2025.06.7
  • 税務調査

帳簿をつけてない個人事業主は確定申告時にどうすればよい?

読了目安時間:約 6分

個人事業主は、会社員のように給与から所得税などの税金が天引きされることはありません。そのため、自分で1年間の所得を算出し、納税額を計算して税金を納める確定申告を行う必要があります。所得税は、1年間の所得額に対して課される税金であるため、確定申告を行うためには、1年間の売上と経費の額から所得を求めなければなりません。正しい所得額を算出するためには、帳簿が必要です。しかしながら、個人事業主として事業を始めて間もない方の中には、帳簿をつけてないケースがあるかもしれません。個人事業主が帳簿をつけてない場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

今回は、個人事業主が帳簿をつけていない場合に生じるリスクと帳簿をつけていない場合の確定申告時の対処法などについてご説明します。

 

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帳簿とは

帳簿とは、取引やお金の流れを記録する書類のことです。企業には帳簿つけが義務付けられていますが、個人事業主にも1年間の取引内容を記した帳簿をつけ、一定期間保存する義務が課せられています。

 

個人事業主の記帳方法

確定申告の方法によって帳簿のつけ方、記帳の方法は変わります。青色申告の場合には、複式簿記と呼ばれる方法での記帳が必要です。また、白色申告の場合には簡易簿記(単式簿記)での記帳が認められています。

 

個人事業主がつける帳簿の種類

帳簿は主要簿と補助簿の2種類に区分することができます。

このうち、主要簿に含まれるのは、仕訳帳と総勘定元帳です。仕訳帳とは発生した取引をすべて日付順に記載する帳簿で、記載するときには取引を借方と貸方に分け、該当する勘定科目と金額を記入することとなります。仕訳帳は複式簿記での記帳が必要です。

また、取引を日付順ではなく勘定科目ごとにまとめた帳簿を総勘定元帳と言います。そのほか、現金出納帳、預金出納帳、固定資産台帳、売掛帳、買掛帳、商品有高帳、仕入先元帳、得意先元帳などが補助簿に該当します。

青色申告を行う場合、青色申告特別控除を受けられますが、55万円または65万円の特別控除を受けたいときには、主要簿の作成が必要になります。一方、青色申告でも10万円の特別控除を受けたい場合、白色申告を行う場合は、補助簿のみの作成で問題ありません。

 

個人事業主が帳簿をつけてない場合のリスク

個人事業主が帳簿をつけてない場合、どのようなデメリットが生じるのでしょうか。帳簿をつけてないことで生じる主なリスクをご紹介します。

 

無申告加算税が課される

帳簿をつけていないために確定申告書の作成ができず、確定申告を行わないまま放置しておくと、無申告状態となります。確定申告の必要があるにもかかわらず、申告をせず、納税をしていない場合には、無申告加算税の納税が求められます。無申告加算税の税率は、50万円以下の部分については15%、50万円超300万円以下の部分については20%、300万円超の部分については30%です。

 

過少申告加算税が課される

個人事業主が帳簿をつけてない場合、売上や経費の証明となる書類がありません。そのため、確定申告の内容が正しいのかを判断することができず、税務調査時には、経費が否認されるケースも出てきます。経費が否認されると、経費として計上できる額が減るため、所得額が大きくなり、税額が不足します。この際、不足分の税額の納税を求められるだけでなく、過少に申告したことのペナルティとして過少申告加算税が課される恐れがあります。過少申告加算税の税率は、不足分の税額の10%です。ただし、期限内申告の額と50万円のいずれか大きい方の金額を超える部分については、税率が15%となります。

 

帳簿の提出がない場合には加算税が上乗せされる

個人事業主が帳簿をつけてない場合、税務調査の対象となった際、調査官から帳簿の提出を求められても帳簿を提出することはできません。令和4年度税制改正によって、帳簿を保存していない場合や提出しない場合、加算税の加重措置が行われるようになっています。

税務調査で帳簿の提出がない場合、加算税は10%加重されることになるのです。確定申告をしていない無申告状態の場合は、無申告加算税が10%加重されるため、50万円以下の部分については25%、50万円超300万円以下の部分については30%、300万円超の部分については40%が課されることとなります。

また、過少申告加算税が課される場合の税率は、20%となり、期限後申告の額と50万円のいずれか大きい方の額を超える部分の税率は25%にアップします。

 

延滞税が課される

帳簿をつけていないために確定申告をしていない場合や申告した税額に不足があった場合は、納税が遅れたことに対するペナルティとして延滞税が課される恐れもあります。延滞税は、納税が完了する日まで、日割りで計算されるという性質があるため、納税が遅れるほど延滞税の額は膨らんでいきます。そのため、長年にわたって帳簿をつけずに確定申告をしてこなかった個人事業主の場合、延滞税の額が高額に上る恐れもあるでしょう。

 

青色申告が取消となる

青色申告を行った場合、青色申告特別控除を受けることができます。青色申告特別控除とは、青色申告で所得税の確定申告を行った場合、一定の金額を課税所得額から差し引くことができる制度です。特別控除額を差し引くと、課税所得額を圧縮できるため、所得税の節税につながります。そのほか、青色申告では、赤字を3年にわたって繰り越すことができるなどのメリットもあります。

しかし、帳簿つけをせず、税務調査時などに帳簿を提示できない場合は、青色申告の承認が取り消される恐れがあります。青色申告が取り消された場合、青色申告特別控除は適用されないため、納税の負担が増える可能性が高くなるでしょう。また、赤字の繰り越しなどの特典も利用することはできなくなる点に注意が必要です。

 

消費税の仕入税額控除が適用されない

消費税の課税事業者の場合、課税売上にかかる消費税の額から、仕入にかかった消費税を差し引いて納付することができます。適格請求書発行事業者として登録した場合、仕入税額控除の対象となります。しかし、消費税の仕入税額控除を適用させるためには、仕入にかかった消費税の額を証明できる帳簿と適格請求書の保存が条件です。

そのため、帳簿をつけていない場合、消費税の仕入税額控除の適用はできません。消費税の仕入税額控除が認められなければ、課税売上分の消費税から仕入れ分の消費税を控除することができないため、納付する消費税の額が大きくなる恐れがあります。

 

推計課税によって本来よりも多額の納税が求められる

推計課税とは、同業他社の平均的な売上、平均的な経費などを参考に、売上や経費を推定して税額を決定する方法のことです。帳簿をつけていない場合、正しい売上や経費を算出することはできず、納税額も決定できません。そのため、同業他社の割合などを使用して税額を推計し、課税する、推計課税の方法によって課税額が決定される場合があります。

帳簿をつけてない個人事業主に税務調査が入った場合は、推計課税が実施される可能性が高くなるでしょう。

しかし、推計課税が行われる場合、本来よりも経費の額を低く見積もられる場合もあります。また、売上の額が実際よりも高く設定される可能性もあるでしょう。そのため、推計課税が行われた場合、実際よりも多い額の納税が求められる可能性があります。

 

帳簿をつけてない個人事業主の確定申告はどうすればいい?

帳簿をつけてない場合は、次のような対処を行い、少しでも税務調査時のリスクを軽減することが大切です。

 

できるだけ書類を収集して整理する

手元にある売上や収入が分かる契約書や通帳の取引履歴、レジの記録、発行した領収書の控えなどを収集します。また、取引先から発行された領収書や備品などを購入した場合のレシート、クレジットカードの支払明細書、通帳の履歴なども探しましょう。クレジットカードで支払いを行っている場合には、インターネット上で明細書をダウンロードできる場合もあります。また、再発行を依頼できるケースもあるため、できるだけ支払いを証明できる書類を収集することが大切です。

すべての書類がそろわない場合でも、少しでも書類を収集することで、真実に近い形で確定申告を行うことができます。

 

気が付いた時点で帳簿つけを開始する

帳簿をつけてないことに気が付いたときには、そのタイミングから帳簿つけを開始します。

収集した書類は月別に整理し、漏れなく、正しい金額を記帳することが大切です。また、収集した書類をしっかりと保管しておくことも忘れないようにしましょう。

青色申告を行う場合は、仕訳帳と総勘定元帳を作成しなければなりません。仕訳帳と勘定元帳を作成する際には、内容ごとに勘定科目を設定し、集計する必要があります。勘定科目とは、お金の内容を分かりやすく示すためものであり、一般的には以下のように分類されるケースが多くなっています。

 

・売上:事業活動で発生した収入

・仕入:販売する商品や原材料の購入費用

・支払家賃:オフィスや店舗などの家賃

・旅費交通費:事業のためにかかった交通費や宿泊費

・交際費:取引先の接待費用や取引先などに贈ったお中元・お歳暮などの費用

・水道光熱費:オフィスや店舗で使用した電気やガス、水道などの料金

・広告宣伝費:事業の宣伝をするためにかかった費用

・租税公課:印紙代や公的書類の発行手数料など

・通信費:電話代や携帯電話代、インターネット回線費など

・支払手数料:銀行の振込手数料や代引き手数料など

・消耗品費:文房具やオフィス用品など、10万円未満または耐用年数1年未満の什器備品を購入した場合の費用

・外注費:外部の法人や個人に業務の一部を委託した場合に発生した費用

など

 

税理士にも相談をする

記帳の方法が分からない場合や確定申告の時期が迫っている場合、帳簿をつけてないからといって確定申告をしてこなかった場合などは、税理士への相談も検討しましょう。帳簿をつけてないという理由から確定申告をしなかった場合、無申告加算税が課せられます。前述のように無申告加算税は、過少申告加算税に比べて重たい税率が課せられるものです。確定申告をしてこなかった場合、税務調査の対象になれば、無申告加算税が課され、さらに帳簿の提出ができないために無申告加算税に10%の加重がなされます。そのため、少しでも税負担を抑えるためには、帳簿をつけてない場合でも、できるだけ事実に近い形で確定申告を行うことが重要です。税務署は税務のプロであり、相談をすれば、納税者の状況に合わせて適切な対処法を提案してもらえる可能性があります。帳簿をつけてない場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。

 

帳簿をつけてない個人事業主に税務調査の連絡が来た場合はどうする?

帳簿をつけてない個人事業主は、税務調査の対象となる可能性が高くなります。帳簿がない場合、申告内容に不審な点が見られるケースが多いのです。また、帳簿をつけずに確定申告をしていない場合も税務調査が入る可能性が高くなるでしょう。

税務調査が実施される際には、原則として税務署から事前通知が行われます。事前通知とは、税務調査に入る旨や調査の実施日時、調査の対象となる税目などを報せる税務署からの連絡です。もし、税務署から事前通知を受けたら、手元にある書類を収集し、売上や経費を計算して、分かる範囲で帳簿を作成するようにしましょう。税務調査時に、帳簿の提出を求められた際には、手元にある書類で作った帳簿を提出すると、過少申告加算税などの加算税を多少軽減できる可能性があります。

また、税務調査の事前通知を受けた場合にも税理士に相談すると、対応方法などについてのアドバイスをもらえます。また、調査当日の立ち会いを依頼することもできるため、対応方法などに不安がある場合などは税理士に相談してみましょう。

 

まとめ

個人事業主も、帳簿をつけなければなりません。帳簿は、売上や経費など、お金の流れを証明する書類であり、帳簿をつけていなければ正しく所得額を算出することができず、正しい額の税金を納めることができないからです。帳簿をつけていない個人事業主に税務調査が入った場合、追徴課税がなされるリスクがあるほか、青色申告の承認が取り消される恐れもあります。

帳簿をつけていない場合には、用意できる契約書や納品書、領収書、クレジットカードの明細などを集めて仕訳をし、今からでも帳簿をつけるようにしましょう。

 

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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