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社宅は経費にできるの?節税方法や注意点を分かりやすく解説

読了目安時間:約 6分
社宅に関連する費用は、福利厚生費の1つとして扱うことができ、経費計上が可能です。社宅の費用を経費として扱うことができれば、所得から差し引ける経費が増えるため、節税にもつながるでしょう。しかしながら、社宅に関連するすべての費用を経費に計上できるわけではありません。また、社宅を経費として扱う際には一定の要件を満たす必要があります。
そこで今回は、社宅を経費として扱う方法や社宅を経費計上する際の注意点などについてご説明します。
社宅とは
社宅とは、福利厚生の一環として企業が従業員のために取得した住宅や会社が用意した住宅のことです。会社が従業員に提供する住宅には、社宅以外にも社員寮があります。かつては、単身の従業員が住む住居を社員寮、家族のいる従業員に提供する住宅を社宅と呼ぶケースが多くなっていました。しかし、近年、価値観の変化などにより、寮を提供する企業は減少しています。また、寮も社宅も会社が従業員のために提供する住宅である点に違いはないため、寮も社宅と考えて問題はありません。
社宅の種類
社宅は、会社が保有する物件に従業員を居住させる「社有社宅」と会社が一般の賃貸物件を借り上げて従業員に提供する「借り上げ社宅」の2種類があります。社有社宅の場合、企業が建設または購入した物件であり、企業が所有者となるため、企業と従業員の間で入居手続きを進めるだけで手続きが簡便です。
また、借り上げ社宅には、マンションやアパート1棟を企業が借り上げて従業員に住まわせるケースもあれば、従業員が選んだ賃貸物件を借り上げ社宅として利用するケースもあります。
社宅と住宅手当の違い
企業によっては社宅を提供するのではなく、従業員に対して住宅手当を支給するケースもあります。住宅手当とは、従業員が賃貸住宅に住む場合、その家賃を補助する手当です。社宅の場合、会社が福利厚生として提供するのは、住む物件になりますが、住宅手当は金銭面を支給するという点に違いがあります。また、住宅手当を支給する場合、支給金額は従業員の給与として取り扱わなければなりません。そのため、住宅手当として家賃補助を支給する場合、従業員の所得が増え、所得税や住民税の負担が増加します。一方、社宅の場合には従業員に金銭を支給するわけではないため、従業員の所得が高くなることはありません。
社宅制度を用意するメリット
社宅の制度を用意する場合、従業員は家賃の負担を減らせます。特に、まだ給与がそれほど高くない若い世代の場合、家賃の負担は大きく、社宅制度があることは、会社選びの際の大きな魅力となるでしょう。また、企業にとっても社宅制度を有することは、人材確保の面でメリットとなります。
さらに、住宅手当のように所得税や住民税、社会保険料の負担額が増えない点も従業員にとって、メリットとなるでしょう。また、転居を伴う転勤がある企業でも社宅制度があれば、従業員の転勤に伴う負担を軽減できるため、転勤に関する理解を得やすくなる可能性もあります。一定要件を満たせば、社宅の費用は経費計上ができるため、企業にとっても従業員にとっても社宅制度の活用はメリットが大きいものです。
社宅を経費にする際に満たすべき要件
社宅に関連する費用を経費として計上するためには、企業として満たさなければならない条件があります。それは、従業員から一定額の家賃を徴収するという点です。社宅を従業員に無償で提供する場合や従業員から徴収する金額が一定額を満たさない場合、社宅分の費用を経費計上することはできません。
賃料相当額の50%以上の賃料の徴収が必要
社宅に関連する費用を経費にするためには、賃料相当額の50%以上を従業員から徴収する必要があります。
賃料相当額は、次の計算式から算出した金額を合計したものです。
・その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
・12円×その建物の床面積(㎡)/3.3(㎡)
・その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
したがって、社宅を経費計上する場合には、固定資産税の課税標準額を調べたうえで、賃料相当額を算出しなければなりません。社有社宅の場合は、固定資産税の課税明細で簡単に確認ができますが、借り上げ社宅の場合は、オーナーや自治体への確認が必要となる点に注意が必要です。
従業員から社宅の入居費用として、賃料相当額の50%以下しか徴収していない場合、受け取っている額と賃料相当額との差額が、住宅手当と同様に給与として課税されることになります。
賃料相当額が10万円の家賃を例に試算
賃料相当額が10万円の社宅を従業員に貸与した場合を例に考えてみましょう。
・従業員から賃料として5万円を受け取る場合
家賃相当額10万円の場合、5万円は10万円の50%以上という要件を満たします。そのため、この場合、賃料相当額は経費として扱うことができます。
・従業員に無償で社宅を貸与している場合
従業員から賃料を受け取らず、無償で社宅を貸与している場合、賃料相当額に該当する10万円を給与として処理しなければなりません。
・従業員から賃料として3万円を受け取る場合
従業員から3万円を賃料として受け取る場合、賃料相当額の10万円との差額である7万円は給与としてみなされることになります。
社宅を経費にするメリット
社宅を経費にした場合は、次のようなメリットを得られます。
賃料相当額を経費として扱える
従業員から賃料相当額の50%以上の賃料を受け取っている場合、賃料相当額は給与ではなく、損金(経費)として扱うことができます。この場合、従業員から徴収した賃料は家賃収入となり、差額分は福利厚生費として扱います。福利厚生費は課税所得額から控除できるため法人税の節税につながります。
従業員の負担を軽減できる
家賃は、従業員にとって負担が大きな支出です。そのため、社宅制度を導入すると、従業員の生活費の負担を軽減できます。また、社宅を経費として扱う場合、賃料補助を行う住宅手当のように、従業員に対し所得税などの負担を増やす必要がありません。
さらに、社会保険料の額は、所得によって変動し、所得が高いほど社会保険料も高くなります。したがって、社宅を経費にして扱う場合、従業員が負担する社会保険料の負担も抑えられます。また、社会保険料は会社側も半分を負担しなければならないため、社宅を経費にすると企業側の社会保険料の負担の軽減にもつながります。
ただし、従業員の負担を減らすためには、前述のように賃料相当額の50%以上の賃料を従業員から受け取る必要がある点に注意しなければなりません。
社有社宅は減価償却費として計上が可能
会社が社宅用の建物を購入した場合、社宅は会社の資産となります。そのため、購入費用は、建物の種類に合わせた法定耐用を用い、減価償却費として経費計上が可能です。また、社宅にかかる固定資産税や火災保険料なども、経費として計上することができます。
社宅を経費扱いにする場合の注意点
社宅を経費として計上する場合には、次の点に注意するようにしましょう。
賃料相当額の50%以上は従業員から徴収する
繰り返しになりますが、無償で社宅を提供した場合、給与の一部として扱われることになるため、従業員の納税額や社会保険負担額が増加します。従業員の福利厚生のためにとの思いから無償で社宅を提供した場合、経費に計上できず、従業員の負担も増やしてしまうのです。また、福利厚生費として処理できないため、企業側の税負担も増やします。
企業と従業員の双方にとって無償で社宅を貸し出す行為には、デメリットがあります。社宅の賃料は、賃料相当額の50%以上に設定するよう、制度の設計を進めましょう。
借り上げ社宅の場合は法人名義で契約が必要
社有社宅ではなく、一般の住宅を社宅扱いにする場合は、法人名義で賃貸借契約を締結しなければなりません。借り上げ社宅の場合、従業員が勤務地や自身の家族構成に合わせて住居を見つけるケースもあるでしょう。その場合、従業員が借主となって賃貸借契約を結び、企業が家賃に対する補助を行うと、社宅ではなく、住宅手当という扱いになります。従業員の社会保険料や納税額の負担を減らしたい場合は、必ず法人名義で契約を締結することが大切です。
駐車場代や水道光熱費は従業員の負担とする
社宅の駐車場代や水道光熱費については、基本的に使用する従業員が負担するケースが一般的です。また、借り上げ社宅の場合には、住宅と駐車場を分け、駐車場に関しては従業員と貸主が直接、賃貸借契約を交わすこととなります。電気やガス、水道なども従業員に個人名義で各事業者と契約を締結してもらうようにしましょう。
役員に社宅を貸し出すときも経費にできる?
従業員ではなく、役員に社宅を貸し出すことも可能です。ただし、その場合、従業員に社宅を貸与する場合と賃料相当額の計算が変わるケースがある点に注意しなければなりません。役員に社宅を貸与する場合は、社宅が小規模住宅に該当するかしないかによって賃料相当額の計算が変わるのです。
小規模住宅とは
まず、小規模住宅とは次のような住宅のことです。
・法定耐用年数が30年以下の建物の場合、床面積が132㎡以下である住宅
・法定耐用年数が30年を超える建物の場合、床面積が99㎡以下である住宅
マンションのような区分所有住宅の場合や、共有部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えた合計面積で判断をします。
小規模住宅を役員に貸与する場合に経費とする条件
上の条件に当てはまる小規模住宅を役員に社宅として貸与する場合、従業員と同じく、次の3つの式の合計額が賃料相当額となります。
・その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
・12円×その建物の床面積(㎡)/3.3(㎡)
・その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
ただし、従業員の場合は、賃料相当額の50%以上を従業員から徴収していれば、経費計上ができましたが、役員の場合は、賃料相当額以上を徴収していなければ、経費の対象となりません。
小規模住宅に該当しない社宅を役員に貸与する場合に経費とする条件
小規模住宅を役員に社宅として貸与する場合は、社有社宅であっても借り上げ社宅であっても賃料相当額の計算は変わりません。しかし、役員に貸与する社宅が、小規模住宅に該当しない場合、社有社宅であるか借り上げ社宅であるかによって賃料相当額の算出方法が変わります。いずれの場合も賃料相当額以上の賃料を役員から受け取っている場合に限り、社宅として経費計上が認められます。
・社有社宅の場合の賃料相当額の計算
社有社宅の場合は、次の計算式の合計額の1/12が賃料相当額となります。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%※
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%
※ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には、12%ではなく10%をかけた額となります。
・借り上げ社宅の場合の賃料相当額の計算
借り上げ社宅の場合は、会社が貸主に支払う家賃の50%の金額と社有社宅の賃料相当額のいずれか多い金額が賃料相当額となります。
・豪華社宅を貸与した場合の賃料相当額
床面積が240㎡を超える住宅を社宅として貸与する際、取得価額や支払賃貸料の額、内外装の状況などを総合的に判断し、豪華社宅として認められた場合は、通常支払うべき使用料に相当する額が賃料相当額となります。また、床面積が240㎡以下であっても一般的な住宅には設置されていないプール付きの住宅や個人の趣味を著しく反映した設備を持つ住宅などについても、豪華住宅としてみなされる可能性があります。
役員への社宅貸与が経費とならない範囲
役員に社宅を貸与する際、経費として扱えないケースは次の場合です。
・無償で貸与している場合
・役員から受け取っている賃料が賃料相当額よりも低い場合
・法人名義ではなく役員の個人名義で賃貸借契約を締結している場合
社員と役員で社宅の経費計上の要件異なる理由とは
社員に社宅を貸与する場合と役員に社宅を貸与する場合を比べると、経費として計上できる条件は、役員に社宅を貸与する場合の方が厳しくなります。それは、社宅を経費とすることで会社側は法人税の節税を、役員は自身の所得税の負担軽減を狙い、社宅制度を悪用される可能性があるからです。
まとめ
社宅は一定の要件を満たす場合、経費として扱うことができます。経費計上ができれば、企業だけでなく、社員や役員の節税にもつながります。また、社会保険料の負担額を減らせる点も社宅制度のメリットです。
しかしながら、社宅を経費にする場合には、社員からは賃料相当額の50%以上、役員からは賃料相当額以上の額を受け取らなければなりません。また、借り上げ社宅の場合は、法人名義で賃貸借契約を締結しなければ、経費として扱うことができない点にも注意が必要です。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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