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学校法人は、文部科学大臣が定める学校法人会計基準に基づいて会計処理を行わなければなりません。ただし、収益事業を営んでいる場合、収益事業については中小企業会計指針に準拠した対応が必要です。では、学校法人会計基準にはどのような特徴があるのでしょうか。
また、令和6年9月30日には学校法人会計基準の一部が改正され、令和7年1月1日から新基準が施行開始されています。
今回は、学校法人会計基準の概要や企業会計との違い、令和6年の改正内容について解説します。
目次
学校法人では学校法人会計基準に則った会計処理を行わなければなりません。学校法人は公共性が高い教育研究事業を安定的に継続していく必要があります。そのため、学校法人会計基準は、教育研究事業を安定的にかつ継続して遂行することを目的に設定されています。
令和6年までは、学校法人は、私立学校振興助成法第14条第1項で求められる計算書類を作成する際に「文部科学大臣の定める基準」を根拠にし、会計処理を行ってきました。しかし、令和7年度から私立大学法第101条に定める「文部科学省令で定める基準」に則って会計処理を行うこととなっています。
学校法人会計と企業会計ではさまざまな点において違いがあります。
学校法人は、前述のように、教育研究事業を安定的に、長く継続することを重視しています。そのため、学校法人会計では、永続的に教育研究事業を維持するための資金を確保するため、資産の状況を把握することを目的としています。一方、企業では利益を大きくすることが目的であり、企業会計では利益と損失を明確にすることを目的としています。
また、株式会社では出資者に対し事業活動で得た利益を株主に分配するため、経営の成果を明確に示し、出資者への利益配当を確定することも企業会計の目的の一つです。しかしながら、学校法人は非営利法人であり、利益の追求は行いません。そのため、企業のように一年間の収支を損益で捉えることはありません。ただし、事業を安定的に維持するためには、収入と支出のバランスが取れている状態を維持することが重要になります。
前述のように、学校法人では収支の差額を重視はするものの、企業のように損益という概念を持ちません。そのため、学校法人会計と企業会計では作成が必要となる書類にも違いがあります。
学校法人会計では、計算書類として次のような書類の作成が必要です。
・資金収支計算書
・活動区分資金収支計算書
・事業活動収支計算書
・賃借対照表
ただし、会計監査人を設置していない知事所轄の学校法人は、活動区分資金収支計算書は省略しても問題ありません。
一方、企業会計で必要となる計算書類は次のとおりです。
・キャッシュフロー計算書
・損益計算書
「資金収支計算書」は、学校法人全体での収入と支出の内容、当該年度の支払資金に関わる収入と支出を示す書類です。一方、「キャッシュフロー計算書」は、営業活動、投資活動、財務活動ごとに資金の動きを示す書類であり、いずれも資金の増減に関わる活動を把握するための書類となります。
また、学校会計の「事業活動収支計算書」は、事業活動の収入と支出から収支差額を明らかにする書類です。収益と費用の差額である利益や損失を示す、企業会計の「損益計算書」と類似した役割を担っています。
「賃借対照表」は、学校会計でも企業会計でも必要な書類ですが、学校法人会計では基本金、企業会計では資本金という言葉を用います。基本金とは、事業の運営に必要な基盤となる財産のことです。一方、企業会計では株主からの出資によって設立時に払い込まれた出資金を資本金として示します。
「活動区分資金収支計算書」は、学校法人の活動を教育活動、施設整備等活動、その他の活動に区分し、それぞれの資金の流れを示す書類です。活動区分資金収支計算書は、以前は資金収支計算書の付属表という扱いでしたが、令和7年4月1日から施行開始された学校法人会計基準によって計算書類に含まれるようになっています。
令和6年9月30日付で公布された「学校法人会計基準の一部を改正する省令」は令和7年4月1日から施行されています。今回の改正のポイントについて解説します。
学校法人会計基準は、補助金の適正な配分を主な目的として、私立学校振興助成法に位置付けられていました。しかし、改正により、ガバナンス強化の観点からステークホルダーへの情報開示を主な目的とする基準として、私立学校法に位置付けられました。
学校法人会計基準が制定されてから40年以上が経過し、社会の変化とともに、企業会計基準も改正が行われてきました。その中において、公共性の高い事業を営む学校法人もその経営の状況を広く社会に説明する必要性が生じてきたのです。また、令和5年度には改正私立学校法が成立しており、新たな私立学校法に則した会計基準も必要になっています。このような背景から、令和7年4月1日からは新たな学校法人会計基準に則った処理が求められるようになったのです。
新たな学校法人会計基準においては、作成すべき書類の位置付けが変わっています。
まず、旧会計基準では計算書類は次のように規定されていました。
<計算書類>
<付属表>
資金収支計算書の付属表
・資金収支内訳表、人件費支出内訳表、活動区分資金収支計算書
事業活動収支計算書の付属表
・事業活動収支内訳書
賃借対照表の付属表
・固定資産明細表
・借入金明細表
・資本金明細表
一方、新たな会計基準では、計算関係書類が次のように変更されています。
<付属明細書>
・固定資産明細書
・借入金明細書
・資本金明細書
<私立学校振興助成法で提出が求められる書類>
・資金収支内訳表
・人件費支出内訳表
・事業活動収支内訳表
各計算書類には、注記として次の事項を注記事項として表示することが義務付けられました。
・重要な会計方針
・重要な会計方針の変更
・減価償却額の類型額の合計額
・徴収不能引当金の合計額
・担保提供資産の種類及び額
・基本金未組入高
・第4号基本金に相当する資金を有していない場合、その旨及び対策
・セグメント情報
・重要な偶発債務
・子法人に関する事項
・学校法人の出資による会社に係る事項
・関連当事者との取引
・学校法人間の財務取引
・重要な後発事象
・前各号に掲げるもののほか、財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項
今回の改正により、内訳表が計算書類から除かれ、代わりにセグメント情報を注記事項として記載する形に変更となっています。セグメント情報の記載が義務化された背景には、大学、短期大学、高校、附属病院など、法人内のセグメントごとの収支状況を明確にすることで、資金の配分や経営状況の透明性を高めるという意図を読み取ることができるでしょう。今回の改正の目的は、ガバナンス強化と情報開示の強化です。セグメント情報の追記は、この改正目的を実行するために必要な対応だと言えます。
新たな学校法人会計基準では、セグメント区分や共通費用の配分基準は、各法人が設定することとなっています。現状では、新会計基準に基づくセグメント情報の記載が開始されているものの経過措置として、区分ごとの内訳表基準を用いることが認められています。
しかし、令和9年4月からは、経済実態をより適切に表す配分基準に基づいたセグメント情報の統一が開始され、セグメントごとの資金収支内訳表の配分基準が適用されることとなります。
また、資金収支内訳表については、平成16年の通知によって積極的な開示が推奨されていましたが、開示についての法的義務は課されていませんでした。しかし、セグメント情報は開示義務がある点にも注意が必要です。
各付属明細書の記載方法については、次のような規定があります。
固定資産明細書の摘要欄には、贈与や災害による廃棄、そのほか、特殊な事由による増加や減少があった場合、同一科目について資産総額の1/100に相当する金額を超える額の増加や減少があった場合、それぞれの事由について記載が必要です。
借入先については、金融機関の名称を記載する必要はありませんが、各欄には、金融機関の種類ごとについて、集計し、記載しなければなりません。また、摘要欄には、借入金の使途及び担保物件の種類を記載し、借入金の使途や担保物件が複数ある場合、資金の内容や担保の有無についての記載が必要です。
・基本金明細書
基本金の組入れや取崩しの計算過程を明示する必要があり、各号の基本金に当期組入対象額と当期取崩対象額を追加し、当期の組入対象額から当期の取崩対象額を差し引き、当期組入額または当期取崩額を記載します。第1号基本金の当期組入対象額と当期取崩対象額は、賃借対照表の小科目単位での記載が必要です。
注記事項には、子法人についての記載も必要となっています。主な記載事項は、次の4つです。
・子法人の概要
・当学校法人と子法人の取引の関連図
・子法人の取引の状況
・子法人の債務に係る保証債務
子法人のうち計算書類の注記事項である「学校法人の出資による会社に係る事項」、「関連当事者との取引内容に関する事項」、「学校法人間の財務取引」の注記対象として該当するものがある場合は、「他の注記事項との関係」として、その旨を記載しなければなりません。
また「学校法人の出資による会社に係る事項」、「関連当事者との取引の内容に関する事項」、「学校法人間の財務取引」の注記においても、同様の内容を記載しなければなりません。
従来の会計基準では、財産目録の様式については、特に法令上の定めは設けられていませんでした。しかし、今回の改正では、財産目録の様式が規定されており、作成基準に則った財産目録の作成が必要になります。
財産目録の作成にあたっては、様式の参考例をベースに財産目録の作成基準を定めるようにします。また、収益事業会計の賃借対照表に計上する資産や負債を含め、収益事業会計資産と収益事業会計負債の区分を設けなければなりません。また、学校法人会計と収益事業会計の会計間における内部取引は相殺消去をします。
知事所轄学校法人とは、幼稚園、小学校、中学校、高校を設置する学校法人のことです。大学や短期大学、高等専門学校を設置する学校法人は、文部科学大臣が所轄庁となります。
会計監査人を設置していない知事所轄の学校法人に対しては、全基準の知事所轄学校法人に関する特例を引継いだ規定が用意されています。
高校を設置する知事所轄学校法人の場合は、活動区分資金収支計算書の作成省略が認められます。高校を設置しない知事所轄学校法人については、活動区分資金収支計算書の作成省略に加え、次の特例が認められています。
・徴収不能引当金の計上省略
・第4号基本金の全部または一部を組み入れない
・基本金明細表の作成省略
従前の会計基準では、賞与引当金の計上は求められていませんでした。しかし、新しい学校法人会計基準では「退職給与引当金のほか、引当金については、会計年度の末日において、将来の事業活動支出の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を事業活動支出として繰り入れることにより計上した額を付すものとする」と規定されています。そのため、賞与引当金も含め、要件を満たすものについては全て引当金として計上しなければなりません。
学校法人の会計は、教育研究事業については学校会計基準、収益事業については中小企業会計指針に則った処理が求められます。学校会計基準については改正が行われており、令和7年4月1日から新たな会計基準に基づく処理を行わなければなりません。
今回の改正は、学校法人のガバナンス強化とステークホルダーへの情報開示を主な目的としたものです。計算関係書類や財産目録は全て備え置きし、閲覧できる状態としなければならず、これまで以上に適切な処理が求められます。
正しい会計処理を行ううえでは、税理士など、専門家との連携が重要になるでしょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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