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医療機関への税務調査でカルテ開示を求められたらどうすべき?

読了目安時間:約 6分
医療機関にも納税の義務はあり、医療機関に税務調査が入るケースもあります。税務調査では、調査官から質問がなされたり、追加の資料の提示を求められたりすることがあるのをご存じでしょうか。一般企業を対象に行われる税務調査では、帳簿書類などのほかに、契約書や請求書、領収書などの提示も求められますが、医療機関の場合はカルテの開示を求められるケースがあります。
医療機関では、患者さんの情報を記載したカルテを保管していますが、税務調査の際、調査官にカルテの開示を求められた場合、調査官にカルテを見せても問題はないのでしょうか。
今回は、税務調査で調査官からカルテの開示を求められた場合に医療機関が取るべき対応についてご説明します。
目次
税務調査でなぜカルテ開示が求められる?
税務調査は、税金を正しく納めているかをチェックする調査であり、一見するとカルテと納税は関係がないようにも思えます。では、医療機関に対する税務調査において、調査官はなぜ、カルテの開示を求めるのでしょうか。
カルテとは
カルテとは、医師や歯科医師が患者の病状や処置、経過などについて記録する診療記録の記録簿であり、日本語では「診療録」と呼ばれる記録簿です。医師法では、第24条において「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない。」と示されています。また、歯科医師法では第23条に同じ内容が示されており、医師同様、カルテへの記録と5年間の保管が義務付けられています。
カルテの記載事項
カルテには、以下の内容を記載しなければなりません。
・患者の氏名、性別、年齢、住所
・患者の病名や主要な症状
・治療方法(処方や処置)
・診療した年月日
また、一般的には、これらの情報のほか、基本情報として既往症や家族の病歴、アレルギーの有無、生活習慣、身体的所見、検査結果などの情報も記録しているケースが多く見られます。
税務調査でカルテの開示が求められる理由
カルテは、診療報酬請求を行うための原本となります。また、保険診療の場合だけでなく、自由診療を行った場合でも、カルテには記録を残さなければなりません。
税務調査では、お金の動きをチェックし、申告内容が正しいものであるかを確認します。カルテには、診療の記録が記載されているために、調査官は売上として計上されている自由診療が、正しい金額、正しい日付で計上されているかをチェックしようと考えるのです。
医療機関に税務調査を実施する場合、自由診療の収入は重点的に調査が行われます。保険診療の場合、医療機関はカルテから1ヶ月の診療内容を集約し、レセプトを作成し、審査支払機関に提出をします。審査支払機関ではレセプトの審査を行い、健康保険組合などに審査したレセプトを送付すると、健康保険組合では医療費を払い込みます。その後、医療機関に医療費が支払われるという仕組みです。しかし、自由診療の場合、審査支払機関にレセプトを提出する必要はなく、患者が治療費を全額負担します。直接、患者から金銭を授受することになるため、自由診療では収入を過少に計上したり、そもそも収入を計上しなかったりという不正が行われやすいのです。カルテを見れば、診療の内容が確認できるため、正しく収入を計上しているかも確認ができます。そのため、税務調査時にはカルテの開示を求めるケースが多いのです。
税務調査の2つの種類とカルテの開示
税務調査は大きく分けると「強制調査」と「任意調査」の2つに分けることができます。
強制調査
強制調査とは、多額の脱税や悪質な仮装・隠蔽行為などが疑われる場合に、裁判所の令状をもとに国税局査察部が実施する調査です。強制調査では、調査官は納税に関連する資料を押収できる権限を持っており、納税者は調査を拒否することはできません。
しかしながら、医療機関に対して強制調査が実施された場合は、カルテの開示を求められても拒絶することが可能とされています。
強制 調査時にカルテの開示を拒絶できる根拠
刑事訴訟法第105条では、医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人、宗教の職に就いている人に関しては、他人の秘密に関するものについては押収を拒むことができるとしています。カルテには、患者の名前や年齢、住所のほか、治療の履歴などが細かく記されています。そのため、カルテは他人(患者)の秘密に関する記載がなされた資料であるといえるのです。したがって、刑事訴訟法にしたがった場合、強制調査であっても他人の秘密に関わるカルテの開示や押収は拒否できると考えられます。
任意調査
任意調査は、管轄の税務署の調査官によって実施される税務調査です。強制調査とは異なり、任意調査では裁判所の令状が用意されることもありません。任意調査は、納税者の同意のもとで行われる調査であるため、任意調査と呼ばれます。しかしながら、任意調査では調査官には質問検査権が与えられており、納税者は調査官の質問や検査に応じる受忍義務があります。
質問調査権とは、税務調査の際に納税者に対し、質問をしたり、帳簿書類などの提示や提出を求め、検査を実施したりする権利です。カルテの開示を求める場合、調査官は質問調査権があることを示すでしょう。
調任意調査でカルテ開示を拒否できる根拠
査官には質問検査権がある一方で、納税者には受忍義務があります。税務調査においては、納税者は受忍義務があるため、調査官の求めに応じ、質問に応えたり、要求された書類の提示や提出を行ったりしなければなりません。しかし、刑法第134条では、秘密漏示について次のように定めています。「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6ヶ月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処せられる。」
税務調査時のカルテ開示は、刑法第134条に違反する行為となる可能性があるのです。
税務調査時のカルテ開示を巡るさまざまな解釈
医療機関の立場からすれば、たとえ税務調査であったとしても、患者さんの個人情報が記載されているカルテは開示したくないと考えるはずです。しかし、調査官の立場であれば、税務調査のためにはカルテの開示は必要になるという考えになるでしょう。
そのため、税務調査時のカルテ開示を巡ってこれまでにもさまざまな解釈がなされています。
国税庁のホームページにおける税務調査時のカルテ開示に関する言及
国税庁のホームページにある「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」では次のような記載があります。
問8 調査対象となる納税者の方について、医師、弁護士のように職業上の守秘義務が課されている場合や宗教法人のように個人の信教に関する情報を保有している場合、業務上の秘密に関する帳簿書類等の提示・提出を拒むことはできますか。
これに対する回答は、次のとおりです。
「調査担当者は、調査について必要があると判断した場合には、業務上の秘密に関する帳簿書類等であっても、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て、そのような帳簿書類等を提示・提出いただく場合があります。
いずれの場合においても、調査のために必要な範囲でお願いしているものであり、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものです。調査担当者には調査を通じて知った秘密を漏らしてはならない義務が課されていますので、調査へのご協力をお願いします。」
参照元:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
この文章からは、税務調査を進めるうえで必要がある場合には、カルテを含め、業務上の秘密に関する書類も、提出や提示をお願いする場合があるという内容が見て取れます。また、絶対に開示しなければならないという断定的な文言ではなく、協力をお願いしますという表現がなされていることから、カルテの開示には必ずしも応じる必要はないと考えることもできる/strong>でしょう。
個人情報保護法に基づく税務調査時のカルテ開示
カルテは個人情報に該当する情報であり、医療機関は個人情報取扱事業者となります。個人情報保護法第27条では、個人情報取扱事業者は、例外を除き本人の同意なく個人情報を第三者に開示できないことが示されています。
しかし、次の場合は、本人の同意がなくても個人情報を提供することが認められています。
・法令に基づく場合
・人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
・公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
・国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
・当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データの提供が学術研究の成果の公表又は公表のためやむを得ないとき。
・当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データを学術研究目的で提供する必要があるとき。
・当該第三者が学術研究機関等である場合であって、当該第三者が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき。
ここでポイントとなるのが、税務調査は法令に基づくものであるかといった点です。調査官が持つ質問検査権は、法令に基づいたものであるため、税務調査時には患者の同意なく、カルテを開示できると捉えることができます。
判決を例に見る税務調査時のカルテ開示
税務調査時のカルテ開示については、これまでも度々問題となるケースがありました。過去の裁判では、カルテは事業に関する帳簿書類その他の物件に該当するとし、調査官が税務調査時にカルテを検査したことは違法ではないという判決が下されています。つまり、税務調査時にカルテの開示を求めることは、法律上問題はないとされているのです。
税務調査時にはカルテの開示が求められたときの対応は?
カルテや個人情報については、医師法や歯科医師法、刑法、刑事訴訟法、個人情報保護法においてさまざまな規定がなされています。そのため、税務調査の際にカルテの開示を求められた場合、カルテの開示に応じるべきなのか、応じる必要がないのか判断に迷うケースが少なくありません。
では、医療法人に税務調査が入り、カルテの開示を求められた場合、どのように対応すべきなのでしょうか。
カルテの開示は税務調査に必要な範囲に限る
調査官が税務調査時にカルテの開示を求める理由は、個人情報を調べるためではなく、お金の動きを調べるためです。そのため、税務調査の対象になったからといって、全ての患者のカルテを開示する必要はありません。帳簿やその他の書類を確認したうえで、より詳細な記録を確認するためにカルテの開示が必要になるのであれば、該当のカルテのみを開示すればよいのです。
したがって税務調査時には、カルテは業務上の秘密に関する書類であることを主張したうえで、なぜ、カルテの開示が必要になるのか調査官に質問をするとよいでしょう。そのうえで、カルテの開示が必要である理由に納得できた場合、カルテの開示範囲を確認し、調査に必要な部分のみに留めるようにしましょう。
カルテの開示を含め税務調査に不安がある場合は税理士に相談を
カルテは、患者の個人情報を含む重要なデータであり、税務調査時にカルテの開示を求められた場合、本当にカルテを開示しても問題ないのか不安を感じるケースも少なくありません。調査官の中には、質問検査権があることを主張し、他の帳簿書類などの詳細な調査を実施する前に、カルテの開示を求めるケースもあります。そのような場合は、必要な範囲のみの開示にとどめたい旨を主張しなければなりません。しかし、百戦錬磨の調査官を前にした場合、交渉が難航する可能性もあるため、不安な場合には税理士に税務調査の対応を依頼することをおすすめします。顧問税理士がいる場合には、顧問税理士に税務調査の立ち会いを依頼しましょう。また、顧問税理士がいない場合でも、税務調査の対応だけを引き受ける税理士もいるため、税務調査の事前通知を受けたらできるだけ早めに相談することをおすすめします。
まとめ
クリニックや病院、歯科医院など、医療機関に税務調査が入る際、調査官からカルテの開示を求められるケースがあります。カルテには、診療日時や処置の内容などが詳しく記載されているため、正しく収入が計上されているかを確認するために、カルテの開示を求めるケースがあるのです。
しかしながら、カルテは個人情報に該当する重要な情報であり、原則として本人の同意なく第三者に情報を開示することはできません。また、医師法や歯科医師法、刑法、刑事訴訟法でも個人情報の守秘義務が規定されています。そのため、税務調査時にカルテの開示を求められた場合には、なぜカルテの開示が必要になるのかを確認したうえで、必要な範囲だけの開示にとどめることが大切です。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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