2025.11.4
  • 税務調査

医療法人で消費税の納税が必要になるケースとは?

読了目安時間:約 6分

公的医療保険が適用される診療(社会保険診療)は、消費税が非課税です。そのため、医療法人には消費税の納税義務はないと思われるかもしれません。しかし、医療法人であっても消費税を納税しなければならないケースがあります。では、医療法人では、どのような場合に消費税が課税されるのでしょうか。

また、消費税の課税対象となるサービスを提供していても、すべての医療法人に消費税の課税義務が生じるわけではありません。消費税の納税義務が生じるかどうかは、課税売上高によって変わってくるからです。

今回は、消費税の課税対象となる医療サービスや消費税の納税が必要になるケースなど、医療法人と消費税の関係についてご説明します。

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医療法人と消費税の関係

まず、医療法人と消費税の関係からご説明します。

消費税とは

まず、消費税とは、商品や製品を販売した場合やサービスを提供した場合に課される税金です。商品を購入した人やサービスの提供を受けた人が消費税を負担し、事業者は消費者に代わって国に消費税の納税をします。

例えば、スーパーやコンビニエンスストアで買い物をした場合、美容室で髪の毛を切った場合、お店に対して支払った消費税は、消費税の納税義務者である事業者が納税をしているのです。

消費税の非課税取引

現状では、ほぼすべての取引は課税の対象となっています。しかしながら、次のような取引は社会政策的な配慮から消費税が課税されません。

・土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除きます。)など

・有価証券、支払手段の譲渡など

・利子、保証料、保険料など

・特定の場所で行う郵便切手、印紙などの譲渡

・商品券、プリペイドカードなどの譲渡

・住民票、戸籍抄本等の行政手数料など

・外国為替など

・社会保険医療など

・介護保険サービス・社会福祉事業など

・お産費用など

・埋葬料・火葬料

・一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付けなど

・一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費など

・教科用図書の譲渡

・住宅の貸付け(一時的なものを除きます。)

上記のように、社会保険医療に関しては、消費税が課税されません。なぜなら、医療は国民の生命や健康を守る行為であるからです。

医療法人で消費税の課税対象となるサービス

医療法人では、社会保険医療に関しては消費税が課税されない一方で、消費税の課税対象となる医療サービスがあります。消費税が課税される医療サービスは以下のようなものです。

自費診療

社会保険が適用されない自費診療は、消費税の課税対象となります。例えば、美容整形やレーシック、矯正歯科、審美歯科などは、生命や健康の維持にとって必ずしも必要な治療であるとは言えないからです。また、保険給付の対象とするかの評価段階にある先端医療についても保険は適用されず、自費診療として扱われるため、消費税の課税対象となります。

差額ベッド代

入院時に個室や少人数の部屋など、特別療養環境室を希望した場合は、一般の病室との差額代が発生します。この差額ベッド代は社会保険医療の対象とは含まれないため、消費税の課税対象となります。

健康診断や人間ドック

健康診断や人間ドックは治療のために実施するものではなく、健康保険等の規定に基づかない医療行為となるため、消費税の課税対象となります。

予防接種

予防接種のうち、公費負担で実施される定期接種ではなく、任意で受ける予防接種は社会保険医療に該当しないため、消費税の課税対象となります。具体的にはインフルエンザや流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病などの予防接種が、消費税の課税対象です。

治験収入

製薬会社が開発中の新薬の効果を検証するために実施する治験実施施設となった場合、医療法人には製薬会社から研究費が支払われます。この治験収入には消費税が課税されます。

物品販売収入

サプリメントや特定保健用食品、栄養ドリンク、経口補水液、歯ブラシ、歯磨き粉などの販売によって得られた収入も消費税の課税対象です。

診断書発行手数料

患者さんの求めによって診断書を発行した場合、診断書発行手数料が発生します。診断書発行料金は社会保険医療の対象とはならないため、自費診療扱いとなり、消費税の課税対象となります。

医療法人で消費税の課税事業者になるケースとは

社会保険診療を中心に行っている医療法人の場合、消費税の課税対象となる収入はごくわずかになるでしょう。しかし、美容整形や審美歯科、矯正歯科などは自費診療が中心となるため、消費税の課税対象となる収入が多くなるはずです。

では、社会保険医療が中心の医療法人も自費診療が中心の医療法人も、消費税の納税が必要になるのでしょうか。この章では、消費税の課税事業者になる要件について解説します。

消費税の納税義務の判定は課税売上高で決まる

消費税の納税義務が生じるかどうかについては、基準期間と特定期間における課税売上高の額によって決まります。課税売上高とは、消費税の課税対象となる収入の額という意味合いです。したがって、医療法人の場合、社会保険医療による収入は含めず、自費診療や差額ベッド代、物品販売代、予防接種代など、消費税の課税対象となる収入の額を合計し、消費税の課税事業者となるかどうかを判定します。

基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合

医療法人の場合、原則として前々事業年度を基準期間とし、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務が生じます。例えば、2025事業年度の課税売上高が1,000万円を超えた医療法人は2027年の事業年度から消費税の課税事業者となります。

反対に、課税売上高が1,000万円を超えなければ、消費税の納税義務は生じません。

基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の課税事業者になるケース

基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、消費税の納税義務が生じる場合があります。法人の特定期間は、原則として前事業年度の開始日から6か月間で判定します。特定期間の判定は基準期間がない場合等に重要です。

特定期間の課税売上高が1,000万円を超え、特定期間の給与支払額が1,000万円を超える場合は、消費税の課税事業者となります。

また、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えているものの給与支払額が1,000万円以下の場合、特定期間の課税売上高が1,000万円未満であるものの給与支払額が1,000万円を超える場合は、消費税の申告をするかしないかを選択することが可能です。

消費税の計算の仕組み

消費税の納税額を計算する際には、仕入税額控除を行います。仕入税額控除とは、預かった消費税から支払った消費税の額を差し引き、消費税の納税額を計算する方法のことです。

インボイス制度が開始となり、仕入税額控除を適用させるためには適格請求書発行事業者としての登録が必要になっています。

企業などから従業員を対象とした予防接種や健康診断などを受け入れている場合、インボイスに対応していないと企業は予防接種や健康診断にかかった消費税の仕入税額控除をできません。そのため、企業はインボイスに対応していない医療法人ではなく、適格請求書発行事業者である医療法人を優先的に利用する可能性があり、適格請求書発行事業者として登録すべきか悩むケースもあるでしょう。

適格請求書発行事業者となった場合、売上高に関係なく消費税の納税をしなければなりません。また、経理業務の手間が増えるといったデメリットもあります。

適格請求書発行事業者として登録すべきかどうかは、提供している医療サービスの売上状況などを鑑みながら検討すべきでしょう。

医療機関における消費税の計算方法

消費税の計算方法には、売上にかかる消費税から仕入れにかかる消費税を差し引いて消費税額を算出する方法と、より簡易的な方法で消費税額を算出する簡易課税と呼ばれる方法があります。

簡易課税制度

簡易課税とは、みなし仕入れ率を用いてより簡単に消費税の納税額を計算する方法です。

簡易課税制度を利用できるのは、次の条件を満たした事業者に限定されます。

・基準期間の課税売上高が5,000万円以下

・簡易課税制度選択届出書を提出している

まず、簡易課税制度の適用を受けようとする前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下であることが一つの条件となります。また、簡易課税制度選択届出書を課税期間の初日の前日までに、税務署に届け出ていなければなりません。

簡易課税制度を用いた消費税の計算方法

簡易課税制度を用いた消費税納税額は、以下の式で計算します。

消費税の納税額=課税期間中の課税売上にかかる消費税額-売上にかかる消費税×みなし仕入れ率

みなし仕入れ率は事業区分によって異なり、医療法人の場合は、課税対象サービスによって次のようなみなし税率を用います。

・物品の販売:小売業に該当するため第2種事業に該当し、みなし仕入れ率は80%

・差額ベッド代、予防接種、自費診療など:サービス業に該当するため、みなし仕入れ率は50%

医療法人が簡易課税制度を利用するメリット

簡易課税制度を利用しない場合、仕入にかかった消費税額を計算する必要があります。しかし、簡易課税制度を利用すると、売上にかかる消費税額にみなし仕入れ率をかけ、その額を売上にかかる消費税から差し引くことが可能です。仕入れにかかった消費税額を計算する必要がないため、消費税額の計算の手間を軽減することができます。

また、みなし仕入れ率をかけることで消費税の節税につながる可能性もあります。

医療法人が簡易課税制度を利用するデメリット

医療法人の場合、物品の販売やその他の事業でみなし仕入れ率が異なるため、それぞれ異なるみなし仕入れ率をかけて計算しなければなりません。そのため、自費診療や予防接種、健康診断などに加えて、物品の販売も行っている場合などは、簡易課税制度を利用してもそれほど計算の手間を軽減できない可能性があります。

また、簡易課税制度を利用することでかえって納付すべき消費税額が多くなるケースもあります。例えば、自費診療や予防接種、差額ベッド代などのみなし仕入れ率は50%となるため、場合によっては、簡易課税制度を利用しない方が納税額を低く抑えられるケースがあるのです。

医療法人の消費税については税理士に相談を

医療法人が消費税の課税事業者になるべきか、消費税の課税方式をどうすべきかなどに悩む場合は、税理士への相談をおすすめします。税理士に相談すべき理由は以下の3つです。

消費税の計算は複雑

医療法人の場合、社会保険医療に関わる収入については、消費税が課税されません。しかし、自費診療や予防接種、健康診断など、一部、消費税の課税対象となる事業もあります。

消費税の課税事業者となり、消費税の納税をする際には、消費税の申告を行わなければなりません。消費税の申告書には、消費税額の計算表を添付する必要がありますが、現在、消費税の税率には8%と10%があり、税率ごとに計算を行う必要があります。また、簡易課税制度を利用する場合でも、医療法人の場合は複数のみなし仕入れ率が適用されます。そのため、消費税の課税対象となった売上高を区分し、それぞれに適応されるみなし仕入れ率をかけて消費税額を算出しなければなりません。

複雑な作業が必要になる消費税の申告は、専門的な知識も必要です。そのため、多くの医療法人では、消費税の課税事業者となる場合、税理士に申告業務を依頼しています。

適格請求書発行事業者として登録すべきかの相談が可能

インボイス制度がスタートし、企業は仕入税額控除ができるよう、インボイスに対応している医療機関を予防接種や健康診断の対象施設として選択する動きが見られるようになりました。適格請求書発行事業者として登録した場合、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税をしなければなりません。しかし、社会保険医療による収入がメインであり、消費税の課税対象となる医療サービスの収入がそれほど大きくないのであれば、消費税の額もそれほど多くはなりません。

企業からの依頼による予防接種や健康診断による収入がある程度あるのであれば、課税売上高が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者として登録した方が良いケースもあります。税理士であれば、適格請求書発行事業者として登録すべきかどうかについてのアドバイスも行えます。

消費税の計算ミスにより税務調査の対象になる可能性がある

消費税の計算は非常に複雑です。消費税の申告書の内容に誤りがあった場合、税務調査の対象となり、過少申告加算税などのペナルティの納付を求められる可能性があります。税務調査の対象となれば、さまざまな書類を準備する必要があり、経理担当者には大きな負担がかかります。税理士であれば、正しく消費税の計算を行うことができるため税務調査のリスクを抑えることが可能です。

まとめ

社会保険医療は消費税の課税対象とはなっていません。しかし、自費診療や物品の販売によって得られた収入は消費税の課税対象となります。消費税の課税売上高が1,000万円を超えた場合、原則として翌々事業年度から消費税の課税事業者となり、消費税の納税が必要です。しかし、インボイス制度のスタートに伴い、課税売上高が1,000万円未満であっても適格請求書発行事業者として登録し、課税事業者となった方が良い場合もあります。

医療法人の消費税の計算は複雑です。正しく消費税を納税するためにも、納税額をできるだけ低く抑えるためにも、消費税について悩んでいる場合には税理士に相談することをおすすめします。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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