メニュー
読了目安時間:約 6分
コロナ禍では、感染拡大の防止を目的に、人と人との接触機会をできるだけ抑える策が実施され、リモートワークが普及しました。しかし、その結果、従業員同士の関係性が希薄になってしまったと感じる企業も多いようです。
業務を円滑に進めるためにも、従業員同士のコミュニケーションは大切です。このような背景から、最近では従業員が参加するレクリエーションの一環として社員旅行を復活させるケースが増えています。
社員旅行を開催し、従業員同士の絆を深め、会社としての団結力を高めたいと考えても、従業員に費用を負担させると参加者が限られる可能性があります。そのため、社員旅行の費用を経費として計上できないかと考える場合もあるでしょう。
そこで今回は、社員旅行の費用の経費計上の可否を含め、社員旅行を経費に計上する際の注意点などについて解説します。
目次
結論から述べると、社員旅行にかかった費用は、経費として計上することができます。社員旅行の経費は福利厚生費に該当します。福利厚生費は大きく「法定福利費」と「法定外福利費」に区分できます。
法定福利費には、厚生年金保険料や健康保険料、介護保険料、雇用保険料、労災保険料など、法律で企業に義務付けられている保険料などが該当します。一方、法定外福利費とは、法律では義務付けられていないものの従業員のために支出した費用のことです。
社員旅行の費用は、法定外福利費に該当します。そのほか、従業員の健康維持のために行う健康診断の費用、忘年会や新年会の費用、運動会などのレクリエーションイベントの開催費用なども法定外福利費として経費に計上できます。
次の項で説明する条件を満たしている場合、社員旅行の費用は経費に計上できます。しかしながら、社員旅行でかかった費用をすべて経費として計上できるわけではありません。
社員旅行の費用のうち、経費に計上できるのは次のような費用です。
・交通費
・宿泊費
・飲食費
社員旅行では、目的地まで移動するためには電車やバス、飛行機などの移動費用が発生します。さらに、目的地に着いて観光する場合も移動費用が発生するでしょう。これらの費用は経費として計上できます。また、ホテルや旅館などの宿泊にかかる費用、夕飯や朝食、昼食など、宿泊中にかかる飲食費も経費として計上できます。
社員旅行中、記念として社員全員に配るお土産を購入した場合、その費用も経費として扱うことが可能です。しかしながら、従業員が家族や友人のために個人的に購入したお土産の代金などは、経費として計上することはできません。経費に計上できるのは、社員の福利厚生を目的とした支出に限られるためです。
社員旅行にかかった費用は、経費として計上することが可能です。しかしながら、福利厚生費として経費に計上するためには、満たさなければならない条件があります。
国税庁では、社員旅行を経費に計上する際の条件として次の5つの項目を示しています。
旅行期間が4泊5日を超えるものについては、経費として計上することはできません。ただし、海外旅行の場合には、渡航先での滞在日数が4泊5日以内であれば経費計上が可能です。遠方への旅行などで、日付変更線を超える場合、機内泊は旅行期間に含まれません。
福利厚生費として認められるためには、すべての従業員が公平に福利厚生制度を利用できる状態であることが求められます。したがって、社員旅行も原則として、従業員全員を参加対象として企画されたものである必要があります。例えば、役員だけが参加する旅行、一部の部署の社員だけが参加する旅行の場合、従業員に公平に参加機会を与えていないため、経費として計上することはできません。
しかしながら、小さな子どものいる従業員や介護が必要な家族と暮らす従業員などもいるでしょう。また、社員旅行の日程にすでに別の予定が入っている従業員もいるかもしれません。そのため、経費計上するためには全員に参加の機会が平等に与えられている必要があるものの、必ず全員が参加しなくても問題はありません。基本的には、従業員全体の50%以上が参加した場合、社員旅行の経費計上が認められます。
ただし、リモートワークなどが普及している今、出社をせず、会社とは離れた場所で勤務しているケースなどもあり、社員旅行への参加が難しい場合もあります。そのため、参加割合が50%に満たない場合であっても、旅行期間や旅行費用が妥当なものであれば、社員旅行の経費計上が認められる事例も見られるようになってきました。
しかしながら、参加率が50%以下の場合、必ず経費計上が認められるわけではありません。そのため、事前に参加率を把握できる場合は、経費計上ができるか税理士に相談しておくと安心です。
旅行費用の額が常識の範囲を逸脱している場合、福利厚生費として扱うことはできません。これは、社員旅行の経費計上を認める背景に、従業員に供与する経済的利益の額が少額の場合は強いて課税をしないという少額不追及の趣旨があるからです。
社員旅行の費用が高額になる場合、少額不追及の趣旨から離れてしまいます。したがって、必要以上に豪華なホテルに宿泊したり、高額な飲食費を支出している場合などは、福利厚生費として認められない可能性があるのです。経費として計上する場合には、旅行費用の額や従業員の負担割合を妥当な金額にとどめるようにしましょう。
国税庁のホームページでは、経費計上が認められる社員旅行の事例を明示しており、以下の2件については、経費計上を認めるとして紹介されています。
・3泊4日の旅行期間で、旅行費用が15万円、うち会社の負担割合が7万円の事例
・旅行期間が4泊5日で旅行費用が25万円、うち会社の負担割合が10万円の事例
福利厚生費として経費計上が認められる社員旅行の費用は、従業員の旅行費のみです。従業員以外の旅行費用については、経費に計上することが認められていません。
例えば、社員旅行でも家族の同伴を認めるような場合、家族を同伴させること自体に問題はありませんが、家族の分の旅費も経費として計上することはできません。なぜなら、家族については従業員ではないため、福利厚生の対象とはならないからです。
また、実質的に私的な旅行と認められる場合についても、その費用は経費計上が認められないとされています。家族の同伴により、従業員同士の親睦を深める機会を持たず、家族だけで行動するような場合、私的旅行になると指摘を受ける可能性もある点に注意が必要です。
家族の同伴を認める場合は、家族の旅費については会社が負担しないこと、家族も含めて団体行動をとることを徹底するようにしましょう。
諸事情から社員旅行に参加できない従業員に対し、旅費の代わりとして、金銭を支給してはいけません。もし、不参加の従業員に金銭を支給した場合、参加した従業員と参加しない従業員全員に、不参加者に対して支給する金額相当の給与支給がなされたものとみなされます。
参加できなかった従業員がいた場合でも、不参加の代わりとして金銭を支給する行為は絶対に避けるようにしましょう。
社員旅行を福利厚生費として経費に計上する際のルールについてご説明してきました。したがって、これまで説明してきたような条件に合致しない旅行の場合は、その費用を経費にすることはできません。社員旅行としての経費計上が認められない旅行には次のようなものがあります。
従業員の参加割合が50%を超えていても、社員旅行の金額が妥当な範囲内であっても、旅行期間が4泊5日以上にわたる場合、経費計上は認められません。4泊5日を超える旅行は、福利厚生の範囲を超えると捉えられるからです。
過度に豪華な旅行も、福利厚生の範囲を超えるとみなされる恐れがあります。従業員の親睦を深め、レクリエーション活動をするという目的であれば、過度に豪華な旅行を用意する必要はありません。参加人数に対し、旅費が高額すぎる場合は経費計上を否認される可能性が高くなります。
取引先を招待し、取引先の旅費も負担するような場合、その費用は、福利厚生費としてはみなされません。接待が目的になると捉えられるため、従業員の福利厚生のための旅行には該当しないのです。
取引先を招待し、接待を目的とした旅行にかかった費用は、交際費として計上する必要があります。
社員旅行の費用を経費として扱うためには、旅行期間や旅行費用、参加者の割合などが条件を満たしていなければなりません。しかし、条件を満たす場合であっても、経費として計上する際には、次の点に注意する必要があります。
宿泊代や交通費、飲食費など、社員旅行にかかった費用の証明となる領収書やレシートは確実に保管しておきましょう。税務調査の対象となった場合、レシートや領収書がなければ、本当に社員旅行が実施されたのか、計上されている金額が正しいものであるのかを証明することができません。
社員旅行にかかった費用を証明する証憑書類は、必ず保管しておくことが大切です。
領収書やレシートと合わせ、福利厚生のための社員旅行であったことを証明するため、次のような書類も保管しておくとよいでしょう。
・参加者のリスト
・旅行スケジュール表
・現地での記念写真
参加者のリストは、従業員の50%以上が参加したことの証明となります。また、旅行スケジュール表や現地での記念写真は、社員旅行の証明になるとともに、私的な旅行ではないことの証明ともなるものです。
例えば、小規模な企業が親族の海外挙式に合わせて社員旅行を計画し、結婚式に参加するための渡航費用や宿泊費などを社員旅行と偽り、福利厚生費として経費計上するような事例がないわけではありません。従業員のレクリエーションのための旅行であることを示すためには、現地の写真やスケジュール表が役立ちます。
法人の場合、領収書やレシートは、7年間の保管が必要です。参加者リストや写真、スケジュール表などの保管期間は定められていないものの、領収書やレシートと一緒に保管しておくとよいでしょう。
社員旅行の費用を福利厚生費として経費計上するためには、就業規則の中で社員旅行を福利厚生の目的で実施するということを明記しておくことが大切です。加えて、その条件として全従業員を対象とするものであることも記載しておきましょう。
社員旅行について就業規則に明記されていれば、社員旅行が会社の福利厚生施策の一つであることを示しやすく、税務調査の際に指摘を受けにくくなります。さらに、就業規則上で従業員全員を対象とするものであることを示すことで、より会社として公式な福利厚生プログラムであることを証明できます。
また、海外旅行をする場合、パスポートの取得費用を従業員が負担するのか、会社側が負担するのかでトラブルが生じるケースもあります。パスポートの取得費用を会社が負担する場合も、就業規則にその旨を明記していれば、パスポートの取得費用も経費として計上することが可能です。
社員旅行の費用は、原則として経費に計上することができます。しかし、福利厚生費として経費計上をするのであれば、従業員全員を参加対象としたものであって、従業員の参加割合が50%以上にならなければなりません。また、費用は常識の範囲内であること、旅行期間は4泊5日以内であることが条件です。
さらに、不参加の従業員に対して金銭を支給した場合、福利厚生費の対象外となり、社員旅行の費用の経費計上は認められなくなります。加えて、同伴家族の旅費を負担した場合も、プライベートな旅行と捉えられるため、経費計上は難しくなるでしょう。
税務調査などで指摘を受けないためにも、社員旅行の経費計上ルールをしっかり把握したうえで、就業規則にも社員旅行について明記しておくことが大切です。
-免責事項-
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。内容は記事作成時点の法律に基づいています。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
税理士法人松本の強み
30秒で完了かんたん税務調査リスク診断
←前の記事
仮想通貨の税金負担に抜け道はある?節税につながる対策とは
次の記事→
フリーランスが支払うべき税金とは。種類や計算方法、節税対策を解説
あわせて読みたい記事
税務調査
税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!
専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。