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非常勤役員の役員報酬はいくらが妥当?税務署に否認されないための実務と基準
読了目安時間:約 13分
会社を設立し、事業が軌道に乗ってくると、配偶者や親族を自社の役員に迎え入れるケースは非常に多く見られます。中小企業やプライベートカンパニーにおいて、家族を役員にすることは、経営のサポートを受けるだけでなく、所得を分散させて世帯全体の税負担を軽減する有効な手段となります。
しかし、そこで多くの経営者が直面するのが、「実質的な出勤が少ない家族に対して、いくらまでなら役員報酬を支払ってよいのか」という悩みです。常勤の役員や従業員とは異なり、明確な勤務時間や業務量が定まっていないため、報酬額の決定に迷うのは当然のことと言えます。
ここで絶対に知っておかなければならないのが、非常勤役員の役員報酬は、税務調査において非常に厳しくチェックされるという事実です。特に親族のみで構成される同族会社の場合、税務署は「実態のない意図的な所得分散(過度な節税)」ではないかと強い疑いの目を向けます。
もし、職務内容や会社の業績に照らして「不相当に高額である」と判断された場合、その超過部分は会社の経費(損金)として認められず、税務否認されて法人税の追徴課税を受けるリスクがあります。さらに、役員個人には所得税が課税されたままとなるため、結果として税負担が大幅に増加してしまう「往復ビンタ」のような事態になりかねません。
このような税務否認のリスクを回避し、適法かつ安全に所得分散を図るためには、過去の判例や裁決事例に基づいた「妥当な相場」を知り、勤務実態を証明するための客観的な証拠(エビデンス)を日頃から残しておくことが不可欠です。
本記事では、税務調査で否認されないための具体的な実務対策と、安全圏とされる報酬額の目安について、税務専門家の視点から詳しく解説します。これから家族を非常勤役員にしようと検討している方や、現在の役員報酬の金額に不安を感じている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
本記事で解説する重要なポイント
非常勤役員の役員報酬を適正に設定し、税務調査での否認リスクを最小限に抑えるために、本記事では以下のポイントを深掘りして解説していきます。自社の状況と照らし合わせながら、必要な対策を確認してください。
- 税務調査で「不相当に高額(過大役員報酬)」とみなされる基準と否認リスクの全体像
- 過去の判例や裁決事例から導き出される、否認リスクが極めて低い「安全圏の報酬相場」
- 月額15万円を超える高額な報酬を支給する場合に求められる合理的な理由と条件
- 株主総会や取締役会の議事録作成など、適正な手続きを示すための形式的要件の整備方法
- 経営会議の出席記録や業務報告書など、勤務実態を客観的に証明するエビデンスの残し方
- 非常勤役員の職務内容と法的な責任範囲(善管注意義務など)の明確化手順
なお、役員報酬の損金算入に関する基本的なルールについては、国税庁の「役員に対する給与」のページでも詳細な要件が公開されています。本記事の解説とあわせて、公的なガイドラインも確認しておくことをお勧めします。
役員報酬の決定においては、「誰にいくら払うか」だけでなく、「なぜその金額が妥当なのか」を第三者(税務署)に合理的に説明できる状態を作っておくことが、経営者の重要な責務となります。
それでは、次章から非常勤役員の報酬相場と、税務否認を防ぐための具体的な実務対策について、一つひとつ詳しく見ていきましょう。最終的な報酬額の決定や税務上の判断については、必ず顧問税理士などの専門家にご相談のうえ進めるようにしてください。
非常勤役員の役員報酬が税務調査で狙われやすい理由と否認リスク
会社設立や法人化を果たした経営者にとって、配偶者や親族を非常勤役員に迎え入れ、役員報酬を支給することは一般的な選択肢です。世帯全体での所得分散を図り、節税効果を得る目的で活用されるケースも多く見られます。
しかし、非常勤役員の役員報酬は、税務調査において最も厳しくチェックされる項目のひとつです。なぜなら、常勤の取締役に比べて勤務実態が見えにくく、「節税目的で過大な報酬を支払っているのではないか」と税務署から疑われやすいからです。
万が一、税務調査で「非常勤役員 役員報酬 税務否認」という事態に陥った場合、会社側に多大な金銭的ダメージが生じます。ここでは、非常勤役員の報酬が狙われやすい背景と、具体的な否認リスクについて詳しく解説します。
損金不算入(法人税法第34条)による追徴課税のリスク
税務調査で非常勤役員の報酬が問題視される最大の理由は、法人税法第34条(役員に対する給与)に基づく「損金不算入」の規定があるためです。法人税法では、役員の職務内容や会社の業績、同業他社・類似規模の企業の支給状況などに照らして「不相当に高額(過大役員報酬)」と判定された部分は、会社の経費(損金)として認められません。
もし税務調査で「報酬が高すぎる」と判断され否認されると、その否認された金額分だけ会社の利益が増えることになります。結果として、本来納めるべきだった法人税が追加で発生し、追徴課税を受けることになります。
さらに恐ろしいのは、単に本税を納めるだけでは済まない点です。本来の申告額より少なかったことに対する「過少申告加算税」や、納付が遅れたことに対する利息に相当する「延滞税」などのペナルティも課されます。
役員個人の所得税や住民税はすでに納付しているにもかかわらず、会社側で経費として認められないため、実質的に「税金の二重払い」のような状態に陥るリスクがあるのです。
親族・同族会社に対する税務署の厳しい目
中小企業やオーナー経営のプライベートカンパニーでは、代表者の配偶者、高齢の親、あるいは学生の子息などを非常勤役員に登記しているケースが少なくありません。こうした親族・同族会社に対する税務署の目は、非常に厳しいものがあります。
税務署は、親族に対する役員報酬の支払いを「実態のない意図的な所得分散(所得税・法人税の回避)」ではないかと強く疑って調査に臨みます。例えば、専業主婦(夫)である配偶者や、すでに第一線を退いた高齢の親に対し、常勤役員と同等かそれに近い高額な報酬が支払われている場合、その妥当性が厳しく問われます。
「家族だから」「生活費の足しにするため」といった個人的な理由は、税務上は一切通用しません。会社から支払われる役員報酬は、あくまで「役員としての職務執行に対する正当な対価」でなければならないからです。
「勤務実態がない名目役員」は全額否認のリスクも
非常勤役員の報酬において最も危険なのが、経営への関与や勤務実態が全くない「名前だけの役員(名目役員)」となっているケースです。過去の税務訴訟や国税不服審判所の裁決事例でも、勤務実態の有無が大きな争点となることが多々あります。
実質的な業務を何も行っていない、取締役会にも出席していない、会社の経営状況すら把握していないといった場合、報酬の対価性が一切認められません。このようなケースでは、「高額すぎる」として一部が否認されるにとどまらず、支払った役員報酬の「全額」が否認された判例(裁判例)も存在します。
税務調査で勤務実態を疑われないためには、以下のようなポイントが厳格にチェックされることを理解しておく必要があります。
- 取締役会や経営会議への出席履歴と発言内容の記録(議事録)
- 経営方針の決定や重要な業務への具体的な関与度合い
- 担当業務における業務報告書やメールの送受信履歴
- 稟議書などの決裁書類への署名・捺印
- 他の常勤役員や従業員と比較した報酬額のバランス
非常勤役員に対して報酬を支給する場合は、単に節税目的で金額を決めるのではなく、職務内容に見合った適正な額を設定することが不可欠です。否認リスクを最小限に抑えるためにも、報酬額の決定プロセスや職務の証拠(エビデンス)の残し方については、顧問税理士などの専門家に事前に相談し、慎重に判断することをおすすめします。

非常勤役員の役員報酬はいくらが妥当?気になる相場と基準
配偶者や親族を非常勤役員に迎え、所得分散による節税を検討する経営者は多くいらっしゃいます。
しかし、勤務実態に見合わない高額な報酬を設定すると、税務調査において「非常勤役員 役員報酬 税務否認」のリスクが高まります。
法人税法第34条では、役員の職務内容や会社の業績に照らして不相当に高額な役員報酬は、経費(損金)として認められない旨が定められています。詳しくは国税庁の「役員に対する給与」の解説もご参照ください。
否認された場合、法人税の追徴課税だけでなく、加算税や延滞税が発生する恐れがあります。では、実際にいくら支払うのが税務上安全なのでしょうか。判例や実務慣行に基づいた具体的な金額の目安を解説します。
安全圏とされる目安は「月額5万〜15万円」
過去の裁判や国税不服審判所の裁決事例を見ると、非常勤役員に対する報酬の妥当性が争点になるケースが少なくありません。
全く勤務実態がない「名義貸し」のような状態であれば、報酬の対価性が認められず全額否認されるリスクが存在します。しかし、役員として就任している以上、会社法上の重い責任を負うことになります。
具体的には、会社に対する善管注意義務や、第三者に対する損害賠償責任などです。実質的な出勤日数が少なくとも、こうした法的な責任に対する対価として、月額5万〜15万円程度であれば否認されるリスクは極めて低いとされています。
| 報酬月額の目安 | 税務否認のリスク | 実態・要件の目安 |
|---|---|---|
| 月額5万〜15万円 | 極めて低い | 役員としての法的責任の対価として許容されやすい |
| 月額15万円超 | 高まる | 専門スキルや具体的な業務への従事を示す客観的証拠が必要 |
配偶者や高齢の親を非常勤役員とする場合、まずはこの「月額5万〜15万円」の範囲内で設定するのが実務上安全なアプローチと言えます。
その上で、株主総会や取締役会で適正に報酬額が決定されたことを示すため、決定プロセスを記録した議事録を作成し、署名・捺印のうえ適切に保管しておきましょう。
月額15万円を超える場合に求められる「合理的な理由」
会社の業績が好調な場合など、所得分散の効果をさらに高めるために、月額15万円を超える高額な報酬を支給したいと考えるケースもあるでしょう。
しかし、代表者の親族を中心とした同族会社に対する税務署の目は厳しく、単なる名目上の役員に対して高額な報酬を支払うと「実態のない意図的な所得分散」とみなされやすくなります。
月額15万円を超える報酬を支給するためには、金額に見合った合理的な理由を客観的に説明できなければなりません。高額な報酬を正当化するには、その役員が持つ「専門スキル」や「具体的な業務内容」を明確に示す必要があります。
例えば、過去の業界経験を活かした経営アドバイス、特定の国家資格に基づく業務監修、豊富な人脈を活用した営業支援などが挙げられます。
また、それらの業務を実際に行ったことを証明するため、以下のような証拠(エビデンス)を日頃から蓄積しておくことが極めて重要です。
- 取締役会や経営会議への出席記録(議事録への発言内容の記載や署名)
- 業務報告書、メールの送受信履歴、稟議書への決裁署名
- 担当業務において本人が作成・監修した資料や成果物
- 役員本人が保有する資格証や、専門性を示す経歴書の保管
これらの客観的な証拠を残すことで、税務調査の際にも非常勤役員の職務内容と責任範囲をしっかりと主張できるようになります。
ただし、適正な報酬額の判断は、会社の規模や同業他社・類似規模の企業の支給状況によっても大きく変動します。過大役員報酬として否認されるリスクを確実に避けるためにも、最終的な金額設定については税理士などの専門家にご相談されることを強くお勧めします。

役員報酬が「過大」と判定される3つの「実質基準」
配偶者やご両親を非常勤役員に就任させ、所得分散による節税を図る中小企業オーナーは少なくありません。しかし、その際に最も注意すべきなのが、税務調査において非常勤役員に対する役員報酬が税務否認されるリスクです。
法人税法上、役員報酬は原則として損金(経費)に算入できますが、法人税法施行令第70条において「不相当に高額(過大)」と判定された部分は損金不算入となります。過大とみなされた場合、法人税の追徴課税が発生するだけでなく、受け取った個人の所得税・住民税もそのまま課税されるため、いわゆる「二重課税」のペナルティを受けることになります。
税務署が役員報酬を「不相当に高額」かどうか判定する際、以下の3つの「実質基準」を総合的に考慮します。特に同族会社において、親族を役員にしている場合は厳しいチェックの対象となるため、それぞれの基準を正しく理解しておきましょう。
①役員の職務内容(勤務実態・貢献度)
第一の基準は、その役員が実際にどのような業務を行い、どれだけの時間・頻度で会社に貢献しているかという「勤務実態」です。役員報酬は労働の対価ではなく、会社経営に対する責任や職務執行への対価として支払われるものですが、実態が伴っていなければ認められません。
代表者の配偶者や高齢の親、学生の子息などを非常勤役員にしている場合、税務調査では「名義貸しによる意図的な所得分散ではないか」と疑われる傾向があります。経営への関与や出社実態が全くない「名目だけの役員」とみなされた場合、報酬の対価性が否定され、役員報酬の全額が否認される判例も存在します。
そのため、日頃から経営会議への出席、業務に関する助言、特定の専門業務(経理や人事など)の遂行といった具体的な貢献度を明確にしておくことが重要です。ただ名前を連ねるだけでなく、役員としての実質的な役割を担っていることが求められます。
②会社の業績と従業員の給与水準
第二の基準は、会社の売上や利益に対して、役員報酬の総額が経営を圧迫していないかという点です。会社が赤字であるにもかかわらず、特定の非常勤役員にのみ高額な報酬を支払っているようなケースは、客観的に見て合理性に欠けると判断されやすくなります。
また、自社で働く常勤の一般従業員の給与水準と比較して、非常勤役員の報酬が不自然に高すぎないかもチェックされます。毎日フルタイムで働いている従業員よりも、月に数回しか出社しない非常勤役員の方が高額な報酬を受け取っている場合、その差を正当化できるだけの特別な事情や専門スキルが必要です。
たとえば、業績が急激に悪化している中で、親族役員の報酬だけを維持・増額するような対応も、税務否認のリスクを高める要因となります。会社の財務状況や社内の給与バランスを考慮し、誰が見ても納得できる妥当な金額に設定することが不可欠です。
③同業他社・類似規模の企業との比較(倍率法など)
第三の基準は、同一地域、同業種、同等規模(売上高や従業員数など)の他社における役員報酬の相場と比較して、自社の支給額が突出していないかという点です。税務調査では、国税局が独自に保有する同業他社のデータを用いて比較検討が行われます。
この際によく用いられるのが「倍率法」などの統計的手法です。類似する複数の企業における非常勤役員の最高報酬額や平均報酬額を算出し、それらと比較して明らかに高額であると判断された部分が「過大」として否認される仕組みとなっています。
他社の正確なデータは一般には非公開であるため、自社だけで適正な水準を見極めるのは困難です。過去の事例から、法的責任の対価として月額5万〜15万円程度であれば否認リスクは低いとされていますが、それ以上の報酬を設定する場合は、役員本人の持つ専門資格や特殊な経験など、他社より高額になる合理的な理由を説明できるようにしておく必要があります。
【参考】不相当に高額な役員給与の判定
役員に対する給与のうち、不相当に高額な部分の金額は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されません。不相当に高額かどうかの判定は、その役員の職務の内容、法人の収益、その法人の使用人に対する給与の支給の状況、類似する同業他社の役員給与の支給の状況等を勘案して行われます。
出典:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- 役員の具体的な職務内容や責任範囲が明確になっており、実態が伴っているか
- 会社の業績や財務状況に見合った無理のない報酬額に設定されているか
- 常勤の一般従業員の給与水準と比較して、非常勤役員の報酬が不自然に高額ではないか
- 同業他社・類似規模の企業の非常勤役員報酬相場を大きく逸脱していないか
- 月額15万円を超える高額な報酬を支給する場合、それを正当化する専門スキルや経験があるか
これらの3つの実質基準を総合的に勘案し、不相当に高額とみなされない適正な報酬額を決定することが重要です。しかし、どこまでが妥当な範囲なのかは、会社の規模や個別の事情によって大きく異なります。
税務調査での否認リスクを最小限に抑えるためにも、最終的な役員報酬額の決定や、勤務実態を証明するための証拠(エビデンス)づくりについては、自己判断せず必ず税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

税務否認を防ぐための4つの実務対策とエビデンス(証拠)の残し方
非常勤役員に対する役員報酬を設定する際、税務調査で「不相当に高額」とみなされ、経費(損金)として認められない税務否認のリスクが伴います。特に、配偶者や親族を非常勤役員とする同族会社の場合、税務署は「実態のない意図的な所得分散」ではないかと厳しくチェックします。
万が一税務調査が入った際に、報酬額の妥当性と勤務実態を客観的に証明できるよう、日頃から証拠(エビデンス)を残しておくことが極めて重要です。ここでは、非常勤役員の役員報酬における税務否認を防ぐための具体的な4つの実務対策と、準備すべきエビデンスについて解説します。
対策①:株主総会・取締役会の議事録の整備(形式的要件)
役員報酬を支給するための大前提として、会社法に則った適正な手続きを経ていることを示す必要があります。具体的には、株主総会で役員報酬の総額枠を決定し、取締役会(または代表取締役への一任)で各役員への個別の配分を決定するというプロセスです。
これらの決定プロセスは、必ず議事録として書面に残し、署名・捺印のうえ適切に保管してください。口頭での取り決めやどんぶり勘定では、税務調査の際に「適正な手続きを経ていない」と指摘される恐れがあります。
特に親族間のみで構成される同族会社やプライベートカンパニーでは、このような手続きが形骸化しやすいため注意が必要です。形式的要件を満たしていることを客観的に示せる状態にしておくことは、役員報酬の妥当性を主張するための第一歩となります。
対策②:勤務実態・業務遂行を証明する客観的証拠(エビデンス)の蓄積
税務署に対して「非常勤役員が実際に働いていること」を証明するためには、客観的な証拠(エビデンス)の蓄積が不可欠です。経営への関与や勤務実態が全くない「名目だけの役員」とみなされた場合、報酬の全額が否認される判例も存在します。
月額15万円を超えるような報酬を支給する場合は、単なる役員としての法的責任(善管注意義務など)の対価を超えて、具体的な業務への従事や専門スキルに応じた合理的な理由が求められます。日頃から以下のような証拠を意識して残すようにしましょう。
- 取締役会や経営会議への出席記録(議事録への発言内容の記載や署名)
- 定期的な業務報告書や、業務に関するメール・チャットの送受信履歴
- 稟議書や重要な契約書への決裁署名
- 担当業務において本人が作成・監修した資料や成果物
対策③:役員業務規程の作成と職務・責任の明確化
その非常勤役員が「どのような役割を担い、どのような権限と責任を負っているか」を社内規程として明確に定めておくことも有効な対策です。具体的には「役員業務規程」や「役員職務分掌」といった文書を作成し、会社に備え置きます。
例えば、「経理・財務の監査担当」「新規事業のマーケティングアドバイザー」「従業員の労務管理サポート」など、担当する業務領域を具体的に明記します。これにより、報酬の対価となる職務内容が明確になり、税務調査官に対しても合理的な説明が可能となります。
また、過去の事業経験や保有する資格(税理士、社会保険労務士、業界特有の専門資格など)がその職務にどう活かされているかを説明できるようにしておくことも、報酬の正当性を裏付ける強い材料となります。
対策④:社内バランス(実質基準)を意識した金額設定
役員報酬の金額設定においては、法人税法上の「実質基準」を満たすかどうかが問われます。これは、役員の職務内容や会社の収益状況、同業他社の支給状況などと照らし合わせて「不相当に高額」でないかを判定する基準です。
実務上は、常勤役員(代表取締役など)の報酬額や、社内の最高給与を受け取っている従業員の給与額とのバランスを考慮することが重要です。出勤日数や業務負担が少ない非常勤役員の報酬が、フルタイムで働く従業員や常勤役員と同等、あるいはそれ以上に高く設定されていると、不自然であるとみなされやすくなります。
| 報酬水準の目安 | 税務上のリスクと必要な対策 |
|---|---|
| 月額5万〜15万円 | 法的責任の対価として妥当とされやすく否認リスクは低い |
| 月額15万円超 | 具体的な業務従事や専門スキル等の合理的な理由と証拠が必要 |
| 常勤役員と同等以上 | 不相当に高額とみなされるリスクが非常に高い |
なお、役員報酬が過大と判定された部分は「損金不算入」となり、法人税等の追徴課税の対象となるため注意が必要です。役員給与の損金算入に関する基本的なルールについては、国税庁「役員に対する給与」のページも参考にしてください。
適切な金額設定や証拠書類の整備については、会社の業績や個別の事業実態によって判断が大きく分かれます。自己判断だけで進めず、必ず事前に顧問税理士などの専門家へ相談し、確実な実務対策を講じることをお勧めします。

非常勤役員の「源泉徴収」と「社会保険」の取り扱い
配偶者や親族を会社に参画させる場合、過大な非常勤役員の役員報酬による税務否認のリスクに備えることは非常に重要です。
しかし、税務調査対策とは別に、日々の実務において経営者が間違いやすいのが「税金(源泉徴収)」と「社会保険・労働保険」の取り扱いです。
非常勤役員は、常勤の役員や一般の従業員とは異なるルールが適用されるケースが多いため、それぞれの違いを正しく理解し、適切な手続きを行う必要があります。
役員報酬にかかる所得税の源泉徴収(甲欄・乙欄の判断)
非常勤役員に報酬を支払う際、会社は原則として所得税を源泉徴収し、国に納付する義務があります。
ここで実務上よく問題になるのが、源泉徴収税額表の「甲欄」と「乙欄」のどちらを適用するかという判断です。この適用を誤ると、後日税務署から源泉所得税の徴収漏れを指摘される恐れがあります。
もしその非常勤役員が、他社で本業(常勤)として働いており、そちらの会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している場合、自社での役員報酬には「乙欄」が適用されます。
乙欄が適用されると、甲欄に比べて源泉徴収される税率が大幅に高くなります。結果として、額面の報酬額に対して手取り額が想定より少なくなるため、事前に対象者へ説明しておくことがトラブル防止につながります。
給与所得者の扶養控除等申告書は、原則として1か所の給与の支払者にしか提出できません。提出先からの給与は「甲欄」、それ以外の支払者からの給与は「乙欄」または「丙欄」を適用して源泉徴収を行います。
参考:国税庁「源泉徴収税額表の使い方」
なお、本業を持たず、自社の非常勤役員のみを務めている親族などであれば、自社に扶養控除等申告書を提出することで「甲欄」を適用することが可能です。
社会保険(健康保険・厚生年金)と労働保険(雇用・労災)の加入判断
法人は原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用事業所となりますが、非常勤役員が加入対象になるかどうかは、勤務実態に基づいて慎重に判断する必要があります。
まず、労働保険(雇用保険・労災保険)についてですが、非常勤役員は原則として労働基準法上の「労働者」には該当しません。そのため、雇用保険や労災保険の加入対象外となります。
一方、社会保険については、単に「非常勤である」という肩書きだけで一律に加入義務が免除されるわけではありません。
代表権や業務執行権の有無、実際の出勤日数や労働時間、そして役員報酬の額などを総合的に勘案して、法人の事業所に「常時使用されているか」どうかで判断されます。
| 保険の種類 | 非常勤役員の取り扱い | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 雇用保険・労災保険 | 原則として対象外 | 労働者ではないため適用されない |
| 健康保険・厚生年金 | 勤務実態により総合的に判断 | 常勤者と同等以上の勤務実態があるか |
一般的な目安として、月数回の取締役会への出席のみで、役員報酬も月額5万〜15万円程度に抑えられている場合は、実態として「常時使用されている」とは言えず、社会保険の加入対象外と判断されるケースが多いです。
逆に、常勤役員や正社員の4分の3以上の勤務時間・日数がある場合や、実質的に日常業務をこなして高額な報酬を得ている場合は、社会保険の加入対象となる可能性が高くなります。
最終的な社会保険の加入判断は管轄の年金事務所が行うため、判断に迷う場合は自己判断せず、事前に年金事務所や社会保険労務士へ相談することをおすすめします。
- 「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出先を確認し、甲欄・乙欄を正しく適用する
- 乙欄適用により手取り額が減る旨を、役員本人へ事前に説明しておく
- 非常勤役員は原則として雇用保険・労災保険の対象外であることを認識する
- 勤務日数・時間や報酬額を踏まえ、社会保険の加入義務を検討する
- 社会保険の加入判断に迷った場合は、管轄の年金事務所や専門家に相談する
まとめ:適切な設定とエビデンス確保で税務リスクを回避しよう
配偶者や親族を非常勤役員に迎え、適正な報酬を支払うことは、中小企業やプライベートカンパニーにとって有効な経営戦略の一つです。世帯全体での所得分散を図りつつ、経営のサポートを受けることができるというメリットがあります。
しかし、勤務実態に見合わない過大な報酬を設定してしまうと、税務調査において非常勤役員の役員報酬が税務否認されるリスクが高まります。否認された部分は会社の経費(損金)として認められず、法人税の追徴課税という重いペナルティを科される可能性があります。
安全に制度を活用するためには、妥当な報酬額の設定と、勤務実態を客観的に証明できるエビデンスの蓄積が不可欠です。
報酬相場の目安と設定の考え方
非常勤役員に対する報酬は、過去の裁決事例などを踏まえると、月額5万〜15万円程度が安全圏とされています。この金額帯であれば、実質的な出勤日数が少なくても、会社法上の役員としての重い責任(善管注意義務など)に対する対価として認められやすい傾向にあります。
もし月額15万円を超える報酬を支給したい場合は、単なる名義貸しではなく、明確な業務実態や合理的な理由が求められます。例えば、特定の専門資格を活かしたアドバイスを行っている、独自の営業ルートを開拓しているなど、その役員ならではの貢献を説明できなければなりません。
自社の業績や同業他社の水準と比較して、明らかに不自然な高額報酬となっていないか、常に客観的な視点で検証することが重要です。
税務調査に備えるためのエビデンス(証拠)確保
税務否認を防ぐための最大の防御策は、日頃から「勤務実態を示すエビデンス」をしっかりと残しておくことです。株主総会や取締役会の議事録といった形式的な書類を整えるだけでは不十分であり、実際に経営に関与し業務を行っていた客観的な記録が問われます。
具体的には、以下のような記録を日常業務の中で意識的に蓄積しておくことを推奨します。
- 株主総会や取締役会の議事録(報酬決定の経緯と本人の署名・捺印)
- 経営会議への出席記録や、議事録における本人の具体的な発言内容の記載
- 業務報告書、日報、または社内でのメール・チャットの送受信履歴
- 稟議書や重要な契約書への決裁署名
- 本人が作成・監修した資料、専門的なアドバイスを行った事実がわかるメモ
これらの記録が揃っていることで、税務調査官に対しても「会社に貢献している実態のある役員である」と明確に主張することができます。
迷った場合は税理士などの専門家へ相談を
役員報酬の妥当性や、税務否認リスクの判断基準は、企業の規模、業種、その年の利益状況によっても大きく変動します。また、親族への報酬支給は「実態のない意図的な所得分散」ではないかと税務署から特に厳しい目で見られやすいため、自己判断で極端な設定を行うのは危険です。
役員報酬の損金算入に関する詳しい要件は、国税庁の公式サイト「役員に対する給与」などでも確認できますが、個別のケースにおける最適な設定額の算出やエビデンスの残し方は専門的な知識を要します。
これから非常勤役員を選任して報酬を設定しようとお考えの経営者の方は、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。自社の実情に合わせた適正な報酬額を算出し、将来の税務リスクを最小限に抑えた強固な経営体制を築いていきましょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

