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農業所得の確定申告では、農産物の売上だけでなく、肥料や農薬などの必要経費、自家消費した農産物、年末時点の棚卸高なども整理する必要があります。
白色申告で農業所得を申告する場合に使用するのが「収支内訳書(農業所得用)」です。収入や経費を項目ごとに記載し、農業所得を計算します。
この記事では、農業所得の収支内訳書の基本から、作成に必要なもの、書き方、提出方法までわかりやすく解説します。
目次
収支内訳書とは、1年間の収入金額や必要経費をまとめ、事業所得などの金額を計算するための書類です。
農業を事業として営んでいる白色申告者については、通常の「収支内訳書(一般用)」ではなく、農業に特化した「収支内訳書(農業所得用)」を使用します。
農業所得用の様式には、販売金額だけでなく、家事消費・事業消費、農産物の棚卸高、種苗費、肥料費、農薬衛生費、土地改良費など、農業特有の項目が設けられています。
農業による所得を事業所得として白色申告する場合、確定申告書とあわせて「収支内訳書(農業所得用)」を作成します。
収支内訳書(農業所得用)は2ページで構成されています。1ページ目には年間の収入金額や必要経費、農業所得を計算する欄などがあり、2ページ目には農産物等の販売金額や家事消費・事業消費、棚卸高を記載する「収入金額の明細」や「減価償却費の計算」などが設けられています。
なお、白色申告であっても帳簿の作成や保存が不要になるわけではありません。事業所得を生ずべき業務を行う白色申告者には、収入や必要経費について記帳し、帳簿や領収書などを保存する義務があります。
【出典元】 国税庁|収支内訳書(農業所得用)
青色申告の承認を受けて農業所得を申告する場合は、原則として収支内訳書ではなく「所得税青色申告決算書(農業所得用)」を使用します。
青色申告決算書にも、農業収入や必要経費、減価償却費などを記載しますが、青色申告には一定の要件を満たすことで青色申告特別控除を受けられるなど、白色申告とは異なる制度があります。
たとえば、65万円の青色申告特別控除を受けるには、55万円控除の要件を満たしたうえで、仕訳帳・総勘定元帳について一定の要件を満たす電子帳簿保存を行うか、確定申告書や貸借対照表、損益計算書などを期限までにe-Taxで送信する必要があります。
【出典元】 国税庁|青色申告特別控除
収支内訳書を作成する際は、いきなり書類へ数字を書き込むのではなく、まず1年間の売上や必要経費が確認できる資料を集めることが重要です。
特に農業では、JAへの出荷のほか直売所や個人への販売など、複数の販売経路があるケースもあります。売上や経費を漏れなく確認できるようにしましょう。
収支内訳書を作成する際に準備しておきたい主な資料は次のとおりです。
農産物を販売したものの、年末時点でまだ代金を受け取っていない取引についても、その年の売上として計上すべき場合があります。そのため、銀行口座への入金だけを見て売上を集計すると、売掛金が漏れる可能性がある点に注意しましょう。
国税庁の記載例でも、本年中に販売したものについては、まだ代金を受け取っていない場合を含めて販売金額へ記載することとされています。
農業所得では、12月31日時点で残っている農産物について棚卸しが必要になる場合があります。
米や麦など、収穫したもののまだ販売していない農産物があれば、数量や金額を確認しておきましょう。前年から繰り越した農産物については期首棚卸高、本年末に残っている農産物については期末棚卸高として処理します。
また、トラクターやコンバイン、農業用車両などの固定資産を保有している場合には、取得価額や取得年月、耐用年数などを確認します。取得した資産の種類や金額によっては、購入した年だけで費用処理するのではなく、耐用年数などに応じて複数年にわたり減価償却費を計上します。
農業所得を正しく計算するには、農産物を販売して受け取った金額だけではなく、農業に関連するさまざまな収入を把握する必要があります。
収支内訳書では、主に「販売金額」「家事消費・事業消費」「雑収入」「農産物の棚卸高」などに分けて記載します。
「販売金額」には、その年に販売した米、野菜、果物などの農産物の販売金額を記載します。
収支内訳書の2ページ目にある「収入金額の明細」では、農産物等の種類ごとに販売金額などを整理します。
JAへの出荷だけでなく、直売所、飲食店、個人などへ販売した農産物についても、農業の売上に該当するものは漏れなく集計しましょう。
また、前述したように、12月までに販売が成立しているものの翌年に代金を受け取る売掛金がある場合には、単純に通帳の年間入金額だけで判断しないことが重要です。
農家の場合、自分で生産した米や野菜などを家庭で食べたり、農業に関連して消費したりすることがあります。
収支内訳書では、家庭で消費した農産物を「家事消費」、雇人への現物支給など事業のために消費したものを「事業消費」として記載します。国税庁の収支内訳書では、これらも販売金額とは別に収入として計上する仕組みになっています。
また、農業に関連して受け取った共済金、出荷奨励金、価格差補償金、農作業受託料などは「雑収入」となる場合があります。
補助金や助成金についても、農業経営上の収入として課税対象になるものは雑収入への計上が必要です。しかし、補助金の種類によって税務上の取り扱いが異なる場合があるため、受給した制度ごとに確認することが大切です。
農業所得では、年をまたいで保有する農産物の棚卸高も所得計算に影響します。
前年末から持ち越した農産物は期首棚卸高として扱い、12月31日時点で残っている農産物は期末棚卸高として計上します。
そのため、農業所得を計算する際は、農産物の販売や家事消費、雑収入などを含む収入と棚卸高を整理したうえで、必要経費を差し引いて所得金額を求めます。
なお、未収穫の農産物については、すべてのケースで年末整理が必要になるとは限りません。国税庁では、毎年おおむね同じ規模で作付けを続けている未収穫農産物について、一定の取り扱いにより年末整理を省略できることを示しています。
実際の棚卸しの要否は農産物の種類や状況によって異なるため、不明な場合は税理士や税務署へ確認するようにしましょう。
【出典元】 国税庁|農業を営む者の取引に関する記載事項等の特例について
農業所得は、農業によって得た収入から必要経費を差し引いて計算します。
しかし、支払ったものがすべて必要経費になるわけではありません。農業を行うために必要な支出であることが基本となります。
農業では、業種の特性に合わせてさまざまな経費項目が設けられています。
主な項目は次のとおりです。
このほか、農地の賃借料や農機具の賃借料、農業共済掛金、土地改良費なども、条件を満たせば必要経費に含まれます。
トラクターやコンバイン、農業用車両、農業用建物などは、取得後も複数年にわたって農業で使用することが一般的です。
このような減価償却資産は、原則として取得時に購入代金の全額を必要経費へ計上するのではなく、資産ごとに定められた耐用年数などをもとに、各年分の減価償却費を計算します。
収支内訳書の2ページ目には減価償却費の計算欄があり、取得価額、償却方法、耐用年数、本年分の償却期間、事業専用割合などをもとにその年の必要経費を計算します。
なお、取得価額が10万円未満の資産など、金額や条件によって取り扱いが異なります。10万円以上20万円未満の資産には一括償却資産として3年間で必要経費にする方法もあるため、購入金額だけで判断せず適用できる処理を確認しましょう。
農業では、自宅と農業の両方で使用している設備や車両があることも珍しくありません。
たとえば、自宅兼農業用建物の電気代、固定資産税、修繕費、農業と私用の両方に使う車のガソリン代などです。
このような支出は、全額を農業の経費にできるわけではありません。事業に使用した部分を合理的な基準で分け、その部分のみを必要経費とします。
国税庁では、使用面積、保険金額、点灯時間などの適切な基準によって家事分と事業分を按分するとしています。車両であれば、農業で利用した走行距離などを記録しておくと按分の根拠を説明しやすくなるでしょう。
収支内訳書を作成するときは、先に年間の売上や経費を整理したうえで記載するとスムーズです。
特に販売先や作物の種類が多い場合には、収支内訳書へ直接書き込みながら集計するのではなく、帳簿などで年間合計を出してから転記するとミスを防ぎやすくなります。
まず、2ページ目の「収入金額の明細」に農産物等の種類や販売金額、家事消費・事業消費、棚卸高などを記載します。
減価償却資産がある場合は「減価償却費の計算」欄も作成します。
その後、それぞれの合計額を1ページ目の販売金額、家事消費金額、事業消費金額、雑収入、棚卸高、必要経費などの欄へ記入していきます。
売上や経費を年間合計だけで管理するのではなく、どの取引から計算した数字なのか確認できる帳簿や資料も残しておきましょう。
収入と必要経費を記載したら、最終的に農業所得の金額を計算します。
基本的な考え方は「農業による総収入金額-必要経費=農業所得」です。
白色申告で事業専従者がいる場合には、一定の要件のもと事業専従者控除を適用できる場合もあります。収支内訳書にも事業専従者に関する記載欄が設けられているため、該当する場合はあわせて確認しましょう。
収支内訳書を作成しただけでは確定申告は完了しません。
収支内訳書で算出した農業所得を確定申告書へ反映し、必要な所得控除などを適用して最終的な所得税額を計算します。
白色申告で農業所得を申告する場合は、原則として確定申告書と収支内訳書(農業所得用)をあわせて提出します。
一方、売上明細や領収書、請求書などは通常、すべてを確定申告書へ添付するわけではありません。しかし、申告内容を確認できるよう帳簿や証拠書類を一定期間保存しておく必要があります。
白色申告者の場合、収入金額や必要経費を記載した法定帳簿は7年間保存します。また、任意帳簿や棚卸表、請求書、納品書、領収書などの書類は原則として5年間保存する必要があります。
【出典元】 国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告
農業所得の確定申告はe-Taxでも行えます。
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」では、収支内訳書(農業所得用)と確定申告書を作成できます。スマートフォンから作成し、マイナンバーカードを利用してe-Taxで提出することも可能です。
入力した金額をもとに自動計算されるため、手計算による転記ミスを減らせる点もメリットです。パソコンからの作成・送信にも対応しています。国税庁の令和7年分の手引きでも、スマートフォンによる収支内訳書の作成・e-Tax提出や、パソコンによる作成・送信が案内されています。
農業所得では、現金販売、直売、自家消費、補助金など、銀行口座の入出金だけでは把握しにくい取引が発生することがあります。
また、農業と生活の両方で利用する車両や建物などもあるため、経費について事業分と家事分を明確に分けておくことが重要です。
JAや市場への出荷分だけを売上として集計し、直売所での販売や個人への販売を計上し忘れると、売上の計上漏れにつながります。
また、農産物を家庭で消費した場合の家事消費や、課税対象となる共済金・補助金などについても確認が必要です。
税理士法人松本でも、農業の税務調査に関する解説において、売上の計上漏れなどを確認すべきポイントとして紹介しています。農業所得を申告する際には、通帳だけではなく、販売記録や出荷明細などを含めて収入全体を確認することが重要です。
必要経費については「農業に使ったと思う」というだけではなく、何のために支出したのか確認できるよう資料を残しておきましょう。
領収書や請求書のほか、農業と私用を兼ねた車両であれば走行記録、自宅兼農業施設であれば使用面積など、家事按分の計算根拠を残しておくことが大切です。
帳簿や売上の記録が不十分な場合には、税務調査時の確認が難しくなるだけでなく、一定の場合には加算税の割合が加重される制度もあります。そのため、確定申告が終わった後も帳簿や証拠資料を適切に保存しましょう。
税制は毎年改正される可能性があります。
収支内訳書の基本的な考え方だけではなく、実際に確定申告をする年分に適用される所得控除や申告書の様式などを確認することが重要です。
2025年(令和7年)分の所得税から、所得税の基礎控除が見直されています。
合計所得金額132万円以下の居住者の場合、令和7年分の基礎控除額は95万円です。また、合計所得金額に応じて88万円、68万円、63万円、58万円など、控除額が異なります。
さらに、2026年(令和8年)分についても基礎控除が改正されており、合計所得金額132万円以下の場合は104万円となります。国税庁によると、令和8年分の改正規定は2026年12月1日に施行される予定です。
しかし、基礎控除は収支内訳書で農業所得そのものを計算するときに差し引く経費ではありません。
まず農業収入から必要経費を差し引いて農業所得を計算し、その後、他の所得と合算した所得金額から基礎控除などの所得控除を差し引いて所得税を計算します。農業所得と課税所得を混同しないようにしましょう。
【出典元】 国税庁|基礎控除
【出典元】 国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
確定申告では、対象となる年分に対応した最新の申告書や手引きを確認することが大切です。
国税庁は令和7年分について「収支内訳書(農業所得用)の書き方」や「白色申告者の決算の手引き(農業所得用)」を公開しています。
また、国税庁では令和8年分の所得税等の確定申告書も公開していますが、現時点では「今後変更する場合があります」と案内されています。さらに、2026年9月の国税システム更改に伴い、一部の申告書等の様式も変更されています。過年度の様式をそのまま使用せず、申告時点で最新の様式を確認することが重要です。
【出典元】 国税庁|所得税の確定申告
白色申告で農業所得を申告する場合は、収支内訳書(農業所得用)を使って、1年間の収入や必要経費を整理します。
農産物の販売金額だけでなく、自家消費や補助金、棚卸高なども正しく計上することが重要です。また、農機具や車両は減価償却を行い、私生活と共用する費用は家事按分が必要になります。
申告漏れを防ぐためにも、日頃から売上明細や領収書を整理し、帳簿へ記録しておきましょう。
税理士法人松本では、確定申告や税務調査に関する相談に対応しています。農業所得の申告に不安がある場合は、税理士への相談も検討してみてください。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者30万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在15名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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