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事業を継続していくためには、何より事業主や従業員が健康であることが大切です。健康を維持していく上では、病気の早期発見・早期治療が重要になります。病気の予兆をできるだけ早く把握するために実施するのが、健康診断や人間ドックです。
では、健康診断や人間ドックの費用は経費として計上することはできるのでしょうか。
今回は、健康診断や人間ドック費用の経費計上について、個人事業主の場合と法人の場合に分けて解説します。
目次
個人事業主は、小規模な事業を行っているため、事業主が病に倒れてしまった場合、事業の継続が難しくなる可能性が高くなります。そのため、健康診断や人間ドックを受け、健康管理には十分に注意したいと考える方も少なくないのではないでしょうか。では、個人事業主は健康診断費用や人間ドックの費用を経費として扱うことはできるのでしょうか。
個人事業主本人が健康診断を受けた場合、その費用を経費として扱うことはできません。個人事業主の場合、法律上、健康診断の受診が義務付けられていません。したがって、健康診断費用を事業にかかった費用として扱うことはできず、経費に計上することはできないのです。
家族を青色事業専従者として、事業を手伝ってもらっている場合も、家族が受けた健康診断の費用を経費にすることはできません。青色事業専従者についても法律上、健康診断が義務付けられていないことが、経費として扱えない理由です。
健康診断の費用も経費には認められませんが、一般に検査費用が高い人間ドックの費用も個人事業主の場合は経費計上が認められていません。青色事業専従者の人間ドック費用についても同様です。
個人事業主本人や家族の健康診断費用や人間ドックの費用を経費にすることはできません。しかし、従業員を雇用している場合、従業員の健康診断費用や人間ドックの費用は、経費として計上できます。
個人事業主の場合、事業主本人や家族の健康診断費用、人間ドックの費用を経費に計上することは認められません。では、法人の場合は、健康診断費用を経費計上することができるのでしょうか。
法人の健康診断費用は、経費として計上することが可能です。法人の場合、労働安全衛生法に基づき、1年に1回、労働者に対して健康診断を実施しなければならないという規定があります。法律で義務付けられていることから、健康診断費用は経費性のある支出として認められるのです。
役員も従業員と同じ内容の健康診断を受けた場合は、役員の健康診断費用も経費として計上することができます。ただし、役員だけが人間ドックなど、特別な健康診断を受けた場合は、その費用を経費として計上することはできません。
役員だけが人間ドックを受け、従業員は人間ドックを受けていない場合、人間ドックの費用を経費にすることはできません。しかし、従業員も人間ドックを受診させた場合、役員の費用も含め、経費として計上することが可能です。
ただし、この場合であっても従業員全員に人間ドックを行う必要はありません。例えば、40歳以上の希望者に人間ドックを実施した場合など、健康リスクが高まる一定年齢以上の従業員を対象とした場合でも、その費用を経費として扱うことが可能です。
健康診断や人間ドックの費用を経費にする場合、以下の3つの条件をすべて満たすことが必要です。
・すべての従業員が同じ内容の健康診断を受けられること
・費用は常識の範囲内であること
・事業者から直接、健康診断実施機関に費用を支払うこと
一部の従業員だけに健康診断の受診を認めたり、従業員によって受診できる健康診断の内容が異なる場合、経費として計上することはできません。役員だけ人間ドックを受け、従業員には人間ドックを受けさせていない場合は、この条件を満たしていないため、人間ドックの費用を経費として扱うことはできないのです。ただし、前述のように、年齢などによって検査の内容を区切る行為は認められています。
また、正社員だけでなく、パートやアルバイトとして働いている従業員も次の条件をすべて満たす場合、健康診断を実施しなければなりません。
・1年以上の雇用契約を締結しているか、雇用期間を定めていない、または既に1年以上継続雇用している場合
・1週間当たりの労働時間数が通常の労働者の3/4以上である場合
厚生労働省では、定期健康診断の項目として次の内容を掲げています。
・既往歴及び業務歴の調査
・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
・胸部エックス線検査、喀痰検査
・血圧の測定
・貧血検査(血色素量及び赤血球数)
・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
・血糖検査
・尿検査(尿中の糖及びタンパクの有無の検査)
・心電図検査
したがって、健康診断や人間ドックに過度のオプション検査を付け、費用が高額に上がった場合、経費として認められない可能性があります。人間ドックによっては、遺伝子検査などが付加されているプランやホテルライクな環境での宿泊コースなど、高額な費用が発生するものもあります。常識の範囲を超えて高額な費用がかかる健康診断や人間ドックの費用は、経費として扱えない可能性がある点には注意が必要です。
健康診断や人間ドックの費用を、事業者が直接、健康診断実施機関に支払うことも経費計上の条件の一つです。例えば、健康診断費用を従業員が立て替え払いをし、後から現金で支給した場合は、経費として扱うことはできず、給与課税の対象となる場合があります。
健康診断や人間ドックの費用を経費として計上する場合、従業員や役員が医療機関の窓口で費用を支払うのではなく、直接、事業者から支払いを行うようにしなければならないのです。
健康診断や人間ドック費用を経費として計上する場合の勘定科目や注意点についてご説明します。
健康診断費用や人間ドック費用を経費に計上する場合の勘定科目は「福利厚生費」となります。例えば、1人1万円の健康診断を受けた場合、従業員と役員、合計30人の健康診断費用は30万円となります。この場合、30万円を福利厚生費として経費計上することが可能です。また、40歳以上の従業員や役員10人が1人4万円の人間ドックを受けた場合には、40万円を福利厚生費として処理します。
いずれの場合も、経費計上の条件を満たしているかしっかりと確認することが大切です。
福利厚生費として健康診断の費用を経費に計上した場合、消費税は課税仕入れとして扱います。しかし、経費計上の条件を満たしておらず、給与扱いとなる場合は、課税仕入れとして扱うことはできません。福利厚生費であるか、給与扱いとなるかによって消費税の扱い方が変わってくるため、経費に計上する際には必ず要件を満たしていることを確認しましょう。
健康診断や人間ドック以外にも従業員の健康管理に関わる費用には、経費に計上できるものと経費計上できないものがあります。
予防接種が業務上必要であると認められる場合、予防接種の費用も経費として計上することが可能です。例えば、医療機関や医療関連ビジネスを営んでいる企業の場合、インフルエンザの予防接種が必要になるケースもあるでしょう。その場合、すべての従業員を対象としており、金額が常識の範囲内であれば、福利厚生費として経費に計上することが可能です。
ただし、個人事業主の場合、個人事業主本人の予防接種費用や青色事業専従者の予防接種費用を経費として扱うことはできません。
また、海外赴任をするにあたって予防接種が必要になるケースもあるでしょう。その場合に経費計上の対象となるのは、従業員全員ではなく、海外赴任をする従業員の予防接種費用です。
予防接種の場合も、健康保険による医療費ではなく、予防医療となるため消費税の課税取引として扱います。
健康診断を受診した後、何らかの項目で異常が見られ、再検査が必要になる場合もあるでしょう。法人には、従業員に1年に1回、健康診断を実施する義務があります。しかし、法人に課される義務は、健康診断を受診させることであり、健康診断の結果について法人に何らかの対応が課されているわけではありません。そのため、経費として計上できるのは、健康診断の費用までです。健康診断後の再検査費用については、法人が費用を負担する必要はありません。
健康診断によって何らかのトラブルが見つかり、再検査が必要になった場合の費用は、従業員個人が健康保険を利用して受診することとなります。同様に、健康診断で病気が発覚し、治療が必要になった場合も、法人がその治療費を負担する必要はありません。健康診断後の再検査費用や治療費まで経費に計上した場合、税務調査時に指摘を受けることになるため注意しましょう。
個人事業主本人や青色事業専従者の健康診断費用は、原則として経費として計上することはできません。経費に計上できないのであれば、医療費控除を利用できないかと考える人もいるでしょう。
しかし、健康診断の費用は原則として医療費控除の対象にもならない点に注意が必要です。医療費控除とは、治療のためにかかった支出が対象となります。そのため、健康状態をチェックする健康診断は、医療費控除の対象とはならないのです。
ただし、人間ドックや健康診断の費用を医療費控除の対象として認められる場合があります。それは、健康診断を受けた結果、重大な疾病が見つかり、診断後、疾病の治療を受けるようになった場合です。この場合、健康診断や人間ドックは、治療に先立って行われる診察と同等の意味があると捉えられるため、健康診断や人間ドックの費用も医療費控除の対象に含めることができます。
予防接種も、病気の治療ではなく、病気の予防や重症化予防のために実施するものです。そのため、予防接種も治療には該当する行為ではなく、医療費控除の対象には含まれません。
ただし、予防接種に関してはセルフメディケーション税制の対象になる可能性があります。セルフメディケーション税制とは、健康の保持や疾病予防のために、1世帯当たり年間12,000円以上の支出がある場合に、所得控除を受けられる制度です。セルフメディケーション税制には予防接種も含まれています。
また、医療費控除とセルフメディケーション税制を両方適用させることはできません。医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを選択した方がお得になるのかは、状況によって変わってくるため、慎重に判断するようにしましょう。
健康診断や人間ドックの費用は、経費として計上できる場合とできない場合があります。経費計上ができるのは、全従業員が同じ内容の検査を受け、その費用が常識の範囲内であり、事業者が健康診断実施機関に直接費用を支払う場合に限られます。
従業員を雇用していない個人事業主本人や青色事業専従者の健康診断費用は経費として扱うことはできません。また、法人の場合も、役員だけが人間ドックを受ける場合や従業員とは異なるメニューの健康診断を受ける場合などは、人間ドック費用や健康診断費用を経費計上できない点に注意が必要です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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