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一人法人が個人事業主時代よりも節税するための8つのポイント

読了目安時間:約 6分
従業員を雇用せず、経営者一人で運営する会社を一人法人と言います。法人化をすると、個人事業主よりも節税効果を得られると言われているため、現在、個人事業主として事業を営んでいる方の中にも法人化を検討している方がいらっしゃるのではないでしょうか。
一人法人を設立した場合、確かに個人事業主よりも活用できる節税対策は多くあります。しかし、節税ばかりに注目して一人法人を設立するとデメリットが生じる場合もあるため、一人法人を設立する際には、事前に節税方法や注意点について確認しておく必要があるでしょう。
そこで今回は、一人法人設立の際に活用できる節税方法と一人法人設立時の注意点についてご説明します。
目次
一人法人が活用できる8つの節税方法
個人事業主から一人法人を設立すると、個人事業主にはできなかった方法で節税を進めることができます。ここでは、一人法人が活用できる節税方法を8つご紹介します。
1.個人と法人で所得を分散する
個人事業主の場合、事業で得た収益は、そのまま個人の所得となり、所得額には所得税が課せられます。所得税には累進課税制度が採用されており、所得額が高くなるほど所得税の税率も高くなり、納める税金も高くなってしまいます。
しかし、一人法人を設立すると、経営者は会社から役員報酬という形でお金を受け取ることになるため、法人の所得と個人の所得は明確に区分されることになります。法人の所得に関しては法人税が課せられますが、次に説明する方法で役員報酬を支給すれば、役員報酬は経費として計上できます。また、法人税は、所得税のように所得額が高くなるほど税率が高くなることはありません。したがって、一人法人を設立すると、法人と個人で所得を分散することで、節税することができるのです。
2.定期同額給与や事前確定届出給与で役員報酬を支給する
役員報酬は、定期同額給与や事前確定届出給与として支給すると全額損金計上が可能です。定期同額給与とは、役員の給与とも言われるもので、1ヶ月以下の一定期間において、事業年度内に毎回同額を支給する給与を指します。定期同額給与は、自由に改定することはできません。厳密に言えば、定期同額給与を改定することはできるものの定められた条件を満たさずに改定した場合、定期同額給与の損金算入が認められないのです。損金算入が認められなければ、経費として売上から差し引くことができないため、課税所得額が高くなり、法人税額も高くなってしまいます。
事前確定届出給与は役員の賞与と呼ばれる報酬です。事前確定届出給与を損金算入するためには、税務署に事前に支給額と支給日についての届出を提出しなければなりません。また、万が一、事前に届けていた支給額と実際の支給額が異なる場合、全額損金不算入となり、節税効果は得られません。そのため、事前確定届出給与を支給する際には、事前の届出を必ず提出し、届出額と全く同じ額を支給することが大切です。
3.給与所得控除をはじめ、各種控除を適用させる
給与所得控除とは、1年間の給与所得の合計額に応じた金額を控除できる制度です。この制度は、給与所得者のみを対象とした制度であり、企業に所属せず、給与所得者ではない個人事業主には適用されません。
令和2年以降の給与所得控除の額は、次のようになっています。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
個人事業主の場合、青色申告特別控除の額は最大でも65万円です。しかし、給与所得控除の最大控除額は195万円にも上ります。控除額が大きくなれば、当然、課税所得額が低くなり、個人が負担する所得税の節税につながります。そのほか、扶養控除や配偶者控除、配偶者特別控除など、給与所得者には個人事業主では適用できなかったさまざまな控除制度が用意されています。各控除制度を適用させるためには条件があるものの、活用できるものに関しては年末調整などの際に忘れず適用させるようにすると、大きな節税効果を得られるでしょう。
4.退職金を設定する
個人事業主の場合、退職金は認められません。しかし、一人法人を設立すると、法人では退職金の支払いが認められます。退職金には所得税の優遇制度があり、一時金で受け取る場合には分離課税となるため、他の所得とは合算せずに所得税を計算することが可能です。所得税は累進課税のため、役員報酬などと分けて所得税の計算ができれば、所得額が低く抑えられるため、節税につながります。また、課税退職所得金額は、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額の1/2として計算できます。そのため、役員報酬として受け取る場合よりも所得税の額を低く抑えることができます。この点も退職金を設定することが節税につながる理由です。さらに、退職金は損金算入が認められているため、法人税の節税にもつながります。しかしながら、不相当に高い退職金を設定していた場合などは、損金算入が認められない可能性があります。そのため、退職金は適正な額で支給するようにしなければなりません。
5.社宅制度を導入し、社宅に住む
法人には、社宅制度があります。一人法人を設立した際、経営者が自宅として使用する建物や部屋を法人名義で契約することが可能です。その際、役員報酬の中から1ヶ月あたり一定額の賃料相当額を受け取っていれば、課税の対象とはなりません。社宅制度を利用すると、経営者が負担する賃料も少なく済むため、節税ではないものの経営者個人にとってもメリットがあります。
また、法人名義で契約した物件の賃料は、経費として計上することができるため、所得額から賃料分を差し引くことができ、法人税の節税につながります。役員に貸与する社宅が小規模な住宅である場合、賃料相当額は次の式の合計額です。
・その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%・12円×その建物の総床面積(㎡)÷3.3㎡
・その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物の場合は、床面積が132㎡以下、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99㎡以下の住宅のことです。
また、小規模な住宅より大きな社宅を役員に貸与する場合は、自社所有の社宅の場合と他から借り受けた住宅を貸与する場合とで変わってきます。自社所有の社宅を貸し出す場合、次の合計額の1/12が賃料相当額となります。
・その年度の建物の固定資産税の課税標準額×12%(法定耐用年数が30年を超える建物の場合は10%)
・その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%
ほかから借り受けた住宅を貸与する場合は、会社が支払う家賃の50%の金額と自社所有の社宅の場合に支払う賃料相当額の大きい方を経営者は負担する必要があります。
社宅制度は、節税面においても経営者の負担を軽減するうえでもメリットがありますが、会社が受け取る家賃が、賃料相当額より低い家賃である場合、給与とみなされ、課税の対象となる点に注意が必要です。また、社宅ではなく家賃の一部を住宅手当として支給する場合や経営者個人名義で契約している場合は、給与として課税される点に注意しなければなりません。
6.出張日当を経費に計上する
出張をした場合、交通費や宿泊費は個人事業主でも経費として扱うことができます。しかし、一人法人を設立した場合、法人では出張旅費規程の中で定めた出張日当を経費として計上することができます。
例えば、出張旅費規程で、出張があった場合の1泊の宿泊費を3万円と規定した場合、たとえ宿泊したホテルの代金が2万円であっても、出張日当として経費に計上できる金額は3万円になるのです。また、日当は給与とは別に支給されるものとしてみなされるため、所得税の課税対象外となります。そのため、出張日当を支給すると法人税だけでなく、個人の所得税の節税につなげることも可能です。
ただし、出張旅費規程を定めていない場合、出張日当を支給しても課税対象外の支給とすることができないため、節税効果を得られません。一人法人を設立する際には、忘れずに出張旅費規程を定めておくようにしましょう。
7.欠損金は長期繰越で対処する
個人事業主の場合、青色申告をすると、赤字になった場合、最大3年間の繰り越しが認められています。しかし、一人法人を設立すると、欠損金は最大10年まで繰り越すことが可能です。欠損金の繰り越しができると、赤字が発生した年の翌年度以降に業績が好調になり、黒字化した場合でも、前年度までに発生した赤字額を損益通算することができます。収益から赤字額を差し引けば課税所得額が圧縮されるため、法人税の課税額を抑えられ、節税につながるのです。欠損金を長期にわたって繰り越せる点も個人事業主にはない法人化の節税メリットだと言えます。
8.経営セーフティ共済を活用する
経営セーフティ共済とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構による取引先の倒産に備える制度です。取引先が倒産すると、一人法人などが連鎖的に倒産する恐れもあります。経営セーフティ共済を活用すると、取引先の倒産時に無担保・無保証で掛け金の最大10倍まで借り入れをすることができ、掛け金は損金算入ができるため法人税の節税につながります。また、40ヶ月以上納付していれば、解約時には掛け金が全額戻ってきます。
一人法人が節税対策をする際の注意点
一人法人を設立すると、個人事業主時代とは異なる節税方法があることに気が付きます。しかし、一人法人設立後、節税をする際には次の点に気を付けなければなりません。
節税は経営者個人のお金を増やすことではない
個人事業主に比べ、法人化すると節税できる方法が増えます。節税をすれば、徴収される税金は低く抑えられますが、節税できるからといって必ず経営者個人の手元に残るお金が増えるわけではないことを理解しておきましょう。
法人化で節税できても法人化によって増える負担もある
一人法人を設立し、節税はできても、法人化をすると個人事業主には負担する必要がなかった支出も出てきます。例えば、法人を設立するときには登録免許税などの費用負担が発生します。また、法人住民税は、会社が赤字であっても納めなければならない税金です。
加えて、たとえ従業員を雇用していない一人法人であっても社会保険の加入義務があります。そのため、会社は社会保険料の半分を負担しなければなりません。これから一人法人を設立しようと考えている場合は、法人化による節税メリットだけでなく、法人化によって生じる費用負担も念頭に置く必要があるでしょう。
節税にとらわれすぎないように注意する
一人法人を設立すると、個人事業主とは異なり、さまざまな面で節税できるようになります。しかしながら、会社を設立した第一の目的は節税ではないはずです。法人を設立したからには、まずは事業を優先して取り組まなければなりません。節税対策ばかりを優先していると、事業拡大のチャンスを逸する恐れもあります。一人法人を設立した際には、まずは事業の安定を優先させることが大切です。
税制改正の情報のチェックを欠かさない
税金に関する法律は頻繁に改正されています。例えば、退職所得課税についても見直しが行われており、今後さらに改正が行われる可能性があります。
法改正が行われれば、現状の節税対策では節税効果を得られなくなることもあるため、税制改正についての情報は迅速に確認することが大切です。また、法改正によって節税効果を得られなくなれば、税負担が増えて、業績にも影響が出る恐れもあります。租税回避に頼りすぎず、適度な節税を心掛ける必要があるでしょう。
まとめ
一人法人を設立すると、さまざまな方法で法人税や経営者本人の所得税を軽減することができます。しかし、節税ばかりに注力してしまうと、本来の法人設立目的である事業の充実を図ることができません。
一人法人の設立にはさまざまなメリットがあるものの、設立時には費用が発生し、設立後も維持費用が必要です。そのため、節税効果を得られる点ばかりに注目して一人法人を設立するのではなく、総合的に判断をして法人化をすべきかどうかを検討することをおすすめします。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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