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業務を遂行するために必要な支出は、経費として扱うことができます。また、経費として扱えるものを経費として計上すると、課税所得額から経費の額を差し引けるため、所得税や法人税の節税につながります。そのため、個人事業主の方や法人の事業主として事業を営んでいる方などは、事業のための支出は経費計上することが大切です。
では、経費で落とすと、具体的にどのくらい得になるのでしょうか。また、実は「経費で落とすと得になる」という理論には誤解が含まれているケースが少なくありません。
そこで今回は、経費で落とすとどれくらい得になるのか、また、経費で落とすことに関する誤解などについてご説明します。
目次
経費で落とすとは、事業のためにかかった支出を経費として計上することです。例えば、オフィスの家賃や光熱費、営業のためにかかった交通費などは経費として計上することができます。これらの支出を経費で落とすと、課税される所得額が圧縮されるために、節税につながります。
しかしながら、経費で落とすことができるのは、事業に関連する支出のみであり、事業とは関連性のない支出を経費で落とすことはできません。経費で落とすと、法人税や所得税の節税につながるため、得になると考え、事業に関連のない支出まで経費に計上すると税務調査時に指摘を受けることになります。不正に経費を水増しして計上した場合、ペナルティを受ける可能性があるため、経費で落とす場合には、経費で落とすことができる支出のみを正しく計上することが大切です。
経費で落とすことができる支出は、経費で落とすと得になります。まず、法人の場合は、課税所得×税率で法人税が決定します。課税所得とは、益金から損金を差し引く形で算出しますが、経費は損金として処理できる支出です。経費の額が多くなれば損金が増えるため、課税所得額が少なくなり、課される法人税も軽減できます。
一方、個人事業主の場合、課される所得税は売上から経費で算出した課税所得額に応じて変わってきます。個人事業主に課される所得税は、課税所得額が高くなればなるほど税率も高くなる累進課税制度が採用されています。そのため、課税所得額が高くなると、税率も高くなり、納める所得税が高くなってしまうのです。さらに、住民税や国民健康保険料も課税所得額に応じて決定するため、課税所得額が高い場合、住民税や国民健康保険料の額も高くなります。したがって、経費で落とせる支出は経費で落とすと、個人事業主の場合も所得税や住民税、国民健康保険料の負担を抑えることが可能です。
経費で落とすと得になる理由は、課税所得額が低くなることによって、法人の場合は法人税、個人事業主の場合は所得税や住民税、国民健康保険料の負担が軽減されるからです。
では、実際、経費で落とすとどのくらい得になるのでしょうか。
ここでは、年間の売上が500万円の個人事業主が経費で落とすことでどのくらい得になるのかについてのシミュレーションを3パターンご紹介します。ただし計算を分かりやすくするため、復興特別所得税や住民税、国民健康保険料は考慮せず、所得税額の負担だけで、どれくらい得になるのかを計算しています。
国税庁では、所得税の金額を簡単に算出できる所得税の速算表を公開しています。この速算表に基づいた税率、控除額で計算をしていきます。
<所得税の税率>
参照:国税庁「所得税の税率」
まず、初めに、経費が全くかからなかった場合を考えます。経費が0円のため、売上-経費で算出する利益は、500万円となります。
令和7年・8年分については、合計所得金額が500万円の場合の基礎控除額は63万円(令和9年以降の基礎控除額は58万円)となります。ここでは、基礎控除を63万円として計算します。500万円から63万円の基礎控除を引いた課税所得額は、437万円です。
所得税の額は「課税所得額×税率-控除額」で算出します。
課税所得額が437万円の場合、速算表を見ると適用される税率は20%、控除額は42万7,500円です。したがって、上の式に当てはめると、所得税の額は437万円×20%-42万7,500円=44万6,500円となります。
・経費0円
・所得税額 44万6,500円
次に、経費で落とした額が100万円だった場合を考えてみます。この場合、課税所得額は、500万円(売上)-100万円(経費)-63万円(基礎控除)=337万円と計算できます。
課税所得額が337万となり、337万円に課される税率も経費0円の時と同じく、20%、控除額42万7,500円となります。所得税の計算式に当てはめると、所得税の額は337万円×20%-42万7,500円=24万6,500円と計算できます。
経費0円の時の所得税額は44万6,500円であったことから、100万円の経費を計上した場合、20万円、所得税が軽減されることが分かります。
・経費100万円
・所得税額 24万6,500円
最後に、経費で落とした額が200万円だった場合の所得税額を計算してみます。この場合、課税所得額は500万円(売上)-200万円(経費)-63万円(基礎控除)=237万円となります。課税所得額が237万円の場合の税率は10%、控除額は9万7,500円であるため、所得税は、237万円×10%-9万7,500円=13万9,500円と計算できます。
経費0円の時と比べると30万7,000円、経費100万円の時と比べると10万7,000円、所得税の負担が軽くなることが分かります。
・経費 200万円
・所得税額 13万9,500円
年間売上高が500万円の個人事業主が0円、100万円、200万円の3パターンの経費計上をした場合、どのくらい所得税額に差が出るかをまとめると、次の表のようになります。
経費で落とすと、所得税だけでも負担額が大きく軽減されることが分かりました。さらに、個人事業の場合は、住民税や国民健康保険料を考慮すれば、経費で落とすことで個人の負担を減らせることがお分かりになるでしょう。
経費で落とすとこれだけ得になるのであれば、できるだけ経費で落としたいと思うかもしれません。しかし、全ての支出を経費として計上できるわけではありません。個人事業主や法人が経費として計上できる費用には次のようなものがあります。
・租税公課
固定資産税や個人事業税、法人事業税など
・人件費
従業員に支払う給与や賞与など
・法定福利費
健康保険料や厚生年金、雇用保険の雇用主負担分にあたる費用
・福利厚生費
従業員の福利厚生に関わる費用
・消耗品費
コピー用紙やボールペンなどの文房具代、雑貨など、10万円未満かつ使用期間が1年未満のもの
・水道光熱費
事業のためにかかった水道料金や電気料金、ガス料金など
・接待交際費
取引先の接待をするためにかかった飲食費やお中元・お歳暮の代金など
・旅費交通費
営業活動にかかった交通費や出張時の交通費、宿泊費など
・通信費
電話代や携帯電話料金、インターネット回線料金、切手代、はがき代など
・広告宣伝費
パンフレット印刷代やチラシ印刷代、インターネット広告掲載費用など
・地代家賃
事業所の家賃や事業用車両の駐車場代など
・減価償却費
10万円以上かつ使用期間が1年以上の機械や設備の購入費用で法定耐用年数に応じて支払う費用
・修繕費
事務所や機械などの修繕にかかった費用
・支払手数料
金融機関への振込手数料など
次のような費用は経費で落とすことができません。
・プライベートな飲食費
・プライベートで出かけた場合の交通費
・取引とは関係のない人や家族に贈り物を購入した場合の費用
・法人税や法人住民税、個人事業主の所得税、個人住民税
・個人事業主の国民健康保険料や国民年金保険料
経費で落とすことができる支出は、経費として計上すれば、法人税や所得税の負担軽減につながります。そのため、経費として計上できる支出であれば、漏れなく経費計上をすることが大切です。
しかしながら、個人事業主の方や法人の事業主の方には、経費で落とすと得になるとして、次のような勘違いをしている事例も見られます。
経費で落とす場合、事業主の私財が減るわけではありません。そのため、経費で落とすと実質負担がなくなるようなイメージを持つ場合があるようです。しかし、経費で落とすと得になるのは、税金の負担が減るという意味合いです。経費が増えれば、その分、利益から差し引く金額が増えるために会社や事業の利益は減少します。
利益が減少すれば、税金の負担を軽減できるためお得になると考え、経費をどんどん使うと、事業の利益も低くなり、手元のキャッシュが減ることを忘れないようにしましょう。経費で落とすと得になるという考えだけが先行し、経費の額をできるだけ高くするよう支出をすると、事業の存続が危うくなるケースも出てきます。さらに、事業の拡大を検討している場合などは、利益が低すぎると事業としての安定性に欠けると判断され、金融機関に融資を申請しても審査に通らない可能性も出てくるのです。
経費で落とすと得になるのは、事業のために必要となった支出を正しく計上すれば、税負担が軽減されて得になるという意味となります。経費で落とすと、会社や事業の利益は減少していくことを忘れないようにしましょう。
納税の義務のある個人や法人は、税務調査の対象になる可能性があります。税務調査は税務署によって実施される、納税者が正しく納税しているかどうかを詳細に調べる調査のことです。税務調査は、正しく、公平な納税の実現を目指して実施される調査であり、調査時には、売上を過少に申告していないか、経費を水増しして計上していないかといった点が重点的に調べられます。
多少の違いはあるものの、売上に対する経費の割合が同業種の中で大きく変動することはありません。そのため、同業者と比べて、極端に経費の割合が多い法人や個人事業主の場合、税金を不正に逃れるために経費を過剰に計上しているのではと疑われる可能性があるのです。
税務調査の対象となり、経費として計上できない支出まで経費計上をしていると指摘された場合、経費の否認によって課税所得額が増え、納税額が不足する事態に陥ります。また、正しく申告をしていなかったペナルティとして過少申告加算税も課されるため、不足分の税額に加え、過少申告加算税も加えた額の納税を求められることになるのです。
経費で落とす際には、経費として計上できる支出だけを、正しく計上するようにしましょう。
経費で落とすとどれくらい得になるのか、年収500万円の個人事業主の方を例にシミュレーションをしてみました。事業にかかった支出は漏らさず経費で落とすと課税所得額を圧縮できるため、節税につながります。これが経費で落とすと得になると言われる理由です。
しかしながら、中には経費で落とすと得になるという言葉を誤解し、経費で落とすとタダになるようなイメージを持っている方もいるようです。経費で落としても支出そのものがなくなるわけではありません。経費が増えれば、その分、会社や事業の利益は減少します。利益の減少によって、キャッシュフローが悪化したり、融資審査に通りにくくなったりといったリスクが生じる恐れもあります。さらに、節税しようと経費にできない支出まで経費で落とすと、税務調査時に指摘を受け、ペナルティを科される点にも注意しなければなりません。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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