2025.10.11
  • 税務調査

個人事業主は消費税が免除される?インボイス制度に伴う変化も解説

読了目安時間:約 6分

個人事業主の場合も商品やサービスを提供し、受け取った対価にかかる分の消費税を納税する義務があります。しかし、すべての事業者に消費税の納税義務があるわけではありません。一定の要件を満たしていれば、消費税が免除される仕組みがあります。

消費税の納税義務がある事業者を「課税事業者」、消費税の納税が免除される事業者を「免税事業者」と呼びます。では、個人事業主の場合、消費税の免税事業者になるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。

今回は、個人事業主の消費税免除の要件やインボイス制度の開始に伴う注意点などについてご説明します。

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個人事業主の消費税免除とは

個人事業主であっても、法人であっても、消費税免除の要件を満たしていれば、消費税の納税義務は生じません。個人事業主として活動している方の中には、近い将来の法人化を検討しているケースもあるでしょう。そこでここでは、法人も含めた消費税免除の要件をご紹介します。

基準期間の課税売上高が1,000万円以下である

まず一つ目の要件は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であるということです。個人事業主の基準期間は、前々年、法人の基準期間は前々事業年度を指します。

課税売上高は、課税取引の売上金額と輸出取引等の免税売上金額の合計金額から、売上返品や売上値引き、売上割戻しなどの合計額を控除した残額のことです。課税取引の売上金額や売上返品などの合計金額には、消費税額は含みません。

特定期間の課税売上高または給与支払額の合計が1,000万円以下である

基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり、かつ特定期間の課税売上高または給与支払額が1,000万円以下の場合、消費税は免除されます。特定期間とは前年の1月1日から6月末日までのことです。

したがって、消費税の免税を受けるためには、まず、基準期間の課税売上高が1,000万円以下という要件を満たさなければなりません。そのうえで、特定期間の課税売上高または給与・賞与の支払合計額が1,000万円以下という要件を満たす必要があります。(ただし、国外事業者の場合は、特定期間の判定に給与等の支払額の合計額を用いることはできず、課税売上高が1,000万円以下であることが条件となります。)

個人事業主の場合は、従業員に半年間で1,000万円を超える給与を支給するケースはほぼないと考えられるため、特定期間については課税売上高を基準にすることとなるでしょう。

個人事業主が消費税の免税事業者ではなくなるタイミング

個人事業主も、消費税の免税事業者の要件を満たさなくなった場合は、課税事業者となり、消費税の納税が必要になります。しかし、課税売上高が1,000万円を超えてもすぐに消費税の納税が必要になるわけではありません。個人事業主が消費税の免税事業者ではなくなるタイミングは次の3つです。

基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合

基準期間の売上額が1,000万円を超えた場合、翌々年から消費税の課税事業者となります。また、基準期間ではなく、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、翌年から消費税の納税義務が発生します。

消費税の納税義務は、過去の課税売上高で判定します。個人事業主の場合、基準期間は2年前であり、開業した年とその翌年は基準期間の売上がないため、原則として消費税の納税は免除されます。そのため、開業から最大2年間は、たとえ課税売上高が1,000万円を超えていても消費税の課税事業者となることはありません。

資本金1,000万円以上の法人を設立したとき

個人事業主として創業した事業が順調に推移し、法人を設立することもあるでしょう。法人化した場合でも、資本金や出資金が1,000万円未満であれば、個人事業主と同様、基準期間の売上高が1,000万円以下かつ、特定期間の課税売上高や給与等の支払額が1,000万円以下であれば、消費税は免除されます。しかし、法人設立時の資本金や出資金の額が1,000万円を超える場合、消費税の納税義務は免除されません。

インボイス発行事業者に登録した場合

課税売上高が1,000万円以下であっても、インボイス発行事業者として登録した場合は自動的に課税事業者となり、消費税の免除を受けることはできません。個人事業主は、原則として創業から2年間は基準期間がないため、消費税は課税されないと説明しました。しかし、インボイス発行事業者として登録した場合は、創業のタイミングに関係なく、登録した時点で消費税の課税事業者となります。

インボイス制度と個人事業主の消費税免除の関係

インボイス制度がスタートしたのは、2023年の10月1日です。インボイス制度が始まる前までは、課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は消費税が免除されていました。では、インボイス制度の開始に伴い、個人事業主の消費税免除はどのように変わったのでしょうか。

インボイス登録事業者になれば個人事業主の消費税免除は適用されない

前述のように、個人事業主でもインボイスの登録事業者となれば、たとえ課税売上高が1,000万円以下であっても消費税を免除されることはありません。売上額に関係なく、課税事業者として、消費税を納税する義務が生じます。

インボイスに登録しなければ、個人事業主の消費税免除は継続

インボイス制度がスタートしても、インボイス発行事業者として登録するかどうかは事業者の判断にゆだねられます。そのため、インボイス発行事業者として登録しないことを選択することも可能です。

インボイス発行事業者として登録しない場合には、要件を満たせば、従来どおり、消費税の納税は免除されます。ただし、基準期間の課税売上高や特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者となります。

個人事業主がインボイス発行事業者として登録するメリット

個人事業主がインボイス発行事業者として登録した場合、仕入税額控除を利用できるようになります。仕入税額控除とは、仕入時に支払った消費税を商品やサービスの提供時に受け取った消費税から差し引き、納税をする仕組みのことです。インボイス発行事業者として登録すると、仕入税額控除を利用できるため、消費税の負担を軽減できます。

また、インボイス発行事業者ではない場合、相手は仕入税額控除を利用できないため、取引相手が限定される恐れがあります。インボイス発行事業者であれば、仕入税額控除を利用できるため、幅広い相手と取引ができるようになるでしょう。

個人事業主がインボイス発行事業者として登録するデメリット

個人事業主がインボイス発行事業者として登録すると、消費税の納税義務が生じます。課税売上高が1,000万円未満でも消費税の納税が必要になるため、登録前に比べると、税負担は大きくなるでしょう。

また、インボイス制度の利用にあたっては、適格請求書を発行できるシステムの導入が必要になるため、コストもかかります。さらに、仕入税額控除の計算が必要になり、消費税の確定申告が加わるため、煩雑な手続きが必要になる点もデメリットだと言えるでしょう。

個人事業主の消費税の計算方法

個人事業主がインボイス発行事業者として登録したり、課税売上高が1,000万円を超えるなどして、消費税の免除を受けられなくなった場合、納付すべき消費税の額を計算する必要があります。

消費税の課税方法と特例

消費税の課税方法には、「一般課税」と呼ばれる方法と「簡易課税」と呼ばれる方法があります。課税事業者は、一般課税と簡易課税のいずれかを選択できますが、簡易課税によって消費税の納税を行う場合には、届出の提出が必要です。

また、インボイス制度の開始に伴い「2割特例」と呼ばれる制度も設けられています。それぞれの課税方式での消費税の計算方法について順にご説明します。

一般課税

一般課税は、消費税の納税額を計算する際の基本となる計算方法です。一般課税の場合、消費税の納税額は次の式で算出できます。

納税すべき消費税の額=課税売上に係る消費税の額-課税仕入れ等に係る消費税の額

つまり、商品やサービスの提供時に受け取った消費税から仕入れの際に支払った消費税を差し引くことで納税すべき消費税額を算出する方法が、一般課税です。

現在、消費税には8%の軽減税率が適用されるものと10%が適用されるケースの2パターンがあります。一般課税では、1件の取引ごとに消費税額を計算する方法です。課税取引と免税取引を区分しなければならず、課税取引も税率ごとに分けて計算をする必要があるため、複雑な処理が必要になります。

簡易課税制度

簡易課税制度は、課税売上に係る消費税額に、事業区分に応じた一定のみなし仕入れ率を乗じて算出した額を、課税仕入れ等に係る消費税額とみなして消費税を計算する方式です。

簡易課税では次の計算式で消費税の額を算出します。

消費税額=課税売上に係る消費税額-(課税売上に係る消費税額×みなし仕入れ率)

簡易課税制度を利用できるのは、前々年の課税売上高が5,000万円以下の個人事業主または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の法人で、簡易課税制度選択届出書を提出している事業者です。簡易課税制度は、一般課税に比べると計算が簡単にできるため、中小規模の事業者に配慮した特例となっています。

簡易課税制度のみなし仕入れ率は次のように定められています。

業種

みなし仕入れ率

第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業等)

小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)

80%
第3種事業(製造業等)

農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など

70%

 

第4種事業(その他)

飲食店業など

60%
第5種事業(サービス業等)

運輸・通信業、金融・保険業、サービス業

50%

 

第6種事業(不動産業) 40%

2種類以上の事業を営んでいる場合には、原則として、課税売上高を事業の種類ごとに区分し、それぞれの事業区分ごとの課税売上高に係る消費税額にみなし仕入れ率を乗じて算出します。

2割特例

2割特例とは、インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置のことです。2割特例が適用されると、インボイス制度を機に、免税事業者から課税事業者になった事業者は、仕入税額控除の金額を特別控除額とすることができます。特別控除額とは、課税標準である金額の合計額に対する消費税額から、売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額のことです。

結果として、売上に係る消費税額の8割を仕入税額控除として差し引くことができるため、2割特例と呼ばれているのです。2割特例を利用する場合、仕入税額の実額を計算する必要がありません。また、業種にかかわらず一律で売上に係る消費税額の2割を納付すればよく、事前の届出も不要なため、消費税の納税にかかる手続きの負担を大きく軽減できます。

なお、2割特例を適用できる期間は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間となっています。

利用する計算方法の選び方

どの計算方式を使用するかは、課税事業者に一任されているため、事業の内容に合わせて適した課税方式を選択することが可能です。2割特例は、事前の届出もいらず、仕入税額の計算も不要となるため、消費税の納税にかかる手間を軽減できます。しかし、簡易課税制度の第1種事業に該当する事業を営んでいる個人事業主の場合は、簡易課税制度のみなし仕入れ率が90%であるため、2割特例を利用する場合よりも、納付額を抑えることが可能です。そのため、2割特例を適用させた方がよいのか、簡易課税制度を活用した方がよいのかは、事業内容によって変わってきます。自身の事業内容を踏まえ、適切な方法で消費税額を計算するようにしましょう。

まとめ

個人事業主は、消費税が免除される場合があります。それは、インボイス発行事業者として登録しておらず、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合です。ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高または給与等の支払額の総額が1,000万円を超えた場合は、免税事業者ではなく、課税事業者となります。

インボイス制度のスタートに伴い、課税売上高が1,000万円以下の個人事業主でも、インボイス発行事業者として登録し、消費税の課税事業者となる事例も増加中です。インボイスを機に課税事業者となった場合、消費税の計算には2割特例を適用させることもできます。また、簡易課税制度を活用することもできますが、どちらがお得になるかは業種によって変わってきます。判断に迷う場合などは、税理士への相談をおすすめします。


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この記事の監修者

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

松本 崇宏(まつもと たかひろ)

登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。
国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。
なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。

税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。

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