2025.10.7
  • 税務調査

家賃を経費に計上する方法とは?個人事業主と法人に分けて解説

読了目安時間:約 6分

賃貸住宅に住んでいる場合、月々の家賃の負担は大きなものです。そのため、家賃を経費に計上できればと考える方も多いでしょう。個人事業主も法人も家賃を経費に計上することは可能です。しかし、それぞれ経費に計上できるルールは異なります。

家賃の経費計上ルールをしっかりと把握しておけば、課税所得額の圧縮につながり、節税効果を得られます。

今回は、家賃を経費にする際のルールについて、個人事業主の場合と法人の場合に分けて解説します。

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家賃の経費化に関する個人事業主と法人の違い

個人事業主も法人も家賃を経費として扱うことができます。しかし、個人事業主と法人では家賃を経費として扱うにあたって適用されるルールに次のような違いがあります。

個人事業主が経費にできる家賃は、事業に関連する場合のみ

個人事業主は、自宅として使用しているだけの、居住用の住居の家賃を経費に計上することはできません。経費として扱えるのは、自宅兼事務所、自宅兼店舗などとして利用している賃貸住宅や事務所、店舗の家賃に限られます。

事務所や店舗としてのみ利用している賃貸物件の家賃については、全額を経費として計上することが可能です。一方、自宅の一部を事務所や店舗などとして使っている場合は、事業に使用している割合を算出し、家賃のうち事業使用分を経費に計上することができます。

法人の場合は居住用住宅の家賃も経費計上が可能

個人事業主の場合、事業に関連のない、居住目的で借りている物件の家賃を経費にすることはできません。しかし、法人では、居住のみを目的として使用している物件の家賃も経費に計上することが可能です。もちろん、事務所の家賃や店舗の家賃なども、経費として計上できます。

個人事業主が家賃を経費にする方法

個人事業主が家賃を経費として処理する方法についてご説明します。

事務所や店舗の家賃を経費に計上する場合

事務所や店舗としてのみ使用している物件の場合、「地代家賃」の勘定科目で、全額を経費に計上することが可能です。また、事務所や店舗のほかに、事業用の車を駐車するための駐車場を借りている場合、駐車場の賃料も経費として扱うことができます。

事務所や店舗兼自宅の家賃を経費に計上する場合

自宅の一部を事務所や店舗として使用している場合は、事業用とプライベート用の使用割合を決定しなければなりません。事業用とプライベートの割合を算出することを「家事按分」と言います。家賃の家事按分の方法には、使用面積で割合を算出する方法と使用時間で割合を算出する方法が2つあります。

面積で家事按分するケース

事業で使用する部屋などが決まっている場合は、借りている物件の総面積のうち、事業用で使用している部屋の面積の割合を算出します。例えば、60㎡の物件を借りており、そのうち15㎡を事務所として使用している場合、15÷60=0.25となり、事業用の使用割合は25%となります。

家賃が10万円であったと仮定すると、この場合に経費に計上できる家賃の額は10万円×25%=2万5,000円です。

使用時間で家事按分するケース

借りている物件によっては、一部屋を事業専用の部屋として使用することは難しい場合もあるでしょう。その場合は、面積ではなく、仕事をしている時間によって家事按分をする方法が適しています。

例えば、毎日10時間、週に5日仕事をしている場合、1週間の仕事時間数は50時間です。1週間の総時間数は168時間となるため、事業の使用割合は50時間÷168時間≒0.3となります。したがって、家賃が10万円と仮定した場合、経費として計上できる家賃の額は10万円×30%=3万円です。

個人事業主が家賃を経費にする場合の注意点

個人事業主が家賃を経費に計上する場合に注意が必要な点を4つご紹介します。

家事按分割合の算出には明確な根拠が必要

家賃を経費として計上するためには、家事按分割合についての明確な根拠が必要です。税務調査の対象となった場合、家賃の家事按分割合について指摘がなされる場合も少なくありません。実際とは異なる家事按分割合を使用し、経費の水増しを行うことなどがないよう、正しく家事按分を行いましょう。また、税務調査時には調査官に算出根拠について、しっかりと説明できるよう準備を進めておくことも大切です。

同一生計の親族に支払う家賃は経費に計上できない

同一生計の家族や親族に支払う家賃を経費として扱うことはできません。例えば、親が保有する物件の一部を事務所として使用し、家賃を支払っている場合などが該当します。ただし、別居している親族が保有している物件を借りて事業を営んでいる場合などは、親族の所有であっても家賃を経費に計上することは可能です。

敷金は経費として扱うことができない

個人事業主として開業する際に事務所を借りる場合などは、家賃だけでなく、敷金や礼金が必要になるケースもあります。礼金については経費として計上することが認められますが、返却が予定されている敷金については、経費として計上することができません。ただし、退去の際、原状回復費用として敷金から差し引かれた分については、その時点で返還されなかった金額を経費として計上できます。

賃貸借契約書や支払記録を保管する

家賃の支払いは、銀行振込や自動引き落としが一般的であり、家賃の支払いに関する領収書は発行されないケースが多くあります。領収書がなければ経費に計上できないのではと不安になる場合もありますが、領収書がなくても、家賃を支払った記録を保管しておけば、問題なく経費として計上することができます。

また、家賃の額等を証明するため、賃貸借契約書もしっかり保管しておくようにしましょう。

法人が家賃を経費にする方法

法人の場合、事務所や店舗、倉庫などの家賃はもちろん、役員や従業員が居住する物件の家賃も経費に計上することが可能です。

事務所や店舗、倉庫の家賃を経費に計上する場合

個人事業主と同様に、事業専用として使用している事務所や店舗、倉庫などの家賃は、全額地代家賃として経費に計上できます。また、社用車用の駐車場を借りている場合なども、駐車場代を経費として扱うことが可能です。

役員や従業員の住居の家賃を経費にする場合

役員や従業員が居住する住宅の家賃も経費に計上することが可能です。ただし、役員や従業員の住む住居の家賃を経費として計上するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

法人名義で契約を結ぶ

法人が役員や従業員の住む住宅の家賃を経費として負担する場合、住居は借り上げ社宅として扱うこととなります。法人が借りた物件に役員や従業員を住まわせることになるため、賃貸物件の契約を締結する際には、法人名義で賃貸借契約を結ばなければなりません。もし、従業員や役員が個人名義で契約した物件の家賃の一部を会社が負担する場合、会社から支払う金額は住宅手当に該当し、給与として扱われます。したがって、住宅手当の分、所得税や住民税の負担が増加してしまいます。

役員や従業員が住む住宅の家賃を経費に計上する場合は、必ず、法人名義で賃貸借契約を結び、法人から物件のオーナーに家賃を支払う形を取るようにしましょう。

賃貸料相当額を役員や従業員から受け取る

借り上げ社宅として家賃を経費に計上する場合のもう一つの条件が、賃貸料相当額を居住者である役員や従業員から受け取ることです。経費として計上できるのは、家賃と従業員や役員から受け取った賃貸料相当額の差額分となります。

賃貸料相当額よりも低い金額しか受け取っていない場合、または、無償で役員や従業員に社宅を提供している場合、給与や役員賞与として扱われ、課税の対象となります。

役員社宅と従業員の社宅では、賃貸料相当額の算出方法に違いがあるため、役員や従業員から賃貸料相当額を受け取る際には注意が必要です。

法人が家賃を経費にするうえで把握したい賃貸料相当額の算出方法

法人が賃貸住宅を法人名義で契約し、役員や従業員の社宅として使用する場合は、居住する役員や従業員から一定額以上の賃貸料相当額(家賃)を受け取らなければなりません。役員と従業員に社宅を貸す場合のそれぞれの賃貸料相当額の算出方法をご説明します。

役員社宅の賃貸料相当額の算出方法

役員社宅の場合、小規模住宅やそれ以外の住宅であるかによって、役員から受け取るべき家賃の額が変わってきます。

小規模住宅の場合

以下の条件に合致する住宅を役員社宅とする場合は、小規模住宅として扱います。

・法定耐用年数が30年以下である場合は、床面積が132㎡以下の住宅

・法定耐用年数が30年以上である場合は、床面積が99㎡以下である住宅

それぞれ、マンションなどの区分所有の建物の場合は、共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えたうえで判定します。

小規模住宅を社宅として使用する場合の賃貸料相当額は、次の①~③までの計算式で算出した額の合計となります。

  • その年度の建物の固定資産税の課税標準額×2%
  • 12円×その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×22

小規模住宅以外の住宅の場合

小規模住宅以外の住宅を借り上げ社宅として役員に貸与する場合は、会社がオーナーに支払う家賃の50%の金額と次の①+②の額の1/12の額を比較し、多い方が賃貸料相当額となります。

  • その年の建物の固定資産税の課税標準額×12%(ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合は10%)
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%

豪華社宅の家賃は経費に計上できない

床面積が240㎡を超える住宅の場合、取得価額や支払賃貸料の額、内外装の状況などを総合的に勘案し、豪華社宅であると判断されると家賃の経費計上は認められません。また、床面積が240㎡以下であってもプールなど、役員個人の好みを著しく反映させた設備を持つ物件の場合は、豪華社宅として判断されます。

豪華社宅の場合、役員は家賃を全額自己負担しなければなりません。そのため役員個人の負担も大きくなりますが、会社としても節税効果を得ることはできません。

従業員の社宅の賃貸料相当額の算出方法

従業員に社宅を貸与する場合は、次の①~③の計算式で算出した額の合計額の50%以上の家賃を受け取っていることが、経費計上の条件となります。

  • その年度の建物の固定資産税の課税標準額×2%
  • 12円×その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡
  • その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×22%

法人が家賃を経費計上する際の注意点

法人が役員や従業員が住む住宅の家賃を経費として計上する際には、次の点に注意するようにしましょう。

社内規定を定める

社宅制度を導入する際には、社内規定でしっかりと社宅の制度についてのルールを明文化しておくことが大切です。社宅として貸与する際の条件や社宅の対象者、従業員や役員から受け取る賃貸料相当額の算出方法などもしっかり決めておきましょう。

また、賃貸料相当額については、毎月の給与から天引きすることになります。しかし、労働基準法第24条では使用者は労働者に対して、約束した賃金の全額を支払わなければならないとする規定があります。そのため、賃貸料相当額を給与からそのまま天引きすると問題が発生する可能性が生じます。ただし、労働基準法第24条1項において、労働組合や従業員の過半数を代表する社員との書面による協定があれば、賃貸料相当額の天引きを認めるとの文言もあります。そのため、社内規定で定めると同時に、書面による協定も結んでおくことを忘れないようにしましょう。

水道光熱費や駐車場代は対象にしない

従業員や役員が住む社宅の家賃を経費として計上することはできますが、経費として扱えるのは家賃のみです。入居中に発生する水道光熱費、車を保有している場合にかかる駐車場代は、会社が負担しても、経費として扱うことはできません。会社が水道光熱費や駐車場代を負担することもできますが、その場合には、役員や従業員への給与とみなされ、課税の対象となります。

まとめ

個人事業主も法人も、事務所や店舗などの家賃は全額経費として計上することができます。

個人事業主の場合、自宅と事務所を兼用している場合などは、面積や使用時間に応じて家事按分をし、事業使用割合に応じた額を家賃として経費に計上することが可能です。

一方、法人の場合は、借り上げ社宅制度を導入すれば、役員や従業員が居住する住宅の家賃を経費として計上することが可能です。ただし、その場合、法人名義で賃貸借契約を結び、一定以上の額を役員や従業員が負担しなければなりません。役員と従業員の場合、受け取るべき賃貸料相当額に違いがある点に注意しましょう。

 

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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