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個人事業主やフリーランスの場合、確定申告を行い、納付期限までに所得税の納税を行わなければなりません。一方、法人や個人事業主が、従業員の給与から源泉徴収をした所得税も納付期限までに納税する義務があります。しかし、忙しい場合など、うっかり納付期限が過ぎてしまうこともあるかもしれません。
では、うっかり所得税の納付期限が過ぎた場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。
今回は、所得税の納付期限が過ぎた場合のリスクや対処法などについて解説します。
目次
所得税の納付期限は、従業員分を源泉徴収した場合と個人事業主が確定申告を行い、事業主分の所得税を支払う場合で変わってきます。それぞれの場合の納付期限についてご紹介します。
法人でも、個人事業主でも、従業員を雇用した場合は、従業員に支払う給与から所得税を天引きし、従業員の代わりに納税をしなければなりません。
従業員から徴収した源泉所得税の納付期限は、原則として給与支払日の翌月10日までです。例えば、10月分の給与を10月25日に支払った場合、源泉所得税の納付期限は11月10日となります。
ただし、給与を支払っている従業員の数が10人未満の事業主の場合は、管轄の税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」を提出し、承認を得ることで納期の特例を受けることが可能です。源泉所得税の納期の特例とは、源泉徴収をした所得税と復興特別所得税の納付を年に2回に抑えられる制度です。
源泉所得税は、原則として、給与支払日の翌月10日までに納付しなければなりません。しかし、毎月源泉所得税の納税をするとなると、小規模事業者にとっては事務手続きが負担となります。そのため、給与を支給する従業員が常時10人未満である事業主については、年に2回、まとめて納付することを認めているのです。
納期の特例制度が適用される場合、源泉所得税の納付期限は次のようになります。
・1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税:7月10日
・7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税:翌年1月20日
参照:国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」
個人事業主やフリーランスとして活動する人の場合、前年の1月1日から12月31日までの所得について、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行い、所得税の納付をしなければなりません。したがって、所得税の納付期限は確定申告の期限でもある3月15日までとなります。ただし、3月15日が土曜・日曜になる場合の納付期限は翌月曜日です。
源泉所得税の納付期限は原則として翌月の10日、個人事業主やフリーランスの方の所得税の納付期限は原則として3月15日です。では、所得税の納付期限が過ぎた場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。
源泉所得税の納付期限が過ぎた場合、ペナルティとして不納付加算税と延滞税の両方の納付が求められる恐れがあります。
源泉所得税の納付期限に遅れてしまった場合、不納付加算税が課されます。源泉所得税については納付期限を厳守しなければなりません。なぜなら、たとえ1日でも納付期限に遅れた場合は不納付加算税と呼ばれるペナルティが科されるからです。
不納付加算税の金額は、納付すべき所得税の10%となります。ただし、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に納付した場合は、5%に軽減されます。
また、次の場合については、不納付加算税が課されることはありません。
・法定納付期限から1ヶ月以内に納付をしており、過去1年間に期限後納付がない場合
・不納付加算税の金額が5,000円未満となる場合
例えば、100万円の源泉所得税について、納付期限が過ぎてしまった場合を例に、不納付加算税の額を計算します。
・税務調査で指摘を受けて納付した場合
100万円×10%=10万円
この場合は、不納付加算税として源泉徴収所得税に加え、10万円を納税しなければなりません。
・税務調査の事前通知を受ける前に自主的に納付した場合
100万円×5%=5万円
不納付加算税の額は、5万円となります。
・過去1年間に納付期限を過ぎたことがなく、納付期限から1ヶ月以内に納付した場合
課税されません。
延滞税には、納税が遅れたことに対する利息のような意味合いがあります。納付期限の翌日から、納付が完了するまでの日数に応じて課されるため、納付が遅れれば遅れるほど、延滞税の額は高くなります。
延滞税の税率は、納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日までと、それ以降で税率が変わります。
2022年1月1日から2025年12月31日までの延滞税の割合は次のとおりです。
・納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日まで:年2.4%
・納付期限の翌日から2ヶ月を経過した日以降:年8.7%
2025年の源泉所得税の納付期限を過ぎた場合の延滞税の額は次の(1)と(2)の式の合計で算出します。
(1)納付すべき本税の額×4%×納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日までの日数÷365日
(2)納付すべき本税の額×7%×納付期限の2ヶ月を経過した日の翌日から完納した日までの日数÷365日
個人事業主やフリーランスの方が確定申告の期限までに所得税を納めなかった場合は、無申告加算税と延滞税が課されます。
無申告加算税とは、期限までに確定申告をせず、納付期限までに所得税を納めなかった場合に課される税金です。無申告加算税の税率は、税額によって変わります。
納めるべき税額が50万円以下の部分については納めるべき税額の15%、50万円超300万円以下の部分については20%、300万円を超える部分については30%です。
ただし、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に納付した場合は、金額に関わらず税率が一律5%に軽減されます。また、税務調査の事前通知を受けた後でも、税務調査の実施前に自主的に納付をした場合でも、税率は各5%ずつ軽減したものとなります。つまり、50万円以下の部分は10%、50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%となるのです。
延滞税の計算については、源泉所得税を納付期限までに納めなかった場合と同様です。納付期限を過ぎた日の翌日から、納税が完了するまで、日割りで延滞税が課されます。
納付期限までに所得税を納めなかった場合、無申告加算税と延滞税の両方の納税を求められる可能性があるのです。
重加算税とは、意図的に所得を隠したり、事実を仮装したりして、納税を免れようとした場合に課されるペナルティです。うっかり確定申告を忘れてしまい、納付期限が過ぎた場合などに重加算税が課されることはありません。しかし、納税の義務があることを理解していながら、所得額がないように装い、納付期限までに納税を行わなかった場合には無申告加算税に代わって重加算税が課されます。
この場合、重加算税の税率は40%と、非常に重いものとなっています。また、重加算税が課される際にも、同時に延滞税が課される点にも注意しなければなりません。
重加算税が課される場合、悪質性が高く、納めるべき所得税額が高額である場合などは、行政罰としての加算税だけでなく、脱税の罪に問われ、刑事罰が科される恐れもあります。刑事裁判によって所得税法違反の罪が確定すれば、1,000万円以下の罰金、または1ヶ月以下の懲役、もしくはその両方が科される可能性があるのです。裁判で有罪判決を受ければ、その後の人生を前科者として歩まなければなりません。
源泉所得税の納付期限が過ぎた場合も、確定申告に伴う所得税の納付期限が過ぎた場合も、気が付いた時点で、できるだけ早く納付をすることが大切です。
源泉所得税の場合、過去1年間、源泉所得税を納付期限に遅れることなく納付しており、納付期限から1ヶ月以内に納付すれば、納付期限を過ぎた場合でも不納付加算税は加算されません。したがって、できるだけ早く納付することがペナルティの軽減につながります。
また、源泉所得税も確定申告後に支払う所得税も、税務署からの指摘を受ける前に自主的に納付した場合は、不納付加算税や無申告加算税が軽減されます。万が一、納付期限を過ぎた場合でも気が付いたタイミングでできるだけ早く納付することが大切です。
特別な事情があり、納付期限までに所得税の納税が難しい場合などは、納税が遅れることを認める特別な制度があります。事情によって納税が間に合わない場合などは、以下の制度の申請を検討してみましょう。
所得税の納税期限を理解はしているものの、やむを得ない事情で納付期限までに納税が間に合わない場合には、猶予制度を利用することが可能です。
猶予制度とは、納付をすることで事業の継続や生活が困難になるとき、災害で財産を喪失した場合など、特定の事情がある場合に、税務署に申請を行うことで1年以内の期間に限り、納税が猶予される制度です。
猶予制度には、換価の猶予と納税の猶予があり、猶予の種類によって猶予期間中に分割納付をするか、猶予期間が1年間据え置かれるか、納税方法が変わります。
換価の猶予を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
・一時的に納付することによって事業の継続や生活が困難となる恐れがあること
・納税について誠実な意志があること
・猶予を受けようとする国税以外に滞納がないこと
・原則として担保の提供があること
換価の猶予が認められる次のような効果を得られます。
・原則として1年以内の期間に限り、納付が猶予される
・猶予期間中の延滞税が軽減される
・財産の差し押さえや換価(売却)が猶予される
納税の猶予を受けるための要件は次のとおりです。
・以下の①~⑥のいずれかに該当する事実があること
①納税者本人の財産が震災、風水害、落雷、火災などの災害や盗難によって被害を受けた
②納税者本人、または生計を同じにする家族が病気にかかったり、負傷をした
③納税者が営む事業を休止または廃業した
④納税者の事業が利益の減少等により著しい損失を受けた
⑤納税者に上記の①~④に類する事実があった
⑥本来の納付期限から1年以上経過した後に修正申告などにより納付すべき税額が確定したこと
・猶予の該当事実に基づき、納税者が納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること
・申請書が提出されていること
納税の猶予が認められると、次のような効果を得られます。
・猶予期間中の延滞税の軽減または免除がなされる
・財産の差し押さえや換価が猶予される
猶予の申請をする場合は、換価の猶予申請書または納税の猶予申請書を税務署に提出します。
その際、以下の書類も合わせて提出しなければなりません。
・資産及び負債の状況、収入及び支出の状況を明らかにする書類
・担保提供に関する書類
・災害などの事実を証する書類(納税の猶予の場合)
ただし、以下に該当する場合は担保を提供する必要はありません。
・猶予を受ける金額が100万円以下の場合
・猶予を受ける期間が3ヶ月以内の場合
・担保として提供できる種類の財産を保有していない場合
猶予を受けられる期間は原則として1年以内で、申請者の財産や収支の状況に応じて、最も早く国税を完納できると認められる期間となります。
また、猶予を受けた所得税については、原則として猶予期間中の各月に分割して納付しなければなりません。ただし、猶予期間内の完納ができないやむを得ない理由があると認められる場合は、最長で1年間、猶予期間の延長が認められる場合があります。
所得税の納付期限は、源泉所得税の場合は原則として給与支給月の翌月10日、個人事業主が確定申告によって納税する所得税の場合は確定申告期限と同じ3月15日です。納付期限を過ぎた場合、源泉所得税については不納付加算税と延滞税、所得税については無申告加算税と延滞税、または重加算税と延滞税が課されます。納付期限を過ぎた場合、本来よりも多くの税金を納めなければならなくなる点に注意が必要です。
納付期限が過ぎた場合でも、できるだけ早く納付することで不納付加算税や無申告加算税、延滞税の負担は軽減することができます。納付期限を過ぎた場合にはできるだけ早く、納税を行うようにしましょう。
また、納付期限までの納税が難しい理由がある場合には、猶予制度の申請も検討することをおすすめします。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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