2025.11.13
  • 税務調査

一般社団法人で消費税の課税事業者になるケースと特定収入の特例とは

読了目安時間:約 6分

一般社団法人も一定の要件を満たせば、消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。法人税の場合、公益認定を受けているか、法人税上の非営利型法人の要件を満たしているかによって課税対象となる所得額が変わりました。では、消費税の場合も、公益の認定を受けているか、非営利型法人の要件を満たしているかによって課税の状況が変わるのでしょうか。また、一般社団法人の場合、企業とは異なる特徴があるため、消費税計算を行うときに特殊な計算方法を用いるケースがあるため、消費税の課税事業者となった際には注意が必要です。

今回は、一般社団法人で消費税の課税事業者になるケースと特定収入の特例に関するルールについてご説明します。

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消費税に関しての優遇措置はない

公益認定を受けている社団法人も、非営利型法人の要件を満たす一般社団法人も、それ以外の一般社団法人も、企業と同様の要件を満たせば、消費税の課税事業者となります。また、法人税の場合、公益社団法人と非営利型法人の要件を満たす一般社団法人は、収益事業の所得のみが課税の対象となっていました。しかし、消費税については、全ての事業における所得が課税の対象となります。

消費税においては、公益認定を受けていても、非営利型法人の要件を満たしていても、その他の一般社団法人と同様、次の要件を満たしていれば、全ての所得が消費税の課税対象となるのです。

一般社団法人が消費税の課税事業者になるケース

一般社団法人も一般企業と同様、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合に、消費税の課税事業者となります。

基準期間とは

基準期間とは、消費税の課税事業者であるか、免税事業者であるか、また、簡易課税制度を適用できるかを判断する基準となる期間のことです。法人の場合の課税基準期間は、原則として前々事業年度となります。

基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者に

一般社団法人の場合、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合に、消費税の課税事業者となります。例えば、2024年度の課税売上高が1,000万円を超えた一般社団法人は、2026年度から消費税の課税事業者になるのです。

また、課税売上高とは、8%または10%の消費税が課される売上高と消費税が免除される輸出取引等にかかる売上高の合計額から、売上にかかる対価の返還(返品や値引き)などの金額を差し引いた額のことです。

しかし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の課税事業者となる場合があります。その場合に行うべきことは特定期間における判定です。

特定期間とは

法人の場合の特定期間は、原則として前事業年度の期首から6ヶ月間を指します。例えば、4月1日から新たな事業年度が開始する場合、前年の4月1日から10月31日までの期間が特定期間になります。

特定期間の課税売上高と給与支払額が1,000万円を超える場合、課税事業者

特定期間の課税売上高が1,000万円を超えており、さらに特定期間中の給与等の支払額が1,000万円を超えている場合、たとえ基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても消費税の納税義務が生じます。

また、以下の場合は、消費税の課税事業者になるか、免税事業者として事業を続けるか選択することが可能です。

・特定期間の課税売上高が1,000万円を超えているものの給与支払額は1,000万円以下の場合

・特定期間の課税売上高が1,000万円以下であるものの給与支払額が1,000万円を超えている場合

消費税の課税事業者になる場合は「消費税課税事業者届出書」の届出が必要

消費税の課税事業者になる場合は、「消費税課税事業者届出書」を提出しなければなりません。また、インボイスを発行するためには適格請求書発行事業者としての登録が必要です。

インボイス制度の開始に伴い、インボイスが発行されない取引では、買い手は仕入税額控除の適用を受けることができません。そのため、免税事業者であってもインボイスの発行をするために課税事業者を希望するケースも見られます。その場合は「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になり、適格請求書発行事業者として登録をすることで、インボイスの発行が可能になります。

消費税の計算に関わる仕入税額控除

一般社団法人も年間の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌々年度から消費税の課税事業者となり、消費税の納税をしなければなりません。消費税を計算するときは、消費税の仕入税額控除という仕組みを利用し、納税額を算出します。

消費税の仕入税額控除とは

消費税の納税額を計算するときは課税売上にかかる消費税から課税仕入れにかかった消費税の額を差し引いて計算をします。この仕組みを仕入額控除と言います。

消費税は、買い手側が負担する税金ですが、消費税を受け取った事業者側が納税をしなければなりません。しかし、事業者も仕入れを行う際に消費税を支払っているため、預かった消費税をそのまま納税すると二重に消費税を負担することとなってしまいます。そのため、預かった消費税から仕入れで支払った消費税を差し引き、差額を納税することで二重の課税を防ぐ仕組みとなっているのです。

消費税の仕入税額控除を受ける要件

消費税の仕入税額控除はどの事業者でも受けられるわけではありません。消費税の納税仕入額控除を受けるためには次の要件を満たす必要があります。

・帳簿の保存

消費税の仕入額控除を受けるためには、取引情報を帳簿に記載し、その帳簿を保存しておかなければなりません。帳簿への記載が必要な項目は、取引相手の名称と取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した取引の金額の4項目です。

・インボイスの保存

仕入税額控除の適用を受ける2つ目の要件はインボイスの保存です。インボイスは7年間保存しておく必要があります。

消費税額の2つの計算方法

消費税額の計算方法には、一般課税による計算方法と簡易課税の2通りがあります。ただし、簡易課税は課税売上高が5,000万円以下である必要があり、事業年度開始前にあらかじめ税務署に届出を出しておかなければなりません。

一般課税による消費税額の計算方法

一般課税による計算方法では、納付税額は売上にかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額を差し引くことで計算します。消費税には標準税率と軽減税率があるため、それぞれの税率ごとに計算をし、合計して納税額を算出しなければなりません。

簡易課税による消費税額の計算方法

簡易課税による計算方法では、みなし仕入れ率を使って仕入控税額を計算します。一般課税の場合、売上にかかる消費税と仕入れにかかった消費税の両方を計算しなければなりません。しかし、簡易課税の場合、売上にかかる消費税額にみなし仕入れ率をかかった額を仕入れにかかる消費税額とみなします。そのため、仕入れにかかる消費税の額を計算する必要がありません。みなし仕入れ率は、事業の種類ごとに決められているものの、一般課税により簡単な計算で消費税額を算出することが可能です。

一般社団法人を対象とした消費税の特定収入の特例とは

ここまで、一般的な消費税額の計算方法についてご説明してきましたが、一般社団法人の場合は消費税額の計算において特殊な計算方法を用いる場合があります。それが特定収入にかかる仕入税額控除の特例です。

特定収入とは

資産の譲渡等の対価以外の収入のうち一定の収入を特定収入と言います。国税庁では、具体的に次のような収入が特定収入に該当するとしています。

・補助金

・交付金

・寄附金

・出資に対する配当金

・保険金

・損害賠償金

・資産の用途等の対価に当たらない負担金、他会計からの繰入金、会費等、喜捨金

特定収入の特例による調整が必要な理由

一般社団法人の場合、補助金や交付金、寄附金などによる収入を多く得ているケースが多くなっています。これらを利用し、課税仕入れを行ったものを仕入税額控除の対象にすると、支払う消費税の額が低くなってしまいます。そのため、特定収入が一定割合を超える一般社団法人については、特定収入に関連する課税仕入れ分について調整を行うことになっているのです。

特定収入の特例の対象となるケースとは

特定収入の特例を用い、消費税額の調整が必要になるのは、次の要件に該当する消費税課税事業者です。

・特定収入割合が5%を超えている

・簡易課税制度を選択していない

特定収入割合の計算方法

特定収入割合が5%を超えている場合、特定収入の特例が適用されます。そのため、一般社団法人が消費税額を計算する際には、まず、特定収入割合を把握する必要があります。

不課税売上のうち「使途不特定のもの」、「法令または交付要綱等で課税仕入れ等にその使途が特定されている収入」が特定収入に該当します。特定収入の額を確定させたら、特定収入割合は次の計算式で算出できます。

特定収入割合=特定収入÷(課税売上高(税抜)+免税売上高+非課税売上高+国外売上高+特定の収入の合計額)

この計算において特定収入の割合が5%を超えた場合、調整計算が必要になります。

仕入税額控除金額の調整

仕入税額控除の調整がある場合の納付税額は、次の計算式により計算した金額となります。

納付税額=その課税期間中の課税標準額に対する消費税額-(調整前の仕入控除額-その課税期間中の特定収入にかかる課税仕入れ等の税額)

「その課税期間中の特定収入にかかる課税仕入れ等の税額」の計算方法

その課税期間中の特定収入にかかる課税仕入れ等の税額の計算方法は次の通りです。

課税期間中の課税売上高が5億円以下かつ課税売上割合が95%以上の場合

以下の(1)、(2)、(3)の合計額が特定収入にかかる課税仕入れ等の税額となります。

(1)特定収入のうち標準税率適用課税仕入れ等にのみ使途が特定されている部分の金額×7.8/110

(2)特定収入のうち軽減税率適用課税仕入れ等にのみ使途が特定されている部分の金額×6.24/108

(3){調整前の仕入控除税額-((1)+(2))}×調整割合

調整割合は次の式で計算します。

課税仕入れ等にかかる特定収入以外の特定収入の合計額÷(資産の譲渡等の対価の合計額+課税仕入れ等にかかる特定収入以外の特定収入の合計額)

課税期間中の課税売上高が5億円超または課税売上割合が95%未満で個別対応方式により計算する場合

以下の(1)、(2)、(3)の合計額が特定収入にかかる課税仕入れ等の税額となります。

  • 特定収入のうち課税資産の譲渡等にのみ要する標準税率適用課税仕入れ等のために

のみ使用することとされている部分の金額×7.8/110+特定収入のうち課税資産の譲渡等にのみ要する軽減税率適用課税仕入れ等のためにのみ使用することとされている部分の金額×6.24/08

  • 特定収入のうち課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する標準税率適用課税仕入れ等のためにのみ使用することとされている部分の金額×8/110×課税売上割合+特定収入のうち課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する軽減税率適用課税仕入れ等のためにのみ使用することとされている部分の金額×6.24/108×課税割合
  • {調整前の仕入控除税額-((1)+(2))}×調整割合

課税期間中の課税売上高が5億円超または課税売上割合が95%未満で一括比例配分方式により計算する場合

以下の(1)、(2)、(3)の合計額が特定収入にかかる課税仕入れ等の税額となります。

(1)特定収入のうち標準税率適用課税仕入れ等にのみ使途が特定されている部分の金額×7.8/110×課税売上割合

(2)特定収入のうち軽減税率適用課税仕入れ等にのみ使途が特定されている部分の金額×6.24/108×課税売上割合

(3){調整前の仕入控除税額-((1)+(2))}×調整割合

まとめ

一般社団法人でも課税売上高が1,000万円を超えた場合、消費税の課税事業者となります。法人税では、公益社団法人と非営利型一般社団法人の課税対象が収益事業のみに限定されていますが、消費税の場合は、全ての売上が課税対象となる点に注意しなければなりません。

また、一般社団法人は、寄附金や補助金、交付金などを受け取る割合が多いことから適切に消費税の計算を行うため、特定収入の割合が5%を超える場合、特例計算による調整が必要です。

特例計算による調整は非常に複雑であり、正しい計算にはかなりの時間と手間を要します。煩雑な計算はミスを誘引する可能性も高くなるでしょう。計算の手間を軽減し、正しく申告を行うためには、税理士への相談も検討することをおすすめします。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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