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学校法人は、公共性の高い教育という事業を営むために設立された法人であり、さまざまな税金の優遇措置が用意されています。では、学校法人では、どのような税金を納め、どのような税金で優遇措置を受けることができるのでしょうか。
今回は、学校法人に課される税金やそれぞれの税金の優遇措置などについて詳しく解説します。
目次
学校法人とは、私立学校法に基づいて設立される法人であり、私立学校(幼稚園から大学まで)の設置と運営をする法人のことです。学校法人の設立にあたっては、寄附行為の目的や名称、設置する私立学校の種類や名称など、所定の事項を定めたうえで、文部科学省令で定める手続きに従い、所轄庁の認可を受ける必要があります。
寄附行為とは、学校法人の現在と将来の在り方を定めた根本規則のことであり、企業の定款にあたるものです。認可については、私立大学や私立高等専門学校を設置する学校法人は文部科学省、私立高等学校、私立中学校、私立小学校、私立幼稚園を設置する場合には都道府県知事に申請することになります。
学校法人は、教育という公共性、公益性の高い事業を営む非営利法人です。また、税法上は公益法人として扱われます。そのため、学校法人にはさまざまな税制上の優遇措置が講じられています。
学校法人に課される税金としては次のようなものがあります。
・法人税
・消費税
・源泉所得税
・登録免許税、印紙税
・法人住民税
・法人事業税
・不動産取得税
・固定資産税
学校法人に適用される税金の優遇措置を税目ごとにご説明します。
法人税とは法人が営む事業によって得た所得に対して課される税金です。学校法人には、一部の所得について法人税が課せられます。
学校法人では、教育研究事業で得た所得は法人税が課税されません。しかし、収益事業を行った場合、収益事業で得た所得については法人税の課税対象となります。
法人税法において収益事業と規定されているのは以下の34業種です。
1.物品販売業
2.不動産販売業
3.金銭貸付業
4.物品貸付業
5.不動産貸付業
6.製造業
7.通信業
8.運送業
9.倉庫業
10.請負業
11.印刷業
12.出版業
13.写真業
14.席貸業
15.旅館業
16.料理店業その他の飲食店業
17.周旋業
18.代理業
19.仲立業
20.問屋業
21.鉱業
22.土石採取業
23.浴場業
24.理容業
25.美容業
26.興行業
27.遊技所業
28.遊覧所業
29.医療保険業
30.技芸教授業等
31.駐車場業
32.信用保証業
33.無体財産権提供業
34.労働者派遣業
例えば、学校で文房具などの販売を行う場合、物品販売業に該当するため、文房具の販売で得られた所得は、法人税の課税対象となり、税金の納付が必要です。しかしながら、授業で必要となるテキストや資料集などを販売する場合、これらは学校本来の教育研究事業から派生した行為として見られるため、収益事業には該当しない可能性があります。
そのほか、学校法人が所有する土地の一部を駐車場として有料で提供する場合は駐車場業、学校の体育館やグラウンドなどをイベントのために貸し出す場合は席貸業に該当します。したがって、これらの行為は収益事業に該当し、法人税の課税対象となる可能性が高くなります。
学校法人の教育研究事業以外の活動が収益事業に該当するかどうかを正しく判断することは難しく、通達などの確認もしながら正しく処理を行うことが大切です。
学校法人が収益事業で得た所得に対しては、軽減税率が適用されます。課税所得額が年800万円以下の部分の法人税率は15%、800万円を超える部分については19%となります。
学校法人は収益事業で得た所得を教育研究事業に支出した場合、みなし寄附金の特例措置を受けることが可能です。ただし、みなし寄附金として損金に算入できる額には限度が定められています。寄附金の算入限度額は、原則として所得金額の50%相当額までです。しかし、みなし寄附金の特例制度では、所得金額の50%と年200万円いずれか多い方の金額を限度額として損金算入をすることが認められています。
学校法人の中でも、私立大学についてはさらに税金の優遇制度が整備されています。私立大学において、受託研究によって収入を得ている場合、契約の中で研究成果を公開することを規定しているなどの要件を満たしているときは、収益事業の対象から除外されるため、法人税は課されません。
登録免許税とは、不動産や船舶、航空機、会社、人の資格などについての登記や登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定および技能証明を行う際に、発生する税金です。
学校法人の場合、教育や保育のために使用する建物や土地を取得し、登記を行う際や学校法人の法人登記を行う際に登録免許税が非課税となります。ただし、非課税の措置を受けるためには、都道府県知事や市長などから登録免許税非課税証明書の交付を受ける必要があります。
法人住民税は、学校法人が所在する自治体に納める税金です。地方自治体の行政サービスを維持するために活用される税金であり、都道府県民税と市区町村民税に分けられます。一般的には都道府県民税と市区町村税を合わせて住民税と呼ぶケースが多くなっています。
また、収益に関係なく資本金や従業員数などに応じて課せられる均等割と、法人税の額に応じて計算される法人税割に分かれています。
法人住民税は、地方自治体に納める地方税です。地方税法では、学校法人や社会福祉法人、更生保護法人などが収益事業で得た所得のうち、90%以上を法人の事業経営に充てている場合は収益事業の範囲に含めないとされています。
したがって、学校法人でも収益事業を営んでいない場合や収益事業の所得の9割以上を教育研究事業に充てている場合は、法人住民税を納める必要がありません。しかしながら、法人住民税の非課税の適用を受けるためには、地方税の申告書と合わせて法人住民税の課税・非課税の判定票を提出する必要があります。
法人事業税は、事業活動に対して課される税金です。法人事業税には、地方自治体が提供する公共サービスにかかる費用を負担する意味合いがあります。
学校法人の場合、法人税と同様に、教育研究事業については法人事業税が課税されません。収益事業による所得がある場合のみ、法人事業税が課されます。
学校法人に課せられる法人事業税の税率は所得額に応じて以下のように変わります。
・所得のうち年400万円以下の部分:3.5%
・所得のうち年400万円超年800万円以下の部分:5.3%
・所得のうち年800万円を超える部分:7.0%
不動産取得税とは、不動産を取得したときに課される税金です。土地や建物などの不動産を売買によって得た場合だけでなく、贈与によって取得した場合にも不動産取得税はかかります。
学校法人の場合は不動産取得税についても優遇措置があります。学校法人が保育や教育のために使用する土地や建物については、不動産取得税は課税されません。また、学校などの寄宿舎として利用する不動産の取得時にも不動産取得税は非課税となります。
固定資産税とは、土地や家屋、償却資産などの固定資産の所有者に課される税金です。また、都市計画税は、都市計画法で定められた市街化区域内にある土地や建物に課される税金です。
学校法人は、固定資産税や都市計画税も優遇されています。不動産取得税と同様に、保育や教育のために使用する土地や建物に関しては、固定資産税と都市計画税は課されません。また、学校などの寄宿舎として利用する固定資産についても固定資産税・都市計画税が非課税となります。
税金の優遇措置を受けられるのは、学校法人だけではありません。一定の要件を満たした学校法人に対し、寄附を行った人も税金の優遇措置を受けることができます。
個人が学校法人に直接寄附をした場合、所得控除または税額控除を適用させることができます。まず、公益性が特に高いと認められた「特定公益増進法人」である学校法人に寄附をした場合、次の額を所得控除することができます。
所得控除額=寄附金額-2,000円
ただし、控除できるのは総所得額の40%が限度です。
また、「税額控除対象法人」に寄附をする場合は、税額控除を受けることができます。税額控除対象法人とは、特定公益増進法人のうち、文部科学大臣らの証明を受けた法人のことです。
税額控除対象法人である学校法人に寄附した場合、次の額を税額控除することが可能です。
税額控除額=(寄附金額-2,000円)×40%
ただし、限度額は所得税額の25%となっています。
特定公益増進法人と税額控除対象法人の両方の証明を受けている法人に寄附を行う場合は、どちらの控除を適用させるか選択することが可能です。また、都道府県や市区町村が条例で指定している場合、個人住民税の寄附金控除を受けることもできます。
日本私立学校振興・共済事業団を経由して学校法人に寄附する方法を受配者指定寄付金と言います。受配者指定寄付金の場合は、特定公益増進法人に寄附した場合と同様、所得控除を受けることが可能です。
所得控除とは、課税対象となる前の所得を減らす仕組みのことです。所得税は、課税所得額に税率をかけて算出します。課税対象となる所得額が小さくなれば、所得税の額も低くなり、納める税金の額を軽減することが可能です。
一方、税額控除とは、課税所得額に税率をかけて算出した税金から控除する仕組みです。税金から直接控除を行います。
例えば、年間所得額が500万円の人が、学校法人に10万円を寄附したと仮定して、シミュレーションをしてみます。
特定公益増進法人に寄附をした場合、「寄附金額-2,000円」に所得税率をかけた額が寄附金控除額となります。寄付額が10万円の場合、以下の計算により、税金を19,600円抑えることが可能です。
(100,000円―2,000円)×20%=19,600円
一方、税額控除対象法人に10万円の寄附をした場合、以下の計算により、39,200円分の税金の負担を軽減することができます。
(100,000円-2,000円)×40%=39,200円
特定公益増進法人と税額控除対象法人の両方の証明を受けている学校法人に寄附をした場合は、シミュレーションを行い、メリットが大きい方を選択することが可能です。
法人が学校法人に寄附をした場合にも税金の優遇措置を受けられます。ただし、法人の場合、学校法人に直接寄附をすることで税金の優遇措置を受けられるのは、特定公益増進法人の証明を受けている学校法人に寄附をした場合です。
また、受配者指定寄付金として、日本私立学校振興・共済事業団を経由して寄附を行うこともできます。
特定公益増進法人に直接寄附をした場合、以下の額を限度として損金算入が可能です。
(資本金等の額×当期の月数を12で割った数×0.375%+当該年度所得×6.25%)×1/2
受配者指定寄付金とは、学校に直接寄附をするのではなく、日本私立学校振興・共済事業団に寄附を受け入れ、同事業団から寄附者が指定した学校法人へ寄附金を配布する制度です。受配者指定寄付金として寄附をした場合、寄付額の全額を損金として扱うことができます。
損金は、法人税の計算を行う際、益金から差し引けるため、損金の額が大きくなるほど、益金の額を圧縮でき、損金算入を行うと節税効果を得られます。
特定公益増進法人に直接寄附をした場合、損金として算入できる額は、上に示した計算式で算出した額であり、寄附金の全額を損金として算入することはできません。したがって、法人が学校法人に寄附をする場合は、受配者指定寄付金として寄附した方が税制上のメリットは大きくなります。
学校法人は公益性と公共性の事業を営む法人です。そのため、さまざまな種類の税金において優遇措置が用意されています。例えば、学校法人の本来の事業である教育研究事業によって得られた収益については、法人税、住民税、法人事業税が課されません。さらに、校舎や園舎、グラウンド、体育館など、教育や保育のために使用する土地や建物にかかる登録免許税や不動産取得税、固定資産税、都市計画税も非課税となっています。収益事業とみなされる事業で収益を得ている場合は、法人税が課されますが、その場合であっても軽減税率を適用することが可能です。
また、学校法人に寄附を行う個人や法人に対しても税金の優遇措置が用意されています。税金の優遇措置が設けられている場合、寄附者にとってもメリットが大きいため、学校法人に対して寄附をしやすくなるだろうという配慮のためです。
学校法人はさまざまな点で税金の優遇措置を受けていますが、その分、税金の計算は複雑になるため、申告時には十分な注意が必要になります。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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