確認してください。

リースは物件の所有者と解約費用を確認する

リース契約は、リース会社の移転承諾を得るか、買い手の新規契約を検討します。物件は通常リース会社の所有物なので、売り手の所有資産として売却対象に混在させないよう確認してください。

引き継がない場合は、返却方法、代替設備の調達、中途解約費用の負担者を決めます。ファイナンス・リースでは、解約時に残期間のリース料相当の負担が生じる場合があるため、契約条件を確認しましょう。

SaaS・ソフトウェアは規約に沿った切替が必要

SaaS・ソフトウェアは、サービスごとに規約を確認し、契約移転・名義変更・新規契約の可否を確かめます。ID・パスワードの受渡しだけで契約移転が完了したとは扱わないでください。

買い手は管理者権限と請求先の変更に加え、データ移行の方法・日程を確認します。旧環境の停止日も調整し、買収後の業務に必要な環境を準備してください。

承諾を取りに行く前に、どの契約から確認すべき?

事業譲渡で引き継ぐ契約は、欠けると営業を続けられない契約から確認します。まず全体を一覧にし、事業継続への影響と手続きにかかる期間で確認順を決めましょう。

契約一覧を作り、承継対象と条件を整理する

買い手は売り手から契約書、約款、個別注文、変更合意などを集め、契約管理表を作ります。基本契約だけで判断せず、個別の条件も確認してください。各契約を「移転する/再契約する/引き継がない/要確認」に分類し、不明な条件を残しておきます。

項目 記載内容の例
契約相手方・対象事業 相手方の名称、対象店舗・部門
契約期限 満了日、更新条件
譲渡制限・手続き 承諾の要否、必要書類、審査期間
担当者・承継方針 確認担当者、移転・再契約等の分類

事業継続への影響と手続き期間で優先順位を決める

店舗賃貸借、主要仕入先、基幹システムなど、欠けると営業できない契約を優先します。相手方の審査に時間がかかる契約も早期に確認を始め、管理表に所要期間を記載しましょう。譲渡制限の解釈や承継方法に迷う契約は「要確認」とし、弁護士などの専門家に相談してください。

買い手はいつ、誰に、どう承諾を依頼する?

買い手は、売り手と合意した開示時期に、既存取引先の契約担当窓口へ承諾を依頼します。希望する承継日から逆算して提出・回答の期限を決め、売り手の説明と買い手の資料提出を組み合わせて進めましょう。

売り手と連絡担当・提出資料・期限を決める

買い手が進捗管理と新規契約の準備を担い、売り手が既存取引先への説明・申請に協力する役割分担が考えられます。連絡担当者、資料の作成・提出担当者、承諾取得の目標期限を、取引先ごとに決めておきます。

取引先への開示時期と説明内容も、連絡前に売り手と合意しましょう。会社概要や事業計画などの提出資料を準備し、希望する承継日を共通の説明内容に含めます。

取引先への説明から承諾の取得までを進める

まず売り手から取引先へ説明し、買い手の資料を提出したうえで、引き継ぎの方法と条件を確認します。条件の交渉後は、承諾の対象と効力発生日が分かる文書を取り交わす流れです。

  1. 売り手から事業譲渡の予定と買い手を説明します。
  2. 買い手の会社概要、事業計画、希望する承継日などを提出します。
  3. 相手方に契約移転・名義変更・再契約の可否と条件を確認します。
  4. 条件変更や追加保証金があれば交渉します。
  5. 承諾書、契約移転合意書、新契約など、必要な文書を取り交わします。

三者合意書は実務上の選択肢であり、すべての契約で法律上必須とは限りません。民法539条の2を踏まえ、売り手・買い手の移転合意と取引先の承諾書を組み合わせる方法も考えられます。文書の形式や記載内容は、契約に応じて弁護士などの専門家に確認してください。

承諾の取得後も、切替完了まで管理する

承諾後は、文書の効力発生日に加え、請求先・振込先・納品先・システム権限などの切替を確認します。契約の引き継ぎと日々の取引の切替を、別々に確認する進め方です。

買い手は管理表で「未連絡/審査中/条件調整中/承諾済み/切替済み」を記録しましょう。担当者、次の作業、期限も併記し、承諾済みの契約に切替漏れがないか確認します。

売り手・買い手・取引先の担当作業と引渡し日までの承諾取得手順を示す時系列図

承諾取得と費用負担は事業譲渡契約にどう定める?

事業譲渡契約では、重要契約の承諾取得を引渡しの条件とし、債務・追加費用の負担者を明記します。以下を引渡し前のチェックリストとして、売り手・買い手で確認してください。

重要契約の承諾取得を引渡しの条件にする

店舗の賃貸借や主要な仕入契約など、事業継続に不可欠な契約を特定し、承諾取得を引渡しの条件にする設計が考えられます。これは取引に応じた実務上の設計であり、一律の法定要件ではありません。

  • 対象契約を相手方・契約日などで特定し、承諾取得期限と必要書類を定めます。
  • 売り手の説明・申請と買い手の資料提出など、双方の協力義務を明記します。
  • 期限までに承諾が得られない場合の延期、対象除外、解除の条件を合意します。

引渡し日前後の債務と追加費用を分けて決める

未払代金や返品・保証対応は、引渡し日前後の負担範囲を定めます。敷金・保証金の返還・差入れ・引継ぎ、解約費用についても、負担者と精算方法を別に記載してください。

当事者間の負担合意だけでは、取引先に対する責任は当然には変更されません。既発生債務や売り手の免責範囲は、相手方との移転合意・承諾の内容と照合する必要があります。

引渡し当日に確認する文書と切替事項

引渡し当日は、承諾・契約の成立と、契約開始日が実際の切替日と整合しているかを確認します。確認項目を事前に一覧化し、条項や精算方法の最終判断は弁護士・税理士などに相談してください。

  • 承諾書・合意書、新契約、対象契約一覧、精算書の内容を照合します。
  • 契約開始日と利用・納品・請求の切替日、請求先・振込先を確認します。

取引先の承諾が得られない・間に合わないときは?

契約を引き継げない場合は、条件変更・審査遅延・拒否のどれに当たるかを確認し、買収後の営業への影響を判断します。当初の引渡し日にこだわらず、売り手と代替策を検討してください。

条件変更を求められた場合は採算と資金を再確認する

買い手は、値上げ・保証金追加・取引限度額変更を反映し、事業収支と必要資金を再計算します。継続的な費用増加と、保証金などの一時的な資金負担は分けて確認してください。

  • 条件変更:再交渉、買い手による再契約、代替先への切替を、費用と営業への影響で比較します。

引渡し日までに手続きが終わらない場合

店舗の賃貸借など営業に欠かせない契約なら、引渡し延期を検討します。売り手名義での暫定利用は、契約・規約や相手方の承諾を確認せずに進めないでください。

  • 審査遅延:完了見込みを確認し、一部契約の譲渡対象からの除外や、代替サービスの調達が可能か売り手と協議します。

承諾を拒否された場合は事業継続の可否を判断する

代替困難な契約と代替可能な契約を分け、買収後に営業を続けられるか判断します。採算・資金面は税理士に、契約上の判断は弁護士などに相談してください。

  • 拒否:事業譲渡契約の条件に従い、売り手と譲渡対象・価格の見直しや取引中止を検討します。

よくある質問

Q. 取引先の承諾は口頭でもよいですか?

事業譲渡で契約を引き継ぐ際の承諾は、一律に書面が必須とは限りませんが、契約書や利用規約に承諾方法の指定がないか確認してください。口頭の承諾だけで進めず、証拠を残すため、承諾の対象・条件を明記した書面を取り交わすのが望ましいです。

Q. 契約書に譲渡禁止と書かれていても引き継げますか?

譲渡禁止条項があっても、相手方との個別合意による契約移転や、買い手との再契約を検討できる場合があります。まず条項の内容を確認し、相手方と引き継ぎの可否や条件を協議してください。

Q. 株式譲渡でも取引先の承諾が必要ですか?

株式譲渡では通常、契約当事者である会社は変わりません。ただし、支配権の変更に伴い承諾などを求める条項がないか、契約書の確認が必要です。承諾の要否や条項の解釈に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談してください。

まとめ

事業譲渡だけでは、取引先との契約は自動的に引き継がれません。買い手は契約を一覧化し、移転・再契約の方法を確認しましょう。売り手と協力して重要契約から承諾を取得し、未取得時の対応と費用負担を事業譲渡契約に定めておく必要があります。

重要契約や責任の切り分けは、弁護士などに確認しましょう。会社の状況によって必要な手続きは異なるため、判断に迷う場合は事業承継・M&Aの支援内容も参考に、税理士などの専門家へ相談してください。

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

事業承継・M&A、融資や補助金による資金調達など、中小企業の経営サポートに特化して活動。
税理士法人松本は国の認定支援機関で、M&A支援機関登録制度の登録支援機関。元銀行員が在籍し、金融機関の目線を踏まえた資金調達を支援しており、融資の調達実績は累計50億円以上。

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