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領収書は、商品やサービスの対価としてお金を支払ったことを証明する書類です。事業のために支払った費用は経費として扱うことができますが、経費として処理するためには領収書が必要となります。しかし、納税者の中には領収書の偽造や改ざんを行うケースもあるようです。
税務調査が行われた場合、申告内容を確認するため、帳簿書類のほか、領収書などの証憑書類もすべてチェックが行われます。そのため、税務調査時には、偽造や改ざんが疑われる領収書が見つかるケースがあるのです。では、税務調査で領収書の偽造や改ざんがバレるとどのようなリスクが生じるのでしょうか。
今回は、領収書の偽造や改ざんのリスクについてご説明します。
目次
次のような行為は、領収書の偽造や改ざんにあたります。領収書を偽造したり、改ざんしたりする行為は不正行為であり、決して以下のような行為は行わないようにしましょう。
自分で領収書を作り、お金を支払ったかのように見せかける行為は領収書の偽造行為にあたります。
領収書の金額や日付を書き換える行為は、領収書の改ざんに該当します。例えば、1年前の領収書の日付を変えて、今年の経費として計上したり、領収書に記載されている金額に手を加えて書き換えたりすると、領収書を改ざんしたこととなります。
お店側から金額などが記載されていない領収書を受け取り、自分で日付や金額を記載する行為も領収書の改ざんにあたる行為です。領収書は必ず、お金を受け取った側が作成しなければなりません。
領収書の偽造や改ざんは、有印私文書偽造罪や有印私文書変造罪に該当する犯罪行為です。
刑法第159条では、私文書偽造について次のように示しています。
「行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
一 他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為
二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為
2 他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書等又は他人が電磁的記録印章等を使用して作成した権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。」
出典:e-GOV「刑法第159条」
つまり、私文書である領収書を偽造、または変造(改ざん)した場合には、3か月以上5年以下の禁固刑に処すると明記されているのです。したがって、領収書の偽造や改ざん行為は、犯罪行為であり、偽造や改ざん行為が発覚した場合には拘禁刑が科せられる恐れがあるのです。
拘禁刑とは、懲役と禁錮を一本化した刑罰です。2025年6月1日から刑法の改正に基づき、懲役と禁錮は一本化されています。
領収書の偽造や改ざんは、上述のように犯罪に該当する行為です。では、なぜ刑罰が下される恐れがあるにもかかわらず、領収書の偽造や改ざんを行うのでしょうか。領収書の偽造や改ざんが行われる理由をご説明します。
領収書の偽造や改ざんをして、本来よりも経費の額を多く計上すれば、納税額を低く抑えることができます。法人の場合も個人事業主の場合も、法人税や所得税は売上から経費を差し引いた所得に対して課せられるため、経費の額が増えれば増えるほど、納税の負担は抑えられるのです。そのため、何とか税金の負担を軽減しようとして領収書の偽造や改ざんを行い、経費を水増しする事例が見られます。
また、実際には行われていない取引についての領収書を作成する行為も領収書の偽造にあたります。架空の取引を計上すれば、当然、経費として差し引ける金額が大きくなるため、税負担を軽減できるのです。
経費に計上する際には、原則として領収書が必要です。しかし、何らかの理由で領収書を紛失してしまうケースもあるでしょう。領収書を紛失した場合に支払った金額を経費として処理したいがために、領収書を偽造するケースも見られます。
領収書の偽造や改ざんは、個人事業主や会社の経営者ばかりが行うわけではありません。中には従業員が領収書の偽造や改ざんを行い、本来の支出との差額を着服する例もあります。クライアントを接待した費用を経費として計上する際、領収書を改ざんし、金額を増やして請求する可能性もあるでしょう。また、プライベートでの食事代を接待交際費に見せかけ、領収書を提出している可能性も考えられます。
領収書の偽造や改ざんは、経費の不正計上に関わる問題です。税務署では、個人事業主や法人の不正を防ぐため、領収書についても偽造や改ざんが行われていないか、細かくチェックを行います。税務調査で、領収書の偽造や改ざんが発覚した場合、次のようなリスクが生じます。
まず、領収書の偽造や改ざんが行われ、不正に経費を多く計上していた場合、課税所得額が変わってくるため、不足分の税額の納税が求められます。さらに、申告内容が正しくなかったことに対するペナルティとして過少申告加算税の納税も求められます。過少申告加算税の税率は、不足分の税額との差額の10%です。ただし、不足分の税額が、当初申告した税金の額または50万円のうち、大きい方の金額を超過するときの税率は15%となります。
領収書の偽造や改ざんが悪質な行為だと認められた場合には、過少申告加算税ではなく、より税率の重い重加算税が課される可能性もあります。過少申告加算税に代えて重加算税が課される場合の税率は35%です。
前述のように領収書の偽造や改ざんは、有印私文書偽造罪や有印私文書変造罪に該当する犯罪行為です。そのため、刑事罰として3か月以上5年以下の拘禁刑に処される恐れがあります。
税務調査によって領収書の偽造や改ざんが発覚した場合、取引先や顧客からの信頼も失墜します。領収書の偽造や改ざんをして納税を不正に免れたという行為は、社会的信用の失墜につながり、今後の取引にも大きな影響を与えることになるでしょう。
領収書の偽造や改ざんを行っている人の中には、税務調査が行われても、領収書の偽造や改ざんは簡単にバレないのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、税務調査ではさまざまな手段を使い、領収書の偽造や改ざんが行われていないか、詳細にチェックを行うため、不正はバレる可能性が高くなります。
手書きの領収書の場合、インクの色や文字の太さ、インクの種類などから領収書の偽造や改ざんを見破るケースが多くなっています。分かりにくく偽造や改ざんをしたと思っている場合でも、インクの色や太さなどには細かな違いがあり、後から加えたと思われる線などには違和感が残るものです。
また、同じ発行者の領収書と比較すれば、文字の筆跡にも違いが生じるため、偽造しているのではという疑いが強まるケースもあります。
税務署でも業務の効率化を図るため、AIやデータ分析ツールの活用を進めています。そのため、以前よりも疑わしい取引などを検出しやすくなっているのです。また、領収書に記載された金額と支払いの状況などのチェックも行いやすくなっているため、不自然な領収書が見られた場合には、重点的にチェックされるケースが増加しています。
偽造や改ざんが行われた領収書が多数見つかった場合などは、領収書の発行元を調査する反面調査を実施するケースがあります。領収書の発行元には、領収書の控えが保管されているため、発行された領収書とその控えに記載されている日付や金額の整合性をチェックするのです。
反面調査が実施されることになると、取引先などにも調査が波及するため、取引先の負担も増やすこととなってしまいます。さらに、領収書の偽造や改ざんが発覚したとなれば、取引先からの信用も失ってしまうでしょう。
ここまで、税務調査で領収書の偽造や改ざんがバレた場合のリスクをご説明してきましたが、従業員が領収書の偽造や改ざんをした場合には、どのような対応を取るべきなのでしょうか。
従業員が故意に領収書の偽造や改ざんを行った場合、戒告や懲戒解雇など、就業規則に従った処分を行うこととなります。また、会社のお金を不正に着服していた場合は、業務上横領罪や背任罪に問うこともできるため、告訴することも可能です。領収書の偽造や改ざんによって着服していた金額や偽造や改ざんを行った回数などを考慮したうえで、総合的に判断する必要があるでしょう。また、従業員の領収書の偽造や改ざんによって過剰に支払いすぎた金額については、従業員に対し返還請求をすることが可能です。
従業員が領収書の偽造や改ざんによって経費を水増しして計上していたものについては、会社が故意に、経費計上額を水増ししたわけではありません。しかしながら、従業員が領収書の偽造や改ざんを行ったものに関しても、本来は計上することができない金額です。そのため、従業員が領収書の偽造や改ざんを行った場合であっても、修正申告を行い、不足分の税金を支払う必要があります。
従業員による領収書の偽造や改ざんを防ぐためには、組織全体に領収書の重要性を周知することが大切です。その際、領収書の偽造や改ざんは、有印私文書偽造罪や有印私文書変造罪といった犯罪に該当することも含めて説明し、さらには、業務上横領罪で訴える可能性がある点にも言及するようにしましょう。
また、手書きの領収書は偽造や改ざんを行いやすくなります。そのため、経費の精算時には偽造や改ざんがしにくいレシートの提出を求めるとよいでしょう。そのほか、法人用のクレジットカードを作成し、クレジットカード払いを求める方法、接待の場合には事前に接待の相手先や目的などについて申請を求める方法などが有効です。
電子領収書とは、紙ではなく、PDF形式など、電子データで発行・受領される領収書のことです。また、オンライン上からダウンロードできる形式の電子領収書もあります。
電子帳簿保存法によって、書類の電子保存が認められるようになりました。電子的にやり取りされた領収書は、電子データとしての保存が必要になっています。電子領収書でのやり取りを行う場合、領収書の作成記録や発行記録、受領記録が電子データとして残ります。そのため、電子領収書は偽造や改ざんが行われにくいだけでなく、簡単に記録を追跡することが可能です。したがって、電子領収書の導入は、取引に関連する領収書の不正を防ぐ効果を期待できます。また、紙の領収書のようにファイリングをして保管する必要もないため、業務効率の向上にも効果的です。
領収書の偽造や改ざんは犯罪行為に該当します。領収書の偽造や改ざんは、大きく分けて、事業主が税金の負担を軽減したいために経費を水増しするケースと従業員が私腹を肥やすために行うケースの2つに分けられます。しかし、いずれも、領収書の偽造や改ざんによって経費を過剰に計上すれば、納税額を不正に少なく見せかけることになります。税務調査では、領収書もすべてチェックされるため、税務調査の対象となった際には、領収書の偽造や改ざんを指摘され追徴課税が行われるリスクが高くなるでしょう。また、従業員個人が領収書の偽造や改ざんを行っていた場合は、従業員に対してしかるべき処分を行い、修正申告によって不足分の税額を納税しなければなりません。
領収書の偽造や改ざんは違法行為です。従業員にも領収書の偽造や改ざんは犯罪であることを十分に周知するとともに、事業主としても絶対に領収書の偽造や改ざんを行わないよう徹底することが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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