2025.11.11
  • 税務調査

公益法人会計基準改正のポイントとは?変更点を分かりやすく解説

読了目安時間:約 6分

公益法人が会計処理を行う際の基準となる公益法人会計基準が改正され、2025年4月1日から適用が開始されました。経過措置は設けられているものの、近い将来、新たな会計基準に則った処理を行わなければなりません。

今回の公益法人会計基準の改正では、どのような点が変更されたのでしょうか。

本記事では、公益法人会計基準の改正ポイントについて分かりやすくご説明します。

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公益法人とは

公益法人とは、民法第34条に基づき設立される社団法人・財団法人で、次の要件を満たす法人を指します。

・公益に関する事業を行っている

・営利を目的としていない

・主務官庁の許可を取得している

例えば、日本医師会や日本歯科医師会などは、公益社団法人に該当します。また、日本オリンピック委員会、日本気象学会、東京フィルハーモニー交響楽団なども公益法人となります。

公益法人制度の改正

2006年に公益法人制度改革関連三法と呼ばれる法律が成立し、2008年から新しい公益法人制度がスタートしました。しかし、社会の変化に柔軟かつ迅速に対応し、より効果的な公益活動を行えるよう再び見直しが行われ、2025年4月には新たな公益法人制度がスタートしています。

公益法人制度の改正目的

公益法人の数は約9,700、職員の数は約29万人、公益目的事業費は年間約6兆円、総資産約31兆円という大きな規模となっています。しかし、これまでの制度では十分な事業を行えないとの意見を反映させ、公益法人制度が改正されました。

今回の改正では、財務規律の見直しを行い、法人の経営判断で社会的課題に柔軟に取り組める体制の整備が進められました。また、国民からの信頼を確保できるよう法人の透明性向上とガバナンス充実に向けた取り組みを促し、民間公益活動をより一層活性化させることも改正の目的となっています。

公益法人制度の改正内容

今回の改正のポイントは次の3つです。

・財務規律の柔軟化と明確化

これまで、公益的な事業を行うことから、原則として「収支相償」が求められてきました。収支相償とは、収入が費用を超えないようにするという考えです。公益事業において費用を超える収入を得ることは認められていなかったことが、公益法人の資金活用の妨げとなっていた側面がありました。

そのため、今回の改正では、収支相償ではなく「中期的収支均衡」の考えを導入し、一定期間の中で収支の均衡を図ればよいというルールに変更がなされました。具体的には、過去4年間の赤字を通算し、5年以内に黒字で解消することが認められます。

さらに、将来の公益目的事業のための「公益充実資金」が創設されました。公益充実資金は、従来の特定費用準備資金や資産取得資金などを統合するものです。公益充実資金の創設により、公益目的事業の充実のために利用する資金を積立金とすることが可能となり、柔軟な資金活用ができるようになっています。

加えて、災害などの不測の事態に備えて「予備財産」を持つことが認められています。

・行政手続きの簡素化と合理化

これまで、事業変更を行うためには変更認定が必要でしたが、改正により変更届出の提出のみで変更が行えるようになっています。また、審査の確認事項や申請書の記載事項、提出書類などが明確に示され、公益法人がより迅速に事業を展開できるような形に改正されています。

・自律的ガバナンスの充実、透明性向上

外部理事や外部監事の導入、ガバナンス取組の事業報告記載など、適切なガバナンスを確保する仕組みが強化されました。また、公益法人の情報開示が強化され、透明性を向上させる施策が取り入れられています。

公益法人の会計基準改正のポイント

会計基準とは、財務諸表を作成する際に守るべきルールのことです。公益法人は、公益法人会計基準に則った会計処理が求められます。公益法人会計基準は2024年に改正されており、2025年4月1日から新たな公益法人会計基準の適用が開始されています。新しい公益法人会計基準のポイントについて解説します。

 

公益法人が作成すべき財務諸表の変更

公益法人が作成すべき財務諸表は次の3つです。

・貸借対照表

・活動計算書

・キャッシュフロー計算書

これまで作成していた「正味財産増減計算書」は「活動計算書」に変更されています。これは、正味財産増減計算書では、公益法人の正味財産の変動は把握できるものの、資金の流れについての把握は難しかったためです。公益法人の活動を活発化させるうえでは、活動状況をより分かりやすく示す必要があります。そこで、正味財産増減計算書ではなく、活動状況と財務の関係を示す活動計算書の作成が求められるようになっています。

公益法人の新会計基準における貸借対照表の主な変更点

新会計基準で貸借対照表を作成する際のポイントをご紹介します。

基本財産と特定資産の位置づけの変更

これまでの公益法人会計基準では、固定資産を「基本財産」、「特定資産」、「その他の固定資産」の3つに区分していました。しかし、新しい会計基準では、企業会計と同様に「有形固定資産」、「無形固定資産」、「その他固定資産」の3つに分類することとなります。

新制度では、積立預金は特定資産として計上していましたが、新基準では現金預金に含め、流動資産として計上する点に注意が必要です。また、基本財産に計上していた有価証券については、その他固定資産に計上することとなります。また、公益法人が基本財産や使途拘束資産を保有している場合は注記として表示しなければなりません。

貸借対照表における純資産の区分変更

旧法人会計基準では、純資産は「正味財産の部」とし、「指定正味財産」と「一般正味財産」に区分することとされていました。新たな基準では正味財産を「純資産」と変更し、さらに細かい区分も「指定純資産」と「一般純資産」という区分に変更されています。

また、指定正味財産と一般正味財産の「うち基本財産への充当額」「うち特定資産への充当額」の記載は廃止されました。ただし、新たに「その他有価証券差額金」が新設されており、内訳として「うち指定純資産に係る評価差額金」、「うち一般純資産に係る評価差額金」の記載が必要になっています。

貸借対照表内訳表の廃止

以前の会計基準では、収益事業から利益の50%以上を繰り入れている公益法人などは「貸借対照表内訳表」の作成が必要でした。しかし、新基準では、貸借対照表内訳表は廃止となり、会計区分別内訳という注記情報の開示が必要になっています。

会計区分別内訳では、流動資産額、固定資産額、純資産額、流動負債額、固定負債額を記載すれば問題ありません。それぞれを公益目的事業会計、収益事業等会計、法人会計、内部取引等消去に分類したうえで、金額を合計します。

「使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高」注記

新会計基準では、基本財産、特定資産という表示が廃止されたことに伴い、現金預金は流動資産に計上することとなっています。流動資産に現金預金を計上した場合、貸借対照表では、現金預金のうち、控除対象資産や使途拘束資産などの分類を把握することはできません。そのため「使途拘束資産(控除対象財産)の内訳と増減額及び残高」についての注記の作成が必要になります。使途拘束資産とは、法人の機関決定によって使途の制約を課した資産(資源提供者により使途の制約を課されて提供された資産も含みます)のことで、法令の控除対象財産に該当するものです。

「資産及び負債の状況」についての注記

新しい会計基準では財産目録に記載すべき事項と同様の情報を「資産及び負債の状況」に関する注記として記載しなければなりません。具体的には流動資産、固定資産、流動負債、固定負債について、場所や数量、使用目的、金額を記載します。基本財産や使途拘束資産を保有している場合は、使用目的の欄にその旨を明示しなければなりません。

公益法人の新会計基準における活動計算書の主な変更点

新会計基準では、正味財産増減計算書ではなく、活動計算書を作成することとなります。活動計算書は次の点に注意して作成しなければなりません。

指定純資産と一般純資産の振替処理の廃止

正味財産増減計算書では、一般正味財産増減の部と指定正味財産増減の部で区分を行い、増減内容を把握していました。しかし、活動計算書では、財源区分は活動計算書の中では記載せず、注記として記載することになっています。

また、指定正味財産を使途の制約に従って使用した場合、一般正味財産の増減の部に振替処理を行っていましたが、新基準では、使途の制約に基づく区分が廃止されたことに伴い、振替処理も廃止されています。

勘定科目の表示方法の変更

旧基準では、事業収益は「受取入会金」や「受取負担金」として区分していました。また、費用については「事業費」や「管理費」などに分け、さらに「役員報酬」や「給与手当」などと細かく区分していましたが、新たな会計基準では勘定科目の見直しが行われています。

まず、事業収益については「公1事業収益」、「公2事業収益」など、活動名を勘定科目として使用し、区分することとなっています。

また、費用に関しても「公1事業費」、「公2事業費」のように、活動名を勘定科目として使用することと変更されています。

正味財産増減計算書内訳表の廃止

旧基準で開示が必要だった「正味財産増減計算書内訳表」は廃止され、新会計基準では事業ごとの用法を注記として「会計区分及び事業区分内訳」に記載することとなっています。

具体的には、公益目的事業会計、収益事業等会計、内部取引等消去に分け、経常収益、経常費用、その他収益、その他費用などの科目ごとに記載をする必要があります。また経常収益については(うち共通受取会費)、(うち共通受取寄附金)に区分します。

財源区分内訳についての注記作成

活動計算書で財源区分を記載しないよう変更になったため、注記として財源区分内訳を作成する必要があります。財源区分内訳では、計上活動区分とその他活動区分に分け、計上活動区分の中で、経常収益と経常費用を一般純資産と指定純資産に分けて記載します。また、経常収益については、資産運用益、受取会費、活動別の事業収益、受取補助金、受取寄附金に分けてそれぞれの額と合計額を記載します。また、経常費用については、活動別の事業費、管理費に区分します。

事業費・管理費の形態別区分の注記作成

新会計基準では、活動計算書において、活動別の費用のみを表示するため、詳細な形態別の内容については「事業費・管理費の形態別区分」注記を作成し、表示をすることとなります。

役員報酬や給与手当などの科目ごとに公益目的事業会計、法人会計に分けて記載し、合計額も記入します。公益目的事業会計と法人会計、合計に記載した額はそれぞれ、活動計算書の事業費や管理費、経常費用と合致しているかを確認するようにしましょう。

 

新公益法人会計基準の適用開始時期と経過措置

公益法人会計基準の新基準は、2025年の4月1日以降に開始する事業年度から適用されています。ただし、経過措置として、2028年4月1日前までに開始する事業年度までは、以前の会計基準を引き続き適用することも可能です

例えば、3月31日を決算日としている公益法人の場合、2028年4月1日から開始する事業年度から新会計基準を適用する必要があります。2月28日が決算日の法人は、2029年3月1日から開始する事業年度から新会計基準の適用を行わなければなりません。

決算日によって新基準を適用させる時期が変わる点に注意が必要です。

小規模公益法人の負担軽減措置

会計監査人を設置していない小規模な公益法人は、次の項目の適用や作成が免除されます。

・資産除去債務に係る会計処理

・税効果会計

・キャッシュフロー計算書

・資産及び負債の注記(財産目録を作成している場合のみ)

・賃貸不動産の時価等に関する注記

・財務規律適合性に関する明細

また、以下の項目について簡便的な方法を適用することも認められています。

・固定資産の減損会計

・退職給付引当金

・収益の認識

まとめ

公益法人会計基準の改正ポイントをご紹介しました。現在は経過措置が取られているため、旧会計基準に基づいた会計処理でも認められますが、2028年4月1日以降に開始する事業年度に関しては、新しい会計基準に則った処理を行わなければなりません。

公益法人会計基準は複雑であり、正しく処理を行うためには専門的な知識も必要です。

税理士法人松本では、公益法人の会計処理もサポートしています。新たな会計基準の適用にお悩みの場合はお気軽にご相談ください。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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