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一口に医療法人といっても、さまざまな類型があります。医療法人の類型によって普通法人として扱われるケースもあれば、公益法人等として扱われるケースもあり、課税の対象となる事業が変わってくることをご存じでしょうか。
医療法人ごとの課税のシステムを理解していなければ、正しい申告を行うことができず、税務調査で指摘を受ける可能性もあります。
そこで今回は、医療法人の種類ごとの課税の仕組みについてご説明します。
目次
まずは医療法人の類型からご紹介します。
医療法人は、大きく分けると「財団医療法人」と「社団医療法人」の2つに分類できます。財団医療法人とは、個人や法人が寄附または拠出した財産をもとに設立され、運営される医療法人のことです。日本の医療法人の多くは社団医療法人であり、財団医療法人の数は非常に少なくなっています。
社団医療法人は、社員の結合により設立された医療法人であり、設立者が経営にも関与し、医療法人の所有権も持つスタイルです。財団医療法人は拠出された財産を基礎に設立され、法人自体が財産を管理するため、特定の所有者は存在しません。
法律を根拠に分類する場合、租税特別措置法を根拠とする医療法人である「特定医療法人」と医療法を根拠とする医療法人である「社会医療法人」に分類することができます。
特定医療法人とは、租税特別措置法に基づき、財団又は持分の定めのない社団の医療法人であって、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与し、公的に運営されていると国税庁長官の承認を受けた医療法人と定義されています。
租税特別措置法において定められている特定医療法人の承認基準は次のとおりです。
・財団または持分の定めのない社団医療法人である
・理事、監事、評議員に占める親族の割合がいずれも1/3以下である
・設立者、役員、社員、その親族などに対し、特別の利益を与えていない
・寄付行為・定款に、解散時の残余財産が国もしくは地方公共団体または持分の定めのない医療法人に帰属する旨の定めがある
・法令に違反しておらず、帳簿書類も取引を正しく記録していること
・帳簿書類を備え付けて取引を記録し、保存をしていること。また、使途不明な支出がなく、不適正な経理を行っていないこと。
また、厚生労働省告示では、特定医療法人は次の基準を満たすことを求めています。
・社会保険診療に係る収入金額の合計額が全収入の8割以上である
・自費患者に対して請求する金額が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されている
・医療診療収入は、医師、看護師等の給与、医療提供に要する費用の額の1.5倍以内である
・役職員一人につき、年間の給与総額が3,600万円未満であること
・病院の場合は40床以上または救急告示病院であること(ただし、皮膚科、泌尿器科、眼科、整形外科、耳鼻咽喉科、歯科の専門病院の場合は30床以上)
・救急診療所については『15床以上の有床診療所であること
・医療施設ごとに特別の療養環境に係る病床数が全体の30%以下であること
社会医療法人は、2007年度の医療法改正に伴い、新たに創設された医療法人の区分です。社会医療法人制度は、救急医療や災害医療、へき地医療など、地域において必要とされる公益性の高い医療の実施を義務付ける一方で、収益事業の実施を認め、医療法人の経営の安定化と地域医療の強化を図る目的で創設されました。
社会医療法人の認定を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。(一部抜粋)
・救急医療等確保事業として、救急医療、災害時における医療、へき地医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む)のうちいずれかの事業を行っている
・救急医療確保事業に関して、構造設備や体制、実績が基準を満たしている
・理事6名以上、監事2名以上が社員総会もしくは評議員会の決議で専任されている
・同族役員は1/3以下である
・理事、監事、評議員の報酬が不当に高額にならないよう基準を定めている
・社員、評議員、理事など、医療法人の関係者に対し金銭や施設の貸し付けなど、特別な利益を与えていない
・社会保険診療に係る収入金額が全収入額の80%以上である
ここまでご紹介してきた、財団医療法人、社団医療法人、特定医療法人、社会医療法人とはまた異なる医療法人の類型もあります。
社団医療法人のうち、オープン病院事業を行う医師会や歯科医師会はオープン病院事業法人と呼ばれます。オープン病院事業法人は、地域医療の確保を目的に病院の施設や機能をクリニックの医師(かかりつけ医)など、病院に勤務する医師以外にも開放している病院のことです。オープン病院では、かかりつけ医の紹介により入院や検査などを行う場合、病院の医師とかかりつけ医が共同で診療を行います。
医師会や歯科医師会が運営主体となるオープン病院事業法人には法人の課税面における優遇措置が用意されています。オープン病院事業法人が課税面での優遇措置を受けようとする場合は、各地方厚生局長あてに必要書類を提出し、証明書の申請を行い、厚生労働の承認を受けなければなりません。
福祉病院事業法人とは、一般社団法人又は一般財団法人のうち、無料または低額で診療を行う病院事業を行う法人を指します。地域医療において、生活保護者等への「適切な医療提供体制の維持に寄与している法人が福祉病院事業法人です。
福祉病院事業法人も、一定要件を満たし厚生労働大臣の証明を受ければ法人税の非課税措置を受けられます。
医療法人にも課税義務はあり、事業所得に対して法人税などの税金が課税されます。しかしどのような医療法人を運営するかによって、課税面には違いが生じます。それぞれの医療法人ごとの課税の特徴をご説明します。
財団法人であっても、社団法人であっても、特定医療法人や社会医療法人の要件には該当しない医療法人があります。このような一般的な医療法人の場合、株式会社などの一般企業と同様、事業所得に対して法人税、法人住民税、法人事業税が課税されます。
一般的な医療法人の令和7年4月1日以降の法人税の課税割合は、年800万円以下の部分は15%、年800万円を超える部分については23.2%です。ただし、事業年度開始の日前3日以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える場合、年800万円以下の部分についての課税割合は19%となります。
特定医療法人の場合、法人税の課税において優遇措置を適用できます。年800万円以下の部分についての課税割合は15%で一般的な医療法人と同じですが、年800万円を超える部分の課税率は19%に軽減されます。
社会医療法人の場合、公益法人等として扱われるため、収益事業の所得のみに課税がなされます。したがって、社会医療法人の場合、病院、クリニック、介護老人保健施設から得られる非収益事業、つまり、医療保険業については法人税が非課税となります。
一方、病院を利用する患者さんや家族が利用する駐車場の賃貸によって得られた収益や飲食店などの収益、訪問看護ステーション事業のヘルパーステーション事業などによる収益は、課税対象です。また、課税事業については、軽減税率である19%の法人税率が適用されます。
そのほか、直接救急医療等確保事業に関連する業務のために取得した不動産の不動産取得税、固定資産税、都市計画税も非課税となるといった、優遇措置も用意されています。
オープン病院事業法人は、次の要件を満たした場合、法人税が課税されません。
・活動範囲が一つの自治体であり、その区域の医師や歯科医師の大部分が会員となっていること
・解散時の残余財産が、国・地方団体・類似の公益法人に帰属する旨が定款に明記されており、公益性が担保されていること
・特定の医師ではなく、地域のすべての医師が利用できる施設であること
・地域の医師が主に診療している患者が利用していること
・診療報酬や利用料は健康保険等で定める基準額以下であり、営利性がないこと
・公的に運営されており、地域医療の確保に資するものであるとして厚生労働大臣の証明を受けていること
福祉病院事業法人も、厚生労働大臣の証明を受けることで、法人税の非課税措置を受けることが可能です。福祉病院事業法人が法人税の非課税措置の適用を受けるためには、医療収入の80%超が社会保険診療であることが求められます。
医療法人の場合、法人の類型によって法人税の課税状況が異なる旨をご紹介しました。しかし、医療法人には法人税以外にも課税対象となる税金があります。医療法人が課税される税金には次のようなものがあります。
法人事業税とは、事業に対して課される税金です。法人が事業を行うにあたっては、さまざまな行政サービスを受けています。例えば、医療法人が運営する病院や診療所につながる道路、上下水道なども行政サービスに該当するものです。
地方税法第72条の23第2項では、医療法人の法人事業税の課税標準である所得について次のように示しています。
「社会保険診療につき支払いを受けた金額は益金の額に算入せず、当該社会保険料に係る経費については損金の額に算入しない。」
つまり、社会保険診療で得た所得に対しては、法人事業税の課税の対象とならないのです。自費診療など、社会保険診療以外の所得が法人事業税の課税対象となりますが、社会保険診療とその他の医療保険業の経費を明確に区分することは難しくなります。そのため、多くの自治体では、合理的な収入按分計算ができる計算書を用意し、社会保険診療に係る所得とそれ以外の所得を分ける形をとっています。
法人住民税は、病院や診療所を置く自治体に納める税金です。法人住民税は、均等割と法人税割の2つで構成され、均等割部分については従業員の数によって金額が変わってきます。また、法人税割は法人税の額に一定税率を乗じた金額が法人税割の額となり、均等割と法人税割を合わせた額の納付が必要です。
病院や診療所の運営に使用する土地や建物を取得した場合、不動産取得税が課税されます。不動産取得税の額は、不動産の評価額×税率で算出します。不動産取得税の税率は4%ですが、土地については軽減税率として3%が適用されます。
また、医療法人の中でも、社会医療法人の場合は不動産取得税の納税は免除されます。
土地や建物、償却資産などに対して課される税金が固定資産税です。取得価額が10万円を超えるものが固定資産となり、医療法人の場合は、施設内に導入する10万以上の医療機器や医療設備なども固定資産として扱い、固定資産税の対象となります。ただし、社会医療法人の場合、救急医療等確保事業に係るものに関しては、固定資産税は課税されません。
また、都市計画税とは市街化区域内にある土地と建物を対象に課税される税金です。都市計画税は、一定の政策目的を遂げるために税収の使途が定められる税金である目的税に該当します。病院や診療所が市街化区域内にある場合、都市計画税が課税されます。
医療法人は、いくつかの種類に分けることができ、法人の分類によって法人税の課税が免除されたり、法人税率が軽減されたりといった措置が適用されます。医療法人を運営する際には、該当する法人の類型に適合した方法で確定申告を行い、納税をしなければなりません。
医療法人の課税の仕組みを把握しておらず、誤った処理を行った場合、納税額が不足し、税務調査の対象となる恐れもあります。税務調査で不正や不備を指摘されれば、不足分の税金に加え、過少申告加算税や延滞税の納税も求められます。
医療法人を営む際には、法人の類型ごとに異なる課税の仕組みをしっかりと理解しておくことが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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