2025.09.30

開業届を提出したときのデメリットと出さないときのデメリットとは?

読了目安時間:約 6分

個人事業主として事業を開始する際には、開業届と呼ばれる書類を税務署に提出しなければなりません。しかし、開業届を出すことで何かデメリットが生じるのではないかと不安に思う方もいるようです。一方、開業届を提出しないまま、事業を開始した場合にもデメリットが生じます。

そこで今回は、開業届を提出したことで生じるデメリットや提出しないことで生じるデメリットについてご説明します。

 

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開業届とは

開業届とは、個人事業主として事業を開始したことを税務署に通知するための書類です。正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」と言います。

開業届は、新たに事業を開始したときや事業用の事務所や事業所を新設、増設した場合などに税務署への提出が必要になります。提出期限は、事業を開始した日から1か月以内です。税務署の窓口に提出する場合は、提出する人の本人確認書類の提示やコピーの提出が必要です。また、開業届はe-Taxで提出することもでき、e-Taxの場合、本人確認書類を提出する必要はありません。

 

開業届を提出するデメリット

税務署では、個人事業主として事業を開始した場合は、1か月以内に開業届を提出するように定められています。しかし、開業届を提出し、個人事業主になると次のようなデメリットが生じる恐れがあります。

 

健康保険の被扶養者から外れる場合がある

家族や配偶者が加入する健康保険の被扶養者になっている場合、開業届を提出したことによって、被扶養者から外れる可能性があります。健康保険組合によっては、収入金額に関わらず、個人事業主として開業している人を扶養の対象とはしないとしているケースもあるのです。反対に、個人事業主であっても所得額が健康保険上の扶養の範囲を満たしているのであれば、扶養を外れる必要がないとしている場合もあります。

開業届を提出し、個人事業主になったことで、健康保険上の被扶養者ではなくなる場合、健康保険組合から脱退し、国民健康保険へ加入しなければなりません。国民健康保険へ加入した場合、国民健康保険料と国民年金保険料を支払う義務が生じます。

 

失業給付を受給できなくなる

個人事業主として開業するために会社を退職した人の場合、開業届を提出すると、失業状態には当たらないと判断され、失業給付を受けることができなくなります。失業給付は、失業した場合に失業者の生活の安定を図り、再就職を援助するために給付されるものです。

そのため、個人事業主として開業すると、就職の意思はないものとみなされ、開業届を提出した場合、原則として失業給付を受給することはできません。万が一、開業届を提出しながら失業給付も受給していた場合、不正受給となるため注意が必要です。

 

開業届を提出しないデメリット

開業届を出した場合、健康保険上の扶養から外れる可能性がある、失業給付を受給できなくなるといったデメリットが生じます。一方で、開業届を出さないことで生じるデメリットもあります。

開業届を提出しないことで生じる主なデメリットは次のとおりです。

 

青色申告ができない

青色申告を行う場合、税務署に青色申告承認申請書を提出しなければなりません。青色申告承認申請書の受理に当たっては、開業届が提出されていることが前提となっています。そのため、開業届を提出していないと、青色申告承認申請書も受理されません。

確定申告の申告方法には青色申告と白色申告の2種類がありますが、青色申告を行うと、さまざまな税制上の優遇措置を受けることが可能です。特に個人事業主の場合は、青色申告を行うと、青色申告特別控除を受けることができます。青色申告特別控除は、最大65万円を課税所得額から控除できる制度です。課税所得額から65万円分を差し引くことができれば、課税所得額がその分安くなり、所得税の節税につながります。

そのほか、赤字を3年間繰り越せるため、黒字の年の所得税を抑えることも可能です。さらに、家族に支払う給与を経費に計上できたり、30万円未満の固定資産を取得した年に一括して計上できたりといったさまざまな節税効果を得られます。

しかし、開業届を提出していない場合、青色申告の承認を受けられないため、青色申告ができず、これらの節税メリットを享受することができません。個人事業主として事業を続けていくのであれば、青色申告を行えない点は、開業届を提出しないことで生じる最大のデメリットになると言えるでしょう。

 

屋号の銀行口座の開設ができない

法人の場合、屋号で銀行口座を開設できます。個人事業主の場合は、事業用の口座を開設する場合であっても、基本的には口座の名義は事業主の個人名となります。しかし、銀行によっては個人名に屋号を加えた名義で口座を開設できる場合もあります。屋号が加えられた名義である場合、個人口座と事業用の口座を区別できるため、事業のお金の動きを把握しやすくなるでしょう。さらに、屋号によって事業用の口座を用意していることが一目でわかるため、取引先からも信頼を得やすくなる可能性もあります。

ただし、屋号の銀行口座を開設するに当たっては、屋号を登録していることの証明が必要です。銀行によっては、開業届の控えを求めるケースもあるため、開業届を出していない場合、屋号が付いた事業専用口座を開設できない可能性があります。

 

補助金や助成金などの申請ができない

国や自治体などでは、新たに事業を始める人や特定の事業を行う人などに対して補助金や助成金を支給しているケースがあります。助成金や補助金は返済の必要がないケースがほとんどです。そのため、補助金や助成金を利用できれば、個人事業主として事業を始めるに当たり、貴重な資金調達手段となり得る可能性があります。しかしながら、助成金や補助金などの申請に当たっては開業届の提出が必要になる場合が少なくありません。

例えば、国の補助金である小規模事業者持続化補助金の創業型の場合、申請時に開業届の写しを提出しなければなりません。したがって、開業届を提出していなければ、小規模事業者持続化補助金の申請を行うことはできないのです。そのほかの補助金や助成金などについても、開業届を提出していなければ申請できない可能性があります。

 

小規模企業共済への加入ができない

個人事業主や小規模企業の役員などは、退職金制度がありません。小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の役員などが、退職金の代わりとして共済金を積み立て、将来に備える制度です。

小規模企業共済の掛金は月額最大7万円ですが、確定申告の際には全額、課税所得から控除することができます。掛金を経費にできれば課税所得を圧縮できるため、課される所得税も低くなり、高い節税効果を得られます。

さらに、共済金は「一括」、「分割」、「一括と分割の併用」の3つの方法で受け取ることが可能です。一括受け取りの場合は退職所得として扱われ、分割受け取りの場合は公的年金等の雑所得として扱われるため、受け取り時にも税制上のメリットを得られます。

しかし、小規模企業共済への加入には「税務署に開業届を届け出て、事業所得を得ていることにより確定申告をしている方」であることが要件の一つとなっています。つまり、開業届を提出していなければ、小規模企業共済へ加入することはできないのです。この点も開業届を提出しないことのデメリットになるでしょう。

 

個人事業主であることの証明ができない

事業のためのオフィスや店舗を借りたい場合、金融機関に融資を申し込む場合などは、個人事業主であることの証明として開業届の提出が求められるケースが少なくありません。さらに、子どもの保育園への申し込みを行う際にも、就業していることの証明として開業届の提出を求められるケースがあります。

開業届は個人事業主として事業を営んでいることの証明ともなる書類です。その開業届を提出していない場合、事業主であることの証明ができないため、事業上だけでなく、さまざまなシーンにおいて問題となる可能性があります。

 

個人事業主として事業を開始するなら開業届は必要

開業届は開業から1か月以内に提出するよう求められています。開業届を出さないことに対する罰則規定があるわけではありませんが、開業届を出さない場合、上にご紹介したようにさまざまなデメリットが生じます。そのため、個人事業主として事業を営むのであれば開業届を提出すべきです。

また、開業届を提出していない場合、青色申告を行うことはできませんが、開業届を提出していない場合でも所得を得ているのであれば確定申告をしなければなりません。開業届を出さない場合、確定申告は白色申告で行うことになります。

開業届を提出していないことに対する罰則はないものの、確定申告をしなかった場合は、納税の義務に違反する行為となり、ペナルティが科される点にも注意しなければなりません。

 

開業届の提出が必要な人と不要な人とは

個人事業主として事業を開始したときは、原則として開業届の提出が必要です。しかしながら、副業をしている場合は、開業届を出すべきなのか、出さなくてもよいのか判断がしにくいケースもあるでしょう。開業届の提出が必要か不要かは、事業の継続性で判断します。

 

継続して事業を営む予定がある場合は開業届の提出が必要

会社員としての本業があり、副業として個人的に仕事を受けている人やフリーランスとして活動している人も、継続して事業を営む予定があるのであれば、開業届の提出が必要です。開業届の提出によって、青色申告を行えるようになれば、さまざまな節税メリットを得られます。開業届を提出しないデメリットの方が開業届を提出するデメリットを上回る傾向があります。継続して事業を営む予定があるのであれば、開業届を提出するようにしましょう。

 

開業届が不要なのは継続して事業を営む予定がない場合

事業として継続する予定がない場合は、開業届を出す必要はありません。例えば、1回だけ依頼を受けて講演を行い、謝礼をもらった場合、フリマアプリで不用品を販売して利益を得た場合などは、継続した事業には該当しません。その場合は、一時的な収入になるため、開業届の提出は不要です。

 

開業届の提出方法

継続して事業を営む予定があるのであれば、開業届を提出しなければなりません。開業届の提出方法や開業届を提出する際の注意点についてご紹介します。

 

開業届は開業から1か月以内に提出を

開業届は、税務署の窓口で受け取るか、国税庁のWebサイトからダウンロードすることで入手できます。必要事項を記載後は、窓口に提出する方法のほか郵送をしても問題ありません。また、e-Taxを利用すれば、オンラインで提出することも可能です。

もし、開業届の提出を忘れていた場合であっても、開業届の提出がないことに対する罰則規定はありません。事業を開始しているもののまだ開業届を提出していない場合には、速やかに開業届を提出するようにしましょう。

 

国税庁:個人事業の開業届出・廃業届出等手続

 

開業届の提出と同時に青色申告承認申請書の提出も検討を

開業届と青色申告承認申請書は同時に提出することができます。事業を開始した年から青色申告を開始したい場合には、開業届と一緒に青色申告承認申請書も提出するようにしましょう。

白色申告に比べると、青色申告は提出書類も増え、経理処理も複雑になるといったデメリットがあります。しかし、最大65万円の青色申告特別控除を適用できたり、家族への給与を経費にできるなど、さまざまな節税効果を得られます。開業し、長く事業を続ける予定があるのであれば、多少手間はかかっても大きな節税メリットを得られる青色申告承認申請書も開業届と同時に提出することをおすすめします。

 

まとめ

個人事業主として事業を始めるときには、開業届の提出が必要です。開業届を提出することで、健康保険の被扶養者から外れる可能性がある点、失業給付を受給できなくなる点がデメリットになる場合もあります。しかし、開業届を提出すると、青色申告が可能になり、屋号付きの銀行口座も開設できるなど、開業届を提出しないことで生じるデメリットを大きく上回るメリットを得られます。

開業届の提出には費用もかかりません。また、それほど手間がかかるわけではないため、個人事業主として事業を始める場合は、必ず開業届を提出するようにしましょう。すでに事業を開始しているものの、開業届をまだ提出していない方も速やかに提出することをおすすめします。

 


 

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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