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大手企業の場合、各地にある事業所や顧客を訪問するケースも多いため、出張手当などの支給ルールが決められているケースがほとんどです。出張手当の支給には、法人側にも一定のメリットがあります。そのため、これまで出張手当を支給していなかった中小企業の場合でも、出張手当を導入したいと考えるケースもあるのではないでしょうか。
出張手当の導入にあたって、まず決定しなければならないのは、出張手当の金額です。しかし、出張手当の相場がわからなければ、初めての出張手当の導入にあたり、どのくらいの金額が妥当なのか、判断がしにくいでしょう。
そこで今回は、中小企業が参考にしたい出張手当の相場や支給額の決定方法、出張手当導入時の手続きなどについて解説します。
目次
出張手当とは、出張に行った場合に支給する手当のことです。出張をした場合、訪問先までの交通費や宿泊費がかかります。旅費交通費については当然、経費として精算し、会社が負担額を支給します。しかし、遠方への出張の場合、普段の勤務とは異なるために心身にかかる負担も大きくなります。また、通常勤務であれば自宅で食べられる食事も出張時には、自炊ができないため、外食をしなければなりません。そのほか、家族へ連絡するための通信費なども必要になるでしょう。
交通費や宿泊費は経費として精算できますが、外食の費用や家族への通信費などを経費として請求することはできません。そこで、出張に伴う心身の疲労や出張中の食事などの費用負担を軽減するために支給する費用が出張手当です。会社によっては、出張手当ではなく、旅費日当といった言葉を使用するケースもあります。
出張手当の支給額の相場は、役職や出張の形態によって変わってきます。2023年8月に財務省では「民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート報告書」を公表しました。このアンケートは、民間企業に委託し、無作為に抽出した上場企業3,000社を対象に実施されたものです。そのため、中小企業の出張手当の相場ではないものの、出張手当の金額を知るうえでは有効な資料になるのではないでしょうか。
このアンケート結果では、国内出張と海外出張における出張手当の相場は以下のようになっています。
国内出張において出張手当を支給しないと回答した会社は11.6%です。したがって9割近い会社が国内出張でも何らかの出張手当を支給していると考えることができます。また、出張手当の支給基準については「往復行程(距離)により判断している」としたケースが49.4%、「宿泊の有無により判断している」としたケースが44.8%と多くなっています。
さらに、役職によって区分をしていないケースは31.6%、2つの区分に分けているケースが16.8%、3区分に分けているケースが17.5%という結果です。
支給額の相場は、2,621円、最低額の平均値は1,780円、最高額の平均値は3,786円です。しかし、アンケート結果を細かく見ると、最高額については2,000円~2,499円と回答した企業が18.1%と最も多くなっていますが、5,000円~9,999円と回答した割合も15.0%となっています。したがって、平均をすると2,621円が国内出張の出張手当の相場になるといえますが、支給額にはかなり開きがあると考えてよいでしょう。
海外出張の場合、定額を支給する企業が81.5%となり、出張手当を支給しない企業は11.3%となっています。また、役職による区分をしていない企業が32.5%、2区分の企業が19.4%、3区分が19.8%という結果が示されています。さらに、出張する地域や期間などによって支給額を区分するかという質問に関しては、区分しないと回答した企業が65.3%にも上っています。
円で支給する場合の出張手当の相場は、平均すると5,441円です。最低額の平均値は4,285円、最高額の平均は7,041円となっており、いずれも国内出張の出張手当に比べると高額な値となっています。
また、最低額についても、最高額についても、最も多かった回答は5,000円~5,999円です。ただし、回答結果を細かく見ると、最低額の場合は5,000円以下としている企業の方が多く、最高額については5,000円以上14,999円以下としている企業が多くなっています。
参照元:財務省「民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート報告書」
上記の調査では、大手企業の約9割は、国内出張でも海外出張でも出張手当を支給していることが分かりました。では、出張手当の支給にはどのようなメリットがあるのでしょうか。中小企業が出張手当を支給するメリットを3つご紹介します。
出張手当を支給することで得られるメリットの1つ目が、節税効果を得られる点です。これは、出張手当は損金として扱うことができ、さらに、消費税の課税対象となるためです。
出張手当は、経費として扱うことが認められています。損金の額が増えれば、課税所得額を圧縮できるため、節税につながります。ただし、出張手当の金額が社会通念上適当と思われる額に比べて大きすぎる場合などは、損金計上が認められない可能性があるため、注意が必要です。
国内出張に対して支給する出張手当は、消費税の課税仕入れとして扱えます。消費税の仕入れ額控除を行う際、出張手当についても課税仕入れとして売上にかかる消費税の額から差し引くことができるのです。
出張手当は、出張をした役員や従業員に支給する手当であり、消費税の支払いがあったわけではありません。しかし、税務上では課税対象として扱うことができるため、出張手当を支給すると消費税の納税額を抑えられます。
出張の際には、遠方への移動が伴うと同時に、普段の勤務とは異なる対応が求められるため、従業員には肉体的にも精神的にも負担が伴います。前述のように大手企業の約9割が出張手当を支給している中、中小企業だからという理由で出張手当を支給していない場合、従業員の不満が募る可能性があります。反対に、中小企業であっても、出張に伴う負担に対する労いとして出張手当を支給すれば、従業員のモチベーションアップが期待できます。
出張手当は、従業員に支給される手当ですが、給与所得には該当しません。そのため、出張が増え、支給された出張手当の額が増えても従業員の所得税や住民税、社会保険料などの負担が増えることがない点もメリットです。
前述のように、出張手当は給与所得としては扱いません。そのため、従業員の税金や社会保険料の額にも影響を与えませんが、会社負担分の社会保険料の額にも影響しないことになります。
同じ額を出張手当ではなく、給与として支給した場合、会社負担分の社会保険料も大きくなってしまいます。出張手当は、給与所得として扱う必要がないため、結果として会社の社会保険料負担も軽減できるのです。
出張手当を支給し、損金計上を行うためには、しっかりと出張手当の支給に関する社内の規程を定めなければなりません。出張手当の支給を開始する際には、次の手順で制度の導入準備を進めましょう。
出張旅費規程とは、出張の際の交通費や宿泊費、出張手当等に関するルールを定めた規程のことです。一般的には、次のような項目について明記するケースが多くなっています。
出張について定義し、どのような場合に出張手当を支給するのかを示します。例えば「片道〇〇km以上の移動を伴うものを出張と定義し、出張手当を支給する」といったケースが考えられます。また、日帰り出張と宿泊出張で異なる額を支給する場合については、日帰り出張と宿泊出張についての定義を示し、支給範囲を明確にすることが重要です。
出張費の内訳として、交通費や宿泊料についての規程を記載します。例えば、新幹線移動でグリーン車の利用を認めるか、飛行機の移動でビジネスクラスの利用を認めるかについての明記も必要です。また、宿泊費についても1泊あたりの上限額について規定しておく必要があるでしょう。加えて、出張手当についても、日帰り出張の場合、国内出張の場合、海外出張の場合などに分けて基準額を記載します。
グリーン車などの利用の可否や宿泊費、出張手当の支給額などを役職ごとに区分したい場合には、旅費規程の中で明確な区分と基準を記載しておくようにしましょう。
出張手当を支給するのであれば、予め出張することを申請しなければなりません。もし、申請なしで出張を許可した場合、不正に出張を装い、出張旅費の支給を受けようとするなどの不正が行われる恐れもあります。
また、出張旅費の精算方法についても明記が必要です。一般的には出張旅費精算書を作成したうえで、領収書を添付し、上長や経理部門に提出することで精算を行います。この場合も書類の提出期限について、出張旅費規程の中で明確化しておきましょう。
出張旅費規程を作成するとともに、出張の申請方法についての整備も必要です。出張を申請制にしない場合、誰でも自由に出張に行くことができ、出張手当の支給を受けられるようになります。不正な受給を防ぐためにも申請フローをしっかりと定めておくようにしましょう。
一般的には、上長に対して出張する期間や訪問先、訪問の目的などを記載できる申請書を準備し、上長が承認した場合にのみ出張を許可するケースが多くなっています。書類で申請を行っている場合もあれば、ワークフローシステムを用いて運用するケースもあります。ワークフローシステムで出張の申請・承認がされれば、申請側も承認側も手間をかけずに作業を進められます。
出張旅費規程が完成し、出張の申請方法も整ったら、従業員に十分に周知を行ったうえで運用を開始します。ただし、運用をしていく中で、申請方法など、改善の必要が生じた場合には見直しを行うなど、自社にあった運用方法を構築していくことが大切です。
出張手当を支給する際には、いくつか注意しなければならないことがあります。
出張手当の支給額は、法律上で上限が決まっているわけではありません。したがって、企業が自由にその額を決定できますが、不相応に高い額の出張手当を支給していると、税務調査で指摘を受ける恐れがあります。したがって、出張手当を決定する際には、相場も踏まえたうえで、妥当な額に設定することが重要です。
出張手当は、損金算入が可能であり、消費税の課税対象にもなるため、税務調査の際には出張手当の正当性についても確認される可能性があります。出張手当の支給が正当なものであることを証明するためには、出張申請書や旅費精算書、領収書など、出張があったことを証明する書類を保管しておくことが重要になります。
出張旅費規程を作成する際には、出張に関する書類の保管ルールについても定めておくようにしましょう。
主張手当が、一部の従業員だけに支給されるものであってはなりません。役職等による区分はあったとしても、全従業員が平等に利用できる制度であることが大切です。また、旅費規程も従業員がしっかり確認できるよう、周知を徹底しましょう。
事業の成長に伴い、出張の機会が増加したことで出張手当の支給を検討する中小企業もあるのではないでしょうか。出張手当の金額についての法的なルールはないため、金額は企業が自由に設定できますが、国内出張の場合は2,000円~4,000円、海外出張の場合は4,000円~7,000円程度が相場となっています。
出張手当は損金算入ができ、消費税の課税対象となるため、出張手当の支給は節税にもつながります。また、出張手当は給与所得には該当しないため、従業員の税負担や社会保険料の負担が増すこともなく、手取り額を増やせる点もメリットです。
まだ出張手当の支給を行っていない場合は、今回ご紹介した出張手当の相場を参考にしながら出張旅費規程を策定し、運用を始めてみてはいかがでしょうか。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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