メニュー
読了目安時間:約 6分
税務調査では、正しく申告が行われているか、調査官による厳しいチェックが行われます。納税額は所得額に税率をかけて算出するため、所得額を低く抑えることができれば、納税額も低く抑えることが可能です。所得額は売上から経費を差し引いて算出するため、売上を低く装うか、支出を大きく計上すれば、所得額を低く見せかけることができます。そのため、納税者の中には何とか所得額を低く抑えようと、不正に売上や経費を操作するケースがあるのです。
税務調査では、売上の計上漏れや隠蔽、経費の水増しなどを調査しますが「退職金」も厳しくチェックされる項目の一つとなっています。では、なぜ税務調査では退職金が狙われるのでしょうか?
今回は、税務調査で退職金が狙われる理由やチェックされる主なポイント、否認を防ぐための対策などについて解説します。
目次
税務調査で退職金が狙われる理由は、退職金は損金計上が認められており、法人税の高い節税効果を得られるからです。
退職金とは、長年勤務していた従業員や役員が退職または退任する際に、勤務実績に応じて支給される金銭です。退職金には、退職一時金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、退職金共済の4つがあります。このうち、税務調査でチェックを受けやすいのは、企業が支給額を決定して支払う退職一時金です。
退職一時金の中でも、特に役員に対して支給される役員退職金は税務調査で最もチェックされやすくなっています。
税務調査において、退職金が厳しいチェックの対象となる理由は、退職金は損金として計上ができるからです。特に、役員退職金の場合、支給額も従業員に比べると大きくなるケースが多くなります。
また、親族経営の企業などでは、勤務実態のない親族を役員に据え、多額の役員退職金を支給しているケースもあるようです。そのため、税務調査では、役員退職金の損金計上によって利益を操作していないか、厳しくチェックされることが多くなっています。
退職金は退職所得として扱われ、給与とは分けて税金を計算します。所得税は所得額が大きくなるほど税率も高くなる仕組みですが、退職所得は給与と分けて考えられるため、個人の税負担を大幅に軽減することが可能です。
さらに退職金には退職所得控除が適用されます。退職所得控除の額は、勤続年数が20年以下の人の場合は40万円×勤続年数、勤続年数が20年超の人の場合は800万円+70万円×(勤続年数‐20年)と決められています。加えて、退職金に係る所得税の計算根拠となる課税退職所得金額は、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額の1/2で算出するルールです。
例えば、40年連続勤務をした人が5,000万円の退職金を受け取った場合、課税退職所得金額は次のように計算できます。
・退職所得控除額
800万円+70万円×20年=2,200万円
・課税退職所得金額
(5,000万円-2,200万円)×1/2=1,400万円
給与として支払われる場合と比べると、課税退職所得金額は大幅に低くなるため、負担する税額を大きく軽減できます。そのため、同族経営の会社などでは、税務調査時には退職金は実は退職金ではなく、報酬に該当するのではとみなされるケースが出てくるというわけです。
企業が支払う一時退職金には、従業員に対して支給するものと役員に対して支給するものがあります。税務調査で退職金についての指摘がなされるケースが多いのは、従業員の退職金ではなく、役員に対して支給する退職金です。
従業員の退職金については、勤続年数や役職に応じて企業が自由に設定することができます。就業規則や退職金規定などによって支給ルールを規定するケースが一般的です。ただし、特定の従業員だけに多額の退職金を支給する場合などは税務調査時に退職金としての扱いを否定される恐れがあります。
一方、役員退職金の支給額については、より慎重に決定しなければなりません。
役員の退職金は功績倍率法と呼ばれる方式で計算をするケースが一般的です。これは、退職直前に支給していた報酬額をベースに計算する方法で「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で算出します。
最終報酬月額は、役員が退任する直前に支給されている役員報酬の月額を用います。また、役員在任年数は、役員の就任期間を指します。従業員から役員に昇格した場合、入社のタイミングから起算するのではなく、役員に登用されてからの期間を用いる点に注意しなければなりません。
また、功績倍率は、役員の会社に対する貢献度に応じて設定される係数のことです。役員といっても役職は変わるため、役職によって異なる倍率が適用されるケースが一般的となっています。
税務調査において、退職金がチェックされる際のポイントは大きく分けると次の3点です。
それぞれについて詳しく解説します。
役員の退職金は、前述のように功績倍率法で算出するケースが一般的です。功績倍率をいくつに設定するかによって、役員退職金の額は変わってきますが、相場よりも大幅に高い功績倍率を適用させていた場合は、税務調査で指摘を受けやすくなります。
役員退職金の功績倍率の相場は、代表取締役の場合で2倍~3倍、専務・常務取締役の場合で2倍~2.5倍程度です。たとえ、役員就任後、会社を大きく成長させた場合でも3倍以上の功績倍率を用いるケースはそれほど見られません。
例えば、最終報酬月額が200万円、役員の任期が10年、功績倍率が3.0倍の役員の退職金は、200万円×10年×3.0=6,000万円です。
役員退職金の額が不相応に高いものであるかに加え、税務調査では退職の実態についてもチェックがなされます。退職金とは、退職時に支給する報酬であり、退職をしていない状態で退職金を支給することはできません。
前述のように、退職金には税制優遇制度が用意されています。これは、退職金は退職後の生活に備えた資金としての役割を持つ点に配慮しているためです。もし、退職金に給与と同率の所得税率を適用した場合、税負担が大きくなり、手取り額は大幅に減少してしまいます。この場合、退職金を受け取るメリットが少なくなるだけでなく、退職後の生活にも弊害が生じる可能性も出てくるでしょう。
この退職金にかかる所得税の優遇制度を悪用し、実際には退職をしていないにも関わらず、退職金を支給するケースがないわけではありません。同族経営の企業などでは、代表取締役社長が退任し、子どもに事業を承継した場合、退任する代表取締役社長には役員退職金を支給します。しかし、実際には代表取締役社長のポジションは離れても、会長などに就任し、事業に関わり続ける事例が少なくないのです。
そのため、税務調査時には退職の実態について調査を行うため、退任した役員の活動についても調べるケースが多くなっています。その結果、実質的には役員を退任しておらず、事業に関わっている事例が確認された場合、役員退職金は否認され、役員報酬としてみなされることとなります。
税務調査は、役員退職金の支給手続きがしっかり行われていたかという点にも及びます。役員退職金の支給については、会社法によって、定款で定めるか株主総会の決議で定めることが決められています。従業員のように、退職金の規定があれば支給できるというものではありません。
役員退職金の支給金額や支給時期などについては、株主総会の決議によって決定しなければなりません。ただし、株主総会では、退職金の支給基準や支給方法、支給のタイミングなどは決定するものの、個別の退職金の額の決定については、取締役に委任するケースが多くなっています。いずれの場合でも、株主総会での決議事項については議事録に残さなければなりません。税務調査では株主総会の議事録の内容を確認し、適切な手続きが行われていたかどうかも確認されます。
税務調査で役員退職金が否認される場合、企業側にも役員個人にも大きなリスクが生じます。税務調査で役員退職金が否認され、役員報酬とみなされた場合のリスクについて解説します。
役員報酬は原則として、損金算入が認められていません。損金算入、つまり経費として取り扱うことが認められている役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3つのみです。
定期同額給与として支給するには、事業年度開始から3ヶ月以内に金額を決定しておかなければなりません。また、事前確定届出給与も事前に税務署に対して届出を提出し、届け出た通りの金額を届け出た日に支給する必要があります。提出期限は、株主総会によって事前確定届出給与の決議をした日から1ヶ月以内または事業年度開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日までです。業績連動給与の場合、損金算入をするには事業年度の利益状況や株式市場価格の状況、売上高の状況などの指標を用いて報酬額を決定し、有価証券報告書に記載をしなければならないルールがあります。
したがって、退職金として支払った金額が役員報酬としてみなされた場合、この役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれにも該当しません。そのため、役員退職金が否認されると、退職金の支給額分の損金算入が出ないのです。
役員退職金の損金算入が認められない場合、その分、課税所得額は増加します。先ほど紹介した例のように、6,000万円の退職金の損金算入が否認されると、課税所得額は6,000万円増加するため、法人税の額も増加することになるのです。そのため、申告した額では法人税の額が不足することとなり、不足分の税金について追徴されることとなります。
また、申告した税額が不足していたことのペナルティとして過少申告加算税、納税の完了が遅れたことのペナルティとして延滞税も課されます。
退職所得は税制優遇措置が設けられています。しかし、税務調査によって役員退職金ではなく、役員報酬として扱われることになると、給与所得としてみなされ、役員報酬と合算する総合課税の対象となります。
所得税の税率は、所得額が増えるほど高い税率が課される累進課税となっており、年間の所得金額が4,000万円を超える場合に適用される税率は45%です。そのため、役員退職金が役員報酬として扱われる場合、住民税も加えると約55%もの税負担が発生する恐れも出てきます。
また、退職金からは社会保険料が差し引かれることはありません。しかし、退職金ではなく、役員報酬として扱わなければならなくなると、健康保険料や厚生年金保険料の算定対象となります。そのため、社会保険料の負担が増える可能性も出てくるでしょう。
税務調査において退職金の否認を避けるためには、次のような対策が有効です。
税務調査において役員退職金が否認されると、企業にも役員個人にもデメリットが生じます。役員退職金を支給する際には、支給ルールを確認したうえで、適切な額を適切なプロセスを踏んだうえで支給することが大切です。
税務調査では、役員退職金の支給額や算定基準、退職後の役員の経営関与状況などについて詳しく調査が行われる事例が少なくありません。
適切な手続きによって適切な額が支給されている場合、退職金は全額を損金として算入することが可能です。しかし、不適切な処理によって税務調査時に役員退職金が否認されると、法人は不足分の税額と過少申告加算税、延滞税の納税が求められることとなります。また役員個人の納税額や社会保険料の負担額が大きくなる点にも注意しなければなりません。
役員退職金を支給する際には、適切な功績倍率を用いたうえで、適切な手続きで支給を行うようにしましょう。
-免責事項-
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。内容は記事作成時点の法律に基づいています。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者20万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
税理士法人松本の強み
30秒で完了かんたん税務調査リスク診断
←前の記事
税務調査は現金商売だと厳しく調査されるって本当?対応方法を解説
次の記事→
海外送金に関する税務調査が増加中。なぜ海外送金が税務署にバレる?
あわせて読みたい記事
税務調査
税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!
専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。