2025.11.7
  • 税務調査

学校法人が非課税になる税金とは?収益判定についても分かりやすく解説

読了目安時間:約 6分

学校法人は、教育や保育といった公共性、公益性の高い事業を営む目的で設立された法人です。そのため営利を目的とした企業に比べ、さまざまな税金の優遇措置が用意されており、非課税になる税金も多くあります。

しかし、非課税も含め、さまざまな税金の優遇措置があることから、学校法人の税務処理は非常に複雑になっているのも事実です。学校法人は、教育機関であり、万が一、非課税として取り扱うことができない収益事業で得た収益についても非課税として扱った場合、社会的なイメージダウンは避けられません。納税に関するミスが学校法人の経営全体にも影を落とす可能性もあるのです。

そこで今回は、学校法人が非課税として扱える税金の種類や収益事業に該当するかどうかについての判定基準について分かりやすく解説します。

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学校法人で非課税になる税金の種類

学校法人で非課税になる税金には次のようなものがあります。

・法人税

・登録免許税

・印紙税

・法人住民税

・法人事業税

・不動産取得税

・固定資産税、都市計画税

非課税の対象となる税金を上げると、学校法人の場合、かなり多くの税金が対象になっていることが分かります。しかし、これらの税金のすべてが非課税になるわけではありません。学校法人であっても、収益事業に係るものについては、非課税扱いとはならず、課税される点に注意が必要です。

学校法人の法人税の非課税措置について

法人税とは、法人が営む事業で得た所得に対して課される税金です。企業の場合、資本金の額と年間の課税所得額に応じて15%または23.20%の税率が課されます。しかし、学校法人では、教育研究事業に係る所得については、法人税が非課税となります。

法人税が非課税となる本来の事業の収入

学校法人が本来の事業で得られる収入としては、以下のようなものが考えられます。

・授業料

在籍する学生が教育を受けるために支払う費用です。法人税は非課税です。

・入学金

学生が入学するときに一度だけ支払う費用です。法人税は非課税です。

・検定料

入学試験を受ける際に支払う費用です。法人税は非課税です。

・寄附金

個人や法人の意思で贈与される金銭です。法人税は非課税です。

・補助金

国や地方公共団体から交付される私学助成金などの補助金も非課税となります。

法人税の課税対象となる収益事業

学校法人の本来の事業である教育研究事業に関しては、法人税は非課税となります。その一方で、収益事業とみなされる事業に関しては、課税の対象となります。

法人税法では、次の34の事業を収益事業としており、収益事業に該当する事業を営んでいる場合、学校法人であっても収益事業に関する所得に関しては、法人税を納めなければなりません。

1.物品販売業

2.不動産販売業

3.金銭貸付業

4.物品貸付業

5.不動産貸付業

6.製造業

7.通信業

8.運送業

9.倉庫業

10.請負業

11.印刷業

12.出版業

13.写真業

14.席貸業

15.旅館業

16.料理店業その他の飲食店業

17.周旋業

18.代理業

19.仲立業

20.問屋業

21.鉱業

22.土石採取業

23.浴場業

24.理容業

25.美容業

26.興行業

27.遊技所業

28.遊覧所業

29.医療保険業

30.技芸教授業等

31.駐車場業

32.信用保証業

33.無体財産権提供業

34.労働者派遣業

学校法人が行うことができる収益事業の種類

上にご紹介したのは、法人税法で区分されている収益事業の種類です。一方で、文部科学省は、文部科学大臣の所轄に属する学校法人が行うことができる収益事業の種類を次のように定めています。

  1. 農業、林業
  2. 漁業
  3. 鉱業、採石業、砂利採取業
  4. 建設業
  5. 製造業(武器製造業に関するものを除く)
  6. 電気・ガス・熱供給・水道業
  7. 情報通信業
  8. 運輸業、郵便業
  9. 卸売業、小売業
  10. 保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業に関するものに限る)
  11. 不動産業(建物売買業、土地売買業に関するものを除く)、物品賃貸業
  12. 学術研究、専門・技術サービス業
  13. 宿泊業、飲食サービス業(料亭、酒場・ビヤホール、バー、キャバレー、ナイトクラブに関するものを除く)
  14. 生活関連サービス業、娯楽業(遊戯場に関するものを除く)
  15. 教育、学習支援業
  16. 医療、福祉
  17. 複合サービス事業
  18. サービス業(ほかに分類されないもの)

収益事業に該当するかどうかの判別

まず、収益事業に該当するかどうかは「継続して事業場を設けて行われているか」によって判断されます。例えば、イベントのために一度だけ校庭を貸し出し、お金を受け取った場合の収入は収益事業には該当しないと考えられます。ただし、会議室の貸し出しをしている場合や駐車場の貸し出しをしている場合、文房具などを販売する常設の売店などを運営している場合は、継続性があるため収益事業に該当します。

また、教育研究事業に附随して行われる事業については、継続性があっても非収益事業となります。学校法人の場合は、スクールバスの運行や給食などは、非収益事業として扱って問題ありません。ただし、法人税については非課税になるものの、消費税については課税されるケースもあるため、処理をする際には十分な注意が必要です。

みなし寄附金の特例

みなし寄附金とは、学校法人や公益法人などが収益事業によって得た所得を本来の事業に使用した場合、その額を寄附金とみなす制度のことです。学校法人の場合、教育研究事業に収益事業の所得を使用した場合、所得金額の50%または年200万円のいずれか多い金額までを損金として算入することが認められています。

 

学校法人の登録免許税、印紙税の非課税措置について

学校法人として事業を開始する場合、法務局に法人登記の申請をしなければなりません。また、校舎や校庭などとして使用する土地や建物を取得したときにも、不動産の登記が必要です。

法務局で登記を行う際には、登録免許税の支払いが必要になりますが、学校法人の場合は登録免許税が課税されません。ただし、非課税となるのは、学校法人の登記と、校舎や校庭、実習用地、学生寮、図書館などの土地や建物に関する不動産登記時に発生する登録免許税に限られます。本来の事業とは関係性のない不動産を取得した場合は、登録免許税の納税が必要です。また、本来の事業に関わる登記申請であっても、事前に非課税措置の適用を認める証明書を取得しておかなければなりません。

そのほか、学校法人が作成する文書も原則として、印紙税が非課税となります。印紙税とは、経済的な取引に関連して作成される特定の文書に課される税金です。5万円以上の現金取引を行った場合、取引金額に応じた印紙税の負担が必要になります。しかし、学校法人が発行する領収書については、たとえ5万円以上であっても印紙税は課されません。非収益事業はもちろん、収益事業の取引であっても印紙税は不要です。

ただし、領収書以外の賃貸借契約書や請負契約書などについては、学校法人が作成するものであっても収入印紙の貼付が必要になります。

学校法人の法人住民税と法人事業税の非課税措置について

法人住民税と法人事業税は、地方自治体に納付する地方税です。法人住民税も法人事業税も自治体が提供する公共サービスの維持を目的に課される税金ですが、学校法人の場合、本来の事業に係る所得についてはいずれも非課税となっています。収益事業にのみ、法人住民税と法人事業税の納税が必要です。

ただし、収益事業であっても、収益事業の所得の90%以上を教育研究事業に充てている場合、収益事業の所得はないものとみなされます。したがって、その場合、法人住民税と法人事業税は非課税となります。つまり、学校法人の場合、収益事業による所得があり、収益事業による所得の10%を超えて教育研究事業以外に充てている場合のみ、法人住民税と法人事業税の納税が必要になるのです。

学校法人の不動産取得税の非課税措置について

不動産取得税とは、土地や建物などの不動産を取得したときに課される税金です。学校法人では、校舎や校庭などに使用する土地や建物を取得した際に係る不動産取得税も非課税となります。また、学生寮などとして使用する土地や建物についても、不動産取得税はかかりません。

学校法人の固定資産税、都市計画税の非課税措置について

固定資産税とは、毎年1月1日時点で土地や建物などの固定資産を保有している人に対して課される税金です。固定資産税額は、固定資産の評価額に税率をかけて算出しますが、学校法人の場合、教育研究事業に関連する固定資産については固定資産税が非課税となります。

また、都市計画税とは、市街化区域内に土地や建物を保有している場合に課される税金です。学校法人の場合は、教育研究事業に関連する土地や建物に関しては、都市計画税も非課税となります。

学校法人に非課税措置の適用が多い理由

ここまでご紹介してきたように、学校法人には非課税となる税制上の優遇措置が非常に多くなっています。なぜ、学校法人は非課税措置が多く適用されるのでしょうか。

学校法人に非課税措置の適用が多い理由を2つご紹介します。

教育という公益性の高い事業を営んでいるから

学校法人は、教育という公益性の高い事業を営む目的で設立された法人です。教育は、医療などと同様に、特定の利益に貢献するためではなく、社会全体の利益に貢献する性質を持つ事業です。教育により、個々の人格の形成や能力開発を促進させれば、社会全体の成長につながります。

教育は、社会が責任をもって取り組むべき事業であり、教育への投資は将来を見据えた社会投資と捉えることができます。国や自治体では社会全体の教育水準の向上と国の持続的な発展のため、非課税措置などによって税金面での優遇を行い、学校法人の教育活動支援しているのです。

非営利性の高い法人だから

学校法人は、入学金や授業料、補助金などの収入はすべて教育や研究のために還元しています。そのため、利益を追求する企業のように、事業で得られた収益を特定の人に分配することはありません。

非営利事業に課税した場合、事業に使用できるお金が減少してしまいます。学校法人に対して企業と同様に課税した場合、税負担が大きくなり、その分、教育に充てられる金額が減ってしまうのです。

教育に充当できるお金が減れば、提供する教育の質が低下する恐れもあり、さらに、学生が支払う授業料などに税負担分が上乗せされる可能性があります。授業料の高騰によって教育を受けられないという事態は避けなければなりません。

教育研究事業は非営利事業であることも、税負担の軽減措置の充実に影響しています。

学校法人の税務の注意点

学校法人には非課税措置を含め、さまざまな税制上の優遇措置が用意されています。非課税措置や軽減税率の適用などにより、負担すべき税金の額が軽減されれば、学校法人の運営にとって大きなメリットとなります。しかしながら、非課税措置が多いことなどによって、税務処理は非常に複雑になっています。学校法人で税務処理を行う場合の注意点をご紹介します。

収益事業と本来の事業を明確に区分する

本来の事業である教育研究事業による所得は、法人税が課されません。しかし、収益事業については法人税の課税対象となるため、収益事業として扱うべきかどうかを正しく判断する必要があります。

税金ごとの非課税ルールを正しく把握する

収益事業によって得た所得を教育研究事業に使用した場合、みなし寄附金の特例措置として、限度額はあるものの損金としての算入が認められています。そのため、法人税の計算の際には、みなし寄附金の特例措置を適用させることが可能です。

一方、法人住民税と法人事業税の計算においては、収益事業で得た所得の90%以上を教育研究事業に使用していれば、収益事業の所得はないものとして扱えるといったルールもあります。

また、法人税は非課税であっても、消費税は課税されるケースもあり、税金の種類ごとに異なる非課税のルールをしっかり把握しておくことが重要です。さらに、登録免許税や固定資産税、法人住民税などの非課税措置を受けるためには、証明書や申告書等の提出が必要になる点も忘れてはいけません。

まとめ

学校法人では、法人税、登録免許税、印紙税、法人住民税、法人事業税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税などに非課税措置が用意されています。非課税措置が適用されるのは、教育研究事業に関するものに限定されるケースが多いものの、印紙税のように収益事業に関するものでも課税がなされないケースもあります。

そのため学校法人の税務処理は非常に複雑です。非課税措置を適用させるためには、予め申請が必要なケースも多く、正しく申告を行うためにも、学校法人を運営していくのであれば税理士への相談をおすすめします。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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