2025.11.17
  • 税務調査

NPO法人には消費税の納税義務がある?インボイス対応の必要性は?

読了目安時間:約 6分

NPO法人は、特定非営利活動に対する法人税の課税が免除されるなど、さまざまな税制上の優遇措置が用意されています。では、NPO法人の場合、消費税も非課税となるのでしょうか。

また、2023年10月からインボイス制度がスタートしています。買い手側は、売り手側から発行されるインボイスを保存していない場合、消費税の仕入税額控除を適用できません。では、NPO法人もインボイスを発行できるように消費税の課税事業者となり、インボイスの発行に対応すべきなのでしょうか。

今回は、NPO法人の消費税の納税義務とインボイス対応の必要性について解説します。

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NPO法人にも消費税は課される?

NPO法人は、法人税同様、消費税においても優遇措置を受けられるのでしょうか。

消費税とは

消費税は、商品やサービスなどの提供に対して課される税金です。消費税は、生産から流通、小売りの各段階で価格に転嫁されており、最終的には消費者が負担し、各段階の事業者が納税を行うことになります。

消費税の納税の仕組み

消費税は、消費者が負担する税金ですが、消費者が直接、国に納税するのではなく、消費者から消費税を預かった事業者が消費税額を申告し、納税する仕組みです。生産、流通、小売りの各段階において消費税が課税されているため、各段階の事業者は、仕入時に消費税を支払っていますが、さらに消費税も価格に転嫁された分の消費税を負担することとなります。この状況は、二重、三重に消費税が課税されている状態となるため、事業者は売上時に受け取った消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いた額を申告し、納税することとなっています。この制度を「仕入税額控除」と言います。また、消費税の納税義務がある事業者を消費税の課税事業者と言います。

NPO法人も消費税の課税事業者となり得る

結論から申し上げますと、NPO法人も消費税の課税事業者となる可能性があります。なぜなら、消費税法では「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡」は消費税の課税対象となるとしているからです。

また、資産とは「販売用の商品、事業等に用いている建物、機械、備品などの有形資産のほか、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの権利やノウハウその他の無体財産権など、およそ取引の対象となるすべてのものをいいます。」とも示しています。したがって、消費税はほぼすべての取引に対して課される税金であり、NPO法人も消費税法の事業にあたる活動を行っているため、消費税の課税対象となるのです。

法人税では、特定非営利活動で得られる所得については課税対象外となりますが、消費税の場合、すべての事業が課税の対象になる点に注意しなければなりません。

消費税がかからない取引とは

原則として、事業者が行うすべての取引は、消費税の課税対象となるとされています。しかしながら、中には消費税がかからない取引もあります。消費税のかからない取引は、非課税取引と不課税取引の2つに区分できます。

非課税取引とは

非課税取引とは、課税対象に馴染まないもの、社会政策的配慮から消費税を課税しないものを言います。

具体的には土地や有価証券、商品券などの譲渡、預貯金や貸付金の利子、社会保険医療などが不課税取引に該当します。NPO法人の場合、介護保険法や社会福祉法などに定められたサービスについては、非課税取引となります。

不課税取引とは

不課税取引とは、課税取引の要件を満たしていない取引のことです。消費税の課税対象は、国内において事業者が事業として行い、対価を得ている取引であり、課税取引の要件を満たしていない取引については、消費税はかかりません。

具体的には、国外取引や対価を得ていない取引、出資に対する配当などが該当します。NPO法人の場合、寄附や補助金などは、対価を得ていないために不課税取引です。また、会費についても対価性がない場合には不課税とみなされます。

非課税取引と不課税取引の違い

非課税取引も不課税取引も消費税が課税されないという点では同じです。しかし、課税売上割合を算出する際、非課税取引と不課税取引では取り扱いが異なります。

消費税の納税を行う際、仕入税額控除において、課税仕入れにかかる税額を判定するためには、課税売上割合を算出しなければなりません。

課税売上割合は次の式で算出します。

課税売上割合=(課税売上高+免税売上高)/(課税売上高+免税売上高+非課税売上高

つまり、非課税売上高については課税売上高を計算する際の分母に含まれるのに対し、不課税売上高は分母に含まないのです。

非課税取引と不課税取引を明確に区別しなければ、消費税の仕入税額控除を正しく計算することができません。そのため、NPO法人の場合、非課税取引に該当する取引と不課税取引に該当する取引を、明確に区分しておくことが大切です。

消費税の課税事業者となるNPO法人とは

NPO法人の取引も消費税の課税対象となるため、NPO法人であっても消費税の課税事業者になる可能性があります。しかし、NPO法人が必ず消費税の課税事業者になるわけではありません。消費税の課税事業者になるかどうかは、基準期間などの課税売上高で判断をします。NPO法人が消費税の課税事業者になるケースは次のような場合です。

基準期間の課税売上高1,000万円を超える場合

期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は、消費税の免税事業者として扱われます。基準期間とは、NPO法人の場合、前々事業年度のことです。例えば、2025年度に課税売上高が1,000万円を超えた場合、2027年度から消費税の納税義務が生じます。

課税売上高は、(課税売上高+免税売上高)-(値引きや返品、売上割り戻しの合計)で計算をします。課税売上高は、課税対象となる売上高になるため、消費税の額は含まれません。

特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合

特定期間とは、前事業年度の期首から6か月間のことです。特定期間の課税売上高が1,000万円を超え、さらにその間の給与支払額が1,000万円を超える場合は、消費税の課税事業者になります。

基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高と給与支払額が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者となるのです。ただし、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合であっても、給与支払額が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務は生じません。その場合、課税事業者となるか免税事業者となるかは納税者が選択できます。また、特定期間の課税売上高が1,000万円以下で給与支払額が1,000万円超の場合も、課税事業者となるか免税事業者となるかを選択することが可能です。

課税事業者選択届出書を提出し、インボイス発行事業者となった場合

基準期間の課税売上高や特定期間の課税売上高・給与支払額に関わらず、課税事業者選択届出書を提出し、インボイス発行事業者として登録した場合は、消費税の課税事業者となります。

消費税の納付税額の計算方法

消費税を納税する際には、仕入税額控除を行い、税額を確定させます。このときの消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」と呼ばれる方法があります。

本則課税

本則課税とは、売上に係る消費税の額から仕入れにかかる消費税額を控除し、消費税の納税額を求める計算方法です。本則課税による計算方法には「全額控除方式」「個別対応方式」「一括比例分配方式」の3種類があります。

全額控除方式

課税期間中の課税売上高が5億円以下の場合、かつ課税売上割合が95%以上のときは、全額控除方式で計算をします。全額控除方式とは、売上にかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額の全額を控除する計算方法です。

個別対応方式

個別対応方式とは課税仕入れを以下の3つに区分し、消費税額の控除額を計算する方法です。

  • 課税売上のみに要する課税仕入れ等に係るもの
  • 非課税売上のみに要する課税仕入れ等に係るもの
  • 課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ等に係るもの

仕入税額控除は、①+③×課税売上割合の式で算出します。

課税仕入れを区分する手間がかかりますが、課税売上のみに要する課税仕入れにかかる消費税は、全額控除できるといったメリットがあります。

一括比例配分方式

一括比例配分方式とは、課税売上にかかる消費税額から課税仕入れ割合をかけて、仕入税額控除の額を算出する方法です。一括比例配分方式は、非課税売上が多い事業者にとってメリットの大きい計算方式ですが、一括比例配分方式を選択した場合2年間は変更できない点に注意しなければなりません。

簡易課税

簡易課税とは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者を対象とした制度で、中小事業者の納税事務負担を軽減するために導入された消費税額の計算方法です。

簡易課税制度を利用する場合、売上にかかる消費税額に業種ごとに定められたみなし仕入れ率をかけて仕入税額控除の額を算出します。仕入れにかかる消費税額の額を計算する必要がないため、事務手続きを軽減することが可能です。

NPO法人の消費税計算時の特例

NPO法人の場合、企業に比べると補助金や寄附金など、特定収入と呼ばれる対価性のない収入を得ている割合が高くなっています。補助金や寄附金の特定収入は、不課税取引に該当します。補助金や寄附金を利用して課税仕入れを行った場合、売上には消費税がかかっていないものの、仕入にかかる消費税だけが生じるという状況を生み出します。すると、売上に係る消費税に比べて仕入れにかかる消費税額が大きくなるため、納付税額が低くなるという問題が発生します。結果、補助金や寄附金のほかに、消費税の還付まで受けられる状況になってしまうのです。

そこで、NPO法人に対しては、補助金や寄附金など、特定収入に対応する課税仕入れにかかる消費税は、仕入控除の対象外とする特例が用意されています。対象となるのは、総収入に占める特定収入の割合が5%を超えており、かつ本則課税を行っているNPO法人です。簡易課税を選択しているNPO法人の場合は、この特例は適用されません。

NPO法人もインボイスに対応すべき?

2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されました。消費税の課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、インボイス(適格請求書)の保存が必要です。インボイスを発行するためには、インボイス発行事業者としての登録が必要ですが、インボイス発行事業者に登録するためには消費税の課税事業者であることが条件となります。では、消費税の免税事業者であるNPO法人はインボイス発行事業者として登録すべきなのでしょうか。

インボイス制度と消費税仕入額控除の関係

インボイス制度の開始に伴い、従来の請求書では、仕入税額控除が認められません。必要な情報が記載されたインボイスを保存していなければ、買い手は消費税の仕入税額控除を適用させることができないのです。仕入税額控除を適用できなければ、売上にかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額を控除できないため、消費税の納付額が多くなります。

そのため、課税事業者がインボイスを発行していない事業者と取引をした場合、仕入税額控除を適用できないという理由から、取引を敬遠する可能性が出てきます。

NPO法人もインボイス対応が必要?

免税事業者であるNPO法人がインボイスに対応する場合、消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。免税事業者であれば納税の必要がなかったNPO法人もインボイス発行事業者となれば、消費税を納めなければならず、税負担が増加するのです。

しかし、取引先に課税事業者が多い場合、インボイスの発行を受けられなければ、仕入税額控除を適用できないため、取引が減少する恐れがあります。インボイスに対応している他の事業者に依頼すれば、仕入税額控除を適用できるとなると、取引の見直しにつながる可能性も出てくるでしょう。

したがって、NPO法人でも課税事業者との取引が多い場合などは、たとえ基準期間の課税売上高が1,000万円未満であっても、インボイス発行事業者としての登録を検討した方が良いかもしれません。

まとめ

NPO法人にも課税取引を行っている場合、消費税の納税が必要です。消費税の場合、法人税のように収益事業のみが課税対象となるといった優遇措置はありません。課税取引であれば、収益事業であるかどうかに関わらず、すべて課税対象となる点に注意が必要です。

NPO法人は寄附や補助金といった不課税取引による収入が多いといった特徴があります。そのため、仕入税額控除の計算では特定収入に対応する課税仕入れについて一定の調整が必要となる点に注意して処理を行うようにしましょう。また、事業の状況を鑑みながら、インボイス発行事業者として登録すべきかどうかについても慎重な判断が求められます。

NPO法人の消費税の計算は複雑であり、対応方法に悩む場合には税理士への相談をおすすめします。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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