2025.11.19
  • 税務調査

NPO法人会計基準とは?財務諸表作成のポイントを解説

読了目安時間:約 6分

NPO法人は、企業のように利益を追求する営利目的で設立された法人ではありません。しかし、社会貢献などを目的に設立された非営利団体であるNPO法人であっても資金は適切に管理しなければならず、外部に対しても資金の流れを積極的に開示する必要があります。NPO法人が正しく会計処理を行い、その情報を開示することは社会的信頼を高める行為にもつながるものです。

しかしながら、営利目的の企業と非営利活動を行うNPO法人では、会計において異なる処理が必要になるケースが少なくありません。そこで、NPO法人が統一ルールで会計報告書を作成できるよう作成されたのがNPO法人会計基準です。

今回は、NPO法人会計基準の特徴について、分かりやすく解説します。

Youtubeでも様々な内容を解説しています!Youtube

NPO法人とは

NPO法人は、不特定かつ多数の者の利益のために活動する法人です。活動によって得た収益は、団体の活動に再投資することが必要であり、構成員への分配は認められていません。NPO法人が行う特定非営利活動は次の20種類の分野に該当する活動です。

・保健、医療又は福祉の増進を図る活動

・社会教育の推進を図る活動

・まちづくりの推進を図る活動

・観光の振興を図る活動

・農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動

・学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動

・環境の保全を図る活動

・災害救援活動

・地域安全活動

・人権の擁護又は平和の推進を図る活動

・国際協力の活動

・男女共同参画社会の形成の促進を図る活動

・子どもの健全育成を図る活動

・情報化社会の発展を図る活動

・科学技術の振興を図る活動

・経済活動の活性化を図る活動

・職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動

・消費者の保護を図る活動

・前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

・前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

NPO法人の会計の基本的なルール

NPO法人には、特定非営利活動を行うための資金が必要です。そのため、特定非営利活動に支障が出ない範囲で、特定非営利活動以外の事業(その他の事業)を行うことが認められています。ただし、会計上では、特定非営利活動とその他の事業を明確に区分しなければなりません。

また、NPO法人は、事業年度終了の日から3ヶ月以内に前事業年度の事業報告書を作成する義務があります。また、すべての事務所に事業報告書は備え置き、社員や利害関係者が閲覧できる状態としておかなければなりません。また、条例で定めるルールに従い、事業報告書は所轄庁に提出する必要があります。

特定非営利活動促進法(NPO法)の第27条では、会計の原則として次のように示されています。

第二十七条 特定非営利活動法人の会計は、この法律に定めるもののほか、次に掲げる原則に従って、行わなければならない。

二 会計簿は、正規の簿記の原則に従って正しく記帳すること。

三 計算書類(活動計算書及び貸借対照表をいう。次条第一項において同じ。)及び財産目録は、会計簿に基づいて活動に係る事業の実績及び財政状態に関する真実な内容を明瞭に表示したものとすること。

四 採用する会計処理の基準及び手続については、毎事業年度継続して適用し、みだりにこれを変更しないこと。

参照元:特定非営利活動促進法第二十七条(会計の原則)

NPO法人会計の役割

そもそもNPO法人は企業のように、利益を株主などに分配する必要はありません。なぜ、NPO法人会計が必要になるのかと言えば、組織の信頼性を高めるためです。

適切に会計をし、報告をすることでNPO活動の透明性が確保され、社会的信頼が高まれば、助成金や寄附などを得やすくなり、資金調達を進めやすくなるでしょう。さらに、法人内の資金の動きを明確に把握できるようになれば、内部資金を効率的に活用でき、安定的に事業を続けられるようになるといったメリットもあります。

NPO法人会計基準とは

NPO法人会計基準とは、外部に対する会計報告書を作成するために作成された会計基準です。NPO法では、NPO法人が積極的に情報公開をし、市民がそのチェックを行うよう定められていますが、NPO法人には企業会計のように法律で定められた基準が設けられてはいません。そのため、NPO法人がそれぞれの基準で会計報告書を作成しており、ばらばらの基準で作成された会計報告書は比較がしにくいという状況がありました。そこで、市民も比較しやすい、正確な会計報告書を作成することで、NPO法人の信頼性を高める目的で作成されたのがNPO法人会計基準です。

NPO法人会計基準の歴史と一般原則

NPO法人会計基準は2010年7月20日にNPO支援センターが構成するNPO法人会計基準協議会によって策定されています。その後、2011年11月20日一部改正が行われ、2017年12月12日さらに一部改正が行われています。

NPO法人会計基準では「真実性・明瞭性」、「適時性・正確性」、「継続性」、「単一性」、「重要性」の7つを一般原則としています。

真実性・明瞭性

NPO法人の財務諸表等は、NPO法人の真実の実態を明瞭に表示するものでなければならない

適時性・正確性

NPO法人は適時かつ正確に作成した会計帳簿に基づいて、財務諸表等を作成しなければならない。

継続性

会計処理の原則及び手続、財務諸表等の表示方法は、毎事業年度継続して適用し、みだりに変更してはならない。

単一性

情報公開、社員総会、助成金の申請、租税目的等、種々の目的のために異なる形式の財務諸表等を作成する必要がある場合、それらの内容は信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであり、真実をゆがめてはならない。

重要性

重要性の乏しいものについては、会計処理の原則、手続き、財務諸表等の表示について簡便な方法を用いることができる。ただし、重要性の高いものはより厳密な方法を用いて処理しなければならない。

NPO法人会計基準の財務諸表等の体系と構成

NPO法人会計基準では、財務諸表として次の書類の作成を求めています。

活動計算書

活動計算書は、各事業年度における活動状況を示す計算書であり、企業の損益計算書に該当する書類です。当該事業年度に発生した収益と費用、損失を計上し、NPO法人のすべての正味財産の増減状況を示します。

活動計算書は、経常収益と経常費用、経常外収益、経常外費用に区分して記載します。経常収益は、NPO法人の通常の活動によって生じる収益であり、受取会費、受取寄附金、受取助成金、事業収益、その他収益に分けることができます。また、通常活動のために費やした費用は経常費用として計上します。経常費用は、事業費と管理費に区分をし、人件費とその他経費に区分して表示します。

事業費は、NPO法人が目的とする事業を行うために直接必要となる人件費や経費のことであり、管理費用はNPO法人の事業を管理するためにかかる費用のことです。総会や理事会の開催運営費用、管理部門に係る役職員の人件費、管理部門に係る事務所の賃貸料や光熱費などが管理費用に該当します。

一方、通常の活動以外から生じる収益は経常外収益として扱います。企業会計における特別利益と特別損失に相当する項目です。具体的には、固定資産の売却益などの臨時利益や過年度損益修正益等が該当しますが、金額がわずかである場合や毎期経常的に発生するものについては、経常収益の区分に記載できます。

賃借対照表

賃借対照表は、年度末時点で保有する資産や負債、正味財産の状態を明瞭に表示する書類です。資産の部については、流動資産と固定資産に区分し、さらに固定資産は有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に区分します。また、負債の部については、流動負債と固定負債に区分します。

資産の賃借対照表価額については、原則として、当該資産の取得価額に基づいた計上をしなければなりません。また、棚卸資産についても取得価額が賃借対照表価額となります。しかしながら、資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価を賃借対照表価額としなければなりません。棚卸資産については、取得価額よりも時価が下落したときは、時価をもって賃借対照表価額とすることができます。

固定資産については、取得価額から減価償却累計額を控除した帳簿価額(簿価)が賃借対照表価額となります。また、特定資産については、流動資産の部または固定資産の部において、当該資産の保有目的を示す独立した科目で表示しなければなりません。

その他、リース取引については、事実上物件の売買と同様の状態と認められる場合には、売買取引に準じて処理を行います。

賃借対照表では、正味財産の合計額と負債の合計額を足した額が資産の合計にならなければなりません。

財産目録

財産目録は、当該事業年度末現在におけるすべての資産、負債の名称と数量、価額等を詳細に表示する書類です。財産目録に記載する価額は、賃借対照表の計上金額と同一でなければなりません。ただし、金銭評価ができないために賃借対照表に記載できない資産については、物量をもって計上することが可能です。

財務諸表への注記

NPO法人会計基準では、財務諸表に次の事項を注記することが求められています。

1.資産の評価基準及び評価方法、固定資産の減価償却方法、引当金の計上基準、施設の提供等の物的サービスを受けた場合の会計処理方法、ボランティアによる役務の提供を受けた場合の会計処理の取扱い等、財務諸表の作成に関する重要な会計方針

2.重要な会計方針の変更をした場合は、変更した旨と変更の理由、変更による影響額

3.事業費の内訳又は事業別損益の状況を注記する場合には、その内容

4.施設の提供等の物的サービスを受けたことを財務諸表に記載する場合には、受入れたサービスの明細及び計算方法

5.ボランティアとして、活動に必要な役務の提供を受けたことを財務諸表に記載する場合には、受入れたボランティアの明細及び計算方法

6.使途等が制約された寄付等の内訳

7.固定資産の増減の内訳

8.借入金の増減の内訳

9.役員及びその近親者との取引の内容NPO法人会計基準注解

10.その他NPO法人の資産、負債及び正味財産の状態並びに正味財産の増減の状況を明らかにするために必要な事項

NPO法人特有の取引における会計処理のポイント

NPO法人会計基準では、NPO法人ならではの特有の取引における会計処理を次のように示しています。

ボランティアによる役務の提供を受けた場合

無償または著しく低い価格でボランティアによる役務の提供を受け、提供を受けた部分の金額を合理的に算定できる場合は、その内容を注記することができます。また、当該金額を外部資料によって客観的に把握できる場合は、活動計算書に計上することも可能です。

助成金や補助金に未使用額の返済義務が規定されている場合

助成金や補助金のうち、対象事業や実施期間が定められ、未使用額の返還義務が規定されている場合で、実施期間の途中で事業年度末が到来した場合、未使用額は前受助成金として処理をします。

後払いの助成金や補助金等の取り扱い

助成金や補助金のうち、実施期間満了後や一定期間ごとに交付されるもので、事業年度末に未収の金額がある場合は、対象事業の実施にあたって計上した費用に対応する金額を未収助成金等として計上します。

対象事業及び実施期間が定められている助成金や補助金等の注記

対象事業と実施期間が定められている助成金や補助金等のうち、当期に活動計算書に計上したものについては、助成金や補助金等ごとに、受け入れ金額、減少額、事業年度末の残高を注記します。

NPO法人会計基準の採用は義務?

NPO法人会計基準は、法律で定められた会計基準ではありません。そのため、NPO法人会計基準を必ず使わなければならないものではなく、各団体に採用するかどうかの判断は任されています。ただし、内閣府が2012年3月に公表している「特定非営利活動促進法に係る諸審議の手引き」では、NPO法人会計基準を推奨しています。

運営性の透明性を確保する意味でもNPO法人会計基準に則った会計処理を行った方がメリットは大きくなるでしょう。

まとめ

NPO法人には、企業会計のように法律で定められた基準があるわけではありません。しかし、NPO法人として事業を安定して進めるためには会計に関する情報を積極的に公開し、社会的信頼を高めることが重要です。そこで小さな団体でも無理なく採用できるように工夫し、策定されたのがNPO法人会計基準です。

NPO法人会計基準に則った会計報告書の作成は義務ではありません。しかし、正確で分かりやすい会計報告書を作成し、外部に公開することで社会的な信頼性が高まると同時に、内部管理も強化され、適切な意思決定を可能にします。内閣府でもNPO法人会計基準の活用を推奨しています。NPO法人の健全な運営を目指す場合には、NPO法人会計基準に則った処理を行うことをおすすめします。


-免責事項-

当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。内容は記事作成時点の法律に基づいています。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上

  • 現在、税務調査が入っているので困っている
  • 過去分からサポートしてくれる税理士に依頼したい
  • 税務調査に強い税理士に変更したい
  • 自分では対応できないので、税理士に依頼したい
といったお悩みを抱えている方は、まずは初回電話無料相談をご利用ください。
税務調査の専門家が対応させていただきます。

税理士法人松本の強み

  • 税務署目線、税理士目線、お客様目線の三方良しの考え方でアドバイス
  • 過去の無申告分から現在まですべて対応可能
  • 査察案件から税務署案件までの経験と実績が豊富にあります
  • 顧問税理士がさじを投げた案件も途中から対応できます

30秒で完了かんたん税務調査リスク診断

あわせて読みたい記事

税務調査ブログをもっと見る

税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!

税務調査お悩み解決しませんか?
いますぐ電話1本で相談できます!

専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。
初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。

税理士法人松本代表税理士 松本 崇宏

30秒で完了かんたん税務調査リスク診断