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学校法人は、非課税となる税金が多いため、税務調査とは無縁だと思われる場合もあるようです。しかし、学校法人であっても税務調査が実施された事例はあります。では、学校法人に対する税務調査ではどのようなことが行われるのでしょうか。
今回は、学校法人を対象に実施される税務調査の流れや注意が必要なポイント、税務調査で納税不足を指摘された場合のリスクについてご説明します。
目次
税務調査とは、納税者が提出した申告書の内容に誤りがなく、正しく納税を行っているかを調べる税務署による調査です。税務調査は大きく分けると「任意調査」と「強制調査」に区分することができます。
任意調査とは、税務署の調査官によって実施される調査で、納税者の同意のもとで実施されるものです。一般的に税務調査と呼ばれるものはこの任意調査です。
任意調査は名称に「任意」が付くため、納税者は調査を拒否できるのではと思われる場合もあります。しかし、任意調査であっても納税者が調査を拒否することはできません。
なぜなら、税務署の調査官には税務調査によって納税者に帳簿書類の提出を求めたり質問などを行う権利があり、納税者には質問検査権に応じる受忍義務があるからです。そのため、学校法人であっても税務調査の対象となった場合、調査を拒否することは認められておらず、必ず調査を受けなければなりません。
任意調査の場合は、税務調査を実施する前に税務署から電話で連絡が入り、税務調査を実施する旨と調査日時、調査税目、調査期間等の通知があります。この通知を事前通知と言います。納税者は税務調査を拒否することはできませんが、税務調査の日時の調整を依頼することは可能です。
学校法人の場合、指定された調査日時に授業参観などのイベントが予定されているケースもあるでしょう。そのような場合は調査官に事情を伝えると、都合の良い日時に調査日程を変更してもらうことが可能です。
強制調査は、税務署ではなく、国税局査察部によって行われる調査のことです。査察調査とも呼ばれる強制調査は、裁判所が発行する令状をもとに、強制的に実施されます。任意調査のように事前に通知がなされることはありません。なぜなら、事前通知を行うことで帳簿などの関係書類を隠蔽したり破棄したりする恐れもあり、正確な調査を実行できない可能性があるからです。
強制調査は、多額の脱税が疑われる納税者を対象に実施されるケースがほとんどとなり、刑事事件として起訴することを前提に進められる調査です。
学校法人には、収益事業にかかる法人税のほか、消費税、源泉所得税の納税義務があります。これらの税金を正しく申告していなかった場合、税務調査の対象となる可能性があります。学校法人に対して税務調査(任意調査)が実施される場合の流れについてご説明します。
税務署から電話によって、税務調査を実施する旨の通知があります。一般的には、税務調査実施予定の数週間前に事前通知が行われるケースが多くなっています。ただし、電話による事前通知が難しい場合は、書面で通知が行われる場合もあります。
事前通知では次の内容について伝えられます。
・調査の目的
・調査の日程
・調査を実施する場所
・調査対象の税目
・調査対象期間
・調査に必要な書類帳簿
事前通知の際には調査の日程を伝えられますが、都合が合わない場合は日程を調整することができます。また、税理士による立ち会いは一般的に認められているため、立ち会いを希望する場合は税理士の都合も含め日程調整を申し出ましょう。
税務調査の日程が決まったら、事前通知の際に伝えられた必要な書類を準備します。具体的には、収益事業の総勘定元帳や仕訳帳、決算書、申告書、請求書、領収書、契約書、賃金台帳、源泉徴収票などが必要になります。
一般的には税務調査の対象期間は3年間ですが、申告内容に不正が見つかった場合などは5年分をさかのぼって調査をするケースもあるため、5年分ほどの書類を準備しておくと安心です。
また、帳簿などの書類を見返し、信憑書類と照合しながらミスがないか確認をしておきます。
税務調査の当日は、調査官が調査を実施する場所を訪問します。一般的には事業内容や現在の運営の状況などについて質問をしながら、書類の確認が進められることになります。税務調査の際には、調査官は申告書の内容を予め確認している状態です。そのため、収益事業について何らかの疑いを抱いている場合などは、さりげなく収益事業の状況について質問がなされることもあります。
任意調査は納税者の協力のもとで実施する調査であり、調査官が威圧的な態度で調査を進めることはありません。また、脈絡のないような質問をしているような場合でも、何らかの意図をもって質問をしていることが多いため、適切に回答をするよう心がけなければなりません。
帳簿などを確認し、疑義が生じた内容についても調査官から質問がなされます。その際は、正しく回答を行うようにしましょう。指摘事項に納得がいかない場合は、証拠となる書類などを示しながら適切に説明することが大切です。
税理士に立ち会いを依頼すれば、税理士が納税者に代わって質問等に回答することができます。
税務調査が終了したら、1ヶ月程度で調査結果が通知されます。ただし、詳しい調査が必要になった場合などは結果が通知されるまで長い期間がかかるケースもあります。
調査の結果、申告内容に不備があると指摘された場合は、税務署からの指摘に沿って正しく申告をし直す修正申告を行い、不足分の税金やペナルティとして課される加算税や延滞税などを納付します。申告内容に何も問題がなかった場合は、そのまま税務調査は終了となります。
学校法人の税務調査では、次のような点を指摘されるケースが多いようです。
学校法人は、本来の事業による収益を下回る範囲であれば、収益事業を行うことが可能ですが、収益事業については法人税が課税されます。しかし、収益事業に該当するかどうかの判断は難しく、学校法人としては収益事業には該当しないと判断しても、税務署側では収益事業に当たると判断するケースがあります。
そのため、収益事業には該当しないとして、法人税の申告をしなかったり、特定の収益事業の所得を申告していなかった場合に、法人税の申告漏れの指摘を受けることが多くなっています。
具体的には、学生を対象とした文房具などの販売事業が収益事業に該当すると指摘を受けるケースや駐車場の収入が収益事業に該当すると指摘されるケースなどがあります。
法人や個人が学校法人に寄附を行った場合、税制上の優遇措置を受けることができます。多くの学校法人では寄附を受け付けており、貴重な収入となっています。
寄附金は、教育研究事業に充てなければなりません。しかし、中には寄附金を適正に使用せず、使途不明金となっているケースもあります。
そのほか、理事長の親族などに対し、勤務実態に見合わない報酬が支払われたり、プライベートな支出を経費として計上したりといった資金の不正使用について指摘を受ける事例も多く見られます。
学校法人には、教職員や役員などに支払う給与から所得税と復興特別所得税を天引きし、国に納税をする源泉徴収義務があります。法人税の課税対象となる収益事業を営んでいない場合でも、税務調査の対象となり、源泉所得税の徴収漏れについて指摘されるケースも見られます。
例えば、非常勤の講師に支払う報酬が給与に該当するか、外注費に該当するかによって源泉徴収は変わってきます。学校法人に対する税務調査では、非常勤講師に支払っている報酬に関する源泉徴収も一つのポイントとなります。
学校法人が税務調査で申告漏れを指摘された場合、次のようなリスクが生じます。
無申告加算税は、申告義務があるにも関わらず、申告を怠り、納税をしていなかった場合に課される加算税です。収益事業を行っていながら法人税の申告を行っていなかった場合は、納めるべき法人税の額に加えて無申告加算税の納付が求められます。
無申告加算税は、納めるべき税額に税率をかけて算出します。無申告加算税の税率は、税額が50万円以下の部分は15%、50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の場合は30%です。
過少申告加算税は、申告していた税額が不足していた場合に課される加算税です。法人税の申告はしていたものの、収益事業に含まなければならない所得が含まれていなかった場合は、納税額が不足した状態になっています。そのような場合に課されるのが過少申告加算税です。
過少申告加算税は、不足分の税額に税率をかけて算出します。過少申告加算税の税率は、不足分の税額が50万円以下の部分に対しては10%、50万円を超える部分に対しては15%です。
不納付加算税は、源泉徴収をした所得税を法定期限までに納付しなかった場合に課される加算税です。不納付加算税の税率は10%となっており、不足分の額に10%を加えた額の納税が求められます。
確定申告で申告漏れが指摘された場合、加算税に加えて延滞税の納税も求められます。延滞税は、税金の納付が遅れたことに対して課される利子的な意味合いをもつ税金です。延滞税は、納付が完了する日まで課され続けるという特徴があり、納付が遅れれば、その分延滞税の額も高くなります。
延滞税の税率は、2段階に分かれており、納付期限の翌日から2ヶ月までとそれ以降で異なります。2022年1月1日から2025年12月31日までの延滞税の割合は次のとおりです。
・納付期限の翌日から2ヶ月を経過する日まで:年2.4%
・納付期限の翌日から2ヶ月を経過した日以降:年8.7%
重加算税は、意図的に所得を隠したり、架空の経費を計上したりといった仮装・隠蔽行為が見られた場合に課される加算税です。重加算税は最も重い税率となっており、無申告加算税に代えて加算される場合の税率は40%にも上ります。また、過少申告加算税に代えて加算される場合の重加算税の税率は35%です。
税務調査で多額の申告漏れが発覚した場合は、脱税の容疑で起訴される可能性もあります。裁判で法人税法違反の罪が確定すれば、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
学校法人が多額の脱税を行っていたとなれば、大きなニュースになるでしょう。
税務調査で申告漏れを指摘され、正しく税金を納めていなかったことが発覚すれば、社会的信用を失うこととなります。学校法人は、教育を行う機関を営む法人です。公益性の高い教育事業を営む法人が脱税をしていたとなれば、入学を希望する人も激減する可能性があり、教育事業の運営も厳しくなる恐れがあります。
学校法人も税務調査の対象になる可能性があります。したがって、学校法人も税務調査対策を講ずるべきです。最も確実な税務調査対策は、税理士の活用だと言えます。
学校法人は収益事業を営むことも可能ですが、収益事業に該当するか該当しないかの判断は簡単ではありません。判断に迷う場合は税理士に相談をした方が良いでしょう。適切な処理を行っていれば税務調査の対象に選ばれる可能性も低く、また、たとえ調査の対象になったとしても問題なく終了します。
また、収益事業を営んでいない学校法人であっても、源泉所得税の徴収漏れを指摘される可能性があります。税務調査には税理士の立ち会いも認められています。税務調査の事前通知を受けた場合には、学校法人に詳しい税理士に税務調査対応を依頼すると、追徴課税のリスクを最小限に抑えることが可能です。顧問税理士契約を締結していない場合は、税務調査に対応している税理士への相談をおすすめします。
税務調査は、企業を対象に実施されるものだと思う場合もあるようですが、税務調査は納税の義務がある者に対して実施される調査です。したがって、学校法人も当然、税務調査の対象として選ばれる可能性があります。学校法人に対する税務調査では、収益事業や不正な資金流用、源泉所得税の徴収漏れについての指摘を受ける事例が多く見られます。
税理士法人松本は税務調査の対応実績を豊富にもっており、これまでに数々の税務調査に対応してきました。税務調査のみのご依頼も承っておりますので、税務調査の事前通知を受けた場合は早めにご相談ください。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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