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調剤薬局に税務調査が入るとどうなる?指摘されやすいポイントは?

読了目安時間:約 6分
医薬分業が進められ、病院やクリニックから発行された処方箋をもとに調剤を行い、患者さんに薬を渡す調剤薬局が増加しました。また、薬のほかに日用品なども取り扱うドラッグストアの中にも調剤薬局を併設するケースが増えています。
調剤薬局も税務調査の対象となりますが、調剤薬局を対象とした税務調査では、どのような点をチェックされるケースが多いのでしょうか。
今回は、調剤薬局に税務調査が入るタイミングや重点的な調査事項などについてご説明します。
目次
税務調査で調剤薬局の不正が発覚した事例
調剤薬局も株式会社や有限会社などが運営しているケースがほとんどですが、税務調査というと、一般的な企業を対象とした調査をイメージする方が多いかもしれません。しかし、調剤薬局も確定申告をして法人税を納めなければならない納税義務者であり、税務調査の対象に選ばれる可能性もあります。
近年では、調剤薬局グループを対象とした税務調査で、申告漏れなどが発覚するケースが増え、ニュースとなっていることをご存じでしょうか。
兵庫県に本社を置く調剤薬局グループが架空取引で消費税16億円を不正還付
2024年9月、全国で調剤薬局チェーンを展開する兵庫県内の企業が国税局の税務調査を受け、2022年から2023年の1年間の間に、合計約16億円の消費税の不正還付を受けたと指摘されたというニュースが流れました。グループ内の約60社で医薬品の架空取引を繰り返す手口で、不正に消費税の還付を受けていたというのです。重加算税も含めた追徴課税の額は、23億円にも上ります。
この調剤薬局グループでは、消費税の仕入税額控除の仕組みを悪用し、グループ内企業で医薬品の在庫を売買する書類を作成し、実体のない取引を行うことで、消費税の不正還付請求を行っていたとされています。
東京都の調剤薬局に対し消費税の架空申告で3.3億円の追徴課税
兵庫県の調剤薬局の税務調査に関するニュースからわずか2ヶ月後、今度は東京に本社を置く調剤薬局の消費税の不正還付が発覚しました。全国に調剤薬局を展開するこの企業では、東京国税局の税務調査によって、2023までの3年間で消費税約3億円を過大に還付申告したと指摘されました。過少申告加算税を含め、追徴課税額は3億3,000万円に上ると推測されています。
この企業も、消費税の仕入税額控除の仕組みを悪用した事例です。このケースでは、卸から仕入れた医薬品をグループ会社に販売し、仕入れの際に支払った消費税額が売上の消費税額を上回ったとして消費税の還付申告をしていました。しかし、税務調査によってこの企業は医薬品のすべてをグループ会社に販売したのではなく、企業がグループ会社に販売した医薬品は一部に限られていたことが分かったのです。消費税の還付申告が認められるのは、この企業がグループ会社に販売した医薬品の分のみに限定されます。そのため、過大に還付申告をした消費税に対して、追徴課税がなされたのです。
3年間で3億円の所得隠しが発覚した調剤薬局
ここまで紹介してきた調剤薬局の事例は、いずれも、グループ会社を保有し、全国に調剤薬局を展開する大手の事業者です。調剤薬局といっても、税務調査が入るのは、このような全国展開をし、グループ会社などを持つ大手企業が対象になるのではと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、税務調査の対象となるのは、全国展開をする大手の調剤薬局ばかりではありません。少し古くなりますが、2014年には、神奈川県と千葉県で2ヶ所の調剤薬局を経営する経営者が脱税を指摘され、東京国税局に告発された事件があります。この事件では、売上の一部を申告せず、実際には働いていない自分の家族に給与を支払ったことにし、3年間で約3億円の所得を隠蔽し、8,600万円を脱税した疑いで告発されました。
税務調査の2つの種類と税務調査の流れ
調剤薬局に税務調査が入り、脱税が発覚した事例をいくつかご紹介しました。しかし、上記でご紹介した税務調査の事例は、国税局によって実施された調査です。国税局によって実施される調査は「強制調査」と呼ばれます。一般的な税務調査は、国税局ではなく税務署の調査官によって行われる「任意調査」です。
税務調査は、大きく区分すると、強制調査と任意調査の2つに分けることができます。
強制調査とは
強制調査とは、国税局の査察部によって実施される調査です。強制調査は、意図的に売上を隠蔽するなどした、悪質な脱税行為が疑われる場合に実施されます。証拠を隠滅される恐れもあるため、強制調査では、事前に調査を行う旨の予告がなされることはありません。ある日、突然、裁判所の令状を持った査察官が現れ、帳簿や関係書類などを押収し、売上や経費の状況について詳細なチェックを行うのです。
任意調査とは
任意調査とは、管轄の税務署に所属する調査官によって実施される税務調査です。巨額の脱税や悪質な行為などが疑われる場合には、強制調査が実施されますが、一般的に行われる税務調査は、任意調査となります。
任意調査は、納税者の協力のもとで実施する調査であり、税務調査を実施する前には原則として、税務署から電話で税務調査に入る旨の通知がなされます。この通知を事前通知と言います。
したがって、任意調査の場合、強制調査のように突然調査官が薬局を訪れ、調査を開始するといったことはありません。事前通知では、調査の実施日時や調査対象の税目、調査対象期間などが伝えられ、調査実施日までに必要書類の準備が求められます。また、実施日時の都合が付かない場合などは、日程調整を申し出ることも可能です。
税務調査の日程が決まったら、約束の日時に調査官が訪れ、事業についてのヒアリングや関係書類のチェックなどが行われます。税務調査にかかる日数は、1~2日程度です。グループ会社を持つ大規模な調剤薬局の場合は、より詳細な調査が行われるため、日程が長くなる場合もありますが、個人が経営しているような調剤薬局は1日で終わるケースも少なくありません。
調剤薬局が税務調査で指摘されやすいポイントとは
調剤薬局の税務調査では、次のようなポイントを重点的にチェックされる傾向にあります。
消費税の還付申告について
法人に対する税務調査で調査対象となる税目は、法人税だけではありません。消費税の課税事業者の場合は、法人税の調査と同時に消費税も調査されるケースが一般的です。
前述のように、調剤薬局がグループ会社に医薬品を販売したように見せかけ、消費税の不正還付を申請した事例が見られます。そのため、グループ会社などを持つ調剤薬局の場合、消費税の仕入れ額控除が正しく処理されているかについて、重点的に調査をされる可能性が高くなるでしょう。
人件費を正しく計上しているか
人件費の不正計上も税務調査で指摘されやすい事項です。調剤薬局の中には、家族経営からスタートしたような企業もあります。そのような企業の中には、実際には業務を行っていない家族を役員に据え、家族に対して役員報酬を支払っているケースがあります。
役員報酬は一定のルールを満たした場合、損金として計上することが認められています。そのため、勤務実態のない人物に対して役員報酬を支払い、経費を増やして所得額を圧縮するケースがあるのです。小規模な調剤薬局に対して税務調査を実施する際には、人件費が正しく計上されているかについてもチェックされることが多くなっています。
在庫が正しく管理されているか
調剤薬局では、さまざまな症状に対応するため、多くの医薬品を備蓄しています。近年、ジェネリックと呼ばれる後発医薬品が増えていることから調剤薬局が取り扱う医薬品の数も増加傾向にあります。厚生労働省が公表している資料によると、令和3年の調剤薬局の医薬品の在庫品目数の平均は、約1,100種類となっています。
多種多様な医薬品を備蓄しているため、調剤薬局の在庫管理は非常に煩雑です。しかしながら、医薬品の在庫管理は、調剤薬局内で行うことになるため、簡単に在庫数などを操作することができてしまいます。
医薬品の在庫は棚卸資産に該当します。棚卸資産の評価方法にはいくつかの計算方法がありますが、期末には、税務署に届け出た方法で評価をしなければなりません。もし、税務署に届出をしていない場合や届け出た方法で評価をしていない場合、法定評価方法と呼ばれる評価法が適用されます。税務調査の際、棚卸資産の評価方法が届け出た方法と異なる場合、売上原価の評価額が変わり、過少申告を指摘される可能性があります。
前述のように、調剤薬局では患者さんが処方箋を持って薬局を訪れた際に、必要な薬を処方できるよう、1,000種を超える医薬品を保管しています。そのため、棚卸資産の在庫評価が不正確な場合、納税額に大きな影響を与えます。したがって、棚卸資産に該当する医薬品の在庫をどのような方法で評価しているのか、計上時期が正しいかなど、重点的なチェックが行われるケースが多くなっています。
交際費にプライベートな費用まで含まれていないか
業務上必要な付き合いのために発生した費用は、交際費として計上することができます。例えば、調剤薬局を出店する地域の町内会で懇親会が開催された場合の参加費などは、業務上必要だと認められる支出であるため、経費として計上が可能です。しかし、経営者が個人的な付き合いのある友人と開催した食事会の飲食費などは、交際費として計上することはできません。また、個人的な理由でプレゼントした贈答品の購入費用も交際費にはならないものです。
法人成りした調剤薬局の中には、プライベートな費用と法人の費用が明確に区分されていないケースがあります。そのため、調剤薬局を対象とした税務調査では、交際費についても詳しく調査が行われます。
税務調査の対象となりやすい調剤薬局とは
納税の義務がある法人や個人事業主であれば、税務調査の対象となる可能性は0ではありません。しかし、税務調査の対象に選ばれやすい調剤薬局には、一定の傾向が見られます。税務調査の対象となった場合、帳簿や書類の準備が必要になり、調査官からの質問や要望にも対応しなければなりません。そのため、繁忙シーズンなどでは税務調査が大きな負担になるケースもあります。できれば、税務調査は受けたくないという調剤薬局経営者は多いでしょう。では、どのような調剤薬局が税務調査の対象になりやすいのでしょうか。
税務調査の対象に選ばれやすい調剤薬局の特徴を3つご紹介します。
調剤薬局を設立して3期が過ぎた場合
調剤薬局を設立して1年目に税務調査が入るケースはほとんどありません。税務調査の対象となるのは、調剤薬局を設立してから3期以上が過ぎた場合です。
税務調査では、一般的に、過去3年分の申告内容について調査が行われます。また、消費税は前々年の課税売上が1,000万円を超えたタイミングで課税されるため、設立から3年以内は税務調査の対象に選ばれるケースは少ないのです。そのため、設立から3期が過ぎた調剤薬局は、3期以内の調剤薬局に比べると税務調査の対象に選ばれやすくなります。
売上に比べて利益の額が低すぎる場合
税務署ではさまざまな業種の税務調査を行っているため、業種ごとの売上と利益の関係性を把握しています。そのため、他の調剤薬局と比較し、売上に対する利益の額が低すぎる場合、何か不正をしているのではと疑われ、税務調査が入る可能性が高くなります。
何年も赤字が続いている場合
わずかな赤字が何年も続いている調剤薬局も、税務調査の対象に選ばれやすい薬局です。事業が赤字になった場合、課税所得額がないため、法人税は課税されません。
赤字が続いていれば、資金繰りが悪化し、事業の継続が難しくなるものです。そのため何年も赤字の申告をしている場合には、法人税を逃れるために赤字を装っているのではと疑われるケースが多いのです。
まとめ
調剤薬局も税務調査の対象となります。調剤薬局では、多数の医薬品の在庫を抱えているため、棚卸資産について詳しい調査が行われるケースが多くなっています。また、人件費の不正計上や交際費の不正計上、消費税の不正還付申告などもチェックされるケースが多いでしょう。
税務調査の対象に選ばれると、業務にも支障が生じる可能性もあります。税務調査を回避するためには、日頃から正しく帳簿付けを行い、正しく申告することが大切です。会計処理や申告書の作成に不安がある場合などは税理士への相談も検討することをおすすめします。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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