2025.11.5
  • 税務調査

医療法人の法人税の税率とは?非課税になるケースや注意点を解説

読了目安時間:約 6分

企業が利益の追求を目的に設立される法人であるのに対し、医療法人は医療という公益性の強いサービスの提供を目的に設立される法人です。企業と医療法人の間には、設立目的だけでなく、さまざまな違いが見られますが、いずれも法人であり、法人税の納税義務がある点は共通しています。

では、医療法人と企業に課される法人税の税率には違いはないのでしょうか?

今回は、医療法人の法人税の税率や法人税が非課税になるケースなどについて解説します。

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医療法人の法人税の税率

医療法人にはいくつかの種類があり、法人の種類によって法人税の税率は変わってきます。

一般的な医療法人の法人税

一般的な医療法人の場合は、普通法人として扱われます。課される法人税の税率は、企業に課される法人税の税率と変わりはありません。したがって、課される法人税の税率は、年間800万円以下の部分については15%、年間800万円を超える部分については23.2%となります。ただし、持分ありの医療法人で、出資額が1億円以上の場合の税率は、金額に関わらず23.2%です。

特定医療法人の法人税

特定医療法人とは、租税特別措置法に基づき、公益性の高い事業を営んでいる医療法人で、国税庁長官から承認を受けた医療法人のことです。特定医療法人は医療法上の法人種別ではなく、税制上の区分となります。

特定医療法人として承認を受けるためには役員の1人当たりの年間報酬額が3,600万円以下、医療診療収入は医師、看護師等の給与、医療提供に必要な費用の額の1.5倍以内でなければならないなど、厳しい要件が科せられています。

特定医療法人として承認された場合は、法人税の軽減税率が適用されます。年800万円以下の部分については15%と一般的な医療法人と変わりませんが、年800万円を超える部分については23.2%より低い19%の税率が適用されることになります。

 

社会医療法人の法人税

社会医療法人は、2007年度の医療法改正によって誕生した比較的新しい医療法人の区分です。社会医療法人制度は、地域で特に必要とされる救急医療や災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療などを提供し、公的医療機関の代替として地域医療を支える民間病院の経営を安定させるために新設された制度です。

社会医療法人設立の背景には、自治体が運営してきた公的医療機関の経営難が関係しています。社会医療法人は、公的医療機関の代わりとして公共性の高い事業営む医療法人であることから、社会医療法人の認定を受けると、法人税の優遇措置を受けられるようになっているのです。

社会医療法人の場合、病院や診療所における社会保険医療によって得られた収益は、法人税が非課税となります。

オープン病院事業法人

オープン病院事業を営む医師会や歯科医師会は、オープン病院事業法人のうち、一定の要件を満たし、厚生労働省の証明を受けた場合、社会保険医療の収益については法人税が非課税となります。

オープン病院事業とは、地域医療の確保を目的に、病院の施設や機能を地域の医師や歯科医師にも開放する病院のことです。オープン病院事業では、かかりつけ医の紹介によって来院した患者さんに対し、病院の医師とかかりつけ医が共同で診療を行います。

福祉病院事業法人

厚生労働大臣から福祉病院事業法人として認められた医療法人も、社会保険医療の収益に関しては法人税が非課税となります。

福祉病院事業法人とは、生活保護者等に対し、無料または低額で診療を行う医療法人のことです。福祉病院事業法人として承認されるためにはさまざまな要件があり、要件を満たした場合のみ、福祉病院事業法人として承認され、法人税の非課税などの優遇措置を受けることができます。

医療法人の法人税の計算方法

社会医療法人、オープン病院事業法人、福祉病院事業法人としての承認を受けている医療法人の場合、社会保険医療の収益については、法人税が課税されません。しかし、その他の医療法人については、全収益に対して法人税の納税が求められます。では、医療法人の法人税はどのように計算するのでしょうか。

医療法人の所得金額

法人税は、1年間の所得金額に法人税率をかけて算出します。そのため、法人税額を把握するためには、1年間の所得金額を算出する必要があります。

所得金額は、次の計算式で算出できます。

所得金額=各事業年度の益金の額-損金の額

益金とは

益金とは、法人税法上で用いられる概念です。収益は会計上の用語であり、収益も益金も資産を増加させるものですが、益金と収益は似ているものの、収益と益金は必ずしも一致するわけではありません。なぜなら、会計上の収益を税務上では益金に含めない益金不算入と呼ばれるケースもあるからです。

法人税法の第22条2項上では、益金について、別段の定めがあるものを除き、以下のようなものにかかる当該事業年度の収益を益金の額とするとしています。

・資産の販売

・有償または無償による資産の譲渡

・有償または無償による役務の提供

・無性による資産の譲受

・その他の取引で資本等取引以外のもの

医療法人で言えば、医療行為によって得られた収益、物品の販売によって得られた収益、駐車場の賃貸によって得られた収益、不動産や医療機器などの固定資産を売買した際の譲渡益などが益金に該当します。

例えば、法人税を納め過ぎ、還付された場合、その金額は会計上、収益として計上しますが、税法上は益金には含めません。

損金とは

所得額を算出する際には、益金から損金を差し引きます。会計上の収益が法人税の計算をするうえでは益金になるように、会計上の費用は法人税計算上の損金として扱います。損金と費用はいずれも資産を減少させるものですが、益金と収益の関係と同様に、まったく同じものというわけではありません。

費用は、会計上、法人の事業活動に伴って発生した費用全体を指す言葉です。一方、損金は、法人税の計算をするうえで、益金から差し引くことが認められる支出を指します。

法人税法の第22条3項において、損金は、別段の定めがあるものを除き、次のようなものとすると示されています。

・当該事業年度の収益にかかる売上原価、完成工事原価そのたこれらに準ずる原価の額

・当該事業年度の販売費、一般管理費、その他の費用の額

・当該事業年度の損失の額で資本取引以外の取引に係るもの

医療法人の損金としては、次のようなものが考えられます。

・医薬品や医療器具、消耗品など、診療のために使用する材料の購入費

・従業員の退職金積立金

・従業員の社会保険料

・医療機器の購入費用

・施設の改修費用

・出張交通費

・会議費

・従業員に支払う給与や賞与

・訪問診療に使用するための車の購入費用やガソリン代等の維持費など

また、交際費や役員報酬などは、損金として扱えるケースと損金算入が認められないケースがあります。

損金算入と損金不算入について

法人税は、医療法人の所得に対して課されるものです。所得は、益金から損金を差し引いて算出するため、損金として扱うことができる支出が多くなれば、所得額が圧縮され、納めるべき法人税の額も低くなります。したがって、法人税の納税額を算出するうえでは、損金として算入できるものと算入できないものをしっかり見極めることが重要です。

租税公課の損金算入と損金不算入の区分

租税公課とは、法人に課される税金や公的機関に支払う手数料、罰金などを扱う勘定科目です。租税公課の中にも損金算入が認められるものと、損金算入が認められていないものがあり、法人税の額を算出するうえでは、正しく損金を把握することが重要になります。

租税公課で損金算入の対象となるのは次のようなものです。

損金算入可能な租税公課

・法人事業税

・不動産取得税

・固定資産税、都市計画税

・自動車税、軽自動車税

・印紙税

・登録免許税

・住民税・法人事業税の納期延長にかかる延滞金

・事業所税など

損金不算入となる租税公課

一方、次のような税金は損金算入が認められていません。

・法人税

・法人住民税

・延滞税、延滞金

・加算税、加算金

・罰金・科料・過料

・交通反則金など

交際費の損金算入と損金不算入の区分

交際費とは、取引先などの接待や供応、慰安、贈答などのために支出する費用のことです。一般的な法人に対しては、期末の資本金または出資金の額に応じて、交際費を損金として算入できる範囲が決められています。持分ありの医療法人についても以下のようなルールを適用し、損金算入についての判断を行います。

資本金または出資金が1億円以下の法人の場合は、接待飲食費の50%相当額以下もしくは年800万円以下のいずれかの金額を選択し、損金算入することが可能です。また、期末の資本金の額または出資金の額が1億円超100億円以下の法人は、交際費のうち、接待飲食費の50%相当額以下の金額を損金として算入することが見られています。

一方、期末の資本金または出資金の額が100億円超の法人の場合、交際費の損金算入は認められていません。

持分なしの医療法人の交際費のルール

持分なしの医療法人については、資本金や出資金といった概念が存在しないため、上記のようなルールに当てはめて交際費の損金算入を判断することができません。そのため、持分なしの医療法人については以下のような特別なルールを用いて資本金の額または出資金の額に準ずる金額を算出し、交際費の損金算入に関する判断を行うこととなっています。

・当期に利益が出ている場合

(期末総資産の帳簿価額-期末総負債の帳簿価額-当期利益の額)×60%

・当期に欠損金が出ている場合

(期末総資産の帳簿価額-期末総負債の帳簿価額+当期欠損金の額)×60%

計算の結果が1億円以下であれば、接待飲食費の50%相当額以下または800万円以下のいずれかの損金算入が可能です。計算結果、1億円以上となれば、接待飲食費の50%以下の金額を損金として扱えるようになります。

役員報酬の損金算入

役員に支払う報酬は、原則として損金算入が認められていません。なぜなら役員は、自らの役員報酬を自由に決定できる立場でもあり、法人税の納税額を不正に抑えるため、役員報酬額を操作することができてしまうからです。

しかしながら「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」として支給される役員報酬については損金算入が認められます。役員報酬の損金算入が認められない場合、損金として差し引ける額が小さくなるため、法人税の額に大きな影響を与えます。役員報酬を支給する際には、損金算入が認められる要件を満たす形で支給することが大切です。

定期同額給与

まず、役員の給与とも呼ばれる役員報酬が、定期同額給与です。定期同額給与は、事業年度を通じて1ヶ月以下ごとに同じ金額を支払うものでなければなりません。事業年度の途中で支給額を変更した場合、損金算入が認められなくなります。

定款において役員報酬の金額を定めている場合は、定款に従って支給します。定款に役員報酬の記載がない場合には、社員総会の決議によって役員報酬の額を決定しなければなりません。

ただし、社員総会では役員報酬の総額のみを決定し、役員ごとの報酬については理事会の決議によって決定しても問題はありません。役員報酬の変更は、事業年度開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。この期間を過ぎて役員報酬を変更した場合、定期同額給与の要件に該当しないため、損金として扱うことができず、法人税の課税対象となる点に注意が必要です。

事前確定届出給与

役員のボーナスとも言われる役員報酬が、事前確定届出給与です。事前確定届出給与は、事前に税務署に対して「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、届出に基づいた支給額、支給日に支給を行った場合のみ損金算入が認められます。届出書は、社員総会等の決議をした日から1ヶ月以内と事業年度開始日から4ヶ月以内のいずれか早い日までに提出しなければなりません。

業績連動給与

業績連動給与は、業績に応じて支給額が決定する役員報酬ですが、医療法人の場合、業績連動給与の支給は認められないケースが多いと考えられます。そのため、役員報酬を損金として扱うためには、定期同額給与または事前確定届出給与として支給し、支給にあたってはしっかりとルールを守ることが大切です。

まとめ

医療法人も事業所得に応じて法人税を納付しなければなりません。一般的な医療法人の場合、企業などの普通法人と同じ法人税率が適用されます。ただし、社会医療法人については社会保険医療の収益について、法人税が非課税となります。また、オープン病院事業法人、福祉病院事業法人についても社会保険医療の収益について法人税が非課税となる優遇措置があり、特定医療法人の場合は、法人税の軽減措置が適用されます。

また、法人税の額を算出する際には、損金算入についてのルールをしっかりと把握しておくことが大切です。特に、交際費については持分なしの医療法人の場合、特別なルールでの判定が必要になる点に注意しましょう。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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