2025.05.12
  • 税務調査

医療法人の税務調査の流れとは?指摘されやすいポイントと対策

読了目安時間:約 6分

医療法人にも納税の義務はあり、医療法人であっても税務調査は入ります。正しく申告を行っているつもりでも、税務調査と聞くと何か指摘を受けるのではと不安になるケースも少なくありません。

では、医療法人を対象とした税務調査では、どのような流れで調査が進められるのでしょうか。今回は、医療法人の税務調査の流れや指摘を受けやすいポイント、事前にできる対策などについてご説明します。

 

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医療法人の税務調査とは

医療法人の税務調査とは、医療法人が正しく申告を行い、正しい額の納税を行っているかを調べる調査です。

 

税務調査の2つの種類

税務調査は大きく分けると「強制調査」と「任意調査」の2つに分けられます。強制調査とは、国税局査察部の調査官が裁判所の令状を持って、強制的に行う調査です。多額の脱税が疑われる場合などは、強制調査が行われます。

一方、一般的に税務調査と呼ばれているのは税務署の調査官が実施する任意調査です。任意調査は、納税者の同意・協力のもとに行われる調査であり、原則として強制調査のように突然、調査が開始されることはありません。医療法人に対して実施される税務調査も、多額の脱税などの疑いがない限り、税務署の調査官による任意調査です。

 

税務調査の目的

税務調査の目的は、申告内容が正しいか、納税額が正しいかを調べ、申告内容にミスがあったり、納税額に不足があったりした場合には是正を求めることです。申告内容が正しいかどうかを調べるためには、申告書の作成根拠となる帳簿や書類などと照合しなければなりません。そのため、税務調査では申告書だけでなく、決算書や総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、領収書、請求書、契約書など、関連する帳簿書類を細かく調査します。

 

医療法人の税務調査の流れ

医療法人を対象に税務調査(任意調査)が実施される場合は、一般的に次のようなステップで調査が進められます。

 

1.税務調査の事前通知

任意調査の場合、原則として強制調査のように、調査官が予告なく現場を訪れ、有無を言わさず調査を開始するといったことはありません。一般的には、事前通知というものがなされ、予め税務調査に入る旨が伝えられます。

事前通知では、税務調査に入る旨と対象となる税目、調査対象期間、準備が必要な書類などが伝えられ、税務調査に入る日時についても示されます。事前通知は、税務調査の実施予定日の数週間前に行われるケースが一般的です。

税務調査の際には、さまざまな帳簿書類のチェックを行うため、突然、医療法人を訪れて税務調査を開始しても、書類がそろわないために調査が進まない恐れもあります。そのため、ある程度の余裕を持ったスケジュールで事前通知を行い、調査がスムーズに進むよう調査対象期間の書類を準備しておくよう、納税者に協力を依頼するのです。

また、提案された税務調査の日程の都合がつかない場合などは、事情を説明すると都合のよい日程にスケジュールを変更してもらうことができます。例えば、休診日明けの患者数が多い日を提案された場合などは、診察が忙しいことを理由に日程調整をしてほしい旨申し出て問題ありません。

なお、顧問税理士がおり、申告書類を提出する際に税務代理権限書を添付し、提出している場合には、医療法人ではなく顧問税理士宛てに連絡をしてもらうことも可能です。

 

2.必要書類の準備

税務署からの事前通知の際には、準備が必要な書類についても伝えられます。また、調査対象期間も伝えられるため、日程が決まったら必要な書類の準備を進めましょう。

税務調査の一般的な調査期間は過去3年間です。しかしながら、過去3年の帳簿書類を確認したところ、不審な点や処理のミスなどが見つかった場合には、過去5年分を遡って調べるケースもあります。そのため、書類を準備する際には過去5年分程度を準備しておくと安心です。

また、顧問税理士がいる場合には、税理士と相談をして準備を進めるようにします。

 

3.税務調査当日

税務調査の当日は、指定の日時に調査官が訪れ、税務調査が開始されます。医療法人に対する調査は1日から2日程度で行われるケースが一般的です。しかし、規模の大きな病院の場合などは、2日以上にわたって調査が行われるケースもあります。

調査の際には、最初に患者の層や患者数、診療内容など、医院やクリニックの状況についてのヒアリングが行われます。その後、帳簿や書類などを確認する作業が進められます。書類をチェックする中で、内容に疑義が生じた場合には質問がなされ、納税者に回答が求められます。質問の意図が分かりにくい場合などは、曖昧な状態で答えてしまうと誤解が生じる恐れもあります。質問に回答する際には、質問の内容をしっかりと確認したうえで、適切に回答するようにしましょう。税理士に立ち会いを依頼する場合には、税理士にサポートを求めても問題ありません。

 

4.調査結果の通知

実地での調査終了後、約1ケ月後に税務調査の結果が通知されます。申告内容に問題がなかった場合は、そのまま税務調査は終了です。しかし、何らかのミスや申告漏れなどが指摘された場合には、指摘事項に沿って修正申告を行わなければなりません。また、修正申告の際には、不足分の税金や加算税などの納付も必要となります。

 

医療法人の税務調査で指摘されやすいポイントとは

医療法人を対象とした税務調査でも、チェックされるのは、売上が正しく計上されているか、経費を過剰に計上していないかという点です。具体的には次のようなポイントを指摘されるケースが多いでしょう。

 

クレジットカード払いの診療の売上計上日が正しいか

医療法人によっては、患者の利便性を考え、クレジットカードでの支払いを可能にしているケースがあります。クレジットカードでの支払いの場合、診療をした日に診療代金が支払われるわけではありません。そのため、中には診療日ではなく、クレジットカード会社から入金された日に売上を計上するケースがあります。クレジットカード払いの場合でも、売上の計上日は診療を行った日です。そのため、医療法人の税務調査では、クレジットカード払いの診療代金の計上日について指摘されるケースが多くなっています。

 

自由診療収入の処理

保険診療の場合、診療内容に合わせて保険点数が決められており、支払基金にレセプトを提出することで、医療費が支払われます。そのため、保険診療において不正ができる可能性は高くはありません。しかし、自由診療の場合、健保組合などを通さず、直接、患者からお金を受け取ります。そのため、自由診療の収入については計上漏れや過少計上をしているケースが見られます。自由診療の割合が多い医療法人などでは、自由診療収入について指摘されるケースが多くなっています。

 

自賠責収入の計上時期と入金先

自賠責保険が適用される診療を行う場合は、医療機関から損害保険会社に患者ごとの治療費を請求します。損害保険会社によって、請求から入金までの期間が異なるため、管理が煩雑になるケースも少なくありません。そのため、診療日ではなく、保険会社から入金があったタイミングで計上しているケースがあるのです。

自賠責収入についても収益は、治療が終了した時点もしくは請求する時点で計上しなければなりません。医療法人を対象とした税務調査では、自賠責収入の計上時期にずれがないか、チェックが行われます。

また、自賠責収入の入金先は、個別に指定できるため、中には自賠責収入の入金先を通常とは違う口座に指定し、収入を隠蔽するケースもあります。この点からも自賠責収入については、細かくチェックされるケースが多くなっています。

 

棚卸資産が正しく計上されているか

クリニックや病院では、医薬品や医療材料など、多くの在庫を抱えます。そのため、医療法人においては、医薬品や医療材料の仕入れに関する不正が多く見られます。したがって、税務調査では、棚卸資産も重点的なチェック項目です。特に、期末の棚卸資産の計上額が正しいか、期限切れの在庫はどのように処理されているかなどについて、厳しいチェックが行われます。

 

プライベートな費用の経費計上

医療法人の中には、理事長のプライベートな支出を経費として計上している事例も見られます。そのため、交際費として計上されている支出については、医療法人の運営に必要な支出であったのか、相手との関係性なども確認しながら厳しくチェックされる傾向にあります。

また、交際費だけでなく、消耗品などで計上されている費用にも、プライベートな支出が含まれるケースもあります。そのため、領収書などと突き合わせて、プライベートな支出が含まれていないか詳しい調査が行われます。

 

親族への人件費が適正な金額か

医療法人の中には、理事長の親族を役員にし、役員報酬を支払っているケースがあります。親族であっても、支払われる役員報酬に見合った働きをしている場合、役員報酬を支払っていても何ら問題はありません。しかし、中には、実務に就いている実態がないにもかかわらず多額の役員報酬を支給している場合があるのです。

したがって、医療法人に対する税務調査では、役員報酬の額が適正であるか、さらに親族が役員となっている場合は実態に応じた額を支給しているのかが厳しくチェックされる傾向にあります。

 

税務調査をスムーズに終えるためには

医療法人に限らず、税務調査をスムーズに終えるためには次のような対策がポイントとなります。

 

期限内に正しく確定申告を行う

医療法人であっても、確定申告をしていなければ、納税義務を怠っていることになり、税務調査の対象に選ばれてしまいます。

税務調査の対象に選ばれると、調査時の立ち会いが必要になり、業務に支障が生じる可能性もあるでしょう。また、過去の帳簿等の提出も必要になるため、調査のための準備にも手間がかかります。まずは、期限までにしっかりと申告を行うことが重要です。

 

売上を正しいタイミングで計上する

クレジットカード払いや自賠責収入など、診療日と診療費の入金がずれる場合、売上を入金日に合わせて計上してしまうケースがあります。売上の計上日は、原則として診療を行った日です。売上の計上時期がずれていないかは税務調査時に必ずチェックされるポイントとなります。日頃から売上は診療日に計上するよう徹底しておきましょう。

 

在庫を適切に管理する

医療法人において、医薬品や医療材料の在庫は不正が行われやすいポイントです。取り扱う医薬品などの種類も多いため、作業は煩雑になりますが、品名と単価、数量をしっかり確認しておくようにしましょう。また、医薬品の期限切れや在庫切れは、治療にも影響を及ぼす可能性があります。適切な診療を行うためにも、医薬品や医療材料の在庫は適切に管理しておくことが大切です。

 

プライベートな支出と事業の支出を明確に区分する

医療法人であっても、交際費を経費として計上することは可能です。しかし、経費として計上できるのは、事業に関連した費用に限られます。例えば、医療法人に勤務していた医師が独立し、開業した場合に開業のお祝いとしてお花を送るケースがあるかもしれません。そのような場合、お花の費用は交際費として計上が可能です。しかし、理事長の個人的な知り合いに贈ったプレゼントなどの購入代金や理事長が家族と行ったレストランの代金などを経費として計上することはできません。

医療法人の規模に比べて、交際費として計上する金額が大きすぎる場合、調査官が不審に思う可能性が高くなり、交際費について厳しいチェックが行われるでしょう。プライベートな支出と事業の支出は、明確に区分することが大切です。

 

まとめ

医療法人を対象とした税務調査では、売上の計上時期や計上漏れ、在庫の計上が正しく行われているか厳しくチェックされる傾向にあります。また、交際費としてプライベートな支出が計上されていないか、親族に対する役員報酬の額は適正であるかについても、指摘されやすいポイントです。

日頃から正しく帳簿付けを行い、正しく確定申告をしているようであれば、税務調査の対象になっても過度に恐れる心配はありません。しかしながら、プライベートな支出と事業の支出の区分が不明確であったり、正しく在庫を管理していなかったりした場合などは、税務調査時に不正を指摘される可能性が高くなります。

税務調査で計上ミスや不正を指摘された場合、過少申告加算税などのペナルティが課せられます。また、なにより税務調査で不正が発覚した場合、患者に与える影響も大きく、医療法人の運営にもマイナスの影響が出る恐れもあります。

日頃の経理処理に不安がある場合には税理士にも相談しながら、正しく確定申告を行うようにしましょう。

 

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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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