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「宗教法人には課税がされない」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに、宗教法人が宗教活動を行う際には課税対象とはなりません。
しかし、宗教法人であっても収益事業を行う場合には課税対象となり、給与や賞与の支給をした場合には源泉徴収義務者となります。
今回は、宗教法人における役員報酬の考え方に始まり、宗教法人の納税義務について詳しく解説します。
目次
宗教法人は営利を目的にしていない「公益法人」に分類されるため、税の軽減や減免、または非課税の扱いとなります。
ただし、これはあくまでも「宗教法人としての非収益事業」が対象であるため、住職などの役員へ給与や賞与を支給する場合は源泉所得税を給与から控除し、国へ納付する必要があります。
とはいえ、住職とその家族で宗教法人を担っている場合、その線引きが曖昧になってしまうことも少なくありません。
ここでは、宗教法人としての収入(非課税)と役員の収入(課税対象)の区別の仕方について、具体例を挙げながら詳しく見ていきましょう。
つまり、宗教法人の非収益事業の活動を通しての収入は非課税となりますが、その中から給与や賞与として個人に渡る金銭や、収益事業とみなされる活動を通して得た収入は課税対象となり、宗教法人であっても源泉徴収者となります。
このことから、宗教法人としての収入と個人の収入は明確に区別しておく必要があり、役員の給与についてはあらかじめ適正な金額を定め、毎月決められた日にちに支給すると良いでしょう。
一般的に、宗教法人における役員報酬はいくらくらいなのでしょうか。
厚生労働省が発表している調査によると、神職や宮司、僧侶、住職などの宗教家の給与や賞与の金額は以下のような結果となっています。
(参照:厚生労働省『令和2年賃金構造基本統計調査』)
月額給与は毎月金額を一律に固定している場合もあれば、法事などの件数や収益による出来高制にしている場合など、宗教法人の状況などによってさまざまです。
ただし、このような役員報酬は住職などの法人代表の一任で決められるものではありません。
宗教法人では、必ず3人以上の「責任役員」を置くことが定められており、役員には檀家も含まれます。
この責任役員の話し合いによって宗教法人の方針などが決定され、役員報酬の金額においても役員の承認が必要となります。
また、現金で支給した給与以外にも「現物支給されたもの」についても給与としてみなされる場合があり、源泉徴収の対象となります。次項で詳しく解説します。
宗教法人などの給与支払者が住職などの役員に対して、住居を無償で提供している場合や食事などを現物で支給している場合は「現物給与」とみなされ、源泉徴収の対象となります。
一般的に現物給与としてみなされるケースは以下のようなものです。
上記の中でも一部例外とされるものもありますので、以下で詳しく見ていきましょう。
役員などが無償で庫裏などに居住している場合、一定の計算方法によって算出された賃貸料に相当する金額が現物給与とされ、源泉徴収の対象となります。
ただし、住職などが庫裏(庫裡)や社務所に居住している場合は職務遂行上、必要であることが認められることが多いため、居住する部屋自体がそれ相応なものである場合に限り、源泉徴収の対象ではありません。
役員が個人で負担すべき飲食代や生活費などを宗教法人が負担した場合には、現物給与とみなされるため、その金額を役員の給与に含めて源泉徴収の対象とする必要があります。
役員に無償で法衣等の衣服を支給した場合、衣服の購入金額または貸与料に相当する金額を源泉徴収の対象にする必要があります。
ただし、その衣服が宗教法人の職務を行う上で不可欠なものであれば、源泉徴収の対象とする必要はありません。
給与や賞与といった役員報酬以外にも、宗教法人として収益事業を行った場合はその収益事業から生じた所得が課税対象となります。
この場合の収益事業とは、以下の34種類に分類され、継続して事業場を設けて行われていることが条件となります。
また、これらの事業に関わる活動や、そのために付随する行為も収益事業に含まれます。
宗教法人における収益事業の具体的な例には、以下のような宗教法人で一般的に行われているものも該当します。
それぞれ見ていきましょう。
お守りやおみくじ等、その販売額と仕入れ原価から考えて利益目的ではないと認められるような場合には収益事業にはなりません。
しかし、一般でも販売されている数珠やキーホルダーなどを通常価格で販売する場合には、収益事業であるとみなされます。
宗教法人の境内や本堂、講堂などを娯楽や遊興、慰安などを目的とした集まりへ席貸することも、国や地方公共団体の用に供するなどの一定の場合を除いて、収益事業となります。
宗教法人が経営する宿泊施設に信者や参拝者を宿泊させ、宿泊料を受けることは収益事業となります。ただし、宗教活動に利用される簡易的な共同宿泊施設で1泊1,000円以下(食事付の場合は2食で1,500円以下)の場合は、収益事業にはなりません。
宗教法人が技芸教室を開いている場合は、収益事業に該当します。具体的な技芸には、茶道や着付けのほか、生け花や舞踊、書道などが挙げられます。
境内の一部を駐車場として不特定多数または同一人に貸出して金銭を受け取っている場合、収益事業に該当します。なお、信者のために原則無料で設置されている駐車場は収益事業ではありません。
神前結婚式を行うための場として、神社やお寺を貸出している場合、挙式そのものは収益事業にはあたりません。ただし、披露宴の宴会場としての貸出や飲食物の提供、記念撮影などを行った場合は収益事業に該当します。
宗教法人が前述のような収益事業を行った場合、契約時などに発行する文書の印紙税はどうなるのでしょうか。
結論からお伝えすると、宗教法人であっても印紙税の納税義務があります。
ここでは、宗教法人の印紙税について簡潔に解説します。
宗教法人がよく作成する文書の印紙税の取り扱いは、以下のようになります。
たとえ収益事業に関するものであっても、宗教法人が発行する領収書には印紙税は課税されません。
建物賃貸借契約書においては、保証金の有無によって印紙の必要性が異なります。
契約書に保証金に関する記載があれば印紙が必要となりますが、記載がなければ印紙は不要です。
駐車場の貸付が該当し、こちらは課税対象となりますので印紙が必要となります。
宗教法人が墓地の使用を許可し、相手方が使用料を払うことを契約する文書となるため、課税対象となり印紙が必要となります。
ちなみに印紙が必要となる場合の納付方法は、作成した文書に収入印紙を張り付けて消印することで納付したこととなります。
収益事業を行って得た収入は課税対象となるため、消費税の納税が義務付けられます。
ここでは、宗教法人とインボイス制度について簡単に解説します。
インボイス制度とは、2023年10月1日にスタートした、サービスや商品を提供する際の消費税を確定するための制度です。
サービスや商品の取引において、「適格請求書発行事業者」に登録した課税事業者が、取引の詳細と消費税を明記した「適格請求書」(インボイス)を発行します。
これに基づいて取引に対する消費税を計算・納付することで、税務の透明性を高め、正確な税額の確定を促進します。
寺院などにおいて主教活動のみを行っている宗教法人の場合、そもそも消費税を納める必要がありませんので、インボイスを検討する必要はないと言えます。
一方、収益事業を行っている宗教法人においては消費税が課税されることになりますので、特に収益事業の売り上げが年間1,000万円を超える場合には、インボイスの登録を検討する必要があるでしょう。
このような場合にインボイスを登録しないことによるリスクとして、取引先はインボイス登録事業者との取引を求めることも多いため、インボイスの登録をしていないことで、値上げが発生したり、取引機会を損失したりなどが考えられます。
宗教法人だけではなく、役員個人の確定申告が必要となるケースがあります。以下のようなケースでは、その年の所得を合計し、確定申告をするようにしましょう。
つまり、給与の合計や一定の金額を超えた場合と、宗教法人からの給与以外の収入がある場合には役員個人で確定申告を行う必要があるケースもありますので、注意が必要です。
宗教法人の宗教活動で得た収入は非課税ですが、役員などの個人に支払う給与などは課税対象となるため、納税義務が発生します。
現金で支給した給与以外にも、現物給与として源泉徴収の対象となるものもありますので、日ごろから法人の経費と個人の経費を整理しておくようにしましょう。
また、収益活動を行って得た収入には消費税が課せられ、それに伴って必要となる文書についても印紙が必要となるケースがあります。
ただし、課税対象か否かなどの細かな判断は一般的には困難であることも多いため、税理士に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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