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架空人件費の計上は脱税になる?バレる理由やリスクを解説

読了目安時間:約 6分
事業の業績が上がり、利益が高くなるほど、納めなければならない法人税の額も高くなります。そのため、どうにか納税額を低く抑えられないだろうかと考えるケースは少なくありません。企業の節税方法にはさまざまな手段がありますが、そのうちの1つが、経費を漏れなく計上することです。しかし、中には、経費を増やすことが所得額の圧縮につながるため、不正に経費を計上し、納税額を低く抑えようとする場合もあります。架空人件費の計上は、経費を増やし、税金の負担を抑えるために行われる不正行為です。
では、架空人件費を計上していた場合、税務署にバレるのでしょうか?今回は、架空人件費が税務調査でバレる理由やバレた場合のリスクについてご説明します。
目次
架空人件費とは
架空人件費とは、実際には働いていない従業員に支払ったように見せかける人件費のことです。例えば、実際には雇用していないAさんという人物に対し、給与を支払っているように見せかけて、Aさんの給与を人件費として計上します。この場合、Aさんは実在していない、もしくは雇用していないため、Aさんに給与を支払うことはありません。しかし、帳簿上では人件費として経費に計上することで、所得額を低く見せかけるのです。
架空人件費の計上でよく見られる2つのパターン
架空人件費の計上には、2つのパターンが見られます。1つは、上でご説明したように実在しない人物を雇用したように見せかけるパターンです。架空の人物であることから、架空人件費の計上として最も思い浮かべやすいパターンでしょう。そしてもう1つが、実際には働いていない身内を働いたように見せかけて給与を支払うパターンです。
架空の人物を雇用したように見せかけるパターン
特に、短期間や単発、短時間で働くアルバイトを雇うことが多い企業などでは、架空人件費を計上している事例が見られます。
正社員や契約社員などを雇用した場合、社会保険の加入義務が生じ、源泉徴収もしなければならないからです。社会保険の加入にあたっては、社会保険事務所で加入手続きを取らねばならず、その際、従業員の基礎年金番号通知書やマイナンバーが必要になります。架空の人物を雇用していたことにする場合、基礎年金番号通知書やマイナンバーカードはないため、社会保険の加入手続きが取れません。
しかし、短期間や短時間労働をするアルバイトの場合、社会保険の加入手続きは不要です。そのため、架空人件費を計上する際には、単発や短期間のアルバイトをしている人を雇用したように見せかけるケースが多くなっています。
身内を使って架空人件費を計上するパターン
妻や子ども、親戚などの名前を借りて、給与を支払っているように見せかけるパターンもあります。架空の人物を作り上げるという方法の場合、その人物が実在しているかどうかは、税務調査の際、簡単に調べがついてしまいます。しかし、実在する身内に対して給与を支払ったことにすれば、同じ架空人件費であってもバレないのではないかと考えるケースもあるのです。その場合、一定の時期だけ、子どもにアルバイトをさせたことにして給与を支払うケースや妻をパートとして雇用したように見せかけ、給与を支払うケースなどがあります。
架空人件費の計上は脱税の1つの手口
架空人件費の計上は、脱税のよくある手口として知られています。架空の人件費を支払ったように見せかけ、実際には給与を支払っていなければ、帳簿上では経費としてお金が出たように見えても、会社のお金が減ることはありません。人件費は、経費計上が認められている支出ですが、実際には支払っていない人件費を支払ったように見せかける架空人件費の計上という行為は、脱税にあたります。
架空人件費を計上する場合によくある工作
架空人件費の計上は、実際には雇用していない人物に給与を支払ったように見せかける行為であり、経費の水増しに該当する不正行為です。架空人件費の計上をし、税金逃れをしようとする企業の多くは、架空人件費の計上は不正行為であることを認識しています。そのため、架空人件費の計上がバレないように次のような工作を行うケースが多くなっています。
・ウソの社員名簿などを準備している
・ウソのタイムカードを準備している
・給与を銀行振り込みではなく、証拠の残らない手渡しにしている
税務調査では架空人件費を詳しくチェックする
不正を行い、納税額を低く抑えようとする場合、売上を隠し、売上が低いように装うか、経費を水増しして経費を過剰に計上するかの、どちらかの手段が取られます。現金を主に使ったビジネスをしている場合は、売上を過少に申告するケースも考えられます。しかし、近年では、銀行振り込みなどによる取引が増えています。また、BtoCのビジネスモデルであっても、クレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済の利用が拡大しています。
銀行振り込みやキャッシュレス決済を利用した場合、取引の記録が残るため、売上を隠蔽するためには複雑な処理が必要になるでしょう。そのため、脱税や所得隠しの手段としては、売上の過少申告よりも経費を過大申告する例の方が多いのです。したがって、税務調査においても経費を水増ししていないか、経費が正しく計上されているかを詳しくチェックする傾向にあります。特に、人件費は領収書がなくても計上できる経費でもあることから、税務調査では架空人件費の計上がないかについて、不審な点がないか、細かなチェックが行われます。
架空人件費の計上はなぜバレる?
架空人件費の計上をしている場合、バレないように名簿やタイムカードを用意しても、税務調査時に不正が発覚するケースがほとんどです。では、なぜ架空人件費の計上はバレるのでしょうか。架空人件費の計上がバレる理由を3つご紹介します。
市区町村への問い合わせでバレる
架空の人物を雇用していたことにしていた場合、架空の人物の居住地として記載されている市区町村に対して問い合わせをすれば、本当にその人物が実在しているのか、確認することができます。また、従業員を雇った場合、事業主は従業員が居住する市区町村に対して給与支払報告書を提出する義務があります。給与支払報告書とは、個々の従業員に対し、どのくらい給与を支払ったのかを報告する書類です。市区町村は、事業主から提出された給与支払報告書をもとに賦課徴収すべき住民税額を算出します。この給与支払報告書は、正社員だけでなくパートやアルバイトも含め、給与を支払った従業員全員の分を作成し、提出しなければならないものです。
架空人件費の計上をしている場合には、架空の人物に対しての支払いを経費計上しているだけでなく、実在の人物に対し、本当は支払っていない給与を支払っているように見せかけることもあります。この場合であっても、給与支払報告書が提出されているかを市区町村に確認し、給与支払報告書が提出されていなければ、実際には支払っていない人件費を計上していたことが発覚します。
賃金台帳に記載がない
賃金台帳とは、従業員に支払う賃金の支払い状況を記載した書類です。従業員を雇用する企業や個人事業主は、賃金台帳を作成しなければなりません。賃金台帳には、従業員の氏名、性別、賃金の計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働、休日労働及び深夜労働の労働時間数、基本給、手当などの種類と支給額、控除内容と控除額についての記載が求められます。また、賃金台帳は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、日雇い労働者も含めた従業員全員についての記載が必要です。
架空人件費の計上をしている場合、タイムカードや従業員名簿などについては偽装工作をしていても、賃金台帳には、人件費を支払ったことにしている人物に関する記載がないケースがあるのです。賃金台帳に記載がなければ、当然、架空人件費の計上が疑われるでしょう。
従業員へのヒアリングでバレる
上の2つの理由に関しては、実在していない架空の人物に対して給与を支払ったように見せかけた場合に取られる調査手段です。従業員へのヒアリングは、架空の人物への給与の支給だけでなく、経営者の親族や家族に対する架空人件費の支給にも効果を発揮します。
従業員に対し、給与を支払っている経営者の妻や子どもがどのような仕事をしているのか、どの程度出勤しているのかをヒアリングすると、勤務の実態が見えてきます。会社で見たことがないという証言が得られれば、業務に携わっている実態がないにもかかわらず、架空の人件費を支給していることが発覚するでしょう。
架空人件費の計上がバレるとどうなる?
架空人件費の計上は、脱税にあたる行為です。税務調査で、架空人件費の計上がバレるとどのようなペナルティが科せられるのでしょうか。
修正申告と不足分の税金の納付が求められる
税務調査において、経費の水増しが発覚した場合、正しく申告をし直す修正申告が求められます。水増しした経費分は経費として認められないことになるため、所得から差し引ける経費の額が少なくなり、期限内に申告した内容よりも所得額は高くなるでしょう。所得額が高くなるため、所得に対して課せられる法人税は高くなるため、納税額が不足した状態になります。
過少申告加算税が課される場合もある
修正申告では、不足分の税額の納税が求められます。さらに、不足分の納税だけでなく、納税額が少なかったことに対するペナルティとして、加算税の納税も求められるのです。
まず、架空人件費を計上していた場合でも、故意に架空人件費を計上したわけでなく、何らかのミスによって、架空人件費を計上していた状態になっていた場合もあるかもしれません。そのような場合は、過少申告加算税が課せられます。過少申告加算税とは、納税額が不足していた場合に課せられる加算税です。過少申告加算税の額は、不足分の税額が50万円以下の部分については、不足分の額に10%をかけた額、当初申告した税金の額と50万円のうちどちらか大きい方の金額を超える部分については、15%をかけた額となります。
重加算税が課される場合もある
架空人件費の計上が見つかっても、故意に架空の人件費を計上していたわけではない場合は、過少申告加算税が課されます。しかし、故意に架空人件費を計上していた場合、この行為は、税金を逃れるための不正な仮装隠蔽行為に該当すると考えられます。したがって、その場合は過少申告加算税ではなく、より税率の重い重加算税が課されることになります。
過少申告加算税に代えて重加算税を課せられる場合の税率は、35%です。多額の人件費の架空計上をしていた場合や、長年に渡って人件費の架空計上をしていた場合、重加算税が課されると納税額はかなりの高額になる恐れがあります。また、重加算税など、追徴課税された税金は一括して納付しなければなりません。架空人件費の計上で発覚した不足分の税額、重加算税の額をまとめて一括納付するとなると、資金繰りに影響が出る場合もあるでしょう。
さらに、人件費の架空計上を行っていたことが取引先の耳に入れば、取引先からの信頼を失う可能性もあります。
法人税と所得税の両方で追徴課税される恐れもある
実際には勤務していない事業主の家族や親族に対し、架空の人件費を支給していた場合、法人だけでなく、経営者個人に対しても追徴課税がなされる恐れがあります。勤務実態のない家族や親族に対して給与を支払っていた場合、この費用は、事業主に支給された役員賞与とみなされることになるのです。役員所得は、原則として損金算入が認められていません。そのため、親族や家族を使った架空人件費の計上をしている場合、法人に対して法人税の追徴課税が行われるだけでなく、経営者個人の所得税に対しても追徴課税がなされる可能性があります。
まとめ
架空人件費の計上は、脱税に該当する行為です。架空人件費の計上には、架空の人物に給与を支払ったことにする方法と勤務実態のない経営者の家族や親族に対し給与を支払う方法があります。いずれの場合も経費の水増しによって、納税額を不正に低く抑える行為です。架空人件費の計上は脱税の手口としてよく行われるものであり、税務調査では、賃金台帳なども詳しくチェックしながら、架空人件費の計上がないかについて慎重に調査を進めます。不審な点があった場合、市区町村の税務課に確認をしたり、従業員にヒアリングをすることで、架空人件費の計上はバレるケースがほとんどです。架空人件費の計上がバレると、法人税だけでなく、所得税に対しても追徴課税がなされる恐れがあります。
少しでも納税額を抑えたいのであれば、正しく人件費を申告することが何よりの節税となることを忘れないようにしましょう。
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この記事の監修者

税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。
国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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