メニュー
読了目安時間:約 6分
法人の場合、社員や役員が居住する賃貸物件を個人ではなく、法人契約とすることが可能です。企業の中には法人契約を締結して、効果的に節税効果を得たり、福利厚生面を整えたりしているところもあります。では、居住用の賃貸物件を法人契約する場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
今回は、賃貸物件を法人契約する際の流れや個人契約との違い、法人契約のメリット、注意点などについて解説します。
目次
法人契約とは、法人の名義で賃貸物件の契約をする方法のことです。賃貸物件の法人契約を行う場合、オフィスや店舗など、事業として使用する物件を対象にするケースと居住用の物件を対象にするケースがあります。
事業のために使用する賃貸物件であれば、当然、使用者である法人名義で契約をするでしょう。しかし、法人では、社員や役員が居住する目的の賃貸物件についても法人契約をすることが認められています。
賃貸物件の法人契約と個人契約では、さまざまな点で違いがあります。
個人契約で賃貸物件の契約をする場合、入居審査が行われます。これは、入居を希望する人の家賃支払い能力に問題がないかを調べるための審査です。したがって、個人が賃貸契約を締結する際には、収入を証明する源泉徴収票などの提示が求められるケースが多くなります。また、勤続年数や過去に滞納した記録がないかなど、個人の信用情報についての審査も行われます。
一方、法人契約の場合、入居者についての審査が行われることはなく、企業の事業年数や従業員数、資本金の額、売上といった、企業の信頼性や体力に関する内容が審査の対象となります。なぜなら、法人契約で賃料を支払うのは法人であり、法人の信用度が重要になるからです。会社として十分な実績を残しているような場合、審査はスムーズに進みますが、設立間もない企業や財務状況に不安がある企業は、審査に通りにくいケースもあります。
賃貸物件の個人契約の場合、契約時には源泉徴収票のコピーなど、収入証明書や住民票などの提出が求められます。
法人契約の場合、個人契約に比べるとより多くの書類の提出を求められるケースが一般的です。具体的には、会社の履歴事項全部証明書や数期分の決算報告書、法人税の納税証明書、法人の印鑑証明書などを求められるケースが多いでしょう。また、法人に関する書類だけでなく、入居者の住民票や社員証のコピーなどの提出を求められることもあります。
賃貸物件の場合、入居時には敷金や保証金などの初期費用の支払いが必要です。しかし、法人契約と個人契約では、条件に違いがみられる場合があります。
例えば、オフィスや店舗など、事業用の賃貸物件を借りる場合は、敷金や保証金の額が高額になる可能性が高くなります。その理由は、事業用として使用する場合、住居用に比べて傷や汚れなどが生じる可能性が高く、原状回復費用が高額になる恐れがあるからです。
一方、社員や役員が居住する賃貸物件の法人契約をする場合も、敷金や保証金の額が高くなるケースがあります。法人契約をした場合、契約内容によっては、入居者が入れ替わる可能性があるからです。入居者が頻繁に入れ替わるような場合、同じ人が使用する場合に比べて、部屋の損傷や摩耗が進みやすくなる恐れがあります。そのため、オーナーによっては法人契約を締結する場合、初期費用を高めに設定しているケースがあるのです。
個人契約をする場合、保証人を立てるか、保証会社に加入する必要があります。これは、万が一、家賃が滞納された場合に備えるためです。しかし、法人の場合は、個人に比べると家賃を滞納するリスクは低くなります。そのため、中には保証人や保証会社を付けなくても契約を結べる場合があります。
ただし、物件オーナーの考えや会社の規模などによっては、法人契約の場合でも保証人を立てたり、保証会社に加入したりといった対応が求められるケースもあるでしょう。
法人契約で契約を締結した賃貸物件の場合、賃料は「地代家賃」として経費に計上することが可能です。オフィスや店舗など、事業用に使用する物件の家賃はもちろん、社員や役員が居住する居住用物件の家賃も地代家賃として経費に計上することができます。
ただし、居住用の物件を経費にするためには、借り上げ社宅として運用しなければなりません。その際、社員や役員から一定以上の賃料相当額を法人が受け取っている必要がある点に注意が必要です。また、居住用の物件の場合、経費として計上できる額は、賃料の全額ではありません。社員や役員から受け取った賃料相当額と家賃との差額が、地代家賃となります。事業用物件の場合は、家賃を全額、経費に計上できますが、居住用の物件の場合には全額を計上できないという点を理解しておきましょう。
賃貸物件の法人契約を進める場合は、次のような手順で手続きを進めます。
立地や条件、広さなどから、用途に適した物件を選択します。役員や社員が居住用の物件の場合は、法人が物件を探すのではなく、物件選びは役員や社員が行っても問題ありません。
入居を希望する物件が決まったら、申し込みを行います。申込書には、法人名や所在地、連絡先などを記入します。また、居住用の物件の申し込みを行う場合は、入居者として入居する役員や社員の情報が必要になる場合も多く見られます。
申込書の提出後は、決算書や履歴事項全部証明書など、必要書類も提出します。
申込書と必要書類が揃ったら、入居審査に進みます。大手企業の場合は社会的信用が高いため、それほど時間がかからずに審査結果が伝えられます。しかし、小規模な企業や創業したばかりの企業などは、審査結果が出るまでに時間がかかるかもしれません。
入居審査に通過したら、契約に進みます。賃貸借契約書を取り交わし、初期費用を入金します。契約書には、賃料や初期費用が記載されているため、経費計上の証拠書類になります。また、物件利用時の規約などについても記載されているため、契約書は必ず保管しておくようにしましょう。
法人では、事業用の物件だけでなく、役員や社員が住む賃貸物件についても法人契約を行っているケースがあります。それは、賃貸物件を法人契約することで、次のようなメリットを得られるからです。
法人名義で契約をした賃貸物件にかかる費用は、経費として計上することができます。具体的には毎月の家賃、契約時の仲介手数料・保証料、契約更新時の更新手数料などが経費の対象となります。経費は、収入から差し引くことができるため、賃貸物件を法人契約すると課税所得額を圧縮し、節税効果を得られます。
ただし、社員や役員の居住用の物件を法人契約する場合、経費として扱うためには、役員や社員から賃料相当額を受け取ったうえで、法人からオーナーに直接家賃を支払う必要があります。
現在、日本では少子高齢化が加速しており、労働力不足が深刻化しています。採用活動が厳しさを増す中、福利厚生面が充実している企業は、労働者にとって魅力的な環境です。賃貸物件に住む人にとって、家計のうち、家賃が占める割合は非常に大きくなります。そのため、賃貸物件を法人契約とすれば、社員の家賃負担が軽減され、魅力的な福利厚生制度になるでしょう。人材採用においても、借り上げ社宅制度の導入は、大きな強みになるはずです。
また、新規人材を採用しやすくなるだけでなく、既存の社員の満足度も向上させることも可能です。社員が自社の福利厚生制度に満足すれば、会社に対するエンゲージメントが高まり、離職率も低減するでしょう。
企業によっては福利厚生制度の一環として、社員に家賃補助を行っているところもあります。家賃補助の場合、従業員が個人名義で契約している物件の家賃の一部を補助することとなります。この場合、従業員に支給する家賃補助は、給与としてみなされてしまいます。
そのため、家賃補助の分、給与所得額が増え、従業員の課税対象額が増加し、納める所得税の額が高くなるという問題が生じます。また、所得税だけでなく、住民税や社会保険料も課税対象額をベースに算出されるため、従業員の負担する税金や社会保険料が増えてしまう点にも注意しなければなりません。
一方、法人契約では、従業員から賃料相当額を受け取る必要はあるものの、従業員にお金を支給することはないため、従業員の給与所得額が増えることはありません。そのため、従業員が負担する税金や社会保険料の額に影響しない点も賃貸物件の法人契約のメリットになるといえるでしょう。
定期的なジョブローテーションを実施するなど、転勤や異動が頻繁に生じるような法人の場合、各地の事業所に近い場所に賃貸物件を法人名義で契約しておくことで、人の入れ替わりがあった場合にもスムーズに対応しやすくなります。
個人契約の場合、新たに赴任した人は物件を探し、審査を受けて、契約を締結しなければなりません。社内での業務の引き継ぎに加え、住まいの確保、引越しの準備を進めるとなると、大きな負担が生じます。しかし、法人名義で契約している物件があれば、社員は物件探しを行う必要はありません。会社は、入居者の変更について届出を行えばよいため、転勤などのケースでもスムーズに対応することが可能です。
賃貸物件の法人契約にはさまざまなメリットがあります。しかしながら、法人契約を締結する際には注意しなければならない点もあり、法人契約を締結する際には事前準備をしっかり進めることが重要です。
賃貸物件の法人契約における注意点を3つご紹介します。
まず、賃貸物件の中には、法人契約を認めていない物件もあります。オーナーにとって、法人契約は家賃滞納のリスクが少ないというメリットがある一方で、入居者の入れ替わりにより、室内の損傷が進む恐れがあるといったデメリットもあるからです。また、個人契約に比べ、法人契約は審査や契約手続きが煩雑になるといった理由から、法人契約を拒むケースもあります。
いずれにしろ、法人契約を結べない物件もあるため、賃貸物件を探す際には、法人契約が可能であるかどうかを事前に確認しておくことが大切です。
社員や役員の居住用物件の法人契約を行い、社宅として運用する場合は、社内において社宅についてのルールを整備しておかなければなりません。ある社員は法人契約の賃貸物件に住んでいても、ほかの社員は個人名義で賃貸物件を契約しているとなると、社員間で不公平感が生じ、トラブルを招く恐れもあります。
どのような場合に、社宅として扱うことができるのかといった条件や本人負担の割合、家賃の上限額などについても明確に定めておくことが重要です。
賃貸物件の法人契約をし、家賃を経費に計上して節税をする事例は少なくありません。しかし、経費として扱うためには、一定額以上を入居者である社員や役員から徴収していることが条件となります。社員が住む場合と役員が住む場合で徴収すべき賃料相当額の算出方法には違いがあるため、経費計上を行う際には十分に税務上のルールを確認しておくようにしましょう。
法人契約で賃貸物件の契約をすると、家賃や初期費用を経費に計上できるため、課税所得額を圧縮でき、大きな節税効果を得られます。また、社員が住む賃貸物件の契約を法人名義で結ぶと、社員の家賃負担を抑えられるため福利厚生制度の充実につながります。従業員を大切にする姿勢が伝われば、社員の離職率を低下させたり、優秀な人材を採用しやすくなったりといったメリットも得られるでしょう。
ただし、不適切な運用は、かえって社員の反発を招く恐れもあります。法人名義で社員や役員の居住用物件を契約する際には、事前に社内ルールを整えるとともに、経費として計上するためのルールについてもしっかり確認しておくことが大切です。
-免責事項-
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。内容は記事作成時点の法律に基づいています。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
税理士法人松本の強み
30秒で完了かんたん税務調査リスク診断
←前の記事
クラファンで資金調達をした際には税金に注意!確定申告の方法も解説
あわせて読みたい記事
税務調査
税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!
専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。