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自宅を事務所にしている個人事業主の住宅ローンは経費にできる?

読了目安時間:約 6分
個人事業主の場合、自宅を事務所として使用しているケースは少なくありません。では、住宅ローンを返済している自宅を事務所として使用している場合やこれから自宅と事務所を兼ねる建物を建設する場合、住宅ローンの返済額は経費にできるのでしょうか。
今回は、自宅を事務所にしている、またはこれから自宅と事務所を兼ねる建物を建設する予定がある個人事業主が、住宅ローンを経費として計上することができるのか、個人事業主と住宅ローンの関係についてご説明します。
事務所兼自宅を建設する際に住宅ローンは使える?
住宅ローンとは、自宅として居住する戸建て住宅やマンション、土地などを購入または新築、改築する際に利用できるローンです。そのため、これから事務所と自宅を併用する住宅を建てる予定がある場合などは、住宅ローンを使えるのか、疑問に思うこともあるでしょう。
事務所兼自宅の取得や建設に住宅ローンを使えるかどうかは、金融機関によって変わります。
例えば、フラット35の場合、次の条件をすべて満たす場合、事務所兼住宅でも住宅ローンを利用することができます。ただし、その場合であっても住宅ローンを利用できるのは、居住部分に限られます。つまり、事務所に使用する部分については、事業用ローンを利用しなければならないのです。
・住宅部分の床面積が全体の1/2以上であること
・店舗や事務所の部分は申込本人または同居者が生計を営むために自己使用するものであること
※店舗や事務所の部分の具体的用途には、事務所、日用品販売、食堂、理容院、クリーニング店、学習塾などが挙げられます(賃貸するものは借入れの対象になりません。)。
※自己使用には、申込本人または同居者が経営する法人に無償で貸し付ける場合を含みます。
・「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」との間が壁、建具などで区画されており、原則として相互に行き来できる建て方であること
・「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」を一つの建物として登記(一体登記)できること(店舗や事務所を区分登記しないこと)
また、民間の金融機関の場合は、条件によって事務所兼自宅であっても住宅ローンの利用を認めているケースがあります。例えば、三井住友銀行やりそな銀行では、自宅として使用する部分の面積が建物全体の床面積の50%以上であることを条件として、住宅ローンの申し込みを認めています。
そのため、これから事務所兼自宅を取得する場合には、住宅ローンを利用できるか金融機関にあらかじめ確認することが大切です。
個人事業主の住宅ローンは経費にできる?
事務所兼自宅でも住宅ローンを利用できるケースはあることが分かりました。では、住宅ローンを利用している自宅の一部を事務所として使用している場合や、事務所兼自宅を新たに取得した場合、住宅ローンは経費にすることができるのでしょうか。
住宅ローンの元本を経費に計上することはできない
住宅ローンの元本は、経費に計上することはできません。住宅ローンだけでなく、事業用ローンを借りた場合であっても、ローンの元本部分の経費計上は認められていないのです。
したがって、自宅を事務所として使用している場合、住宅ローンの元本部分を経費として扱うことはできません。
住宅ローンの利息部分は経費にできる
住宅ローンの元本部分を経費にすることはできませんが、住宅ローンの利息部分については経費として扱うことができます。しかし、自宅と事務所を併用している場合、自宅全体を事務所として使っているわけではありません。そのため、住宅ローンの利息部分を経費に計上できたとしても、利息分の全額を経費に算入することはできません。計上できるのは事務所として使用している割合分だけです。
住宅ローンの利息部分を計上するためには、まず、建物全体の面積のうち事務所として使用しているスペースの割合や事務所として使用している時間の割合などを算出しなければなりません。プライベートな費用と事業用の費用を区分することを家事按分といいます。例えば、自宅のうち20%にあたる面積分を事務所として使用している場合は、住宅ローンの利息分の20%にあたる額を経費として計上することが可能です。
火災保険料や地震保険料も経費として計上が可能
自宅と事務所を兼ねている場合、火災保険料や地震保険料も経費として扱うことができます。ただし、この場合でも、全額を経費に計上するのではなく、家事按分をしなければなりません。事務所の家事按分比率が20%の場合、火災保険料や地震保険料のうち、20%にあたる額のみを経費として計上することができます。
事務所を兼ねた自宅の減価償却費も経費に計上できる
建物は、時間の経過とともに劣化するため、価値が低下していきます。そのため、事務所兼住宅の取得費用を耐用年数に分割し、減価償却費として経費に計上することができます。例えば、5,000万円で取得した木造住宅の20%分を事務所として使用していると仮定します。事業用木造住宅の法定耐用年数は22年です。したがって、5,000万円の20%にあたる1,000万円を22年間にわたり、減価償却費として経費計上することができるのです。
ただし、https://www.tokyo-consulting.com/zeimu/blog/2925/減価償却費として計上できる費用は、建物の代金に限られる点に注意しなければなりません。土地は、時間が経っても劣化するものではないため、土地の購入代金は減価償却の対象とはならないのです。事務所を兼ねた自宅の減価償却費を計上する際には、建物部分のみを対象とすることを忘れないようにしましょう。
自宅を事務所にしている個人事業主は住宅ローン控除を受けられる?
自宅を事務所にしている場合、住宅ローンの元本部分を経費として計上することはできないことをご説明してきました。では、自宅兼事務所であっても、住宅ローン控除は利用できるのでしょうか。
住宅ローン控除とは
住宅ローン控除とは、住宅ローンを使って住宅を取得または建築した場合やリフォームをした場合に、所得税や住民税の軽減を受けられる制度です。正式名称を「住宅借入金特別控除」といいます。住宅ローン控除は、適宜改正が行われており、契約や入居を始めたタイミングによって適用されるルールが変わってきます。
令和6年の住宅ローン減税制度
令和6年の税制改正では、住宅ローンを利用して住宅の新築・取得または増改築をした場合、最大13年間、年末の住宅ローンの残高の0.7%を所得税額から控除できるとしています。また、所得税から控除しきれない場合には、翌年の住民税(上限9.75万円)から控除することも可能です。
かつては、物件の種類に関わらず住宅ローン控除を利用することができました。しかしながら、令和6年から住宅ローン控除を利用できる新築住宅は、一定の省エネ要件を満たす物件に限定されています。また、物件の環境性能などによって借入限度額(住宅ローン減税の対象となるローンの年末残高上限)も異なります。
中古の住宅を購入した場合は、控除期間は10年間となり、環境性能を満たさない住宅の場合でも住宅ローン控除を利用することが可能です。ただし、一定の環境性能を持つ住宅を取得した場合の方が借入限度額は多く設定されています。
住宅ローン控除を利用するための条件
住宅ローン控除を利用するためには、次のような条件も満たさなければなりません。
・住宅ローンの契約者が居住する住宅であること
・床面積が50㎡以上であること
・合計所得金額が2,000万円以下であること
・住宅の引渡しまたは工事完了から6ヶ月以内に居住すること
・店舗や事務所が併用された住宅の場合、床面積の1/2以上が居住用であること
・中古住宅を取得する場合は、1982年1月1日以降に建築され、耐震基準に適合していることを証明できるものであること
この条件を見ると、店舗や事務所併用の住宅の場合は、床面積の半分以上が住宅として利用するものでなければならないことが分かります。つまり、事務所併用の自宅で事業を営む個人事業主の場合、事務所部分が総面積の1/2以下であれば、住宅ローン控除を利用できるのです。
事務所を併用する住宅の住宅ローン控除額の計算
住宅ローン控除とは、所得税の負担を軽減する制度であり、所得税から控除しきれない場合には住民税からも控除を行うというものです。所得税からの控除額は、年末時点での住宅ローン残高×0.7%と1年間の最大控除額のいずれか低い方を控除されることとなります。しかし、住宅に事務所などを併用している場合は、居住用の割合をかけた額までしか控除することができません。例えば、年末の借入残高が3,000万円であった場合、3,000万円×0.7%は21万円です。しかし、事務所などを併用している住宅の場合、この額に居住用の割合をかけなければなりません。例えば、4割を事務所として使用している場合、住宅ローン控除で控除できる額は21万円×60%=12.6万円となります。
まとめると、事務所を併用する住宅であっても床面積の1/2以上が居住用であれば、住宅ローン控除の利用が可能であるものの、控除額には居住用の割合をかけなければならないのです。しかしながら、居住用の割合が90%以上である場合は、居住用割合を100%として計算することができます。つまり、事務所の割合が10%未満であれば、居住用専用の住宅と同様の住宅ローン控除を受けられるのです。
住宅ローン控除と経費の関係
個人事業主が自宅を事務所として使用している場合の住宅ローンと経費、住宅ローン控除の関係をもう一度確認してみましょう。
経費にできるのは住宅ローンの利息分と減価償却費
住宅ローンの返済額のうち、経費に計上できるのは利息部分のみであり、元本部分を経費に含めることはできません。また、経費計上ができる利息部分も全額を経費に計上できるわけではなく、経費計上が認められるのは家事按分比率によって算出した事務所部分のみの費用です。加えて、事務所部分についての建物の減価償却費は経費計上が認められています。したがって、事務所が占める面積が広くなるほど、経費として計上できる金額は増えることになりますが、そもそも事務所の割合が1/2を超える場合、住宅ローンの利用ができません。
住宅ローン控除を使うためには事務所部分の割合を1/2以下に抑える必要がある
住宅ローン控除を利用するためにも、事務所の割合が1/2以下でなければなりません。また、住宅ローン控除を最大限に利用するためには、事務所分の割合を10%以下に抑える必要があります。しかし、その場合、減価償却費として計上できる経費は少なくなるでしょう。
事務所併用の住宅では経費と住宅ローン控除のバランスの見極めが重要
事務所を併用した住宅で事業を営んでいる場合、事務所の割合によって、経費として計上できる額と住宅ローン控除を利用できる額が変わってきます。経費として計上できる住宅ローンの利息部分と減価償却費は、事務所の割合が大きいほど金額が高くなる一方で、事務所の割合が大きくなると住宅ローン控除の控除額は低くなるのです。つまり、事務所の割合によって、それぞれは相反する関係にあるといえます。
自宅を使って事業を営む個人事業主が、住宅ローン控除を受けつつ、経費としての計上も希望する場合は、居住割合をどのくらいにすれば最もメリットが大きくなるかを検討する必要があるでしょう。ただし、事業の所得額や住宅ローンの借入額、金利などによって、よりお得になる事務所と居住部分の割合は変わってきます。そのため、綿密なシミュレーションを行ったうえで、経費と住宅ローンの控除のどちらを優先すべきかを検討することをおすすめします。しかしながら、実際には事業用として利用する部分が50%以上であるにもかかわらず住宅ローンを利用したり、住宅ローン控除の申請をする際に実際よりも居住割合を増やして申請するという行為は不正にあたります。居住用と事務所用の割合を決定する際には、現実的な状況にも適合させることを忘れてはいけません。
まとめ
自宅を事務所にしている個人事業主の場合、住宅ローンの利息部分であれば経費として計上することができます。ただし、経費計上ができるのは、家事按分によって算出した事業用の割合のみに限られる点に注意が必要です。また、家事按分比率に応じ、建物の減価償却費も経費として算入することができます。
さらに、事務所の割合が全体の面積の1/2以下であれば、住宅ローン控除も受けることが可能ですが、住宅ローン控除を受ける際にも控除額の算出の際には、居住用の割合を算出する必要があります。事務所の割合をどのくらいにするのかは、経費と住宅ローン控除の額をシミュレーションしたうえで決定するようにしましょう。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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