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一般社団法人の中には収益事業を行っている法人があります。収益事業は、法人税の課税対象となるため、収益事業にあたるかどうかの判定を正しく行わない場合、納税額が不足し、税務調査に発展する恐れも出てきます。では、一般社団法人では、どのような事業が収益事業に該当するのでしょうか。
今回は、一般社団法人の収益事業の種類や判定基準、利益計算の方法などについて詳しくご説明します。
目次
一般社団法人は、営利を目的としていない、非営利法人です。企業のように利益の獲得を目的とした法人では、営む事業のすべてが収益事業となりますが、非営利法人である一般社団法人の場合は、非営利事業と収益事業の両方を行っている場合があります。
収益事業とは、物品の販売やサービスの提供など対価を受け取る事業で、法人税法施行令第5条に規定された事業を指します。
法人税法施行令第5条に掲げられている収益事業は次の34業種です。
1.物品販売業
物品を販売し、代金を得る事業
2.不動産販売業
不特定多数の人を対象に継続的に不動産の買い入れや売買を行う事業
3.金銭貸付業
不特定多数の人を対象に金銭の貸し付けをする事業や特定の人に金銭の貸し付けをする事業
4.物品貸付業
動産や物品などを貸し付け、対価を得る事業
5.不動産貸付業
不動産を他社に貸し付け、代金を得る事業
6.製造業
原材料を加工し、製品を製造する事業
7.通信業
通信設備を提供する事業や通信放送を行う事業
8.運送業
委託に基づき、船舶や航空機、自動車、電車などの運輸交通機関を利用して貨物や旅客を運搬する事業
9.倉庫業
他人のために物品を倉庫において保管する事業
10.請負業
業務の完成をもって報酬を受ける事業
11.印刷業
書籍や雑誌、新聞などの印刷物を印刷する事業
12.出版業
書籍などの制作、発行、販売を行う事業
13.写真業
写真の撮影や現像などのサービスを提供する事業
14.席貸業
有償で場所を貸し出す事業
15.旅館業
ホテルや旅館などの宿泊施設で宿泊料を受け取り、人を宿泊させる事業
16.料理店業その他の飲食店業
不特定多数の人に飲食物を提供する事業
17.周旋業
職業紹介や結婚紹介など、商行為の媒介や代理、取り次ぎなどを行う事業
18.代理業
保険代理店や旅行代理店など、商行為以外の代理を行う事業
19.仲立業
商品売買など、商行為の仲介や斡旋などを行う事業
20.問屋業
他者のために販売行為を行う事業
21.鉱業
鉱物の採掘を行う事業
22.土石採取業
鉱物以外の土石の採取を行う事業
23.浴場業
公衆浴場の提供を行う事業
24.理容業
理容サービスの提供を行う事業
25.美容業
美容サービスの提供を行う事業
26.興行業
コンサートや演劇、スポーツイベントなどを企画し、不特定多数に観覧させる事業
27.遊技所業
ビリヤードや囲碁、射的など、遊技所を設けて利用させる事業
28.遊覧所業
展望台や遊園地、公園などの施設において有償で景観を観覧させる事業
29.医療保健業
医師や歯科医師などが患者に対して医業や保健衛生サービスなどを提供する事業
30.技芸教授業等
セミナーなどで教育や講座を実施する事業
31.駐車場業
駐車スペースを貸し出し、代金を得る事業
32.信用保証業
保証料を得て信用保証を行う事業
33.無形財産権提供業
特許や著作権等の提供や譲渡によって対価を得る事業
34.労働者派遣業
他者に自社が雇用する労働者を派遣する事業
ただし、これらの34の事業に当てはまる場合であっても、次の事業は種類を問わず、収益事業から除かれるとされています。
企業は、収益事業で得た所得に対して法人税の納税が求められます。一方、一般社団法人の場合、非収益事業と収益事業の両方を営んでいるケースが多くなります。そのため、公益性の高い事業を営んでいる一般社団法人などに対しては、公益事業で得られる所得を課税の対象から除外しています。つまり、一般社団法人には、収益事業による所得のみに法人税が課されるケースとすべての事業所得に対して法人税が課されるケースがあるのです。
収益事業だけに法人税が課税されるのは、公益認定を取得した一般社団法人と非営利型の一般社団法人です。
収益事業だけではなく、事業所得全体に法人税が課されるのは、公益認定を取得しておらず、非営利型の要件も満たしていない一般社団法人です。
公益社団法人ではなく、非営利型にも分類されない一般社団法人の場合、公益性の高い事業を行う必要はありません。しかし、事業内容の自由度が高い分、公益社団法人のような税制上の優遇措置を受けることはできないのです。
一般社団法人は、そもそも利益の獲得を設立目的としていない非営利法人です。しかし、非営利法人といっても、利益を生み出す収益活動を行うことが禁止されるわけではありません。
非営利法人でも、利益を生み出す収益事業を行うことは可能です。ただし、企業のように利益を分配することはできません。利益の分配ができない法人が非営利法人に該当するのです。
非営利法人は、利益を得た場合でも法人の活動目的を達成するために使用しなければならないのです。したがって、一般社団法人も、利益が生じた場合、利益を構成員に分配することはありません。
一般社団法人は非営利法人ではありますが、法人税法上では非営利型の一般社団法人とそれ以外の一般社団法人に区分されます。このうち、非営利型の一般社団法人に対しては収益事業のみに法人税が課税されますが、それ以外の一般社団法人には収益事業も含め、すべての事業所得に法人税が課されるルールです。非営利型一般社団法人はさらに「非営利性が徹底された法人」と「共益的活動を目的とする法人」の2つに区分されます。
非営利性が徹底された一般社団法人とは、次の要件を満たす法人のことです。
1.余剰金の分配を行わないことを定款に定めていること
2.解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること
4.各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること
共益的活動を目的とする法人が満たすべき要件は以下の7項目です。
1.会員に共通する利益を図る活動を行うことを目的としていること
2.定款等に会費の定めがあること
3.主たる事業として収益事業を行っていないこと
4.定款に特定の個人または団体に余剰金の分配を行うことを定めていないこと
5.解散したときにその残余財産を特定の個人または団体に帰属させることを定款に定めていないこと
6.上記1~5まで、以下の7の要件に該当していた期間において、特定の個人または団体に特別の利益を与えることを決定したり、与えたことがないこと
7.各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること
非営利性が徹底された一般社団法人もしくは共益的活動を目的とする一般社団法人の要件を満たした場合、非営利型の一般社団法人となります。非営利型の一般社団法人について何らかの届出を行う必要はありません。しかしながら、非営利型の一般社団法人が収益事業を行う場合には税務署に対し「収益事業開始届出書」を提出する必要があります。提出時期は、収益事業を開始した日から2ヶ月以内です。
その際には、収益事業開始日における収益事業についての賃借対照表と定款の写しを添付する必要があります。
公益社団法人と非営利型一般社団法人の場合、収益事業のみが法人税の課税対象となります。したがって、事業で得た所得を、収益事業によって得た所得であるのか、収益事業以外によって得た所得であるのかを正しく区分することが重要です。
では、公益社団法人と非営利型一般社団では、収益事業をどのように判定すればよいのでしょうか。収益事業の判定基準をご紹介します。
まず、収益事業の判定を行う場合、提供するものやサービスの対価を金銭として受け取っているかどうかが大前提となります。ものやサービスを提供していても、対価として金銭を受け取っていない場合は、収益事業には該当しません。
そのうえで、金銭を受け取っている事業が法人税法施行令第5条に定められた34業種に該当していることが収益事業の条件です。
継続性があるかという点も収益事業の判定では重要なポイントです。継続性とは、1年を通して常に実施されているかという点だけでなく、繰り返し、定期的に行われているかという点にも注目されます。
国税庁では、次のようなケースも収益事業に含まれるとしています。
(1) 例えば土地の造成及び分譲、全集または事典の出版等のように、通常、一定の事業計画に基づく事業の遂行に相当期間を要するもの
(2) 例えば海水浴場における席貸等または縁日における物品販売のように、通常相当期間にわたって継続して行われるものまたは定期的に、もしくは不定期に反復して行われるもの
(注) 公益法人等が令第5条第1項各号《収益事業の範囲》に掲げる事業のいずれかに該当する事業(以下15-1-5において「特掲事業」という。)とこれに類似する事業で特掲事業に該当しないものとを行っている場合には、その行う特掲事業が継続して行われているかどうかは、これらの事業が全体として継続して行われているかどうかを勘案して判定する。
参照元:国税庁「第15章 公益法人等及び人格のない社団等の収益事業課税」
したがって、毎週日曜日には所有しているホールを貸し出し、ホールの利用料金を得ている場合は、毎週日曜日という継続性があるために、収益事業に含まれます。また、夏休みの間だけ保有するセミナールームを一般に貸し出し、収益を得ている場合も、相当期間にわたって継続されているとみなされ、収益事業に含まれると捉えられるケースが多いでしょう。
継続性に加え、事業場を設けているかどうかという点も、収益事業を判定するうえでの重要なポイントとなります。
国税庁では、事業場を設けて行われるものについては、次のように記載しています。
「事業場を設けて行われるもの」には、常時店舗、事務所等事業活動の拠点となる一定の場所を設けてその事業を行うもののほか、必要に応じて随時その事業活動のための場所を設け、または既存の施設を利用してその事業活動を行うものが含まれる。したがって、移動販売、移動演劇興行等のようにその事業活動を行う場所が転々と移動するものであっても、「事業場を設けて行われるもの」に該当する。(昭56年直法2-16「七」、平20年課法2-5「二十九」により改正)
つまり、売店などを設置するだけでなく、イベントが開催される日に合わせてテントで物品を販売するケースなども事業場を設けているとみなされる点に注意が必要です。
一般社団法人が収益事業を行った場合は、法人税の課税対象となります。
公益社団法人と非営利型一般社団法人の場合、収益事業のみに法人税が課されます。そのため、課税所得額を算出するためには、まず、収益事業による収益とその他の収益を分け、収益事業による収益を確定させる必要があります。
そのうえで、費用についても収益事業にかかった費用と収益事業以外の事業にかかった費用を分け、収益事業にかかった費用のみを算出します。
次に、収益費用の収益から収益事業の費用を差し引いた額に法人税の税率をかければ、納税すべき法人税の額を求めることができます。
公益認定も受けておらず、非営利型の一般社団法人の要件も満たしていない一般社団法人の場合は、収益事業も含めた、事業全体の所得に対して法人税が課されます。したがって、法人税の額は、事業全体の収益から事業全体にかかった費用を差し引いて算出した課税所得額に法人税率をかけて求めることになります。
一般社団法人は収益事業を行うことが認められています。公益認定を取得した一般社団法人と非営利型法人の要件を満たした一般社団法人は、収益事業のみが法人税の課税対象となります。一方、それ以外の一般社団法人は企業と同様、すべての事業で得た所得に対して法人税が課せられます。
公益認定を取得した一般社団法人と非営利型一般社団法人の場合、収益事業であるかを正しく判断しない場合、納税額が大きく変わってきます。そのため、収益事業の判定基準をしっかりと把握したうえで、正しく税金の申告を行うことが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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