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法人税とは、法人の事業活動によって得た所得に対して課される税金です。企業が事業で得た所得について、法人税が課せられることに対しては疑問を抱かないケースが多いでしょう。しかし、営利を目的としていない学校法人にも、法人税の納税義務が生じるのでしょうか。
今回は、学校法人の法人税の納税義務や学校法人に課される法人税の税率について分かりやすく解説します。
目次
私立学校の運営を行う学校法人は、幼稚園から大学までさまざまな教育機関の運営を目的に設立された法人です。法人とは法律によって権利や義務の主体となることを認められた団体や組織のことですが、法人は大きく「公法人」、「営利法人」、「非営利法人」の3つに区分できます。このうち、非営利法人には税金の優遇制度があり、非営利法人の一つである学校法人もさまざまな税金の優遇措置の適用を受けることが可能です。
学校法人には、原則として法人税は課されません。しかし、すべての事業活動において法人税が非課税となるわけではありません。
学校法人の本来の事業である教育研究事業に関する所得については、法人税は非課税となります。具体的には、授業料や入学金、実験実習料、設備使用料、入学検定料、補助金等の収入は、教育研究事業での収入とみなされ、法人税の課税対象とはなりません。
学校法人は、本来事業のほかに、学校教育の一部に附随して行われる事業や収益事業を行うことが認められています。附随事業で得た所得についても法人税は課されません。
学校法人は、本来の事業である教育研究事業に支障のない範囲で、収益事業を営むことが認められています。収益事業で得た所得については、法人税の課税対象となります。したがって、学校法人でも、本来の事業と附随事業だけを行っている場合は、法人税を納税する必要はありません。逆に言えば、本来の事業に加え、収益事業を行っている場合、収益事業にかかる法人税の納税義務が生じます。
収益事業を営む学校法人の場合、法人税の納税義務が生じます。株式会社などの普通法人に課される法人税の税率は、資本金の額によって変わります。
令和7年4月1日以降の場合、資本金1億円以下の法人の法人税率は、年800万円以下の部分については15%、年800万円を超える部分については23.20%となっています。また、資本金が1億円を超える企業の場合、法人税率は課税所得額に関わらず、一律23.20%です。
学校法人は、本来の事業と附随事業による所得に法人税が課税されないという優遇措置が適用されます。しかし、それだけではなく、収益事業に課される法人税についても優遇措置が設けられています。学校法人の法人税の税率は、年800万円以下の部分については15%、年800万円を超える部分については19%と軽減されているのです。
学校法人の附随事業による所得は、法人税の課税対象外です。では、学校法人ではどのような附随事業が認められているのでしょうか。学校法人に認められている附随事業の範囲と具体例をご紹介します。
文部科学大臣所轄の学校法人が行うことができる附随事業の範囲は、次のように定められています。
・収益を目的とせず、教育研究活動と密接に関連する事業目的を有すること
・学校法人自らが事業を実施する必要性が十分に認められ、他者からの請負で実施するものでないこと
・収益事業告示に定められた範囲内の事業であること
・事業規模はおおむね「全附随事業に関する収入/学校法人全体の帰属収入<30/130」であること
・特定の附随事業が特定の学校の教育研究活動と密接に関係する場合は「全附随事業に関する収入/学校法人全体の帰属収入<30/130」かつ「特定の附随事業に関する収入/特定の学校部門の帰属収入<30/130」の範囲であること。
・事業対象者(物品やサービスの提供先)は、在学生または教職員・役員が主であること。
・やむを得ず対象者が在学生や教職員・役員以外となる場合には、教育研究活動において在学生や教職員・役員が提供される物品やサービスを50日程度以上活用する具体的計画があること。
・事業による収支は、費用を賄える程度とすること。
また、附随事業を行う場合、文部科学省高等教育局私学部私学行政課法規係・企画係まで事前に相談をしなければなりません。
学校法人の場合、次のような事業が附随事業に該当します。
・スクールバスなどの園児や児童、生徒を送迎するためのバスの運行
・学校に通う学生や生徒が共同で生活するための寄宿舎の運営
・学生や教職員が利用する食堂や売店の運営
・園児や児童、生徒に提供する給食事業
・授業で使用する教科書をはじめとした教材の販売
・付属する病院の運営
・研究のために必要な農場や牧場、研究所などの運営
・学術研究活動に関連する事業の運営
したがって、これらの事業で得られた所得については、法人税は課されません。
学校法人では、収益事業を営んだ場合、収益事業による所得については法人税が課税されます。収益事業には法人税上で示されている34種の収益事業と文部科学大臣が認めている学校法人が行うことができる収益事業の2つがあります。
1.物品販売業 2.不動産販売業 3.金銭貸付業 4.物品貸付業 5.不動産貸付業 6.製造業 7.通信業 8.運送業 9.倉庫業 10.請負業 11.印刷業 12.出版業 13.写真業 14.席貸業 15.旅館業 16.料理店業その他の飲食店業 17.周旋業 18.代理業 19.仲立業 20.問屋業 21.鉱業 22.土石採取業 23.浴場業 24.理容業 25.美容業 26.興行業 27.遊技所業 28.遊覧所業 29.医療保険業 30.技芸教授業等 31.駐車場業 32.信用保証業 33.無体財産権提供業 34.労働者派遣業
文部科学省では、文部科学大臣の所轄に属する学校法人が行うことができる収益事業の種類を次のように定めています。 1. 農業、林業 2. 漁業 3. 鉱業、採石業、砂利採取業 4. 建設業 5. 製造業(武器製造業に関するものを除く) 6. 電気・ガス・熱供給・水道業 7. 情報通信業 8. 運輸業、郵便業 9. 卸売業、小売業 10. 保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業に関するものに限る) 11. 不動産業(建物売買業、土地売買業に関するものを除く)、物品賃貸業 12. 学術研究、専門・技術サービス業 13. 宿泊業、飲食サービス業(料亭、酒場・ビヤホール、バー、キャバレー、ナイトクラブに関するものを除く) 14. 生活関連サービス業、娯楽業(遊戯場に関するものを除く) 15. 教育、学習支援業 16. 医療、福祉 17. 複合サービス事業 18. サービス業(ほかに分類されないもの)
学校法人の収益事業の事業規模として、文部科学省は、おおむね次の範囲内に収めることとしています。
全収益事業に関する売上高及び営業外収益<学校法人全体の帰属収入=100
ただし、学校法人全体の帰属収入に収益事業からの繰入収入、特定年度のみに臨時的に生じた収入、保育事業による収入は含みません。
つまり、学校法人は収益事業を営むことが認められてはいるものの、収益事業の収入は、教育研究活動による事業活動収入を上回ってはいけないということになります。
学校法人が附随事業を行う場合、文部科学省への事前相談が必要でした。一方、収益事業を行う際も文部科学省への事前相談が必要ですが、収益事業の場合は相談に加えて、寄附行為の変更と許可の取得が必要です。
繰り返しになりますが、学校法人では、収益事業のみに法人税が課税されます。したがって、収益事業を営んでいない場合には、法人税を納める必要はありません。しかしながら、収益事業に該当するかどうかの見極めが難しいため、本来は法人税の課税対象として申告しなければならない所得についても、申告していないケースが見られることもあります。
学校法人が法人税の申告書を作成するうえでは、収益事業に該当するかどうかの判断が非常に重要になります。収益事業に該当するかどうかは次の2点をポイントに判断します。
事業が継続的に行われているものであるかどうかは、収益事業に該当するかを判断するうえでの一つのポイントとなります。例えば、次のようなケースは収益事業に該当する可能性が高くなります。
・学校法人内の敷地をコインパーキングとして、賃貸料を得ている
・会議室を貸会議室として運用し、収入を得ている
・文房具や書籍などを販売している
・学生や教職員だけでなく、一般の人も利用できるカフェテリアを運営している
・セミナーハウスを一般の人向けに貸し出している
継続して行われているかは、通年を通して実施されているかだけでなく、反復性があるかという点もポイントとなります。例えば、毎週木曜日だけ、会議室を貸し出している場合などは反復性が認められるため収益事業に該当するケースが多くなります。また、毎年、学校の夏休み期間中だけ、空いている教室を貸し出す場合なども反復性が認められるため、収益事業として捉えられるケースが多いでしょう。
一方、一日だけ、イベントのためにグラウンドを貸し出した場合などは、継続性がないために収益事業には該当せず、非課税として扱って問題ありません。
事業が継続的に行われていることに加え、事業場を設けて行われているかという点も収益事業の判断ポイントとなります。例えば、年度初めに一時的に体操着などを体育館で販売するような場合は、収益事業には該当しません。しかし、敷地内に売店を作り、文房具や書籍、雑貨などを販売している場合は、事業場を設けている点からも収益事業に該当する可能性が高くなります。
先にご紹介したように、法人税法上の収益事業と文部科学省が示す収益事業は必ずしも一致していません。そのため、文部科学省が示すルールに従うと収益事業には該当しないものの、法人税法から見ると法人税の課税対象になるケースがあります。
学校法人の収益事業にあたるかどうかはグレーゾーンも存在しており、判断が難しいケースも少なくありません。適切に処理を行うためには、学校法人の税務処理に詳しい税理士に相談をした方が賢明だと言えます。
学校法人が収益事業を営み、所得を得ている場合は、法人税の課税対象となるため、法人税の申告書を提出して納税をしなければなりません。また、収益事業を行うためには税務署への届出の提出も必要です。
学校法人が収益事業を行うこととなった場合は、管轄の税務署に対し、収益事業開始届出を提出しなければなりません。提出期限は、収益事業を開始した日から2ヶ月以内です。
収益事業開始届出は、税務署の窓口に持参または郵送にて提出できますが、e-Taxで提出することも可能です。また、提出時には、収益事業の開始日における収益事業についての賃借対照表、寄附行為の写しを添付する必要があります。
法人税の申告書は、事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に管轄の税務署に提出します。学校法人会計の資金収支計算とは別に、収益事業から生じる所得に関する計算を行い、法人税を算出しなければなりません。収益事業に関しては、企業会計の原則に従って処理を行うこととなる点に注意が必要です。
また、収益事業で得た所得を教育研究事業に使用している場合は、みなし寄附金の特例として所得金額の50%または年200万円のいずれか多い金額までを損金として算入できるルールがあります。法人税の申告を行う際には、みなし寄附金の特例の適用も忘れずに行うようにしましょう。
学校法人は、公共性・公益性の高い教育事業を行っているため、一般企業のように事業で得た所得すべてに法人税が課されることはありません。学校法人の本来事業である教育研究事業、教育研究事業に附随する事業については、法人税は非課税ですが、収益事業によって得た所得に対しては法人税が課税されます。
収益事業に該当するかどうかの判断は難しいケースが多いものの、万一、収益事業についての所得を申告せずに法人税を納税しなかった場合、法人税の申告漏れとして指摘を受けることになります。
法人税の課税対象となるか、判断に悩む場合は税理士に相談することをおすすめします。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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